異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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2022/10/10 サブタイトル変更しました。




第35話「マヤちゃん自力で戻ると、王子と姫が火花を散らしてました」

 

 回復ポーション。それは魔術がまだ全盛だった頃にあったという、夢のような回復薬だ。あらゆる傷や病気を一瞬で直し、切り取られた手足でさえ、すぐにくっついたと言われている。

 だがそれは魔術がすたれると同時に失われ、今では伝説レベルの代物となっている。

 

「ありゃあ失われた技術、今となっては夢物語だ」

「違うの。昔のポーションと同じじゃないかもだけど、わたしの村の薬師様が記録に残しているものがあるの」

 

 胡散臭い話ではあるが、レオはこういった事は一つ一つ真偽を確かめてみたい性分だった。ダメなのは百も承知。だが万が一モノになれば、それは国の大きな力になるかもしれない。間違いである事が分かっても、それは真実が明らかになるわけで、無駄ではないのだ。

 

「何を用意すればいい?」

 

 ずいっとリエラが顔を突っ込んだ。

 

「私も協力するわ。少なくともアンフィスバエナの毒を抜いたものは必要なんでしょ?」

 

 ここにも同じ考えの者がいた。リエラもまた、回復ポーションが本当にできたなら、国をひっくり返す可能性があると思ったのだ。しかも解毒はミリヤ皇国の得意分野である。これはミリヤを強くする可能性がある。真偽は確かめた方が良いと。

 

 パチパチと目線でけん制し合うレオとリエラ。

 

「変なもんに興味持つじゃねえか」

「そう? ハンターに傷はつきもの。傷がさっと治るならうれしいじゃない」

「それで実験台になる気か? 効くかわかんねえのに」

「貴方もその手差し出す気なんでしょ? もしかすると悪化するかもなのに」

「どうせ治んねえぞ?」

「ならなんで、やってみようとしてるのよ」

「ちょいとやりゃあ、その子供も満足するだろうってだけだ。だからあんたも無理しなくていいんだぞ?」

「面倒に思ってるなら、私が代わりにその子に付き合ってあげましょう。だから貴方の方こそ無理しなくていいわよ?」

「……」

「……」

 

 パチパチと飛ぶ火花はさらに激しさを増す。

 

「……やってみた結果次第だな」

「……そうね。やってみてから、その後の話しましょう。それで、あと何がいるんだっけ?」

「薬草はわたしがこれから集めてくる。お姉さまはアンフィスバエナの頭から毒液を集めといて」

「分かったわ」

 

 その時、横のヤブがガサゴソと揺れた。

 ケンとクーノがさっと武器に手をやる。

 しかし藪をかき分けて顔を出したのは、マヤだった。

 

「あ、サンドラちゃん、リネールさん! 探したよー!」

「マヤちゃん! どこ行ってたの!?」

「え、マヤさんって、やっぱりあのマヤさん!?」

 

 慌てたのはリエラ。さっと顔を逸らす。

 

「ウサギ追ってるうちに帰り道が分からなくなって、見かけるのはウサギだけになっちゃって、このままわたしも葉っぱ食べて生活しないとならないのかと思って、もう怖かったよぉ~。よかったー!」

 

 マヤはサンドラに飛び付いて喜んだ。

 リネールもホッと胸を撫で下ろす。

 

「サンドラが、マヤさんはヘビに食べられたんじゃって、シャレになんないこと言うから、心配したよ」

「いくらなんでも人を飲み込むような大きさのヘビなんて、うわああ!?」

 

 傍らに落ちてるデッカイヘビの頭と、人間2人を束にしたまま入りそうな胴回りが転がってるのを見て、マヤは飛び上がった。

 

「え? こんなのがこの辺にいたの!? こわっ!! ホントにシャレになんない!」

「こちらのすっごい綺麗なお姉さまと、そっちのパーティーのお兄さん達に助けてもらったの。お兄さん達Aランクハンターだって」

「へえ、Aランク!? 凄おい! Cランクが世紀末ハンターだったから、Aってどんな人間離れした姿してんだろうと思ったけど、カッコいいお兄さんじゃん。マヤです。よろしくー」

「おう。レオだ。あんたこの大陸の人じゃねえな?」

「あはは、遥か東の方の出で……ん?」

 

 じーっと向けた目線の先には、サンドラの言う通り、すっごい綺麗なお顔の女性ハンターがいた。

 

 うわあ、本当に綺麗なヒト。

 ……むむ? どこかで見たような……

 

 先手を打ったのはリエラだった。

 

「あらあマヤさん! こんな所で出会えるなんて、うれしい!」

 

 マヤはガバッとリエラにハグされた。そしてリエラは耳元に口を近付けて、他に聞こえないように話し掛けた。

 

「私はお忍びで来てます。ここでは私はリエラ。いいですね? リエラですよ。私に話を合わせて下さい!」

「え、えええ??」

 

 すごい眼力で有無を言わさぬ圧力をかけてくる。

 

 ええ? あの柔らかなお姫様と同じ人!? 確かにこのお顔、瞳、お声は、先日お会いした皇女様。しかし頬についた土汚れ、結わえてある髪はあの時のわたし以上に埃まみれで、腕に至っては血まみれ。

 何このじゃじゃ馬娘は!?

 

「で、でもその真っ赤に染まった腕は!? 大怪我じゃないんですか!?」

「大丈夫、これくらいかすり傷よ」

「その立場の人には、かすり傷だって大問題じゃ!?」

「いつものことです。とにかく、今は私に合わせてね!」

 

 セリフに感嘆符はついてるが、一応小声でのやり取りだ。

 

「マヤちゃん、リエラさんと面識あったんだ」

「そ、そうなの。うへへへ」

「なにしろマヤさんは大物狩りハンターで有名なんですから。それよりサンドラさん。ポーションの準備を進めましょ」

「あっ、そうだね。早く傷を治さなきゃ」

「ポーション? それってお薬だっけ?」

 

 マヤはファンタジーもので出てくる単語を思い出す。

 

「超回復薬! マヤちゃん、リネールさん手伝って!」

「う、うん」

「おう!」

 

 サンドラのチームが薬草を取りに走り、リエラとレオのチームはここに残って、アンフィスバエナの毒液を採取した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 1時間もせずサンドラチームも戻ってきて、その頃にはリエラチームもアンフィスバエナの頭から毒腺をしごいて、陶器の壺に毒液を蓄え終えていた。

 

「これが薬草のヘキサコルデート。本当はうちの村の近くで取れるリトバコルデートの方が効き目高いんだけど、そこはわたしの法力で薬効上げて補うの。他に付け足す薬草も採ったし、あとはアンフィスバエナの毒を無毒化すれば、材料はオッケーね」

「どこで薬を精製する?」

「ギルドを借りるのが手っ取り早いかな」

「よし、早くここを離れよう。まだ魔素のホットスポットも分かってないし、魔物が活発化していて、ここは危険だからな」

 

 出発準備にかかろうとするところで、フィリアが尋ねた。

 

「あのぉ、リエラさん。この太い筒になったヘビはいかがしますか? 頭は毒腺を搾り取ってしまったので価値がなくなったでしょうが、肉や素材としては使えるのでは」

 

 そんなことを言うフィリアに、ケンが「何をバカな事言ってる」と返した。

 ここにあるのは、太いところで60cm、長さ10mはある大蛇だ。ここから早く脱出したいと言ってるのに、その輪切り1つだって邪魔で持ちたくない。

 

「ああそうね。フィリア、持てるだけ持っていってもらえる?」

「はい。ええと、男の方、手伝っていただけますでしょうか?」

「はあ!? 冗談じゃねえ。何キロあると思ってんだ!」

「両手塞がって戦うこともできなくなるじゃんか!」

 

 ケンとクーノが言うのはもっとも。しかしフィリアは平然と言う。

 

「いえ、運ぶのは私でできます。入れるのだけを手伝っていただければ」

 

 そう言うと、自分の目の前で腕を振って、空中に四角を描く。

 するとそこに穴のようなのがぽかっと開いた。

 

「「な!?」」

「ええ? なにこれ!」

 

 リエラを除いた全員が度肝を抜かれた。

 

「私の法力の『ストレージ』です。重さで500kgくらいまで収容できます」

 

 レオも目を見張った。

 

「話には聞いたことあるが、見るのは初めてだ。ミリヤ皇国にいるらしいと聞いてたが、あんたもミリヤ出身なのか?」

「はい」

 

 レオは感慨にふける。

 

「へえ。ミリヤも、面白れえとこだな」

 

 リネールとケンとクーノが、土管を抱えるようにヘビの胴体を抱え、空中に開いた穴へ入れていくのは物凄い珍妙な光景だった。

 

「うわあ、四次元ポケット!? 物理法則とこの世界の関係に、自身なくなってきた」

 

 マヤは元いた世界の常識がどこまで通用するのか、不安になってきた。

 

「おっと、フィリアさん。なんか入らなくなったよ」

 

 リネールがぐいぐい押すが、ヘビは進まなくなった。

 

「容量限界のようですね。この辺で切っていただけますか?」

 

 少しずるりと引出し、クーノが3回ばかり剣を振り下ろして胴体を切断する。そしてすぽんと放り込むと、穴が閉じられた。大蛇の半分が跡形もなく消えた。

 

「半分しか入りませんでした」

「十分よ。ありがとね、フィリア」

 

 リエラに礼を言われたフィリアは、恍惚とした表情で体をくねくねする。

 

「ああん、何をおっしゃります。リエラさんのお役に立てる事が私にとって、どれだけ幸せな事か!」

「ねえ、リエラさんって、本当にフィリアさんのご主人様じゃないの?」

 

 フィリアの態度を見てサンドラがリエラに何度目かの疑問を投げた。

 

「ち、違いますよ! お供じゃなくて、お友達ね」

 

 いやあ、絶対ミリヤ大使館にいる女中さんだよね、と心で思うマヤ。そんな人を狩場にまで連れてきちゃうなんて、マリエラ皇女様、型破りもいいとこだわ。

 

「あ、そうだ。これ隙間に入ります?」

 

 マヤは肩に食い込んで痛くなってきていたザックで思い出し、中から仕留めた鹿角兎(ジャッカロープ)を取り出した。

 

「あ、それくらいなら入りますね……ひいいいいい!」

 

 ウサギの表情を見たフィリアが悲鳴を上げた。

 それはもう、この世の恐怖全てを味わされたような悲痛な表情を、表情筋がないにもかかわらずしていたのだから。

 

 入れるの怖いですう、とか言われながらも、『ストレージ』に入れてもらって、ちゃっかり身軽になったマヤは、「よーし、これで護衛は任せて!」とない胸を叩いて張り切る様子を見せた。

 

「やれやれ。それじゃ行きますか」

 

 負傷しているレオとリエラ、戦闘力のないフィリアとサンドラを中央に挟んで、ケンとクーノが先導、マヤとリネールが後衛となって、知っていればとんでもない次世代を背負う人達のパーティーが、北の原野からの脱出を始めた。

 

 

 

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