異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
林の中に開けた小さな草原にいたのは、リエラとフィリア、そしてサンドラだった。
「サンドラさん、どうしたの?」
不安でいっぱいな顔をして戻って来たサンドラに、リエラが尋ねる。
「男の仲間の人とは会えたんだけど、女の子の仲間が見当たらないの。それで……」
「探すの手伝ってっていうのね?」
「うん……」
「いいわ。探すのを手伝いましょう。その娘の特徴を教えて」
マヤが見つからなくて、助けを求めにリエラ達のところへサンドラは戻ってきたのだった。
人探しなら私でもお役に立てますと、乗り気のフィリアが頑張るポーズをしたところで、唸り声のようなのが聞こえてきた。
何事かと声の方に頭を向けると、奇声を上げながら走ってくる、世紀末ハンターのゲルデに気付いた。
「ひいいいい! また来ましたよ、リエラ様!」
一斉に嫌な顔をする3人の少女。
「ちょっと、また薬草踏みつぶす気!? もう来ないでなの!」
両手を広げて通せんぼしようとするサンドラだが、リエラはゲルデらの後ろから迫るヘビの集団に気付き、慌ててサンドラの体を掴んだ。
「逃げて! アンフィスバエナが追ってきてる!」
「え!?」
「早く!」
自分の後ろに下がらせ、さらにドンと背中を押すと、サンドラは振り返りつつもその場から駆け出した。
入れ替わってゲルデとその仲間がリエラのところにたどり着く。そしてリエラの腕を取ると、ぐるっと身体を入れ替え、リエラの体をアンフィスバエナの方に向けて盾にした。
「な! 何をする!?」
「きゃあああ! リエラ様!」
見るとフィリアももう1人に捕まって、同じようにされていた。
迫るアンフィスバエナは5匹もいる。頭は10個だ。
「げへへへへ、見ての通りだああ。こいつらに毒を吐きやがれええ!」
「くっ! それでも男ですか!」
リエラは片足を上げると、ゲシッと思い切り足の甲に踏み下ろした。さらにその足を踏みにじりながらジャンプして、ゲルデの顎に頭突きを食らわした。
「ぐけっ!!」
ゲルデの首が衝撃で上を向く。その隙に緩んだ手を振りほどき、体を回転させて回し蹴りを一発、その勢いのまま腰の剣を抜く。そしてフィリアを捕まえている男の方へ振り向くと、地面を蹴って一挙に迫った。
「ひっ! 来るな! この女がどうなってもいいのか!」
「フィリア、そいつの首持って懸垂! 足上げて!」
「え? は、はい!」
フィリアは両手を上にあげ、男の首に手をかけると、ぐいっと懸垂するように体を持ち上げ、さらに足を上げる。
スピードを緩めずに突っ込んできたリエラは、フィリアが足を上げた事で露わになった男の下半身に飛び蹴りを入れた。
「ゲアッ!!」
股間にこそ入らなかったが、太ももの辺りに強烈な蹴りが入り、フィリアの体を掴んでいた手を離してしまった。すかさずフィリアは脱出する。リエラはフィリアの手を掴むと、男から距離を取った。
「い、痛ってえ! ちきしょう、待ちやが……」
吠える男の背中にバシャアっと液体が飛び散った。
男は何だと振り返ったとたん、そっくり返るように飛び上がり、地面に倒れて転げ回った。
「痛てえ! 熱い! 熱いーー!!」
それはアンフィスバエナが噴射した毒液だった。その毒は焼けるような熱い痛みを感じ、皮膚をただれさせる。そして内部組織に浸透すると、血管やリンパ管を通して体内に流れ込み、体中を焼き尽くす。
だが血管に流れ込むより早く、次々とアンフィスバエナが体中に噛みついた。長い牙が深々と突き刺さる。
「あがっ、ぐぅっ!」
顔にも噛みつかれ、男は声も出せなくなる。
しかしそのヘビの体がスパッと斬られた。更にその隣の頭も切断される。
噛みついて口が塞がっている間に、リエラがぶった切ったのだ。
「た、助け……て」
口に噛みついていたヘビ頭がぽろっと取れ、歯型のついた顔が現れた。
しかしすでに遅し。牙を通して毒が注ぎ込まれており、顔は紫に変わりつつある。
もう1分も持つまい。
「女の子を盾にするような非道な者に、慈悲などない」
リエラは一瞥し、男など構わずもう1匹を斬ろうとした。
しかしアンフィスバエナも危険を察知し、男から口を離して、一斉にさあっと引いていった。
「リ、リエラ様!」
「来ちゃダメ! 何個か噛みついてない頭がある。まだ毒出しきってないわ!」
すると向こうからまた違うハンター達が走って来た。ワリナの3人組だ。
「大丈夫か!」
真っ先に状況を聞いてくるってことは、さっきの悪党とは違うようだ、とリエラは思いを巡らせる。
「3匹アンフィスバエナがいます! 毒を吐き切ってないです! うかつに近寄らないで!」
3人の男の中から、リーダー格らしいのが落ち着き払って、しかし警戒を解くことなく、ゆっくりと近付いてきた。
「5匹行ったようだが、2匹やっつけたのか? やるじゃねえか」
「このアンフィスバエナを、知ってるんですか!?」
「バカなノータリンハンターが、20匹も幼生を生け捕りして持ち歩いてて、魔素で覚醒したんだ。それに驚いて、全部放り出して逃がしちまった」
「あの後20匹も獲ったの!? しかも全部生け捕り!? 呆れた。ちょっと前に幼生を捕まえてたから、注意したんです。でも話聞かなくて」
「なんだ、こいつらの事知ってたのか。俺達も言ってやったんだが、まるで理解してなかった。どうしようもねえハンターだ。さて、どう始末するかな」
「若。やはりここは俺の
クーノの意見にレオナルドも頷く。
「それが一番楽だな。さっさとやっちまおう」
「はい!」
クーノは一見無警戒の状態でアンフィスバエナに迫っていった。
まだ毒を蓄えていた2つの頭がカッと口を開き、シャッと毒液を噴射する。
リエラが「危ない」と叫ぼうとしたその時、クーノの前に青白い
すぐさま
一瞬の出来事だった。
「リエラ様じゃなくてリエラさん、あの方たち凄いです!」
リエラもこれには感心した。
「ええ、見事だわ。上位ランクのハンターのようね。シールドの法力ですか、珍しい」
「俺達はAランクパーティーだ。俺はクーノ」
続いて槍持ちが名乗る。
「ケンだ。そしてこちらが俺達のリーダー」
「リーダーのレオだ」
レオナルドは、お忍びで狩りに出る時に使っている偽名で名乗った。
「Aランクですか。どうりで。Cランクハンターのリエラよ。こちらはフィリア」
「フィ、フィリアです。どうぞよろしく」
フィリアは綺麗なお辞儀で挨拶をする。
「ああ、よろしく。メイドのハンターたぁ、おもしれぇ。どこかの貴族家のか?」
「薬草摘みをしておりました。素性については控えさせていただきます」
「それもそうだ。悪かったな」
本人が明かすならいざ知らず、ハンターの身の上や技の秘密などを詮索するのは、無粋な行為として忌み嫌われている。
レオはすぐに謝った。
非はすぐに認め、それを受け入れ、互いに後腐れを残さず、というのも、ハンター・冒険者・
お互い名乗ったところで、リエラが問題の事案に話を戻す。
「さて、アンフィスバエナの幼生が20匹もいたという事は、この近辺で卵から孵ったという事。また卵が孵化するほど魔素も濃いという事。そしてなにより、その生みの親もいるという事よ。ここは引き上げて、ギルドに報告した方がいいと思うわ」
リエラの意見にケンも同意した。
「それがいい。親ヘビはBランクに覚醒してるかもしれない。他のハンターにも警告しといた方がいい」
「ケン、魔素濃度は幾つだ?」
クーノに問われると、ケンは腰に付けている濃度を測れる魔素計を覗いた。触れた魔素濃度により色の変化する、特殊な魔石を用いた計器だ。
ワリナ王国の猟場は魔境に近いので、ワリナのパーティーでは魔素計を装備してるのが普通である。逆にヘキサリネではまず持たないし、ミリヤ皇国だと場所によりけりだ。
「5段階のレベル3だ」
「レベル3じゃ卵は孵化しねぇ。もっと濃いところがあるはずだ。俺達はもう少し調べておこう」
レオの言にリエラは止めに入る。
「危ないわよ! 20匹の半数はまだどこかにいるんでしょ? さらに活性化してるかもしれないし、親ヘビもいるというのに」
「分かってる。だがその為のAランカーだ。なに、今退治しようってわけじゃない。場合によっちゃ討伐事案だ。その為に必要な情報収集をしておこうって事だ」
「……確かに、他の魔物も強化されてるかもしれないし、下位ランクのハンターじゃ危険過ぎますしね」
「そういう事。お前さんらはギルドへ知らせてくれ」
「分かったわ」
リエラが頷ずいたその時、近くから悲鳴が聞こえてきた。
「きゃああ! やめて、離してーっ!」
「あの声は、サンドラさん!」
フィリアが声のした方へ振り向く。するとそこに世紀末ハンターのゲルデが、サンドラを背後から羽交い絞めにしている姿があった。
がっちりサンドラを捕まえると、胸の前まで持ち上げて歪んだ笑いを浮かべ、そのままゆっくりと歩いてくる。