異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「これ、誰かが大物とやり合ってますね」
移動途上のマヤ達の集団。
まもなく川沿いの主要道に出る頃といった辺りで、先程から伝わる地面の振動や空気の揺れに、クーノが後方に告げた。
クーノに言われるまでもなく、レオも気付いていた。時たま、ずずんという音も聞こえてくるようになった。
「活性化した魔物に出くわしたハンターかもしれねえな。急ごう」
「若、その怪我で巻き込まれたらヤバいですよ」
「なあに、自分やガキどもを守るくらいなら片手でもなんとかなる。お前らがちょっと頑張ってくれりゃな」
「私を見くびらないで」
リエラが口を挟んだ。
「これでも剣術には覚えがあります」
「お前さん、ホント顔に似合わねえ肝の太てぇやろうだな」
ふふんと笑って返すリエラ。
「マヤちゃん……」
不安にかられたサンドラは、マヤの傍に寄り添った。
「大丈夫。サンドラちゃんはわたしが優先して守ってあげるからね。リネールさん、アレ準備しとこう」
「オッケー。いつでもいけるよ」
リネールは腰のポーチを開けると、中に入った数本の小瓶をちらりと見せた。
背の高い草の中の獣道が開けて、主要道に合流すると、そこは3人のハンターとアンフィスバエナ、そしてゲルデが戦っている最中の真横だった。
「うおっ、ここにもでけぇアンフィスバエナが!」
「きゃああ!」
突如現れた集団に、ゲルデとハンター達も驚く。
「ぬううう!?」
「危ないぞ、覚醒した魔物だ! 気を付けろ!?」
Bランクハンターが、脇から出てきたレオ達に忠告する。
3人のハンターはバイコーンを傷付け逃走させたものの、Bランクのハンターにアンフィスバエナの毒が少し当たって負傷した為、他のハンターの援護を受けてアンフィスバエナの攻撃を辛うじて防いでいる状況だった。そこへ魔術師の魔法攻撃も飛んでくるので、形勢は全く不利になっていた。
「お前、さっきのアホハンター!」
クーノがゲルデを指さして叫んだ。
「なんだあ、さっきのやつかああ。おれっちはアホじゃねええ! 見ろこれがおれっちの獲物だああ、やっちまえええ!」
ゲルデがレオ達の方に手を向けると、アンフィスバエナが向きを変える。
「なに、こいつの言うことを聞くのか!?」
「にゃろ、舐めんな!」
毒を吐いて間もないようで、毒を飛ばす動作はせず、噛みつきにかかってきた。
即座にケンとクーノが応戦する。
「上に一発食らわせてから下を牽制する。上から先にやっちまえ!」
「了解!」
「衝撃波!」
ケンの槍先に空気を凝縮した塊ができ、気合いと共に槍を突くと衝撃波が飛んだ。
それと同時にクーノが、少し遅れてケンが、アンフィスバエナへ向かって突進する。
衝撃波が上の頭に当たり、首が後ろへ吹っ飛ぶ。下の頭が迎え撃つが、それをケンが相手し、その隙にクーノが飛び込んで、上の頭が戻ってくる前に斬り飛ばした。
空中に舞う上の頭。
「「す、すげえ!」」
Aランクの連携攻撃に目を見張る3人のハンター達。
その後ろから大柄のハンターが駆けて来た。
「お前達、大丈夫か!?」
「マスター!」
脇道に寄っていたギルドマスターのジオニダスともう1人だった。
ジオニダスは道を埋め尽くしている巨大なアンフィスバエナを見て、魔素で覚醒して凶暴化したものと、すぐに理解した。しかもこれは、今日見聞きした中で一番危険だ。
ちょうど頭が切り飛ばされたところで、高く持ち上がっていたアンフィスバエナの首なし胴体が、ぶるんぶるんと左右振ってに暴れている。しかしあれは体の各所にある脳の代わりをする神経塊からの命令であり、反射神経的な動きだ。近寄らなければ大丈夫と、直ちに他の脅威はないか周囲に目を配る。
しかし場に安堵の雰囲気がなく、マスターは違和感を感じた。
事実、アンフィスバエナの近くでは、2人のハンターと、大柄のハンターおよび黒ローブの人物とが睨み合いを継続している。2人のハンターの後ろには仲間らしい数人が、脇道から出ないようにしているのも見えた。
「マスター、あの黒ローブの者、魔術師のようなんだ」
「なんだと!?」
「それとあのでかいハンター、アンフィスバエナに命令してた」
「なに? あの男、たしか領都のギルドに来ていた者のはずだ」
そこへ脇道から若い男女が出てきた。知った顔の2人だ。
「む、リネールとマヤか!?」
「ぬおおおお! おれっちの獲物があああ!」
巨大アンフィスバエナがやられて、ゲルデが激怒する。魔術師も突然現れた強敵に顔を険しくした。
「サンドラちゃん、フィリアさん、後ろ見張ってて!」
マヤとリネールも主要道へ躍り出る。
しかしそこにいたのは、 頭を失ってもなお右往左往と暴れる極太の蛇の胴体。マヤは悲鳴を上げた。
「ひゃああ、なにあれえ! 気持ち悪う!」
魔術師は後から現れた男女が経験の浅そうなハンターと見切ると、早めに無力化して連中の戦意を挫こうと杖を振り上げた。杖の先に魔法陣が現れる。
「火の精霊よ! 我の上に集まり、大火球となれ!」
あたりから小さな火が発生し、黒ローブの人物の上に集まってどんどん大きくなる。
「なんだあれ!」
リネールが叫ぶ。
マヤは直感でヤバいと思った。あの火の玉を自分達に向けて投げつけてくる気なのだと。
攻撃意図は明白。これはやっつけないとこっちが危ない!
「
先手必勝! マヤは火の玉へ向け、上から下へと高濃度酸素を勢いよく噴出させた。
技名を叫んではいるが、魔法詠唱ではないので、手を魔術師に向けた瞬間に法力は発動する。いや、本来その動作さえ不要である。
魔術師が火球を生成している途上のところへ、上から酸素を追加されて火球は爆発的に燃えだし、その炎が魔術師に向かって頭上から降ろされた。
「うおあああ!」
いきなり自らに降り掛かった火焔を防ぐことができず、魔術師は悲鳴を上げる。
「リネールさん! アレ投げつけて!」
「おう!」
リネールはポーチから小瓶を取り出すと、魔術師に向けて投げつけた。それは魔術師の足に当たって割れ、中身をぶちまける。
その瓶の中身3分の2は油。残りの空間にはマヤが入れた酸素が詰まっていた。火の点いてない火焔瓶のようなものだ。しかし魔術師は既に服に火が点いている状態。中身が飛び散った途端に、文字通り火に油を注いで火力が増した。
「さらに
そこへ酸素が追加され、猛烈な火柱になる。
「があああ! み、水の精霊よ、我の頭上に雨を降らせよ!」
火焔の中で辛うじて詠唱を唱えられた魔術師に、突如雨が振りそぞぎ、業火はじゅわあああっと音を立てて消えた。
「あれ!?」
「水の法力!? いやでも火の玉出してたよな!?」
マヤとリネールは結構な火が一瞬で消されたのにびっくりした。
そこまでの始終を見たレオとリエラは同時に叫んだ。
「まさか魔術師か!?」
「あれ魔法じゃないの!?」
火と水という全く正反対な法力を同時に持つことはあり得ない。しかも魔法陣と呪文詠唱しているのをはっきりと見たのだ。
焦げたローブの下で、魔術師は一瞬恐怖心が上がった。
「さ、さっきのはまさか……」
しかしすぐ怒りがこみ上げ、恐怖を上塗りした。
「おのれ! アンフィスバエナ!」
そう叫んでローブの下から紫に光るものを3つ、後方に投げた。それはブラウシュテルマーだった。
どばふううぅ!
地面に刺さるなり開花し、爆発するように濃い紫の煙を放出した。
「やばい! 高濃度の魔素瘴気だ!」
「く、口塞げ! 退避!」
ケンとクーノが、戦っていたアンフィスバエナから急いで距離を取った。
「なんでもいいから、口と鼻を覆って! あれを吸わないように!」
「は、はい!」
「ひいいいい!」
リエラに言われて袖口で口元を覆うサンドラとフィリア。
ブラウシュテルマーが投げられたのは、ケン達と戦っていたアンフィスバエナの方じゃない。誰もいない道の後ろへ向かってだった。ということは、この魔素はいったい誰に向けて!?
魔術師の後ろにいたのは、世紀末ハンターパーティーの『ゲルデポロン』が生け捕っていたアンフィスバエナ幼生の、生き残りの12匹だった。
いずれも幼生から脱却し、毒腺を持つまでに成長していた。そこへ大量の魔素を吸ったことで、さらに一斉覚醒を始めた。
まだ生まれて時間が経ってないので、巨大化するほど栄養を蓄えてはなかったが、魔物として強大化するには魔素だけで十分。
コブラほどの大きさだが、上下の体の先が二股に分かれ、4つ頭の魔蛇へと変化した。
4つ頭のヘビが12匹。
48の毒液を噴射するヘビの頭が舌を動かして敵を求め、一斉にマヤへと向いた
「いやああああ!」