異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第42話「三国の未来」

 

 晩餐会は豪華なお食事が終わり、ご歓談タイムへと移行した。

 

 庭やテラスが開放されて、お酒やお茶、お菓子やフルーツが盛られた盆が出される。

 満腹になった体を動かして腹ごなしというのもあるが、みんなが席を立つので、個人的な接触を試みるチャンスでもある。晩餐会の冒頭で人物紹介はしてあるので、食事しながら目星をつけておいた相手に直接話し掛け、顔の売込みや情報収集、人となりの調査、共通の話題探し、そして可能なら個人的に親睦を深めるなど、この先を見据えての重要な機会だ。

 

 そんなわけで、各国の大使や王太子のレオナルド、ヘキサリネ領主のヴェルディや宰相、といったところへ歩み寄って来る人が多いのは当然のことだった。

 

 その点マリエラ皇女には、政治的な話を持ち掛ける人は少ない。行く連中はその美しさを近くで見たくて歩み寄るのだろう。第一皇女とはいえ、跡取りの皇子が控えている国である。ゆくゆくはどこかの国へ政略結婚で出される身なのだ。

 と、そのように思っていた。オルデンドルフ王国は。

 ところがワリナとヘキサリネの重臣は、束になってマリエラのところへ話をしに行ってるのである。

 

 傍から見ていたオルデンドルフ使節団は、そんな様子に顔を寄せ合って小声で囁き合う。

 

「人気ありますなあ、マリエラ皇女は。いい年寄りでさえも年甲斐もなく加わって、揃いもそろって鼻の下を伸ばしておりますぞ」

「とはいえ、ミリヤの皇位継承権第一位の第三皇子はまだ10歳。マリエラ皇女が一時的に皇帝の座に着く可能性はありますからな。一応顔を売っておくのも無駄ではないかもしれません」

「我々も誰か代表で行っておきますか? どのみち我が国は第二皇子推しでいくのでしょうけど」

「それ大丈夫なんでしょうね? 第二皇子と第二皇女は妾の子でしょう?」

「そこを意に沿うよう持っていくのが、我が諜報部の仕事だ」

「では早速失敗ですな。今回の行事だって第二皇子に来てもらいたかったのに。当てが外れましたぞ」

「ぐぬぬ……だいたい第二皇子は外遊が嫌いなのだ! 皇帝代理で済むような場になど出てはくれぬ!」

「こちらから出向けという事か。我が国王一族も人を出さなかったしな。仕方ない、近々ミリヤ皇国に訪問してご機嫌を窺いましょうぞ」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 主だったところの挨拶の波がひと段落したところで、ヴェルディは、レオナルドとマリエラをテラスへと誘った。

 

 外へ出るのにちょっとした段差があったが、レオナルドは紳士のマナーとしてマリエラに手を差し伸べ、エスコートをした。レオナルドはその上品な横顔に向けてちょっと意地悪をする。

 

「なかなか正体を隠すのが上手いな」

 

 晩餐会でのマリエラは完璧なお姫様だった。レオナルドからアンフィスバエナを始末した時の話を聞いた一部の者は、あまりの違いに同一人物とはとても思えず、マリエラと直接話をした後もレオナルドに「人違いでは?」と言ったほどだ。

 レオナルドが“リエラ”に抱いた印象は、男顔負けの闊達さと思い切りの良さというか、少々無鉄砲なはっちゃけ娘である。それに対し今日のマリエラは、野外に出るとしてもせいぜい宮殿の庭園で花摘みする程度だろう、としか見えない可憐なお姫様だ。

 

「正体とはなんですの? 隠すも何も、これが素のわたくしですよ」

「それじゃあのハンターの時の姿はなんだ?」

「あれもわたくしです。どちらも別に偽ったりはしておりませんよ。野外服を着た時、ドレスを着た時、その場面に合わせて気持ちがパチリと切り替わるのです。それだけのことです」

「む。するってえと人格が変わるのか? いや入れ替わるとでもいうのか?」

「人格変化も入れ替わりもしません。“切り替わる”のです。その辺りヴェルディ様も似たところがあります」

 

 マリエラはつつっとレオナルドに顔を寄せる。

 

「逆にあなたは変わらなさ過ぎです。そのお立場にありながら」

 

 レオナルドは悪びれた様子など一切なく肩をすくめる。

 

「人の顔色見て態度変える奴らがうざってぇからだ。猿山の覇権争いみたいなこの時世、回りくどい事する間も与えず最初から本心を語らせるにゃ、この方が手っ取り早いんだ」

 

 レオナルドの単純な力押しに、マリエラはふっと微苦笑をした。

 

「相手の思惑に乗ってあげて、思った通りに相手が態度を変える様を見て内心ほくそ笑む方が、後で追い詰める時役立つこともありますよ。崖の淵まで追い詰められていたことを知った時の顔を拝むのも、意外とスッキリするものです」

「げっ、性格悪!」

「くははは、ミリヤの姫の方が上手のようだな!」

 

 2人のやり取りを見て、ヴェルディは面白そうに笑った。レオナルドは苦々しげな顔をする。

 

「ここは周りに余計な人間はいない。そんな感じで気兼ねなくを話しよう」

 

 ヴェルディは2人がジャブを打っていた話題にはあまり突っ込まず、話を変えた。

 

「ところで、どうだった料理は?」

 

 マリエラとレオナルドはパッと明るい顔に変わった。

 

「素晴らしかったです! 特にあのサーベル・タイガーのコース料理」

「ああ、感動モノだった。うちの大使館に飾った奴の肉が、まさかあんなに旨いとはな。くそっ、どうして俺は、あの時肉も買わなかったんだ?」

「サーベルタイガーの肉は一般には卸さないからな。ハンターより貴族家の料理人の方が、買い付けはし易いだろう」

 

 ヴェルディはテラスの出入り口にいたメイドに向かって手を上げた。

 

「おーい、茶のお代わりを頼む」

「は~い、今持っていきますよ~」

 

 メイドにしては随分と間抜けな返事に、レオナルドとマリエラは、よもやと思い振り向いた。

 案の定だった。

 

「この間抜けな声は、やっぱりマヤか」

 

 今だメイドの格好をしていたマヤとサンドラが、ティーセットを持ってやってきた。

 歓談の時間になったら出てくるよう、ヴェルディに言われていたのだ。

 

「王子様、酷いです。間抜けな声とはなんですか」

「ついでに歩き方が貧乏臭え」

「この上でまだ追い打ちかけますか!」

 

 くすくすとマリエラは笑った。そしてお茶を注ぐマヤに話し掛けた。

 

「マヤ様もサーベル・タイガーのお料理は、ご堪能できたのですか?」

「あ、はい。厨房でいただきました。さすが領都邸の料理人さんの作るのは違いましたね」

「村で食べた時より、お肉自体も美味しくなってたよね」

「何? まさかお前達、もう食ったことがあったのか?」

 

 わざわざ晩餐会に呼んで食わせてやったつもりだったのに、食っていたらしいと聞いてヴェルディはちょっと肩透かしを食らった。

 

「そりゃあ捕獲地でしたもん。熟成前のお肉でしたから、今思えばあっさり目の味でしたけど」

「そうか。捕獲したのはリトバレーだったからな。加工途中に出た切れ端なんかを食っていても不思議はなかったか」

「むふふふ、それだけじゃなく、領都ではぜったい食べられないところもいただきましたもんね。卸したお肉だけで、サーベル・タイガーを食べ尽くしたと思ったら大間違いですよ」

 

 ねーっとサンドラと相槌を打つ。

 

「あれ以上の料理があるというのか?」

 

 贅を尽くしたつもりのヴェルディも眉をひそめる。

 

「獲ったその地でないと食べられないものです。領都じゃ、あのアンフィスバエナのいた森にサーベル・タイガーが現れないと無理ですねえ」

 

 そこまで聞いて、マリエラがポンと手を叩いた。

 

「分かりました。内臓を使った料理ですね!?」

「マリエラ様大正解! サンドラちゃんのお母さんが作ったあれは、もう感激でした! たぶん味の深みは、お肉より上じゃないかと思うんですよね。あ、サンドラちゃんのお母さんの料理の腕もあるね」

「褒めすぎだよ~」

「いやいや、絶対料理上手のお母さんの腕前によるところがあるよ」

 

 マヤは両手を胸の前で組んで上を見上げながら、あの時の料理を思い返す。

 

「どこの部位か分からないけど、あのくにゅくにゅしたところとか、最初跳ね返すような弾力があるかと思えば歯に力を加えるとぷつりと切れるところとか、しゃきしゃきとした歯ごたえのところとか、舌の上でとろけちゃうところとか、もう口の中の感触は千差万別で、どれも噛むほどにジワリと味が染み出てきて、それがちょっと野趣あふれる根菜と相まみえると、もうお互いの味を引き立て合っちゃって、その味が染み出たスープがこれまた……」

 

 目線を戻したら、ヴェルディとレオナルドが涎を垂らし、マリエラもハンカチで口を押えて、皆目をまん丸にしていた。

 レオナルドがたまらず立ち上がった。

 

「マジか! くそ、俺はサーベル・タイガー仕留めるまで国に帰らねえぞ!」

「レオナルド様、手伝います! わたくしも滞在を延期するよう公爵にお願いしなければ!」

「うぬぬ、領主でも食えないものがあったとは! これからは生け捕りにして、俺が行くまで殺すの待たせるしかないな」

 

 三国同盟だとか言って手を重ね合う3人だった。

 

 

 

 

 とまあそんなところで、お茶をすすって一息入れた。

 

 

 

 

 あー、このすーっとするハーブティーみたいなのが、クールダウンするのに丁度よい。

 

 一応ゲストの方に含まれているマヤとサンドラは、メイドなのは格好だけで、給仕をして回らなければならないわけではない。なのでお偉い3人の横で、手酌ながらご相伴を続けている。

 

「これはリトバレーにもない茶葉ね」

 

 お茶を一口飲んだサンドラは、すぐそう口にした。

 

「これは北の一部の地方で採れる草花だからな」

 

 ヴェルディはすぐに教えてくれた。するとレオナルドも言い添える。

 

「ワリナでは春によく飲む味だ。ヘキサリネの方が早いようだな。ワリナで採れるのはもう少し後だろう。一面白い花で一杯になって見事なもんだぞ」

「わあ、素敵。見てみたいわ。ふふ、でもレオナルド様からお花の話が出るなんて、全然似合いませんねぇ」

 

 マヤの失礼な反応に、「ぬわんだとぉー?」としかめっ面するレオナルド。

 

「あああ! で、でも、お花畑見てみたいってのは本当ですよ!」

 

 焦るマヤに意地悪い笑顔で睨み返す。

 

「見たけりゃ行ってみりゃいいじゃねえか。今から行けば開花まで十分間に合うぞ」

「あ、なんか心が揺れます」

 

 するとそこでレオナルドは、ふっと表情を和らげた。

 

「ところでマヤ。お前、ワリナ王国に来る気はないか?」

「へ?」

 

 レオナルドが急にそんなことを言った。

 途端に場の空気が変わった。

 

「え!? も、もしかして、お嫁さんにしたいとかですか?」

 

 マヤの反応に、スカッとずっこけるヴェルディとマリエラ。

 頬に手を当てて真っ赤になるマヤに、レオナルドが必死になって否定した。

 

「んなわけあるか! 身分からして王族に嫁ぐには無理があるだろ!」

「そうなんですか? しゅーん」

 

 すかさずマリエラが主導権を取りに行った。

 

「マヤ様はヘキサリネでの用事を終えられたら、ミリヤ皇国においでになるご予定ですのよ? なんでしたらその際、うちの家臣のお年頃を紹介しましょう」

「へぇ!?」

 

 マリエラからまさかの提案に、マヤは驚いて顔を向ける。

 

 ええ!? ミリヤ皇国の家臣の奥方に抜擢!? 家臣ともなればお貴族様かもしれない。いやそれだってわたしの身分からしたら無理がありそうだけど、マリエラ様のご推薦となると、無理も通っちゃうのかもしれないのかもかも!?

 

「あれ、でもわたし、ミリヤに行くなんて言ってましたっけ?」

「ミリヤ近衛騎士団のチェスター中佐が、そうおっしゃってましたけど?」

「あれぇ? チェスター中佐とは、ミリヤ大使館に行くって話じゃなかったかなぁ~」

「またまた。大使館は先日いらしたじゃないですか。ミリヤ皇帝のところの間違いでしょう」

 

 露骨なヘッドハンティングに、ヴェルディも慌てて横槍を入れる。

 

「待て待て。マヤは当分ヘキサリネを拠点に活動するのだ。確かトロの依頼をやらねばならんのだろ?」

 

 レオナルド、マリエラ、ヴェルディの3人が火花を散らして威嚇を始めた。

 続いてジト目光線をマヤへと向ける。3人から放たれる光線がブスブスとマヤに突き刺さる。

 

 な、なにこれ。なんで皆さん「誰を選ぶつもりなんだ、お前」って目をわたしに向けてるの?

 

 そこに屈託ないニコニコ顔のサンドラが、マヤに代わって返事した。

 

「マヤちゃんはお師匠様の用事を終えたら、リトバレーに戻って来るのよね。わたしのお家にマヤちゃんのベッド置くのよ。だからわたし、良いマットとお布団と衣装チェストを買ってかなきゃなんだから。マヤちゃん、うちの子になるんだよねー? お父さんが「娘ゲットだぜ」って言ってたよ?」

「え!? サンドラちゃんのお父さん本気!? っていうか、ベッドを置く話しとか、「娘ゲットだぜ」とか、なんでサンドラちゃんが知ってるの!?」

「こないだミリヤの騎士さん達と戻って来た馬車で、お父さんからわたし宛の手紙が届いてたよ。そこにそう書いてあったよ?」

 

 サンドラちゃんのお父さん、抜け目なーい! いやこれ、お母さんも絡んでるよね。布団とかチェストとか増えてるし!

 

 ヴェルディがしてやったりと、嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

「そ、それみろ! いやあリトバレーなら安心だ。ベッドだと? よしよし、俺から寄贈してやろう。天蓋付きのがいいか?」

「領主様、そんな大きいのわたしのお家に入らないよ」

「んま、ベッドごときで! わたくしどもならお婿様付きのお屋敷をご用意しますのに!」

「ワリナなら、そこにメイドも付いてるぞ?」

「ちょ、ちょっと待ってください! なんでそうまでして、わたしを呼び込もうとしてるんです!?」

 

 3人のジト目が再び降り注ぐ。プラス、サンドラちゃんの期待の目。

 

「はっきり言やぁ、お前の法力をほっとけないからだ」

「そうです。話に聞いていた以上に規格外です」

「いっぺん目にすりゃ、取り込んでおかねえと危険だって思う代物だよ。それにお前、まだ手の内全部見せてねえだろう」

 

 う……やっぱオキシジェン・デストロイヤーを見せ過ぎちゃったよなぁ……。恐れていた事態に……

 

 そこにサンドラが抱き付いてきた。彼女だけは全く違う視線を注いでいた。

 

「わたし、マヤちゃんがお姉さんになってくれれば、もっと色んな事教えてもらえて、色んな所に連れて行ってもらえて、そしてきっと、マヤちゃんほどでないにしても、人に役立てられるようになると思うの。こないだみたいに薬師様のやり残した研究も、マヤちゃんとなら遂げられそうな気がするの」

「サ、サンドラちゃん……」

 

 マヤはひしっとサンドラを抱き返した。

 

 そうだよね。お師匠様から法力を頂いただけじゃ、この世界では生きていけなかった。

 足りないものを与えてくれたのは、わたしを受け入れて、親身になってくれたリトバレー村の人達。わたしの帰る場所を作ってくれたサンドラちゃんのご両親。そして皆を引き合わせてくれた人こそ、サンドラちゃんだ。

 

 マヤは顔を上げた。

 

「やっぱり、わたしが戻るところは、リトバレーしかないわ」

「マヤちゃん!」

 

 サンドラは嬉しさにあふれて、ぎゅううっとマヤを抱きしめた。

 ヴェルディはほっとし、次に勝ち誇った顔を向ける。レオナルドとマリエラは忌々し気にその顔を見て歯噛みした。

 憮然としたレオナルドはマヤに質問を投げた。

 

「お前は母国、どこか知らねえが多分遥か遠い東の国だろうが、そこへは戻らないのか?」

 

 マヤは首を横に振った。

 

「きっとあそこに、わたしが戻れるところはないわ」

 

 その返事を皆は様々に捉えた。

 マヤは国を追われたのか。戻っても居場所はないのか。遠すぎて戻れないのか。

 ただ、そこがマヤの本当に元いたところではない、という事を想像できた者はいなかった。

 

 マヤがヘキサリネに留まるらしいとなると、レオナルドとマリエラは顔に影を落としてぶつぶつと呟いた。

 

「ちっ、やっぱりヘキサリネは目ざわりなとこだな。サンドラも一緒に連れてくか。それかいっそ占領だな」

「これはやっぱり併合するしかないですね」

「前も言ってましたけど、なんでそう物騒な方にばっか行くんですか!」

 

 マヤは大国の考えに呆れ返った。

 

「マヤの為に戦争するってのもなあ」

 

 ヴェルディも後頭部を掻く。

 話はさらにポーションの件にも飛び火した。

 

「どうせポーション作りでももめるんだ。ワリナの強硬派には、薬草地帯を支配下にしろって言いだす奴が、絶対出るに決まってる」

「そう言えばポーション作るのってどうなったんですか?」

 

 マヤの問いにヴェルディが答える。

 

「そのことを話してやろうと思って、今日は2人を呼んどいたんだ」

 

 マヤとサンドラは体を離すと、領主へ向き直った。ヴェルディはその後ワリナとミリヤで話し合ったことを話して聞かせた。

 

 サンドラが開発を成功させた超回復ポーション。

 その主原料の薬草は、ヘキサリネで採れるヘキサコルデートかリトバコルデートだ。

 もう1つの主原料であるアンフィスバエナの毒液はヘキサリネで採取したが、通常の個体から採れる量では少な過ぎる。先日の巨大化した個体はヘキサリネで肥えたところに魔素によって覚醒したからこそで、通常ではあり得ない量が採れたのだ。そこで普段から魔素が濃くて比較的大型のがいるワリナ王国が毒液を集める分担となりそうだった。

 解毒はミリヤ皇国の専売特許である。

 

 つまり3国が足並みを揃えないとポーションは作れないという事になり、独占しようとするには物騒な考えに至ることになる、というわけだ。

 

「しかしレオナルド王子。ヘキサリネ(うち)に侵攻しても、薬草と精製レシピしか手に入らんぞ。ミリヤも侵略する気か?」

「そもそもポーションの事が他国に知られたら、我々3国どれもが狙われますでしょう。自国で作れないとなれば、邪魔する国が出てきますよ。やはりヘキサリネが真っ先に狙われるでしょうね。手っ取り早く薬草畑を焼き払うか、毒を撒いて枯らすかすることでしょう」

 

 超回復薬は軍事的に見ると恐ろしい戦略物資でもある。負傷した兵がすぐ回復するということは、戦力が摩耗しにくいということなのだから。作れないなら阻止する国が現れるだろう、というのがマリエラの心配だった。

 

「そんなことしたら、他の薬草も採れなくなるかもしれないじゃん! やめてよ! なんで人を治す薬なのに戦争になるの!?」

 

 3人の話を聞いて、思いもよらぬ方へ行く様にサンドラが悲鳴のように叫んだ。

 

「なんでもっとこう、仲良く協力してやろうって考えないんですか!」

 

 マヤも叫ばざる得なかった。

 

「しかしな、国の関係ってのは簡単じゃねえんだ」

 

 レオナルドはそう(うそぶ)く。

 マヤは従来の国の考え方に縛られてる3国の指導者にため息をついた。

 

 ていうか、本心は違うでしょ。個人として想ってる事があるでしょ。

 それで国にもいい影響があるの、気付いてないのかな。

 

 マヤは前から思っていた事を口にすることにした。

 

「レオナルド様、実はマリエラ様のこと好きですよね?」

「んなっ!」

「マリエラ様も、レオナルド様をお慕いしてますよね? 目がハートになってましたもん」

「ひえ!?」

 

 急に違うところから攻めてこられて、2人は当惑した。

 

「なら結婚したらいいじゃないですか。相思相愛なら最高の結ばれ方ですよ」

「お、おま、おま……く、国を背負う者の結婚は、そんな好き嫌いで決めらんねえんだぞ」

「そうですか? でもこれ政略結婚にも見えますよ。政略結婚だったとしても、ワリナとミリヤが仲良くなるって、さっきのポーションの事だって揉める必要なくなるじゃないですか」

「両国に挟まれたヘキサリネはどうなるんだ? 俺の国、さっきより立場が危ういぞ」

 

 ヴェルディが口を挟む。

 マヤは、そんな事簡単です、と言う。

 

「いっその事、ワリナもミリヤもヘキサリネも、仲良く1つになっちゃえばいいんですよ。別の国とか思ってるから取り合いになるんです。1つの国なら全部自分のですから、もう揉める必要ありません。ヴェルディ様、お二人の仲人をされたら?」

 

 ヴェルディは一瞬あっけにとられた。レオナルドは話にならんと横を向く。

 

「けっ。シロート考えだな。1つになるったって、どこが主流派になるかで問題になるのは目に見えてる。……マリエラ、なにトロンとした目でこっちを見る?」

「……あ、いえ、ちょっと心が傾きかけました……」

「はあ!?」

 

 ヴェルディはマリエラを見て噴出した。

 

「ぷっ、はははは!」

「ヴェルディ!?」

 

 マリエラとレオナルドは真っ赤な顔になっていたし、ヴェルディはそんな2人に挟まれて、なんだか愉快な気持ちになってきていた。

 マヤが言った事は本当なんだろう。マリエラがレオナルドに嫁いだらという話を聞いた時、マリエラが嬉しそうにしたのはともかく、レオナルドの顔からも一瞬心がときめいたのをヴェルディは見逃さなかったのだ。

 ヴェルディはレオナルドとマリエラに笑みを浮かべて、自分の考えを明かした。

 

「こんな話、古いしがらみのある親父殿らの世代には無理だろうな。確かにシロート考えではある。だが、だがな……。もしかしたら、俺達の代ならってな、揺さぶられるものはある」

「む……俺達の代でか」

「実際、次第に強くなってきてる周辺国の圧力、特にワリナ王国は西からの脅威が現実味を帯びてるんでしょう? この3つの国が手を携えるのは一つの解になるやもしれません」

 

 レオナルドは腕を組んだ。そしてちらっとマリエラに目をやる。マリエラはぼふっと頭から湯気を上げると、視線をずらした。ヴェルディはにやにやして2人を眺める。

 しばらくその様子を眺めてから、ヴェルディは立ち上がった。

 

「いい時間だ。そろそろ一度締めないとかな。俺は会場に戻る。この件は、また日を変えて話をしよう」

「そうだな」

「ええ。ありがとうございます、ヴェルディ様」

「マヤ、サンドラ。お前達は今日はここで下がれ。ご苦労であった」

「あ、はい……」

 

 お偉い3人は軽く挨拶を交わし、マヤ達にも手を上げて応えると、室内会場へと戻っていく。

 マリエラはマヤとサンドラの元に来ると、一人一人を抱き寄せてチークキスを交わした。

 

「お疲れ様。会えて嬉しかったわ」

「ありがとうございます。次、いつ会えますか?」

「そうですね。たぶん、すぐじゃないかしら。ギルドで」

 

 くすりと笑うマリエラ。

 さすがおてんばお姫様だ。

 ぱあっと笑顔で輝くマヤとサンドラ。

 マリエラは小さく手を振って戻っていった。

 

 人がいなくなって急にさみしくなったテラスで、サンドラは少し心配そうな顔を向けてマヤを見上げた。

 

「マヤちゃん、これどうなったの? いい方に行ったの?」

 

 思い切って言ってみたけど、簡単ではなさそうだった。現実は甘くない。それでも3人は共感するものがあったようだった。

 

 ハンターの時の姿も交えて見れば、悪ガキ兄妹と、ちょっと年上のお兄さんみたいな3人。

 あんなに腹を割って話せる人達である。

 

 きっと新しい世代の為に導いてくれるだろう。

 

 違う方に行きそうだったら、またわたしがちょっかい出してあげるんだから。

 

 マヤは柔らかに微笑んだ。

 

「うん。多分ね」

 

 

 新しい時代への道は、確実に進んでいた。

 

 

 

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