異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第34話「隣国の王子とお姫様が、いったい何のプレイですか」

 

 リエラの突き出した左腕に、がっつりと噛みついているアンフィスバエナ。深々と刺さった牙の辺りから、服に血で濃い色の染みが広がっていく。

 リエラは額に汗の玉を浮かべ、しかし不敵に微笑んでヘビを睨み付ける。

 

「おいしいかしら? 私の腕は。でもそこまでよ」

 

 噛みついていたアンフィスバエナが危険を察知して腕を放した。が、すでに遅し。リエラが下から勢いよく剣を突き刺した。

 そして一歩遅れて到達したケンの槍が、さらにクーノの剣が、畳みかけるようにアンフィスバエナの3つ目の頭を胴体から切り飛ばした。

 空中に舞うヘビの頭。

 くるくる回転して、やがて地上に落ちて転がる。

 

 しかし皆はそんなヘビの頭に構うことなく、レオとリエラに駆け寄った。

 

「若!」

「若!」

「リエラ様!」

「お姉さま!」

「……2人共、様はやめて」

 

 膝を着き、痛そうに腕を抱えるリエラ。レオは焼けるような痛みをこらえて、体を引きずってリエラに近寄った。

 

「馬鹿野郎……何てことしやがるんだ」

 

 脂汗を垂らし苦し気ながらも、リエラに声を掛けるレオ。

 

「あなただって、体を張ってこの娘を庇ったじゃない」

「それだって、俺は命は捨ててねえぞ。手の1個くらいはしかたねえがな」

「しかし若! そのままだと、そのうち体の中に毒が回ります!」

「分かってる。中に毒が入る前に、腕を切り落とすしかねえな」

「うわあああ、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 苦渋の決案をするレオ。そうまでして庇ってもらったサンドラは泣き叫んだ。

 しかしリエラは、皆に冷静さを戻そうと落ち着いた声で話す。

 

「皆、慌てないで。フィリア、レオさんの手をまず水で洗ってください」

「はい! ……あの、一応窺いますが、リエラさんは、大丈夫ですよね?」

 

 リエラは上を一度向いて目を瞑ると、数回深く呼吸をして、大きく息を吐くと、ふっと微笑んで正面を向いた。

 

「平気よ、この程度」

 

 フィリアを除く皆が、顎を外したように口を開けた。

 

「平気……だと?」

「今あんた、猛毒のアンフィスバエナに噛まれたよな?」

「毒、流し込まれたよな? 流し込まれてたよな!?」

 

 噛まれた左の腕には服に2つの大穴が開いて、そこからかなりの血が出てきている。牙が刺さったところだ。そこまで噛みついたアンフィスバエナが毒液を注入しなかったはずがない。

 だがリエラは、毒よりも穴を開けられた腕の痛みの方に苦しんでる様子だった。

 

「だ、大丈夫なの?」

 

 涙の流れた顔で見つめてくるサンドラに、リエラはにこりと返した。

 

「私には解毒の法力があるの。私の体液に触れたとたんに、毒液は中和してるわ」

「「「「ええーー!?」」」」

 

 フィリアを除くその場の全員が驚嘆した。

 

「猛毒のアンフィスバエナに毒を注入されて平気なんて、そんな法力めちゃくちゃだ!」

「それよりリエラさん、止血しませんと。腕に大穴を開けられたんですよ?」

「後でいいわ、フィリア。レオさんの処置が先。早く洗ってあげなさい」

「わ、分かりました」

 

 リエラを心配しつつも、フィリアは言われた通りレオの傍へ行く。そして横に屈むと、水筒を出した。

 

「レオ様、手を洗います。よろしければこのハンカチをお口にお入れ下さい。痛いですから歯を食いしばってこらえるに良いと思います」

「……お嬢さんのきれいなハンカチを、俺の唾液で汚せるかよ」

「まあ、お強いこと。ではお覚悟を」

 

 フィリアは膝の上にレオの肘を乗せて腕を支えると、右の手から手首の少し先まで、毒がかかってただれてきている部位に水をかけ、表面の毒を洗い流していく。

 

「うぐぐっ!!」

 

 レオは相当痛いのだろう。左の拳が真っ白になるほど握りしめてこらえている。

 一通り洗い終えると、フィリアはハンカチでレオの額の汗を拭いた。

 

「……すまない。結局汚しちまって」

「よく堪えられましたねえ。驚いた精神力です」

 

 一方のリエラ。すっかり血を吸った服の左腕からぽたぽたと赤い雫が垂れ続けている。まだ血が出続けているのは間違いない。

 

「そうだ、チドメグサ!」

 

 サンドラが薬草を詰めた籠に駆け寄った。そしてさっき摘み取ったチドメグサを取り出す。

 

「止血はわたしに任せて!」

 

 そう言って荷物の中から、いつも持ち歩いている調合用の小鉢を取り出すと、そこで法力を発動させつつ、チドメグサの葉を潰し始めた。小鉢の中が蛍光緑で輝く。

 

「それは、法力?」

「うん。わたしは法力で、薬効成分の効能を引き上げることができるの。最低でも5倍」

「凄い法力じゃない」

「そんな法力もあるのか」

「ワリナでは聞いたこともないな」

 

 ワリナの3人組も見入る光景だった。

 

「えへへへ。もう少し練って。お姉さま、腕を出しておいてね」

 

 腕を洗った後、サンドラはすり潰した葉の汁をリエラの腕の傷に塗る。すると流れ出ていた血はすぐに止まった。薬効成分が、血小板が血管を塞ぐのと同じ効果を引き起こすのだ。

 

「凄いわ! 血も止まったし、痛みも和らいでる」

「チドメグサには殺菌と消炎作用もあるの。きれいな布で縛って、はい、応急処置終わり」

「ありがとう、サンドラさん」

「ううん。わたしだって助けてもらったんだもん」

 

 フィリアが「洗い終わりました」と立ち上がって場を譲ると、代わってリエラがレオの横にしゃがんだ。

 

「表層の毒はあらかた流せたと思うけど、少し染み入った毒は洗ったくらいじゃ取れないわ」

「ああ。口で吸い取って、吐き出せばいいのか?」

「それじゃ口の粘膜に毒が移って、口から体内に入ってしまうわ。だから解毒します」

「成程な。そこで法力『解毒』の出番か。確か、解毒波ってのを当てて解毒してくんだよな? 早いとこやっちまってくれ。だんだん痛みが酷くなってきて、感覚がなくなってきた」

 

 そこで急にリエラは顔を赤くし、口ごもって話すようになった。それもなんだか口調が丁寧になっている。

 

「そ、それなんですけど、解毒波を当てて無毒化するのは少々時間がかかるんです。あなたの手にかかった毒を解毒波で中和するには、私の力でも30分はかかるでしょう。でもこんなところに30分も屈んでいたくないので、即効性のあるやり方をします」

「リエラさん!?」

 

 それを聞いたフィリアが素っ頓狂な声で叫んだ。

 

「そのような身も知らぬ人に、貴女のような人が!」

 

 リエラはフィリアを手でそれ以上言うなと抑えた。

 

「即行でできるならありがてぇ。で、もしかして、難しいのか?」

 

 リエラはさらに顔を赤めて、さらに小声で囁いた。

 

「さ、さっき噛まれた時のように、私の体液は毒を瞬間的に中和します。そ、その、ですから、体液をですね、使ってさっさと解毒しようかと……。た、ただですね、貴方は嫌がるんじゃないかと、思います」

「た、体液?」

「こ、この場合、そ、その、唾液……です」

「唾液……? 唾吐くのか?」

「そ、それは汚らしいので、な、舐めようかと……」

 

 レオは腕を捲って、痛いのも忘れて手をぶんと突き出した。

 

「痛てえ! もう我慢の限界だ! 早いとこどうにかしてくれ!」

「は、はいっ! それじゃ、失礼します! あの、気持ち悪いだろうから、目を瞑っててください!」

 

 というわけで、リエラは顔だけでなく、見えてる肌を全部血色よくして、レオの手をまんべんなく、ぺろりぺろりとなめしだいたのだった。

 勿論レオは見ないふりをして、しっかり赤面する超カワイイ少女が自分の手をナメナメするのを見ていたし、周りの者も、何のプレイだ、何を見せられてるんだと、半ば呆れ、半ば羨ましいぞ、レオナルド様何を恍惚とした表情されてるのですかと、時たまチラチラ様子を窺い、作業が終わるのをひたすら待つのだった。

 

 本人の正体を知っていたら大変な騒ぎだったろう。これこそ外交問題、いや、国交断絶か。なにしろミリヤ皇国第一皇女が、ワリナ王国第一王子の手を舐めているのだから。

 

 解毒が進んで楽になって来たレオは、必死に奉仕してくれているように見えるリエラに問いかけた。

 

「そういえば、法力『解毒』って……リエラはミリヤ皇国の出身者か? 『解毒』法力持ちは、ミリヤ皇国民以外では聞いたことねえ」

 

 ピタッと手ならぬ舌を止めると、リエラは顔を上げずに答えた。

 

「そう。私はミリヤの出身者です」

 

 手短に答えると、作業を再開した。

 

「そうか。……しかしアンフィスバエナの毒を瞬間的に無毒にするほどとは思わなかった」

 

 無論ミリア皇国の解毒法力所持者がみんなこんなに凄いわけではない。解毒力については秘匿しているので殆ど知られてないのだが、飛び抜けた解毒力を持つのは、そのほとんどが皇族の血筋なのであった。

 

 そしてそろそろ表裏まんべんなく舐め終わった頃、「おーい」と声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声に、サンドラが立ち上がった。

 

「リネールさん!」

 

 駆け寄って来たリネールは、皆の脇にあった巨大な黒い塊がヘビだと分かって、度肝を抜かれた。

 

「うおっ!! なにこれ、バケモノじゃん!!」

「うん。活性化しちゃったアンフィスバエナだって」

「ええー!? やべえよこれ、ランク幾つの魔物だ?」

 

 落ちてる大きな頭を、ケンが槍で小突いて言った。

 

「これだと、Bランク間違いないな」

「マジですか! こんな領都に近いところにBランクが!? 誰がやったんですか?」

「ここにいる人達がやっつけたの。Aランクパーティーなんだって」

「すげえ! さっすがAランク!」

「それよりリネールさん、マヤちゃんは?」

「あ! そ、それがさあ、まだ見つからなくて」

「えー? ヤバいよ~。この辺まだこんなのがいるらしいのよ。もしかしてこのヘビのお腹割いたら、出てきたりしないよねえ」

「まっさかー。あのマヤさんが?」

 

 新たな人、それもサンドラの仲間らしい人が現れて、リエラは慌てて作業を終え、口をゆすいでハンカチで拭いた。

 

 リネールはサンドラから起こった事を一通り聞いて、目を丸くする。そしてレオの手、リエラの腕を見て、それが事実だと知って、さらにゴクリとツバを飲んだ。自分だって襲われていてもおかしくなかったのだ。

 レオの手は見るも無残だが、切り落とす心配がなくなって、本人もホッとしていた。そしてなにより、その手の具合に驚いていた。

 

「信じらんねえ。毒の痛みが全然なくなってる……。本当に解毒されたみたいだ」

「若、よかったですね」

「リエラさん、若をありがとう」

 

 ケンとクーノも、次期当主が腕をなくすという大惨事にならず、胸をなでおろす。

 護衛として付いておきながら、そんなことにでもなれば、自分の腕も差し出さねばならないところだった。リエラには感謝してもしきれない。

 

「解毒が効いたようで安心しました。フィリア、もう一度洗ってあげて」

「はい!」

「このままでもいいんだけどなあ」

 

 レオはリエラの唾液で濡れた手を眺めてそんなことを呟くが、リエラは羞恥心で赤面した顔をレオに向けて怒鳴った。

 

「な、な、何を言ってんですか!? 変態ですか!」

 

 レオも赤みのさした顔で、少し照れて笑った。

 

「冗談だ。まあとにかく礼を言う。助かった。いや、この礼はきちんとさせてくれ」

「お、お気になさらず。羞恥プレイに礼も何もあったもんじゃないわ。それより貴方の毒で焼けた手、おそらく治っても酷いケロイドが残るわよ」

「俺の手よりあんたの腕だ。大丈夫なのか? せっかくのきれいな腕に穴まで開けさせちまった。たぶんそれも、傷が残るぞ」

「いいんです。それに、これが私の唯一の傷と思ったら大間違いですよ」

「マジか!」

 

 リエラはふふんと笑った。

 

「……御見それした。とんだじゃじゃ馬娘だな。いや、マジで飯でも驕らせてくれ」

「そう? Aランクさんじゃ、さぞいいところ連れて行ってくれるんでしょうね?」

「任せろ。見栄張ってずげーとこ連れてってやる」

 

 リエラは肩をすぼめると、今度はかわいく笑った。

 そこへずこっと割り込んできたのはフィリア。

 

「ど、どこの馬の骨とも知れない者がお嬢様にふがががが」

 

 超高速ヘッドロックでフィリアの口を塞ぎ、しかし顔は天使の笑顔のままで、リエラは返事を返した。

 

「楽しみにしています」

 

 美男美女が、背景に薔薇の花を咲かせて見つめ合っていると、またも割り込みが。

 

「あ、あのおっ!」

 

 今度はサンドラだった。ほっぺたを桃色にして、意を決して声掛けましたといわんばかり。

 

「いい雰囲気のところ悪いんだけど……」

 

 意を決したわけをぼそぼそ呟く。言われてレオとリエラはお互い顔を真っ赤にして視線を逸らした。

 

「あの、リエラさん、法力で、採取したアンフィスバエナの毒は解毒できますよね? あの、舐めなくてもいいんで」

 

 ぼふっと頭から湯気を噴火させたリエラ。

 

「え、ええ。大丈夫よ、時間さえ貰えれば」

「傷を治す凄い薬が作れるかもしれないの!」

「傷薬?」

「お兄さんのその手も、お姉さまの腕の傷も、ぱぱっと治っちゃう!」

 

 レオとリエラは一度目を合わせて、それから再びサンドラに向いた。

 

「傷はまあ時間たてば、そりゃあ治るだろうよ。少々痕は残ったり、リハビリしたりしなきゃだったりするかもだが」

「違うの。すぐ治って、傷も残さないの」

「んなのあるか。無茶言うなって」

「知ってる? 回復ポーション!」

「「!?」」

 

 

 

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