異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第30話「マヤちゃんは新技を獲得しました」

 

 マヤは鹿角兎(ジャッカロープ)の集団を追って、別の草原にいた。

 

 相変わらず弓矢を放ってはウサギにぺいっと矢を弾かれて、まったく相手にしてもらえぬ、情けないハンターぶりを晒している。

 目の前の原っぱには、あちこちから鹿のような角が草の間から顔を出しては引っ込んでを繰り返しており、ざっと見渡して10匹は鹿角兎(ジャッカロープ)がいるようだった。そのどれもが安心して草をむしゃむしゃ食んでいる。

 

「うーっ。根本的に矢の威力がないわ。今の筋力じゃウサギさえ狩れないよ」

 

 ていっと矢を撃つと、鹿角兎(ジャッカロープ)はまたも立派な角で、ぱひんと弾き飛ばす。

 

「まあでも、角で避けてるってことは、ウサギに当たる矢は撃ててるってことだよね。今日のところはこんなもんでいいかぁ」

 

 弓矢を下ろすと、わたしはよっこらせと座り込む。しゃがんだせいでこっちの姿が見えなくなって、ウサギ共が何処へ行ったと焦るのはよしてほしい。

 あんた達、なんで攻撃してる時より慌ててるの。

 

 わたしが座りこけてると知れ渡ると、ウサギ達の関心は、再び旨そうな葉っぱはどれだという方に向けられた。

 

「わたしの法力は離れたところにも届くけど、打撃技がないから、攻撃力がいまいちなのよね。弓矢で少しは補えるかと思ったけど、筋肉つくまでは当分無理っぽいな。それでも火矢にすれば、酸素との合わせ技で、離れたところを火事にするのはできそう」

 

 でも火で炙る攻撃は毛皮とか取れなくなるし、素材集めとしては最もよろしくない攻撃方法だ。他になんかないだろうか。

 

「うーん、酸素の特性を生かすことばかり考えると行き詰まるな。……そうだ、酸素は気体なんだから、気体、つまり空気を使った技と同じことができないかな」

 

 魔法使いが空気を操る技といえば、風だ。

 

「酸素を出現させて、酸素の気体を渦を巻くように回転させていくと……」

 

 目の前に旋風(つむじかぜ)の渦巻が生じた。

 

「おお、なんかできるぞ。もう少し回転を上げて、ウサギさん達の方へ」

 

 旋風(つむじかぜ)を、ウサギが草を食べている方へ向かわせる。ウサギ達はびっくりして顔を上げた。

 ひゅうううっと渦巻く酸素でウサギの耳や毛が掻き乱され、飛ばされないように背を低くして足で踏ん張っている。やがて草原を通過していった旋風(つむじかぜ)は、何事もなかったように消え失せた。

 ウサギ達はキョロキョロと辺りを見回し、晴れた空を見上げて、ハテと首を傾げたようだが、また草を食べ始めた。

 

「いけるじゃん、これ! もっと規模大きくすれば竜巻だ。どれくらい酸素を出せば竜巻レベルになるのか分からないけど、回転させるのはわけないから、きっとできる!」

 

 でも待ってよ、と思った。

 

「これ火のあるところでやったら、とんでもない火災旋風になって大惨事じゃない?」

 

 使う場面によっては超危険と気付いた。

 危ない危ない。ちゃんと考えて使わないとだね。安易に風魔法のつもりでやらないようにしないと。

 

「他にも気体でできる事あるかな。物を切るのはどうだろう」

 

 確かエアカッターっていう、細い噴き出し口から勢いよく空気を吹き付けて、木の板とか鉄板とか切る工具があった。

 

「わたしの場合、エアカッターならぬオキシジェン・カッターだね」

 

 技名も決まったところで、木の枝を拾うと、それ目がけてやってみる。

 

「酸素を高圧力で勢いよく、細く吹き出して、横一文字に、えいっ!」

 

 木の枝はスパッと難なく切れた。

 

「うわ、こんなにうまくいくとは。太いのもいける?」

 

 10cmくらいの木もサクッといけた。ノコギリ不要だ。

 

「離れたところに酸素の噴き出し口を持っていけば、遠くでも切れるかも? あっちの木の枝を、えいっ!」

 

 スパッと切れた木の枝は、食事中のウサギの近くに落ちて、驚いたウサギが一目散に逃げてった。

 

「おおおお……やった、遠隔攻撃手段を獲得したよ」

 

 しかし走って逃げるウサギに当てようと思うと、それは難しい。

 

「動いてる目標に吹き出し口の出現点を追いかけさせるのは、ちょっと難しいね。練習していけばできるかもだけど。待ち伏せか、わたし基点での接近戦なら問題ないね」

 

 ここでわたしは調子に乗ってしまった。

 

「そんじゃ、5本の指先を出現点にして、超高圧酸素を噴き出しながらこの切り株を引っ掻くと……」

 

 右手と左手でクロスするようにひっかいた切り株は、一瞬何の変化もないようだったけど、蹴っ飛ばしたらバラバラになり、目の前に積み木のピースが出現した。

 

「わああ! 八つ裂きじゃん! これ相手八つ裂きにしちゃうじゃん!」

 

 こわぁ!

 指先から極細高圧酸素を噴き出しながら人混みの中で踊ったら、周囲の人スパスパ切っちゃって、昔の少年漫画にあった南の方の拳法そのまんま再現しちゃうよ!

 こわああ!

 

「……もう一つ工具にある酸素使った切断方法思い付いたけど、怖いから今日はやめとこう」

 

 マヤはお師匠様から受け継いだ法力が、酸素を出したり引っ込めたりするだけでなく、酸素であれば、酸素が振舞えるどんな状態をも再現可能という汎用性の高さこそ、この法力の恐ろしさだと気が付き始めた。

 

 酸素分子を希望の密度、希望の形状で並べれば、膜にもなるし、一種のエアカーテンにもなる。

 酸素分子を動かせば、風も起こるし、穴を開けるような勢いも出せる。

 でもそれは序の口だ。有効に使えるのは酸素本体だけじゃない。目的の状態の酸素がどんな環境のとき存在するのかを考えれば、その環境効果まで利用できるって事だ。

 

 その事例が目の前にあった。

 真っ白な湯気をもわあああっと辺りに漂わせる水色の塊。今マヤが試しに出したものだ。

 水色の塊の周囲の草はパリパリに凍っている。触ったらガラスのように砕けた。

 

「気体があるなら液体、そして固体でだって存在するもんね、酸素って」

 

 マヤが出現させた水色の塊は固体酸素だ。

 マイナス183度以下になると酸素は液体になる。さらにマイナス219度以下になるとドライアイス状態の固体になる。これはそこいらの雪や氷の比じゃない超低温である。これを出現させることで、その極低温という副産物も利用できるという訳だ。

 

 聞いた限りでは、水を出せる法力持ちは水を出せるだけであって、水の3形態である気体、液体、固体の任意の形態を出せるわけではない。水は出せても、沸騰寸前の煮立ってる水、つまりお湯の状態で出せるわけではないのだ。

 水を動かす、例えば池の水を掻き回すといったのは、また別の法力だ。

 固体の水、つまり氷を出すのは氷法力持ちである。形や大きさは制御できても、それは氷に対してだけなのだ。

 これらの法力持ちができることは、結局のところH2Oの特定の振る舞いに限定されるのだ。

 

 いってみれば、マヤはいろんな法力持ちがやれることを、1人でやってしまっていることになる。

 そして取り扱っているのは、可燃物と一緒にあると大変危険な酸素。

 

「法力名に『デストロイヤー』って入れたくなるわけよねぇ」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「クーノ、本当に一角兎か?」

「間違いないって。長い耳に、愛嬌たっぷりの丸い尻尾を振って、穴に潜るのを見たからな」

「それにしちゃあデカかったし、突撃猪みたいな突貫速度だったぞ?」

「正体が分からねえなら、確かめるまでよ。ケン、クーノ。巣穴つっつくぞ。構えてろよ?」

 

 3人のハンターパーティーが、横穴をいくつも開けた小さな丘を取り囲んでいた。

 3人はあのサーベルタイガーの頭骨を買い取ったワリナ王国の連中だ。

 

「ウサギでも猪でも、遅れ取りませんて。それより若こそ、そっち側に出てった時、逃がすようなことあったら、今夜はおごりですよ?」

「ぬかせ。行くぞ!」

 

 若と呼ばれたレオナルドが剣を抜く。すると剣は赤く輝き出し、赤熱で剣の周りの空気が陽炎で揺らぐ。その剣を山肌に開いた穴に突っ込んだ。

 土中の水分が赤熱で蒸発し、パパンパンパンパパンと小さな水蒸気爆発が起こる。ガシガシと引っ掻き回すこと数秒。

 

 別の穴から、ばびゅうううっ、と灰色の塊が飛び出た。

 

「クーノ!」

「あらよ!」

 

 クーノの正面に、青白い縦長の板状のものが現れる。

 灰色の塊はその板に激突した。途端に板にヒビが入り、パリーンと割れて砕けた。

 

「なにぃ!?」

 

 灰色の塊の尖った先端がクーノへと向かう。

 しかしクーノはくるりと身を回転させ、突進を躱す。そしてなおも誰もいなくなった空間へ突き進む塊を、横から剣で一閃した。

 

 

 

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