異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第3章 マヤちゃん、薬草を摘む
第43話「Fランクだから薬草採取します」


 

 くかぁー

 

 大口を開けて、涎を垂らして盛大に枕を濡らして寝ているのは、万年Fランクの烙印を押されてしまったマヤである。

 普通のハンターなら、昇級の道を遠ざけられたことで落胆、絶望し、寝て抗議しようというなら、それは不貞寝をかますというものだろう。

 しかしマヤの寝顔に、いっさいの不安、不満は見られない。何の焦燥感もなく、緩み切った気持ちは乱れた衣服にも表れ、ただただ惰眠を貪る日曜日の女子高生と変わらなかった。

 

「マヤちゃーん」

 

 むにゃむにゃ……

 

「おっはー、マヤちゃーん」

 

 ばさあっ

 

「うう、さぶっ!!」

 

 掛け布団をはぎ取られた。春とはいえ、日の出前の気温はまだまだ低い。

 ベッドの上に無防備に晒されたマヤは、はだけていた寝間着の胸元をきゅっと閉めて丸くなった。

 

「もっと寝てた~い」

 

 枕に(うず)めた顔から、くぐもった声が漏れる。

 

「お日様昇っちゃったらダメな依頼なんだから、今行かなきゃなのー。帰ってきたらお昼寝しなよー」

 

 枕も持っていかれる。

 行き場を失った顔に貼り付いている開き切らない目は焦点を合わせることなく、映っているのは想像の映像。

 

「お昼寝かあ。ぽかぽか陽気の縁側でうつらうつら……あ、素敵」

「でしょう? さあ、起きて顔洗ってね」

 

 そう言ってサンドラはニコニコ顔で部屋の窓を全開にする。カーテンが内側にふわあっと舞い上がり、外の空気を部屋の中へいざなった。

 春とはいえ、日の出前の気温はまだまだ……って、わかった。わかりました。

 

「お日様の当たるポカポカの縁側で、お昼寝するために起きまーす」

 

 マヤは心地よいお昼寝に思いを馳せ、無理やり期待して、仕方なくベッドから這い出した。

 

 

 それはサンドラちゃんがわたしの為に受注してくれたFランク依頼だった。

 サンドラちゃんはリネールさんも叩き起こすと、装備を整え、既に水と携帯食などを入れてあるザックを背負い、まだ暗い道を領都の門へと向かって宿を出たのだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 なぜわたし達が薬草採取に出かけたのか。

 その訳を説明するために、時計の針を前の日の午後に戻そう。

 

 

 わたしは宿のお部屋の姿見に自分を映して、まんざらでもない顔でくるりくるりと体を回して、様々なポーズを取っていた。

 服装はメイド服。一昨日の夜の領都邸での晩餐会で着ていたもので、住み込みで働いている侍女達に支給される制服なのだけど、何なら持って帰ってもいいよと言われたのだ。

 暗に、また必要な時があったらそれ着て駆けつけてもらうから、という意図があったのを見抜いたサンドラちゃんは、遠慮しますと言って返したのだけど、わたしは夢にまで見た本物のメイド服に心を奪われ、サンドラちゃんの警告も無視して貰ってきてしまったのだった。

 

 そしてお部屋でまた着てみているというわけなのよ。

 

「うふふふ。何か結構わたしって、可愛いかったり?」

「たっだいまー、マヤちゃーん!」

 

 ノックもなく部屋に入ってきたのはサンドラっちゃん。

 同室なので、鍵がかかってようがいまいが自由に出入りできるこの娘に遠慮などない。わたしも世界一安全な国の出身者なので、鍵をかけること事態を忘れてるし。それにこのフロアーはリトバレーの人しか泊ってないので尚更だった。

 ちなみにこの宿のこのフロアーは、リトバレー村で年間契約して借り上げてます。

 

「マヤちゃん、何してるの?」

 

 わたしは真っ赤に顔を染めた。

 

「もしかして、この宿でもメイドとして働くの?」

「ままま、まっさかー。えーと、あの、その……」

 

 しどろもどろなわたし。

 メイド服にフェチな感情など一切ないサンドラちゃんは怪訝な顔をするも、すぐに元に戻って本題に入った。

 

「『リトルウィング』でFランクの薬草採取依頼を請け負ってきたよ。明日夜中に出るからね」

 

 サンドラちゃんは、『リトルウィング』っていう薬草採りをメインにやるパーティーをハンターギルドに登録していた。メンバーは都度入れ替わるらしいけど、リネールさんは常設メンバーになっていて、リネールさんのおかげでパーティーはDランクになっている。サンドラちゃんの薬草知識もあって、リトルウィングは難しい薬草の採取依頼もこなしているんだそうだ。

 薬草採取ごときにDランクパーティーなんて、過剰な高ランクに聞こえるかもしれないけど、本格的に専門とするならDランクじゃ全然甘いらしい。とっても険しい所や、強力な魔物の縄張りでしか採れないものともなれば、Aランクパーティーである必要があるのだとか。

 

「Fランクの依頼なんて、サンドラちゃんのパーティーには勿体ないんじゃないの?」

「何言ってるの。ランクは低い依頼でも、生活を支える薬草採取は重要なものが多いんだから。マヤちゃんのペナルティ消化にも持って来いだし、わたしも毎年やってる依頼だからちょうどいいしね。コツコツやって早く達成させようね」

「うう、年下の子に面倒見てもらっちゃってるよ。マネージャー・サンドラちゃんの管理下にわたしは置かれちゃってるよ」

 

 わたしのペナルティ消化とは、わたしが自分の階級に見合わない上位ランクの個体を狩ってしまったという違反に課せられた、規定回数の依頼をこなしてからでないとランクアップの為の仕事ができないというペナルティのこと。違反階級差は4階級だったので、その場合のペナルティは800依頼の達成だった。

 何年かかるかも分からない途方もない数。それでもサンドラちゃんは前向きに、自分のパーティーの仕事として取ってきてまで、ペナルティの消化を手伝ってくれるというのだ。有難くて泣けてくるじゃないの。

 

「そういうことだから、今夜は8時で就寝だよ」

 

 マネージャー管理下にあるわたしには、仕事を選ぶ権利はないのであった。

 

「なんでそんな時間に寝なきゃいけないような、早朝っていうか、夜中の出発なの?」

 

 サンドラちゃんは、ロッカーからザックや薬草採取装備を出しつつ、説明してくれた。

 

「依頼の薬草は“アイポメアニール”っていうの。薬草っていうか毒草の一種なんだけど、身近に使われている毒草なの。これから取った毒を撒いておくと、生ごみなんかに虫がわかなくなるっていう、街の健康と衛生に必要不可欠な毒草なんだ」

 

 ふむ、殺虫剤や農薬みたいなものかな。

 

「それでね、採取するのはアイポメアニールの花の蕾なの。花は今の時期にしか咲かないから、今が採取の最盛期ね。しかも日が昇ると咲いちゃうから、昇る直前に蕾を採らなきゃなの」

「咲いた花は何でダメなの?」

「ブロッコリーだって菜の花だって、花の蕾を食べるでしょ? 花は咲く寸前が一番栄養を蓄えてるのよ」

 

 この世界にはブロッコリーも菜の花もあるのよね。今朝食べたばっかりです。

 

「アイポメアニールもその例に漏れずで、しかも咲くと途端に薬効成分が弱まっちゃうからよ。咲く直前のが一番効き目高いから、日の出前の30分が採取の勝負なの」

「30分の間に摘み取らなきゃなの?」

 

 これは大変だ。

 日が出る前の暗い中、よく知らない花、それも蕾を探して回らねばならないのか。1つ2つしか見つけられなかったらどうしよう。薬に使える量になるには最低いくついるんだろう。

 

「あとね、明日は特にアイポメアニールの蕾採るにはいい日なの」

「へえ、なんで? 他の日と何か違うの?」

「いっぱい採れる日なの」

「そうなんだ。じゃあ明日は沢山の人が採りに行くのかな」

「それはいつもと変わらないんじゃないかな。マヤちゃんにだけ教えると、明日が特にいっぱい採れる日っていうのを知ってるのは、たぶんわたしと、わたしのお母さんくらいよ」

「へえー! そうなの? サンドラちゃんとお母さんはどうしてその事を知ってるの?」

「そこは秘密の中の秘密よ」

「わあ、企業秘密? サンドラちゃんのトップシークレットかあ。でもそういう秘密情報があるから、サンドラちゃんは薬草採取のエキスパートなんだね」

「うふふ。内緒だよ? さあ準備しよう。マヤちゃん、薬草を入れる麻袋を倉庫から持ってきてー」

「はーい。いくつ?」

「5袋でいいかな」

「わかったー」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 と言う訳で、真夜中の領都の出入り口の門前に、サンドラちゃん、リネールさん、わたしの薬草採取パーティー『リトルウィング』メンバーは立っているのよ。

 

 出入り口の門は夜は閉まっている。とは言っても出入りできないわけじゃなくて、門番をしている兵士さんに旅行手形やギルドの依頼書を見せれば、門を開けて通してくれる。

 門の前には、夜中にもかかわらず行列ができていた。

 

「混んでるね。いつもこんななの?」

「この季節のこの時間は、いつもこんなね。これはみんなわたし達と同じ、アイポメアニールを採りに行く人達だよ」

 

 並んでいるのは、こんな夜中にもかかわらず子供が多かった。みんなパーティーを組んでいるようで、単独行動の子はいなさそうだ。パーティーランクはFとかEといったところのようで、親近感が沸いてくるよ。

 そこでわたしは声を小さくして、サンドラちゃんにこの光景を見て思った、もう一つの疑問を投げた。

 

「でも今日がいっぱい取れる日って、皆は知らないんでしょ?」

 

 サンドラちゃんはいつもの温和な笑顔で答えた。

 

「アイポメアニールを採りに行く日は、薬師協会が開花予想日を立てて、ハンターギルドにその日採りに行く依頼を出してるの。だからこうして混んでるのよ」

「薬師協会もたくさん採れる日を知ってるの? なんだ、それじゃあサンドラちゃんの秘密てこともないじゃん」

 

 サンドラちゃんは笑って、わたしに顔を近付けて説明してくれた。

 

「薬師協会は単に開花予想を立ててるだけ。それだって5日おきに採りに行くっていうだけだよ。でもね、わたしからみるとそれじゃ正しくないの。確かにだいたい5日おきに咲くように見えるけど、それだとたまに咲かない日もあるし、たくさん採れる日を逃しちゃうこともあるの。だからわたしはそんな日の依頼は受けないようにしてるの」

「じゃあやっぱり、サンドラちゃんは本当にたくさん採れる日っていうのを知ってるんだ」

「うふふ、そういうこと」

 

 そうなんだ。凄いなあ。

 いやあ、わたしはサンドラちゃんを改めて尊敬しちゃうよ。

 

「あ、サンドラ姉だ。おはよう」

「おはよう、みんな」

 

 順番待ちの列に近付くと、声を掛けてきたのは孤児院の子達だった。

 その中の勝ち気そうな女の子が、わたしとリネールさんを交互に見ると、サンドラちゃんに問うてきた。

 

「サンドラ姉、今年は護衛をつけていくの?」

 

 その子の年の頃はサンドラちゃんより1つくらい下かな。濃い目の金髪の後ろ髪をかき上げてまとめ、髪留めで後頭部に結わえている。ロングのスカートは普通に町娘風だけど、靴はよく使い込まれた痛みも所々にある、野外行動用の編み上げ靴だ。周りに年下の子達がまとわりついていることからも、パーティーのリーダー的な感じなんだろう。

 

「領都の近くはニーシャ達が採るだろうから、わたしはちょっと遠出しようと思ってるの」

「どこへ行くの?」

「うふふ、ナイショ。森を抜けていくの」

「それじゃあ、強い人連れていかないとだわね」

 

 ニーシャというらしい女の子に見上げられたわたしは、慌ててかぶりを振った。

 

「わ、わたしは全然強くないよ? Fランクだし。きっと皆と同じ?」

「そうなの? サンドラ姉と同じくらいの歳なのに?」

「え、わたし17だけど」

「「「17!?」」」

 

 ニーシャの周りにいた子達からも驚きの声が上がった。

 わたしはこんな10歳前後の子供から見ても、中学生程度にしか見えんのか。

 

「けっ、ダサ」

 

 ぐさぐさ!

 男の子の中で一番大きな子にダメ出しされてしまった。

 

「イレムも早く強くなんなよ。そしたらあたい達も、遠くに探しに行けるようになれるんだから」

 

 ニーシャが、わたしにダメ出しくれた男の子を嗜めた。

 

「へっ。強くなったら俺は薬草なんかじゃなくて、でっかい獲物を獲りに行くんだ」

「あー、いけないんだ! 薬草採りをバカにしちゃいけないんだわね!」

「だって薬草摘みなんてFランクの依頼だぜ? 難易度最低の、手間の割に金にならない安っぽい依頼だぜ? 俺はこんな誰にでもできる依頼しかできないハンターになりたくねえ」

 

 ぐさぐさぐさ。

 あちこちから見えない矢が飛んできて、安っぽいFランクの依頼しか単独ではやっちゃいけないわたしの、薄皮でできた心身を容赦なく貫通する。

 

「次のパーティー!」

 

 門番の兵士が叫んだ。ニーシャは「いけない、次あたい達だわね!」と言いい、孤児院の子達を引き連れて慌てて走っていった。

 

「ふん」

 

 イレムとかいう男の子は、小物を見下(みくだ)すような目をわたしに向けると、へっと鼻であしらって皆を追いかけていった。

 わたしより背が低いのに、なぜに上から(なみ)する視線を感じるのか。どれだけ力込めて人を蔑視してんのよ、あの子。

 

「あの子分かってないねえ。リネールさん、ああいう男の子はお兄さんから叱ってあげなきゃでしょ。なに立ったまま居眠りしてるの」

 

 げしっとサンドラちゃんの蹴りが、うつらうつらしていたリネールさんのスネに入った。

 

「いでええ!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 わたし達は城門を出ると、多くのパーティーとは違い、まずは南街道を南下した。そして途中から狩場へ向かう道に入って行った。

 この先に集落はない。ここから先は、野生の動植物達が支配する、弱肉強食の掟で成り立つ世界になるのだ。

 

「町の近くの採取地は、ハンターになりたての子とか、見習いの子達に譲ってあげなきゃね。それにどのみち争奪戦になっちゃって量取れないし」

「わたし達みたいに、少し遠くへ採りに行くパーティーはいないの?」

「一昨年までは一組いたんだけど、別の町に移ってっちゃったわね。さっきの男の子が言ってたように、ランクが上がるとやっぱり薬草採りやめちゃう人が多いのよ。そうなると、狩りの途中で生えてる所を見つけても、記録取ったりしないから、いざ採りに行くってできないの」

「ふうん」

「あと、さっき言った通り、アイポメアニールは日の出前の30分以内に採ったのが一番効能が高いの。それをまとまった量採ってこそ、わたしみたいな薬師を目指すハンターの腕の見せ所なの」

「なるほどねー。でも30分で探しながら採取するって、難しくない? しかも日の出前で暗くて見にくいし」

 

 サンドラちゃんは「そこにはちゃんと策があるの」と言った。

 

「その時に探したんじゃ量を取るのは難しいから、予め群生地を見つけておいて、そこ行ってささっと採るのよ」

「そっか。前もってたくさん生えてるところを見つけておいて、そこに真っ直ぐ行けばいいのか。サンドラちゃんは群生地を見つけてあるのね?」

「何ヵ所か目星付けてあるわ。それに種は下に落ちるから、毎年だいたい同じところに咲くの。ただ何年かすると土の栄養がなくなるのか咲かなくなっちゃう」

「それじゃ、行ってみたら今年は咲いてなかったってこともあるんだ」

「そうなの。だから新しい群生地探しも怠っちゃいけないの。2株3株咲いているところも要チェックよ。数年後には群生地になってるかもしれないからね」

「おおー、サンドラちゃんはそうやって、普段から地道に発見に努めてるんだね。薬草取りの専門家は違うなー。改めて見直しちゃうよ」

「うふふふ。それでね、今日行くところは南東の、とある川の近くよ。森を抜けないとなんだ。夜だから何出るか分かんないからね」

 

 そう言ってサンドラちゃんは、眠そうに付いてくる後ろの人へと振り向いた。

 

「リネールさんはその為の護衛役でもあるのよ。あくびしてないでちゃんと警戒してよー」

「わーってるよ。ふわわわわ」

 

 うーん、心配な護衛役だな。

 

「そういうわけで、『リトルウィング』での受注案件だから、報酬は山分けよ?」

「本当ならサンドラちゃんだけで受ける依頼を、わたしの為にパーティーで受けてくれたのよね? 何だか申し訳ないなあ。依頼達成のカウントさえ貰えればわたしはいいんだから、報酬はお二人にあげるよぉ」

「マヤちゃん、心配いらないよ。いい品質でまとまった量のアイポメアニールの蕾を採るには、夜に遠出が必須だから、護衛の人がいないとわたし1人じゃ採りに行けないの。だから報酬も受け取っていいのよ?」

 

 リネールさんも相槌を打つ。

 

「希少な薬草とかになると、危険なところにしか生えてないってこともよくある事だから、強いハンターをパーティーに組み込むのは珍しくないよ。遠慮いらないって」

「でも……リネールさんはともかく、わたしを加えてくれたのは、やっぱりわたしのペナルティ解消の為よね? 頼みこそすれ、わたしまで報酬貰うのは……」

「マヤさんは儲かってて、お金に困ってないからそんなこと言えるんだよ。いくら稼げたんだっけ?」

「うーん、商業ギルドに口座作った時に預けたのは、特金貨170枚だったよ」

「特金貨170枚!?」

 

 特金貨は1枚で50万円くらいの感覚だから、8500万円です。

 

「うん。サーベルタイガーのお肉が300kgで300金貨。マンモスのお肉第1弾500kgのうち、半分がわたしの取り分だったから50金貨。マンモスのお肉第2弾は買取単価は半額になっちゃったけど、わたしの分だけで2750kgあったから275金貨。あとサーベルタイガーの頭骨が90金貨。マンモスの頭骨と牙が150金貨」

「大金持ちじゃん!」

「こないだ弓矢の練習で北の林行ったとき、自力で獲ったジャッカロープは、1匹でたったの4小銀貨と1大銅貨だったのよね」

 

 それは日本円に換算するとだいたい4500円。買取単価はキロあたり300円ってところだった。

 

「大型ウサギ1匹だとそんなもんだよ。それが普通のハンターの稼ぎだって」

「マヤちゃん、魔石の粉もあるんでしょ?」

「うん。リエラさんに倣って売らないで手元に置いてあるよ。必要になったら言ってね」

「くれるの!?」

「サンドラちゃんやリネールさんなら使っていいよ?」

「わあ、助かるう!」

 

 魔素の少ないヘキサリネでは、魔物から採れる魔石が小さいので高価なんだそうだ。足りない分は輸入してるらしいし。

 

「3分の1はリエラさんが持ってったけど、それでも200kgくらいマヤさんのところに残ったよね? それをヘキサリネの魔石問屋に卸せば40金貨くらいになるかな。末端で売れば1.5倍はいくよ」

「マヤちゃん! ハンターの野営地で、ハンターに直接売ればいいのよ」

 

 末端価格だと600万円かあ。額といい、いけない粉を扱ってるみたいな気分だな。

 

「無理に換金しなくていいよお。魔石の粉はお金にするより、そのまま使った方がお得が気がするし」

 

 というわけで、わたしはただプラプラ遊んでる分には当面お金の心配はないんだ。

 だけど、近いうちお師匠様の意志を継ぐ旅に出ないとだから、その準備や旅費でいっぱい使うことになると思う。そう考えると、これで十分なのかは自信が持てない。

 8千万円って凄い額に聞こえるけど、観光旅行に行くわけじゃないんだ。命をかけた旅だもんね。わたし的には戦争に行くようなつもりで考えてるよ。ミサイル1発だってまだ買えないじゃん。

 資金はいくらあったって悪いことはない。稼げるときに稼いどかないとね。

 

 わたし達は懐中魔石ライトを点けた。松明なんかと違って、魔石ライトのオレンジの光はLEDライトのように明るい。2晩くらい持つよ。でもこのライトに使う魔石の粉は、容積にして単4電池3本くらい、重さで約120gの量が必要で、買うと2銀貨近くもする。使うの躊躇っちゃうよね。松明でいいやって。

 でも魔石の粉はふんだんに持ってるわたしが提供するんだから、遠慮はいらない。ザックのショルダーストラップ(背負いベルト)の上の方に固定できるところを作ってあるから、両手も空くしね。今度ヘッドランプを作ってもらおう。

 

 わたし達は頭上に散りばめられた星明かりの下、懐中魔石ライトで道を照らして奥へと進んでいった。

 

 

 

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