異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
オルデンドルフ王国の使者がヘキサリネ軍に護衛されて、ようやくのこと領都に到着した。
そして翌日、延期されていたワリナ王国とミリヤ皇国の大使館の開設式典がようやく行われた。
「うおおお! なんと大きなトラの頭じゃ! こんなものがいるのか!」
「それにこの牙のなんと長いこと! まさにサーベル!」
「ワリナ王国の力の象徴のようですな!」
ワリナ大使館の玄関に飾られたサーベル・タイガーの頭骨を見て、腰を抜かす一歩前まで来ていたオルデンドルフの使者団からの賛辞に、ワリナ大使のフェルディナンド公爵は上機嫌になって髭を撫でた。
一方でミリヤ大使のシフュース公爵はギリギリと奥歯を噛む。
だがその優越感も長くは続かなかった。
場所がミリヤ大使館に移ると、
「ぎょおおお! なんという迫力、なんと巨大なマンモスの頭だ!」
「それにこのなんと長く反り立つ牙!」
「ミリヤ皇国の懐の大きさを表しているようですな!」
オルデンドルフの使節団からの賛辞に、ミリヤ大使のシフュース公爵はご機嫌な笑顔をワリナの大使に向ける。
「でかいといっても、所詮は草食動物。食物連鎖のトップにいる肉食獣にかなうものじゃないでしょう」
「大きさはそれだけで武器です。巨大な親マンモスにはトラもライオンも手を出さんそうですよ。圧し潰されるのが分かってるからです」
激しい火花を散らす両大使。
「私もうちの領から、このような両国に気に入ってもらえる逸材を産出できたことを、誇りに思ってます。これからも両国に相応しい商品をご提供していきますので、是非我が国の発展の為にまたよいお取引を」
二人の間にニコニコとした商売面を割り込ませて、まあせいぜいうちの商品で張り合って喧嘩してくれたまえと、上から目線なヘキサリネ領主のヴェルディ。
3か国の首脳は、まずは軽くジャブを打ち合った。
「我が国も大使館を立てる時は、もっと凄いのを用意して下さるか、ヘキサリネ王」
「勿論ですよ。オルデンドルフに相応しいのを探しておきましょう」
見栄の張り合いにオルデンドルフ王国も参戦するようだった。
◇◇◇
夕方からは、ヘキサリネの領主邸で晩餐会が催された。
各国の大使館からは、招待客が乗る着飾った馬車の列が出発する。領都邸までは大した距離ではないが、沿道には一目見ようと観客が並んでいるので、アピールするチャンスだ。
特に観衆の注目は、国家元首の代役として招待されている王族、皇族だ。
黒塗りに金モールの重厚な馬車はワリナ王国。金髪の貴公子と噂高いレオナルド王太子の姿を一目見ようと、若い女性の観衆がきゃあきゃあと声を上げる。
「レオナルドさまー!」
「見えた!?」
「あたし目が合っちゃった!」
黄色い声の興奮冷めやらぬ観衆の前に、次の車列がやってくる。
白に金の飾りをつけた豪華な馬車はミリヤ皇国のもの。ゆっくり目に走り、車窓からにこやかに手を振るのは、マリエラ第一皇女だ。その美しさに男も女も息を呑んだ。
「俺は今妖精を見たぞ」
「なんてお美しいの……」
堀を渡って次々と領都邸の車止めに入ってくる馬車。
玄関にはずらりと御用人が並び、軽く頭を下げて出迎える。
黒塗りの馬車から、キリリと引き締まった鋭利な刃物のような若者が颯爽と降り立った。レオナルド王太子だ。アンフィスバエナの毒をかけられて負傷した右手は跡形もなくきれいに治っている。
玄関に並んでいた者達は、その漏れ出る覇気に気圧された。
玄関の建物に入ると、ワリナ大使館のように牙をむいて訪問者を威嚇するようなものは置かれておらず、玄関、そして案内された控室まで、大きな瓶や盆に季節の植物が生けられ、逆に気持ちを落ち着かせようとする演出がされている。内装に木が多く使われているのもその効果を高めていた。
レオナルドは、領都邸には入国した日に一度挨拶で訪問してここの様子を知っていたが、今日のそれはさらに徹底していた。
控室で準備を整えると、ワリナ王国の一行はレオナルドを先頭に迎賓室へと向かった。
「ワリナ王国 王太子、第一王子、レオナルド・オヴ・ワリナ様 御入室です!」
迎賓室の入り口で待っていたのは、ヘキサリネ領主ヴェルディだった。
レオナルドは威厳だけでなく、強国の覇者の空気を纏ってヴェルディの前に立った。
国の格でいったら、豪族領のヘキサリネなど一地方のようなものだ。それでも手が出せなかったのは、ミリヤ皇国の後ろ盾があったからだ。ヘキサリネ先代領主が、ミリヤ皇国と比較的仲が良好だったのだ
一方のヴェルディは、先に国の首領となった分の貫録をもって、その覇気を真っ向から出迎えた。
「よく参られた、レオナルド王太子」
「招待に感謝する、ヘキサリネ領主ヴェルディ」
ヴェルディはレオナルドを上から下まで見やると、ニッと笑った。
「公務となると真ご立派だ。あのやんちゃさからは想像もつかない」
「ん?」
すると別のドアの方から、おおおー、とか、きゃああ、とかいう歓声が聞こえてきた。
「ミリヤ皇国第一皇女 マリエラ・ミナズミ・オヴ・ミリヤ様、御入室です」
歓声は入り口の方から次第に部屋の中へとウェーブのように連なってくる。
「なんという美しさだ」
「まさに聖女だ」
そのような声もささやかれる。
「主賓がもう一人いらしたようだ。ご一緒に迎えに参りましょう」
「私もか?」
「できれば国の代表どうしで、今のうちに挨拶を交わしておきたいのですよ」
入室したマリエラ皇女は、艶のある僅かにピンクがかったドレスに身を包み、ふわふわのブロンド、つやつやの白い肌、首元を飾る中央に大きな赤、チェーンに青と赤の宝石を繋げた首飾りをして、部屋の全ての女性を圧倒していた。
そして天女が滑るようにヴェルディの前へと歩んでくる。
「ヘキサリネ領主ヴェルディだ。よおく参られた」
「ご招待、誠にありがとうございます、領主ヴェルディ様。マリエラ・ミナズミ・オヴ・ミリヤです」
スカートを摘み上げて挨拶する仕草までも見とれてしまう美しさだ。
「今日は心行くまで楽しんでいかれるがよい」
「大変珍しい食材が出ると聞いております。楽しみですわ」
「ワリナの王子も今来られたばかりだ。これからの国を背負う者が、かくもこう早く集えた事は神に感謝せねばなるまい。こちら、レオナルド王太子だ」
「お初お目にかかります、ミリヤ皇国第一皇女 マリエラ・ミナズミ・オヴ・ミリヤです」
「ワリナ王国第一王子 レオナルド・オヴ・ワリナです。お会いでき光栄です」
くふふふ、と何やらヴェルディは笑いをこぼし始めた。
「やんちゃ坊主とおてんば姫には、今までしてくれたように、これからも我が国とその領民とは仲良くしていただきたい。私からの最大の願いだ」
「まあ、レオナルド様はやんちゃなのでございますか? ……あら?」
「まさか皇女殿下は見かけによらず……え?」
お互いの顔をまじまじと見た王子と姫。正装して整い過ぎていて気付かなかった。
2人は言葉を失った。
「「あ、あ、あ……」」
笑いを耐えられん状態のヴェルディが、押し殺した声で2人に囁いた。
「次この顔ぶれで話せるのは、食後の喫茶の時間になる。それまではしばし耐えてくれ。後でゆっくり話をしよう」
「ヴェルディ様は私たちの事を!?」
勘のいいマリエラは、ヴェルディがこの領に来てから自分達のしてたことを把握済みなんだと気付いた。
「ハンターギルドマスターのジオニダスから活躍は聞いたよ。俺ぁそれであんたらを気に入っちまったんだ」
「なっ! 何が気に入っただ。何を企んでる、ヴェルディ!?」
「ははは、邪心などないぞ? まずはせっかくの宴の場だ。ヘキサリネ自慢の食事を楽しんでくれレオナルド王太子。おい、お二人を席にご案内してくれ」
ヴェルディが手を上げて傍にいた女中を呼ぶ。
「「はあーい」」
場違いに呑気な返事が返ってきて、思わず声の方を見るレオナルドとマリエラ。
あまり優雅でない歩きでやって来る2人のメイドを見て、またも「ええ!?」と驚きを上げる。
「マヤさん!?」
「サンドラか!?」
「ようこそいらっしゃいました」
「お席にご案内しまーす」
貴公子らしからぬ慌てぶりでレオナルドがヴェルディへ振り返った。
「い、いいのかヴェルディ!? 国賓を招いた場が、こんなざっくばらんで!」
「なに、今だけだ。この後しばらくは真面目に執り行う事になる。俺はとにかく、次の時代を共に担うそなた達と、早く腹を割っておきたかったんだ。気に入ったというのは本当だぞ?」
ぷっと噴き出したのはマリエラだ。
「ふふふ、面白いですわ、ヴェルディ様」
「あんたもいいのかそれで!?」
「何だか新しい時代が開けそうで胸が踊ります」
雰囲気仕草はいかにもお淑やかな皇族。だが胆の据わった動じない中身は、間違いなくあのネジの飛んだ女だ。
「……ふ、ふははは。さすがおてんば姫だ。付き合うよヴェルディ殿」
肩をすくめるレオナルドにマリエラが微笑み、ヴェルディが豪快にわっはっはと口を開けて笑う。
急に和やかに笑い出した三国の国家元首とその代理達に、それぞれの国の重臣達も一度は当惑したが、すぐその雰囲気に倣いお互い柔らかになる。
「さあ王子様、こっちですよ~」
「皇女様、足元にお気を付け下さ~い」
サンドラとマヤが席へと案内する。
履きなれない靴にかっくんかっくんしているマヤに、逆に手を差し伸べてしまうマリエラ。
「マヤ様こそ大丈夫? 足元がおぼついてないですよ?」
「歩く練習しましたから大丈夫です、あうっ!」
「気を付けて、マヤ様!」
「おいおい、お前らが世話されてどうする」
ヴェルディが苦言を上げるのにレオナルドが思わず口に出してしまう。
「大丈夫か、この国は!」
なお国家元首級を寄越さなかったオルデンドルフ王国は、すっかり仲間外れにされていた。
波乱の着席劇でした。
サンドラちゃんはきちんとレオナルド王太子を案内してたのに、わたしはマリエラ皇女様に気遣われながらで、どっちが案内係だったか分かんない。
そんなわたし達がメイドの仕事を続けられるわけもなく(お皿落としたり、転んだり、お客様に飲み物かけてしまったりと絶対危険なので)、その後は厨房の片隅に移動してました。次の出番は、一応食後の歓談のお茶の時間。それまでここで待機です
厳かに行われた晩餐の儀は、あのサーベルタイガーの熟成肉を使った料理が来賓たちの舌を楽しませたのは言うまでもありません。
「うわあ、もっと美味しくなってる!」
「お肉の繊維が柔らかくなって、ソースとの絡みも絶妙!」
サンドラちゃんとわたしは、お料理が出来上がって盛り付ける前のを、まるで味見させてもらうようにいただいて、宮廷料理を満喫したのでした。その為に厨房の片隅へ席を作ってもらったんですよ。
「マヤちゃん、食べ過ぎると次の出番に動けなくなるよ?」
「えー? もうちょっと食べるー」