異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第40話「サンドラちゃんの快挙とマヤちゃんの永久称号」

 

 どぎゃーん!

 

 領都のハンターギルドのドアが勢いよく開けられた。

 

「おお、マスターのパーティーが帰ってきたぞ!」

 

 いよいよドアは傾いて、完全に閉まらなくなった。

 

「テメエら、ドアは静かに開けろ! ああ、とうとうぶっ壊しやがった!」

「マスター無事でしたかい」

「怪我人を奥へ! 医者を連れてきてあるぞ。もう大丈夫だ」

「姉さん腕大丈夫か!? 服が血だらけじゃないか」

「おい、俺を無視すんじゃねえ! ドア弁償しろ!」

 

 領都のハンターギルドに戻った一行は、先に戻ってきていたハンター達に出迎えられた。

 

「マスター、御無事で」

 

 ホッと胸をなでおろす受付嬢のケイトとレーナ。

 

「ジオニダス、飲み物と軽食を出してやる。その辺に座って少し休め。イライラするのは腹が減ってるからだ」

「いや、イラついたのはドアのせいで……」

 

 いいからいいからと、喫茶のマスターはジオニダスを宥めて、さっとエプロンを巻いた。

 

「いや、それよりすぐにやらなきゃならん事があるんだ。サンドラ、裏の厨房や作業場を自由に使え」

「ありがと、マスター!」

 

 薬草が詰め込まれた籠を持って裏方へ走るサンドラ。

 マヤも行こうとしたが止められた。

 

「マヤ、いろいろ不満はあるだろうが、ケイトに4階級差違反の手続きをやってもらえ。すまんが、この規則(ルール)だけはどうにもできねえ」

 

 ケイトがびっくりした。

 

「4階級差違反!?」

 

 周りからもざわめきが起こる。

 

「4階級差違反?」

「4階級差違反だって?」

「なんだそりゃ、聞いたこともねえ」

 

 ケイトが方眉をひねってマヤに問いかけた。

 

「新人Fランク、何やったの?」

「え、えーと、なんというか、首が3つとか4つになったアンフィスバエナの、ちょっと大きいくらいの12匹と、10m以上ある奴を1匹、瞬殺しました」

 

「「「「なにいぃーーー!?」」」」

 

 フロア中から驚きの声が上がった。

 

「首が増えたアンフィスバエナってランク幾つだ?」

「普通のがCランクだから、Bじゃないか?」

「あの子供、ランク幾つだ? まさかFじゃないよな?」

「Bランクに4階級差って、Fしかないだろ」

「やべえ、マジなら快挙だ」

「すげえ、お嬢ちゃん英雄だぜ! とんでもねえ無法者だ!」

 

 なんだか大騒ぎになってきた。それも違反者なのに、何だか受けがいい。

 

「ルール違反だって言ってんだろうがー!」

 

 ギルドマスターが叫ぶが、

 

「ジオニダス、もうちょっとでサンドイッチができる。そうカリカリするな」

「いや、腹が減って怒りっぽくなってる訳じゃねえ!」

「お嬢さん、本当ならてえした野郎だ」

「1、2階級ならまだしも、4階級差なんて、やりたくったってできねえ」

「今はルール縛りがあるから、挑むバカもいねえからな!」

「昔ならいたかもって言っても、さすがに4階級は何人もいねえだろう。これは伝説じゃねえか? ふつう挑んだら死んじまう!」

 

 やっぱりやんややんやのお祭り騒ぎになった。

 ダメだこれはと、ため息をついたマスターだが、ぽんぽんと肩を叩かれた。

 

「うおっ!」

 

 叩かれた方に振り向いたマスターはのけぞった。

 

「静かに。お忍びだ」

「いつも気軽過ぎます、領主!」

 

 そこにいたのは、ヘキサリネ領主のヴェルディだった。またも軽装の町人風に装っている。

 

「面白いことが起こりそうだと思って来てみりゃあ、大正解だ。どうせ俺のとこに報告出さなきゃだったんだろ? だから直接聞きに来てやった」

「それはありがたいです。今日の件は面倒なんで」

「それで、どいつがワリナ王国の王子なんだ?」

「知ってたんですか、領主」

「うちの内偵を見くびっちゃあいけねえよ」

「あの喫茶カウンターの近くにいる3人組の左端です」

「ふーん。いい面構えだ。あとリエラってのはいるか?」

「リエラですか? 3人組の隣にいる、壺を抱えている女がそうです」

「ほー? 噂以上の美人だな」

「有名なんですか?」

「リエラじゃなくてマリエラって方でな」

「マリエラ? 聞いたことあるな。誰だったかな?」

「ミリヤ皇国第一皇女」

 

 ジオニダスは一瞬氷のように固まった。

 

「はああー!?」

 

 

 

 

「ちょっとこっち来なさい、新人Fランク!」

 

 マヤはケイトに受付カウンターへ、引きずるように引っ張っていかれた。そして椅子を引き出されて座らされる。なんとなくケイトの雰囲気に呑まれ、椅子の上に正座してしまった。

 ケイトは罰則が書かれた本を取り出して、マヤの前にドスンと置いた。

 

「いい? 自分のランクより高い獲物を狩っちゃったバカにかけられるのが階級差違反よ」

「はあ。わたしバカですか」

「よく気が付いたわね。FランクがEランクの獲物を狩ったら、1階級差違反。Dランクを狩ったら2階級差違反。分かる?」

「はい。Bランクやっちゃったから4階級差なんですね」

「それくらいは分かるみたいね。それで罰則だけど、一定数の依頼を成功達成させるまでランクアップのためのポイントは付きません。その間現在のランクから昇格できないってことね」

「はい。アンダースタンド」

「罰則回数は階級差が増えるごとに倍倍で増えていくように規定されてる。これが罰則回数表」

 

 ケイトは本を広げた。

 

 階級差罰則 ペナルティ回数表

 1階級差違反 100依頼

 2階級差違反 200依頼

 3階級差違反 400依頼

 4階級差違反 800依頼

 5階級差違反 1600依頼

 

 マヤの目がまん丸に大きく開かれた。

 

「わたし……800依頼を成功させないと、ランクアップできないんだ」

「正確には800依頼達成し終えたら、そこからランクアップのための道のりが始まるのよ」

「え、えーと、1日に1依頼として、2年ちょっと?」

「年中無休で働くのね。ご愁傷様」

「きゅ、休暇取りつつだったら……何年かかるの?」

 

 ケイトは立ち上がると、ぐいっと顔を寄せてきた。

 

「今からあなたの呼び名を変えるわ。『万年Fランク』さん」

「ひぎぇっ!」

「いいじゃない。あんた、アンリミテッド・パーティーの例外資格を持ってるんだから。高ランクのパーティーと組んでれば何でも獲っていいのよ。そんなに困らないんじゃない? その辺のFランクなら、一生薬草取りだけで終わるとこだわ」

「わあ、今日みたいに一人で出歩いてて、とんでもないのに出くわしたら、また加算されちゃうじゃん!」

「がんばりなさい。『万年Fランク』さん」

 

 

 

 

 がっくり頭を垂れてサロンに戻って来たマヤ。

 サロンはさっきと雰囲気が変わって、何やらもめていた。

 

「いやあ待てよ。ほんとにそんなアンフィスバエナいたのかあ? 俺は信じらんねえ。証拠あんのか? やったってんなら、そのヘビ見せろや」

 

 ちょっと厭味ったらしい感じのハンターが、飲み物片手に疑問を呈していた。

 

「無茶言うなよ。10mとかの大蛇、人数揃えた輸送パーティー連れてかねえと運んでこれるわけねえだろ」

「じゃあ信じらんねえな。Fランクだぜ? 12、3歳のしょんべん臭せえガキだったろ?」

 

 けっ、とそっぽを向く嫌味なハンター。

 

「むむー、わたしは17歳のレディーなんですけど!」

 

 嫌味ハンターの後ろからマヤが現れ、ぷんすかと抗議した。嫌味ハンターはそっくり返ってマヤを見ると、けけけ、と嫌味一杯に笑った。

 

「年齢まで見栄張るのか? 滑稽だぜ。みんな笑ってやれや」

「むがー!」

 

 するとメイドが優雅にすすすっと、買取カウンターに歩み寄った。

 

「おじ様、マヤ様の仕留めましたBランクのアンフィスバエナの頭をお預かりしております。査定していただけますか?」

「なに!? 持ってるのか!?」

 

 ギルドのサロンがまたもざわつく。

 

「おお、メイドさん。どれどれ、出してみんしゃい」

 

 フィリアはニコッと清楚に微笑んだ。そして腕を振って『ストレージ』を開くと、ずるずるとヘビの頭、それも子牛の頭程もあるものを引っ張り出した。

 その光景にギルドのサロンは二重の驚愕で震えた。

 

「なんだありゃ、何もない空中から取り出したぞ!?」

「うおおお、マジででけえ! でも本当にヘビの頭だ!」

 

 続いてフィリアはぺこりとレオ達に会釈する。

 レオはふっと静かに笑み、ケンやクーノは手を上げてニカッと笑った。

 

「それと、あそこにおられるAランクパーティーの方々が仕留められました、アンフィスバエナの体の一部がございます。こちらも査定をお願い致します。そうそう、マヤ様が仕留めましたのも、これと変わらぬサイズでございましたよ」

 

 フィリアはあの嫌味な男に、にっこりと微笑んだ。

 そしてもう一つ『ストレージ』を開けると、手を入れる。

 

「あら?」

 

 予想に反した感触が手に当たり、首を傾げて手に当たったものを取り上げた。

 

「ひいいいいい!」

 

「あ。あの落ち着き払ったメイドさんが、何やら動揺してるぞ」

「何があったんだ?」

 

 フィリアの変化にサロンのハンター達が心配した。

 

「こ、こ、こ、これも早いとこ引き取ってください! ま、ま、マヤ様が捕まえたものですぅー!」

「ぬお! どうしたのじゃ、この鹿角兎(ジャッカロープ)は!? なぜこんなに地獄を見たような表情を!?」

「マヤ様の法力の恐ろしさに触れたからに違いありません! ひいいい!」

「これはいかん。こんなにストレスを受けたウサギでは、肉にも異常をきたしているかもしれんぞ。これでは査定が下がってしまうのぉ」

「なんでよ!」

 

 思わずマヤは立ち上がって抗議してしまった。

 

「おお、さすがは4階級差違反の技を持つ嬢ちゃんだ。鹿角兎(ジャッカロープ)がびびって失禁するほどらしい」

「すげえ。俺、こんな恐怖で固まった鹿角兎(ジャッカロープ)見たことねえ」

「マジかよ、どんなに恐ろしい法力なんだ! 俺ファンになっていいか!?」

 

 また一つ、マヤはおかしな伝説を作ってしまった。

 

「うう、マヤ様のウサギを、無理やり持たされていたことをすっかり忘れていました。はっ! いけません。大衆の前で取り乱してしまうとは、メイドとして失格です」

 

 フィリアは正気を取り戻すと、再び『ストレージ』に手を入れ、今度こそ土管を取り出した。いや巨大ヘビの胴体を引っ張り出した。

 

「お手伝いいただけますか? 大き過ぎて、私では引き出すことができないのです」

「メイドさん、俺がやるよ!」

「俺も手伝おう!」

 

 恐怖顔のウサギに喜んでいたハンターが手伝いを志願した。

 

 2人が丸太のようなヘビの胴を掴んで、ずずずずっと引っ張る。

 

 ずぞぞぞぞぞ、ずるずるずるずるずるずる

 

 その光景は異様だった。サロンにはもはや悲鳴に近い叫びが鳴り響いていた。

 

「ひええええ、気持ち悪う!」

「いつまで出てくるんだこれ!」

 

 誰もが近寄れずに引いている。

 先程の厭味ったらしいハンターは飲み物を吹き出し、いつの間にかできた、マヤを敬う会のハンター達に取り押さえられた。

 

「これでもマヤさんを侮辱するか?」

「お前もあれと戦うってんなら、許してやらんでもねえ。ちょっくら猟場行ってこいや」

 

 そのハンターは真っ青になって、プルプルと首を横に振った。

 

 買取カウンターのじいさんがカウンターから出てくると、床を占拠したヘビの胴の回りを鉤鎌片手に歩いて見て回って検品し、そして愉快そうに笑った。

 

「ふぉっふぉっふぉ、こりゃあたまげた。とても今は値を付けられんな。新鮮な内臓部分のある胴体じゃ。薬師協会が薬の素材として買うじゃろう。肉と皮はそれぞれの専門店に値を付けさせる。今は預けてくれるかの?」

 

 ケンが手を上げて答えた。

 

「良い値で売ってくれや、じいさん」

「ふぉっふぉっふぉ。承った。預かり証を作るから待っとってくれ。おう、マヤ殿。頭の方は薬師協会に売ってよいのか?」

「いいえ。毒腺をサンドラちゃんにあげる事にしてるの」

「裏でやってる薬作りに使うのか。しかしこの大きさだと、毒腺取っ払ったとしても、他のところがまだ素材として使えるぞ。薬師協会は買うと思うぞ?」

「使えるところがあるなら、好きに使ってもらっていいわ。なんか階級差違反の罰則で、狩った獲物の買取額から何割かは罰金として取られるそうだから、この際ギルドに全額差し上げます」

「うおおお、お嬢ちゃん、かっけー!」

「さすが4階級差違反をやった伝説だ!」

「一生従います!」

 

 心棒者をさらに増やすマヤだった。

 

 ケイトさんが預かっていたわたしのギルドカードを持って戻ってきた。

 

「カードを返すわね。ペナルティが取れるよう、せいぜい頑張りなさい」

 

 カードを見ると、バッチリ「4階級差違反制裁中」と刻まれていた。樹脂みたいなのでできたカードに、文字通りに刻まれているのだ。

 

 

マヤ

 ハンター ランクF (アンリミテッド パーティー)

 登録国 ヘキサリネ領 No.HXLxxxxxxxx

 4階級差違反制裁中

 

 ヘキサリネにおけるライセンス

 ○ 狩猟・採取

 - 探査・調査

 ○ 護衛・傭兵

 ○ 雑役

 ○ 特殊

 

 

「ケイトさん、これ彫られちゃってるじゃないですか! 罰則果たし終えたらどうするんです!? 行く先々でカード見せる度に前科を晒すようなもんじゃないですか!」

「晒すのよ。罰なんだし。ランクが上がればカード作り直すから、その時消えるわ」

「800依頼こなして、そこからEランクアップの条件クリアして、それでようやく作り直せると?」

「ふふふ、作り直せる時なんて来ないかもねえ」

「ひぎゃー!」

「あ、マスターが、『護衛・傭兵』のヘキサリネライセンスを付けてくれたわよ。これからはその手の依頼も受けられるから、少しは足しになるでしょ」

「あ、ホントだ。『護衛・傭兵』にも○が付いてる。ついでに『探査・調査』も付けてくれればいいのに」

「まず礼を言いなさいよ。いきなり文句言われるとは思わなかったわ」

「す、すみません。ご配慮ありがとうございます」

「『探査・調査』はその手の技能と、頭も回らないとだからね。まだあなた出来るっていう実力を見せてないでしょ」

「確かに。どんな技能があればいいかも分かりません」

「それができるパーティーに加わって教わるといいわ。ま、頑張りなさい」

「ありがとうございます」

 

 わたしはケイトさんにペコリとお辞儀をする。

 

「そうそう、リエラさんにも後で来てもらうよう言っといて。彼女、今回の依頼とポーション作りの協力の功績で、Bランクに昇格するから」

「えっ、なんと羨ましい」

 

 

 

 

 ギルドのサロンの隅で、静かに解毒を続けていたリエラが、毒液の入った壺を持って立ち上がた。

 

「よし、できた」

「リエラ、解毒できたのか?」

 

 レオが首を伸ばして聞いた。

 

「舐めて確かめる?」

「旨いのか?」

「あなたの手で試した時は、もう二度と舐めるかってほど酷かったわ」

「じゃあ、今度はきれいに治った毒のついてねえ手で試してくれ」

 

 ぼふっとリエラは一瞬で真っ赤になった。

 

「……変態」

 

 なんだかまた背景に薔薇の花を散らせて、いい色に色付いた顔で見つめ合う2人。

 そんなレオにケンが後ろから小声て囁く。

 

「若。ハンターを側室にするのはお勧めしませんよ」

「なっ。俺ぁそんなこと一言も言ってねえぞ。だいいち正妻もいねえのに」

「どうだか」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 その日の夜、日付が変わった頃。

 

 不夜城となっていたハンターギルドに歓声が上がった。

 

 夢の薬、回復ポーションが完成したのだ。

 

 

 




2022/6/26
 マヤに『探査・調査』ライセンスが付与されたのを書き加えました。第3章で使うため。
 それとリエラがBランクに昇格したのも明記しておきました。
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