異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
わたし達は狩場内の主要道からさらに森へ向かう道へと曲がり、やがて木々が増えてきて周囲は真っ暗になる。
森の中は何がしかの動物の鳴き声がひっきりなしに聞こえている。動物達は夜でも寝静まることがないらしい。可愛い声もあれば、低い変な声もある。いったいどんな動物だろう。想像すると恐怖心が芽生えてくる。
うー、怖いよお。
不意に横の方から、ガサガサと何かが動く音がした。
「リネールさん、今の音何!?」
こんな時、やっぱり男の人が1人いると安心度が違う。
とは言えリネールさんの頼りがいについては、悪いけどいまいちだ。それはギルドマスターとかレオさんとかを見た後だからだろうけど、どうしても見劣りしちゃう。
でもそこはほぼ同年代の人ということで、気兼ねない頼りやすさというものがある。一方的に、助けて守ってっていう感じじゃなくて、わたしも頑張るから一緒になんとかしようっていうくらいの頼もしさなんだ。同級生とかクラスの男子みたいといえばいいのかな。
まあサンドラちゃんくらいの歳の頃には既にハンターをやっていたって言ってたから、実際は思った以上に頼れるんだろうけどね。
「小型の動物だね。……音は遠ざかっていってるから、俺達の足音に怯えた動物が逃げていってるんだろうな。魔物が多い北の林と違って、領都の南の方は魔物は少ないし、普通の動物だと、そうそう人間に近付こうとはしないから、かえって存在感を見せてた方がいいよ。それに……」
リネールさんは左手の人差し指を出した。そして指先に法力でボボッと火を灯す。
「火があると、まず寄ってこないしね」
「やっぱ火は、この世界でも動物避けになるんだ」
リネールさんはまったく落ち着いていた。やっぱりハンターやってる経験の長さのおかげだね。もうちょっと見直してあげないと。
わたし達は順調に奥へと入っていく。
◇◇◇
順調だったわたし達にイベントが発生したのは、それから30分ほど経ってからだ。
森の中の道が両脇の木で狭められているところで、サンドラちゃんと呑気にくっちゃべっているわたしに、後ろからリネールさんが突然叫んできた。
「マヤさん止まって!」
「え?」
ねちょお~~
ネバついたものがわたしの体にまとわりついた。
あれ、手足の動きが……まるでゴムで引っ張られているみたいに……
「きゃあ!」
ほぼ同時に横を歩いていたサンドラちゃんも悲鳴を上げる。
見ると、わたしと同じように身をよじるも自由に動けないでいた。
「え、ちょっとなに、このネバネバ」
「クモの巣だ!」
駆け寄ってくるリネールさん。だが次の瞬間、リネールさんは横っ飛びに逃げた。
「たああっ!」
リネールさんがいたところに、べちょっと音を立てて何かが地面に落ちる。リネールさんはすぐさま手の先から暗闇に向けボボッボボッと火を放った。
リネールさんが火を放ったその先に、黒い影がのっそりのっそりとやってくる。懐中魔石ライトに照らされたそれは、体表に黄色と黒の縞模様が描かれた、体長1.5m程の大きなクモだった。
でっか!
え、わたし、あのクモが張ったクモの巣に引っかかったの? 人間が引っ掛かるようなクモの巣って、もしかしてあのクモ、動物も食べちゃうの? いくらなんでも人間食べないよね?
「魔物のクモ、タイガースパイダーだ! なんで魔物が南の森に!?」
「タイガースパイダー!? マヤちゃん、噛みつかれないようにして! 毒で痺れて動けなくなったら食べられちゃうよ!」
「ええ、魔物のクモ!? 人食べるの!?」
するとわたし達を絡めとっている粘着性のクモの糸が、ゆらゆらと振動を伝えてくる。振動がやってくる上の方を見上げると、そこにも黒い塊がいた。まだ動く肩を動かして魔石懐中ライトを向けると、そっちにも黒黄シマシマのクモがいた。
「うわああ、リネールさん、こっちにもいるよ!」
しかしリネールさんは最初に現れたクモの相手で手一杯だった。
「くそっ! こいつ始末してすぐそっちいくから、なんとか耐えてくれ!」
し、しかたない。自分で何とかするしかない。
「わ、わかった! 早く来てね!」
糸ならカッターで切れるんじゃない?
幸いわたしは、最近法力で切断技ができるようになったのだ。
「
左手の指先に酸素の極細噴出点を作る。そこから酸素を高圧噴射すればエアカッターの出来上がりだ。そして手を振って、しゅぱっとクモの糸を切った。
「あ、あれ? 切れてない?」
確かに高圧酸素の刃は糸を切ったはず。だけど、切断点が少し垂れ下がっただけで糸は繋がっている。
「マヤちゃん、糸のネバネバが強いから、切っても簡単には離れないんだよ!」
もがきながらサンドラちゃんが言った。
「そうなの!? なんてしつこい」
「クモの糸は火に弱いの! だから焼き切るのがいいの!」
サンドラちゃんはポーチから魔石トーチを出そうと必死にもがいていた。
確か魔石トーチは、点火するのに火打石みたいので火花を着火点に飛ばして点けてたはず。でもサンドラちゃんは粘着糸が腕に絡みついて自由に動けない状態だから、簡単にはできそうにない。
「いやあ、来ないで!」
案の定点火するより早く、サンドラちゃんにクモが迫ってきた。とても悠長に火打石で火なんか点けてる暇はない。
やばいやばい。サンドラちゃんが噛みつかれちゃう。
わたしの法力で火に近いやつあったっけ?
えーとえーと。
あれだ! まだ試したことないけど、あれをやるしかない。
あれって火みたいなもんだよね、超高温なはずだし。確か2万度とかあったはず。
わたしは左手指先の酸素噴出点のイメージを変える。噴出点から対象物まで伸びる、発光するまで超高温になった酸素のアーク。
本来はプラス電極から焼く対象物へ向けて電流を流して、そこに酸素を吹き付けてプラズマ化するんだったと思う。
だけどオキシジェン・デストロイヤーは、酸素が振る舞えるあらゆる状態を再現できる法力だ。それに必要な環境は振舞わせたときに勝手に付随してついてくるので、電気だとか何だとかは気にしなくていいんだ。だから液体や固体になった酸素を冷やすという過程をすっ飛ばして、いきなり出現させられるわけだ。
当然、超高温のプラズマ化した酸素を出すのだってできるはずよね。
「
ばしゅううーーっ!
指先から2万度の酸素のアーク・プラズマが発射された。
ちなみにわたしの指は、なぜだか全然熱くないよ。
そういえば固体酸素を触ってもなんともなかったっけ。寒かったけど。
じゅわわわわわー
ぶつんぶつんぶつん
高温で燻されたネバネバはぶくぶくと沸騰して、クモの糸はあっさりと切れた。
手足、体にくっついている糸を焼き切り、自由になると、両手をシマシマのクモへ向けて叫んだ。
「
クモの上下左右に高圧酸素噴出点を出現させ、それをクロスさせるように動かした。
ぴぴぴっ、どばっしゃー!
クモの体に放射状の切れ目が入って、次の瞬間にはバラバラに四散した。
体の中は水っ気が多かったのか、水タンクが破裂したように液体をばら撒いた。
うわあ、汚ぁーい。
「リネールさん!」
振り向くと、リネールさんとクモがバトルを繰り広げている。
リネールさんが振るう剣をクモが糸で絡み取り、それをリネールさんが法力の炎で焼き切り、クモへ剣を突き立てる。が、クモが爪でそれを受け止め、すかさず糸で絡み取り、それをさらにリネールさんが法力の炎で焼き切って、以下振り出しへ戻る。
「
わたしは終わりの見えない戦いに横槍を入れ、クモの半身を固体酸素で囲って動けなくした。
これ簡単に言ってるけど、標的にされた方には大惨事だ。固体酸素ってマイナス220度くらいの極低温なのだ。囲ってない半身も瞬く間にぴしぴしと霜が降りて固まっていく。
「ち、ちきしょう、手こずらせやがって!」
リネールさんは動けなくなったクモへ法力の火を放つ。
「あっ! リネールさん気を付けて!」
ぼばああああ!
「うおおお!?」
クモを凍らせたその青い氷は、水が凍った氷や、二酸化炭素が凍ったドライアイスじゃない。酸素なんだ。そりゃあ火が大きくなるよ。凍っているのに燃えるという、変な光景だ。
「なんでこんな燃えてるんだ!?」
「この氷みたいのは、わたしが扱う、燃えるために必要な3要素のうちの3つ目のものなのよ」
「あ、じゃあ、火矢を放った後にマヤさんが火を大きくさせてたあれってことか。そりゃクモもよく燃えちまうよな」
「このままだと燃え尽きちゃうかもだけど、素材として使うところなんてないよね?」
こんなキモいクモなんて素材にしたくないぞ。
「足の肉は旨いよ。あと魔物だから、魔石が取れるんじゃないかな。マヤさん,火消せる?」
「こんなの食べるの!? わたしは遠慮します! 魔石は取りたいから、火は消すね。危ないから離れて」
まずは固体酸素を回収。
次に酸素の膜でクモの周りを覆って、その中の酸素を抜き取っていく。
酸素がなくなると火は鎮火する。
実に簡単だ。
「さすがマヤさんだ。どれどれ、魔石はどこかな?」
半焦げのクモに剣を入れて捌く様子を傍目で見てると、ちょっと怒った声を投げられた。
「ちょっとマヤちゃん、助けてよー!」
あ、サンドラちゃん忘れてた。
動けなくなってるサンドラちゃんのところに駆け寄って、ごめんごめんと謝りながら、指先から出したプラズマ化した酸素で、クモの糸を焼き切る。
「ほえ、これは初めて見た技だね。これも同じ法力なの?」
「うん。あ、直接見ない方がいいよ。暗闇になれてた目が見えなくなっちゃうから」
最後の1本をぶつんと切断し、サンドラちゃんは解放された。
「ありがとう、マヤちゃん。ついでにこの服に着いたネバネバ、マヤちゃんの法力で凍らせられる?」
「え? 凍らせるの?」
「凍るとぽろって取れるの。逆に温めるとサラサラの水みたいになるけど、服の糸にしみ込んじゃうから、余計に酷くなるの」
「面倒な性質ね。でもそれ、上手く使えばネバネバの網とか作れそうね」
「作れるけど、それ、しまえないよ。畳んだりしたらくっついて塊になっちゃうから」
「なんだ。もう思いついてやった人がいるんだね」
わたしは少しだけどうやろうか考え、サンドラちゃんの袖に着いたネバネバに、液体酸素をじゃあっとかけた。
皮膚にかからにようにしないとね。これもマイナス190度とかの極低温物質だから、大変危険だ。でもなぜかわたしは、かかっても触っても何ともないのよね。冷蔵庫の氷くらいにしか感じない。酸素だから? 酸素ならどんな状態でも耐性があるってこと?
凍るとネバネバは白い塊となり、手で払えばぽろぽろと取れていった。
「本当だ! 簡単に取れたね」
袖のところで確認できたので、服に着いた他の部分も慎重に液体酸素をかけて、ネバネバを取っていった。勿論自分の服も。自分の時は遠慮なくじゃあじゃあとかける。
「うわ、服が凍った。冷たーい!」
耐性があるのは酸素だけであって、普通に水分が凍ったものには耐えらんなかった。なんで?
最後にサンドラちゃんに、背中の方とか残ってるところがないか見てもらって、ネバネバ地獄から脱した。
「いやあ、とんでもない瞬間接着剤野郎だったわね。さぞかしランクの高い魔物だったんだろうね、って、ああ!!?」
わたしはここで、また重大なことを忘れていたのに気付いた。
「あ、あのぉ~、このクモのランクって何?」
リネールさんがおぞましいものを切り刻みながら笑顔で答えた。今、シチュエーション的にすっごく危ない人に見えるよ。
「タイガースパイダーはDランクだよ。俺達のパーティーで倒せるし、マヤさんはアンリミテッド・パーティーだから大丈夫だよ」
それを聞いて、肩に入ってた力がへなへなとぬけた。
「よかったあー」
ここでまた格上ランクを狩っちゃってペナルティ食らったら、もうわたしは立ち直れないかもしれない。
「一人だったらヤバかったねぇ。Fランクのマヤちゃんからしたら、Dランクでも2階級差違反だもんねえ」
普通ならそれでもだめなんだ。パーティーに入ってても、普通の人は自分の1つ上のランクまでしか狩れない。わたしはアンリミテッド・パーティーのライセンスを持ってるから、笑い話で済むのだ。
「その階級差を気にせず仕留められちゃうんだから、ほんと余計にヤバいよな」
「わたしもうパーティーでしかお仕事しないようにする。あとこれからは、魔物の名前とかいいから、真っ先にランクを言ってほしいな」
他のハンターなら聞いてうらやむような、マヤならではの悩みだった。
クモ2匹から採取したのは、野球のボールくらいの魔石2個。
「すげえ、こんなデカいのが取れた!」
リネールさんが目を輝かせてそう言うくらい、ヘキサリネでは取れないようなまともな魔石らしい。やっぱり最近のヘキサリネは異常なんだろうな。
あとクモの足16本。図体が1.5mもあるわけだから人間の腕くらいの太さをしている。しかも外骨格だから中に骨はない。これなら確かにお肉はたっぷり詰まってそうよね。だけどなあ。
「あとで1本焼いて食ってみる?」
「えー?」
うーん、旨いのかぁ。どうするかなあ。
足は毛がボーボーと生えているので、リネールさんは剣で刈り取って、火の法力で毛根を焼き切った。こうなるとタカアシガニの足みたいではある。
返事に困るなあ。
◇◇◇
目的の川辺に着いた。
川が運んだ砂が積もってできた自然堤防、そこにアイポメアニールの群生地があった。地べたに這うように一面に広がっていて、たくさんの蕾状態の花が日の昇るのを待っている。色は濃い青紫で、ツンと尖った蕾は閉じた傘のように螺旋を描いて折り畳んである。 見たことあるなあ、と思ったら、そう、アサガオとかヒルガオにそっくりだ。
「そっくりの形で赤紫色とかピンクのがあるんだけど、そっちはキャルステイジアっていう別の花だから、間違えないよう気を付けてね。毒はなくて食べられる野草なの」
「食べられるんなら採ってもいいんじゃないの?」
「採ってもいいけど、珍しいものじゃないし、そんなに栄養価も高くないし、味もあまりないのよね。食べるよりは、咲いた花をお皿に飾ったりして使うことが多いかな」
「へー。じゃあそっちは咲いてる方がいいんだね」
「リネールさんはここのアイポメアニールを採ってね。わたしとマヤちゃんは近くの別の群生地に行くから」
「おう、気を付けてな」
サンドラちゃんは河原に沿って上流へと向かった。そして2つ目の群生地を見つける。こっちはさっきより小さく、20メートル四方くらいだった。
「よかった。ここも今年も咲いてたの。マヤちゃんにはここをお願いするね」
「わかった」
「蕾っ全部は採らないで、1メートル四方に2つくらい残すようにしてね」
「それは花を咲かせて種を作らせるため?」
「うん。アイポメアニールは2年で枯れちゃうから、種を撒かないとここの群生地がなくなっちゃうからね」
「ちゃんと考えてるんだね」
「わたしは近くにあと3箇所くらい目星つけてるところがあるから、そっちで採取するね」
「どの辺にあるの?」
「もう少し上流かな」
「そう」
しかしわたしは考えた。サンドラちゃんを一人にして大丈夫だろうか?
「うーん、サンドラちゃん。さっきのクモって、普段はここにいないはずの魔物だったんだよね? 北の林みたいにここでも活性化した魔物がいるかもしれないし、一人っきりにならない方がいいんじゃないかな」
「あ、そうかあ」
「リネールさんは一人でもなんとかできると思うけど、サンドラちゃんを一人にさせるのはちょっと心配だな」
「ありがとマヤちゃん! そうしたら2人で一緒に回ろうか。2人で採れば早く採り終えるだろうし、全部回れるよね」
「がんばるよ」
てなわけで、わたしとサンドラちゃんは、一緒に奥の方の群生地から戻ってくるように回ることにした。
一番奥の群生地は、林に入ってちょっと行ったところにある、高さ10mくらいの丸い小山だった。何だか小さな火山みたいな形。何かがあって地中から泥や砂が噴き出して、山になったみたい。頂上は水はけのよさそうな砂地になっていた。周りの木々のてっぺんと同じくらいの高さなので、日当たりもよさそう。アイポメアニールはその頂上の一角に生えていた。この植物はこういう土壌が好みなんだろうね。
「種が飛んで、数年前から咲き始めたの。来年にはきっと、もっと広がってるね」
「ここも新しい群生地なんだね」
「さあ、いい時間だし、ここから始めるよ」
「オッケー」
「蕾の下のがくから、1cm下で摘み取ってね。こんな感じにぷちっと」
「うん。ぷちっと。こんなでいい?」
「それでいいよ。それじゃ30分の勝負! よーい、はじめー!」
そこからのサンドラちゃんは凄まじい勢いで花をついばみ、完璧な摘み取りマシーンと化した。
ぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷち
「えええー!?」
あまりの早さに目を丸くする。
「マヤちゃん、よそ見してる暇ないよ!」
「は、はいいー!」
「終わり! 次いくよ!」
「え!?」
3m×5mの群生地は5分で刈り終わった。そして、ばひゅんと全速力で次の群生地へと駆けて行く。魔物がいても蹴り飛ばしそうな勢いだ。いや、実際に、魔物じゃないけど小さな恐竜みたいのがいたけど、迫りくるサンドラちゃんを見て必死に逃げてた。
「ま、待ってー!」
そして30分後。遠く東の方向にそびえる山脈から朝日が顔を出す少し前に、わたしとサンドラちゃんはリネールさんのところに戻って来た。
「お疲れ」
リネールさんも採取し終えていて、摘み取った蕾を入れた袋は大きく膨らんでいた。
「リネールさん凄い。わたしの3倍くらい採ってる」
ちなみにサンドラちゃんはリネールさんのさらに倍を採っていた。つまりわたしの6倍。
「初めてならそんなもんだよ。俺はサンドラに付き合ってよく採りに来てるから、だいぶ鍛えられてるしね」
ってことは、普通のハンターならわたしの倍くらいってところかな? サンドラちゃんはバケモノか。
サンドラちゃんは、むふんっと胸を張った。ぷるんと揺れた胸にわたしは焦りを覚える。
この子、わたしより4歳下よね?
「群生地が集まっているところを探しておいた作戦勝ちよ。群生地から群生地への移動時間が短いから、日の出前の30分を殆どひたすら摘み取るのに費やせたの」
「いやあ~、あの摘み取りの早さのおかげだよ~」
リネールさんとわたしの採った分を一袋に纏め、それをわたしは背負った。サンドラちゃんは自分が採った分を背負う。そうすると量的にサンドラちゃんの方がわたしより1.5倍も持つことになるけど、彼女は田舎の娘。体力が違う。わたしはこの量でもひーひーなのだ。
一方リネールさんはというと、クモの足16本と魔石2個を担ぐ。足は1本で3、4kgはありそうだった。16本でおそらく50kgくらいは行ってる。人間1人分もあるってこと。これは男性のお仕事でしょう(偏見)。パーティーメンバーに男の人がいてよかったよ。
「こんな時フィリアさんがいると助かるね」
大きな袋をサンタクロースのように担いでひーひー言うわたしは、先日の巨大アンフィスバエナを持って帰ってくれた人の事を思い出す。フィリアさんとは、リエラさんことマリエラ皇女様の護衛侍女で、ストレージとか言う法力を持っていた人だ。ストレージとは日本語に訳せば保管庫。その法力も物を収納するというものだった。
「確か500kgくらいまでしまえるところを2つ持ってるみたいだったよね。2つ目を使うと暫く寝込むとか言ってたけど」
「パーティーメンバーに加えたいなあ。ってか俺、本当にある法力だとは思わなかったよ」
「ミリヤ皇国って、変わった法力の人がいるよねー」
「そういえばリエラさんも、瞬間解毒法力なんてもの持ってたもんね。変わり種の多い国なのかな」
そんな話をしながらわたし達が領都に戻ったのは、お昼の少し前だった。
その頃まさかギルドでは、ヘキサチカに迫る危機で皆が青ざめていたとは、わたし達が気付くはずもないのだった。なにせわたし達は、順調にアイポメアニールを大量収穫していたのだから。