異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第39話「ポーション開発に人体実験はつきもの?」

 

「では引き上げるぞ。怪我人は皆で補助してやってくれ」

 

 アンフィスバエナと戦っていた3人のハンターは、特に怪我と疲労の色が濃かった。

 一方でレオとリエラが怪我人の割に元気なのは、鍛え方もあるが、毒液の影響が完全にないのと、サンドラの薬草による手当ても大きい。

 縛られたゲルデは、クーノが引き連れていった。

 

 リエラはアンフィスバエナの毒液の入った壺を紐で吊るして抱え、歩きながら解毒法力波をずっとかけ続けることにした。解毒法力波での毒抜きはそれなりに時間がかかるので、ギルドまでの移動時間も勿体ないということだ。これも呼吸をするように法力をかけられるからこそ、気軽にできるのである。

 

「サンドラ。ポーションの話、もう少し聞かせてくれ」

 

 移動を始めるとすぐ、マスターは聞いてきた。

 

 回復ポーションの話が事実なら、今日魔物に怪我を負わされた者達が治るのは勿論、下手すると世の常識を覆し兼ねない事柄だ。

 

「うん。超回復薬の事は、リトバレーの薬師様が残した書物に書いてあるの」

「だいぶ前に亡くなった薬師のじいさんだな。大した人だったが、跡取りがいなくて、薬の技術は途切れたのかと思っていたが、書き残していたのか」

「書き残したっていうか、ありふれたのは載ってなくて、研究してたものの記録簿なの。実際使えるようになったのもあるし、失敗したのもあるし、まだ研究中のも書いてある」

「おいおい、それでポーションは、そのうちのどれなんだ? 使えるようになったものか?」

 

 レオが心配になって聞く。なにしろその薬を使うのは自分なのだ。

 

「えーと、研究中のだよ」

「な、なんだとぉ!? 俺を実験に使う気か!」

「サ、サンドラ、それはさすがにまずいぞ」

 

 マスターも焦った。マスターはレオの正体がワリナの王子だと知っているので、不確かな事にレオを巻き込むのはまずいと思っている。それでなくてもヘキサリネの猟場で怪我をされているのだ。その時点で既に相当ハラハラしているし、領主様に何言われるかわからない状況だ。

 

 するとリエラがずいっと出てきた。

 

「サンドラさん。もう少しその研究内容を聞かせて。いけそうな内容なら、私で試せばいいわ」

「お前、頭のネジ何本か飛んでんじゃねえか?」

 

 レオが驚いてリエラを見下ろした。

 

「私は毒性には耐性があるから、こういうのに向いてると思うわ。それに、うまくいったら検体になった見返りとして、今後のポーションの扱いについて優遇させてもらうから」

 

 リエラはしたたかであった。決して善意で体を差し出すわけではない。危険の見返りはがっぽりと請求するつもりだった。

 

「くっ、とんだじゃじゃ馬だな。よし、こうなったら俺も……」

「若、ダメです!」

「もうこれ以上無茶しないでください!」

 

 付き人のケンとクーノが必死に止めた。これ以上王子に何かあったら、もう切腹するしかない。ハラキリの文化がこの世界にあるかは知らんが。

 ケンとクーノに羽交い絞めにして止められたレオは、実験体になるのはやむなく諦め、それでも何とか食い込もうと頑張った。

 

「アンフィスバエナの提供には俺達が欠かせなかったはずだ。あの大物仕留めたのは主に俺達だったし、特大の大物だったからこそ、その量の毒液が入手できたんだ。俺達もちったぁ権利を主張してもいいだろ」

 

 またばちばちと火花を散らすレオとリエラ。

 サンドラは肩をすくめる。

 

「はぁ~、大人の事情は知らないよ。わたしは薬が役に立てればいいだけなの。ヘキサリネの立場は領主様にお任せするよ」

「わー、サンドラちゃん、大人の対応だね」

 

 ぱちぱちと手を叩いて、すっかり第三者目線で高みの見物をしていたマヤだが、レオとリエラから同じような目線を向けられる。

 

「マヤには後で聞くことがある」

「私もいっぱいあります」

「ひへっ!?」

 

 リエラは視線をサンドラに戻すと、説明を促した。

 

「それで、薬師様の研究内容って?」

「うん。アンフィスバエナに噛まれると、人も動物も死んじゃうけど、村のとあるところでアンフィスバエナに殺された人には、ちょっとした異変があったの」

「異変?」

「もったいぶった言い回しだな。村のあるところってのもはっきり言えや」

 

 レオに指摘され、ちょっとむーっとする。

 

「せっかく盛り上げていこうと思ったのに。大人はつまんないわね。えーとね、異変ていうのは、傷が一切なくなってしまったの。そしてあるところっていうのは、リトバコルデートの群生地でその人は死んでたっていうこと」

 

 ほうっと聞いていた者達は関心を深めた。

 

「薬師様はそれを見て、実験をしたわ。毒液をかけられてボロボロになった動物の死体を、リトバコルデートの群生地に置いておいたの。そしたら1日ほどでボロボロだった体の大半が治ったの。それで薬師様は、アンフィスバエナの毒とリトバコルデートが組み合わさると、もの凄い治癒薬になるんじゃないかって思い付いたの」

 

 ケンやクーノも、これは脈があるのではと、期待で目を見開いた。

 

「成程。それで、どこまで実証できたんだ?」

 

 問題はそこだ。思い付いただけでは話にならない。

 

「うん。リトバコルデートのエキスと、アンフィスバエナの毒をいろいろな割合で調合して、傷を負った動物に与えて実験を繰り返したの。そして最適な割合を突き止めたの」

「治したのか!」

 

 サンドラは微妙な顔をした。

 

「傷は完璧に治ったそうよ。でもね……毒で死んじゃうの」

 

 一同からは、「それじゃ意味ねえじゃん」という声が聞こえてくる。

 

「だからお師匠様は解毒したアンフィスバエナの毒液で試したかったの。領都の薬師協会から、土に埋めて5年寝かして毒抜きした高価な毒液を買って試したけど、これだと傷も治せなかった。それとは別に、リトバコルデートを、ヘキサリネの大半で採れるヘキサコルデートに変えても、手を加えれば同じ効果になることも突き止めたわ」

「サンドラさん!」

 

 大声を上げたのはリエラだった。

 

「合格です! 解毒したフレッシュな毒液で、薬師様ができなかった最後の実験を、私で試しましょう!」

 

 リエラはもう勝ったも同然という顔をしていた。きっとこれはミリヤの歴史になる、とも確信していた。

 

「その薬師、信用していいのか?」

 

 レオはリエラに問うが、リエラはふふんと笑うだけだった。

 

「ハイリスク、ハイリターンは常識よ。その度胸がなきゃハイリターンを得る資格はないわ」

「やっぱりネジがぶっ飛んでやがる」

「でもね、サンドラさんの村リトバレーは、知る人ぞ知る薬草の産地なのよ。そこの薬師様の話だもの。それが私の賭け金を高くしてるのよ」

 

 ミリヤ皇国は前々から密かにヘキサリネを調査していたが、リエラはその中からリトバレーの情報にも目を通していた。

 レオはリエラの分析力と度胸に感心し、称賛を込めて笑顔を見せた。

 

「大した姉ちゃんだ」

 

 ポーションの話がひと段落すると、サンドラの下にマヤが駆け寄って、「サンドラちゃんはやっぱり凄いわ。将来はヘキサリネ随一の薬師さんになるね」と頭をなでなでしたが、すぐに引き離された。

 

「およよよよ?」

 

 マヤは、リエラとレオの怪我をしてない方の腕で、左右からがっちりと捕縛されていた。薄ら笑いを浮かべてマヤに目線を注ぐ2人。

 

「な、なになに? お、お二人とも目が怖いよ!?」

「おい小娘。ありゃあなんだ?」

「どうも私が聞いていた法力とはだいぶ違うようなのだけど?」

 

 2人の興味は、やはりマヤの法力のようだった。

 そこはジオニダスも同様であり、すすっと近くに寄ってくると、聞き耳を立てる。

 

「氷も扱えるの? 火と氷をいっぺんになんて、普通考えられないわ」

「一見あのヤバい魔術師と同じなんじゃねえかとも思ったが、魔法陣や魔法詠唱はないから、やはり法力なんだろう。だがリエラの言った通り、普通ならあり得ねえ組み合わせだ」

「あ、あのぉ、法力については、業務上の秘密事項なので、お話しできることはないのですが……」

「しらばっくれやがって」

「法力や身の上の秘密は明かす必要はないとはいっても、あれは国を左右しかねないものよ」

「わ、わたし平和主義者だから! な、なにせ平和憲法と専守防衛の国の出ですよ? 他国にとって脅威になんてなりませんって!」

 

 通用するのか、いや、現代の我々の世界でも通用するのか分からん理屈を述べるマヤ。

 その背後で、ストレージから恐怖で苦しみ悶えた顔で死んだウサギを取り出すフィリア。

 どーこーがー平和主義者なーんですかー? と口パクで言っている。

 あの恐怖顔ウサギをストレージに入れるのを、嫌がってるのに無理やり入れたのが悪かったんだろうか?

 マヤは顔を引き攣らせ、冷や汗を垂らす。

 

「考えられるとしたら、火でも氷でも、共通する何かがあって、それを扱えるのかも知れねえな」

 

 うわ、レオさん、恐ろしき洞察力。ニュータイプかしら?

 

「火と氷に共通点?」

「リエラは蒸留酒の作り方は知ってるか?」

「唐突に何よ。蒸留酒はその名の通り、蒸留して作るんでしょ? 果実酒とか穀物酒とかの一般的なお酒を火にかけて、蒸気だけを導いて冷やすと強いお酒、蒸留酒になるのよ。それを寝かせて熟成させるともっと美味しくなるのよね。あ、レオさん。私はブランデーが好きなの」

「ほう、結構博識だな。しれっと好みを伝えやがって、催促か? 蒸留酒の作り方はその通りだ。蒸留水ってのもあるよな。水を沸かすと蒸気になり、それを冷やすとまた水に戻る。この時の蒸気ってなんだ?」

「湿気た空気じゃないの? ……あっ!」

「何か感付いたか?」

「蒸気っていう空気と、水とは、一見違うようだけど、同じものなのね。それに水は寒くなれば雪や氷にもなる。水の扱い方に長けた法力なら、水蒸気、水、氷雪をいっぺんに操れるかもしれないのか」

「そういう事だ。俺はそんな法力持ちはまだ見たことねーけどな。同じような観点で考えれば、火と氷の間にも共通する何かがあるのかもしれねえ。知られてないっていうだけでな。どうだ小娘、そんなところじゃねえか?」

「ぎくぎく」

「あら、マヤさん。随分汗かいてるわね」

「ぎくぎくぎくぎく」

「当たらずとも遠からずってとこかしら?」

「とにかく、そんな法力持ちは味方に引き入れておくか、さもなきゃ危険なヤツってことで、アレだな」

 

 レオは首の前で手を水平にすっと飛ばす。

 

「アレ!? なにアレって! やだ、なんですその邪魔者は消すみたいな!」

「ミリヤ皇国に来れば、助けてあげるわよ?」

「なんの、ワリナ王国は寛容だぞ? ワリナに来るべきだ」

「……」

「……」

 

 またリエラとレオが目線で火花対決を始めた。

 

「あ、あのぉ、わたしまだ当面、ヘキサリネにいるつもりなんだけど……」

 

 マヤがそう言うと、2人してチッと舌打ちする。

 

「ヘキサリネか。邪魔な国だな」

「いっそのこと併合しちゃおう、じゃなくて併合したらどうって目安箱に投書しようかしら」

 

 なんで2人とも邪魔な隣国なんぞ滅ぼしてやろうかみたいな雰囲気を!?

 ってかリエラさんはマリエラ皇女様なんだから、その発言はしゃれになんないんですけど!

 

 そんな3人の後ろで、ジオニダスがため息をつく。

 

「うちの国、なんか色んなヤバいのが沢山やってきてて、もの凄くヤバくなってきてるんじゃないか?」

 

 

 

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