異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第45話「このままだと虫が湧いちゃいます!」

 

「ほらマヤちゃん、着いたよ!」

「つ、疲れた……」

 

 アイポメアニールの蕾で膨らんだ袋をどさりと落として、ハンターギルドの入り口で座り込んでしまったわたし。その横をわたしの1.5倍も入ってる袋を軽々と担いで買い取りカウンターへ直行するサンドラちゃんは、ご機嫌な笑顔で中に声を掛けた。

 

「はいこれ、アイポメアニールの蕾。買取お願いしまーす」

「「「おおお!?」」」

 

 しかしサンドラちゃんがそう言ったとたん、どよめきは買取カウンターではなく、サロンの方から上がった。

 

「そ、それ全部アイポメアニールか!?」

「キャルステイジアじゃねえよな!?」

「まさか。薬師見習いのわたしが間違えるわけないじゃん」

 

 袋を倒して中身をかき出すと、濃い青紫の蕾がざざあっとカウンター上に広がった。

 

「おお、間違いない! アイポメアニールだ!」

「すげえ!」

「咲いてるところなんてあったんだ!」

「神様はまだ俺達を見放してはなかった……」

「バカヤロー、これだけじゃまだ足りねえよ!」

 

 異様な雰囲気にサンドラちゃんは眉をしかめる。

 

「どうしたの? 何かあったの?」

 

 買取カウンターのおじさんが出てくると、しゃがれた声で答えた。

 

「今日アイポメアニールを採りに行ったパーティーは、軒並み空振りだったのじゃ」

「空振り?」

「うむ。領都周囲のいつものところでは、殆ど花をつけてはおらんかった。経験の浅いパーティーが意気揚々と持って帰ったのは、ほぼキャルステイジアじゃったしな」

「じゃあ、薬師協会の開花予想が外れたの? ってはずないよね。わたしはちゃんと採取してきたし。……え! てことはもしかして、今年は不作の年!?」

「そのようじゃ」

「今までの採取日の結果はどうだったの? 今年の目標採取量は、どこまで取れてるの?」

「ろくに採れとらん。まだ目標採取量の10分の1行くかどうかじゃ」

「た、大変!」

「どう大変なの?」

 

 わたしの質問に、サンドラちゃんは血相を変えた目で見返してきた。

 

「アイポメアニールは毒草で、虫の発生を抑えるって説明したよね……」

「うん」

「アイポメアニールが採れなかったら、その薬を作れないの」

「うん。……ってことはもしかして、このままだと虫が大量発生しちゃうかもしれないの?」

 

 買取カウンターのおじさんが、うむと難しい顔で頷いた。

 

「その通りじゃ。虫が大量発生すると病気も撒き散らされる。アイポメアニールが不作の年は、ほぼ間違いなく疫病が流行るのじゃ」

「うわ……」

 

 疫病?

 この中世みたいな世界で疫病って言ったら、きっと死者がわんさと出るんだよね? 予防接種とか治療薬もなくて、現代人のわたしなんてこの世界の人達よりも抵抗力低いだろうし、罹患したらきっとあっさり逝っちゃうんだ。

 

「どどどどうしよう」

 

 転生した異世界で、病気で死亡。

『それが現実というもの。無双チートなんてお伽噺だ』という神の声が聞こえてきそうで、わたしは顔を真っ青にした。

 オキシジェン・デストロイヤーなんて、疫病流行で役に立つとしたら、死体をきれいに焼くことにしか使えないよ。

 

 そこへ奥の方から、舌っ足らずな集団の声が聞こえてきた。

 

「うわぁ、サンドラ姉、凄おい!」

 

 買取カウンターにアイポメアニールの蕾の山を作るサンドラちゃんへ驚嘆の声を上げたのは、今朝領都の門で会った孤児院の子達だった。

 

「これ全部、本物のアイポメアニール!?」

「サンドラ姉はちゃんと採って来たんだ!」

「ほら、これがアイポメアニールの花の色だよ! お前が言ったのとぜんぜん違うじゃんか!」

「ぶわああ~ん、ごべんだざああい」

 

 顔をぐしゃぐしゃにして泣いていたのは、孤児院の子達を引っ張っていた年長の勝気な女の子。確かニーシャという子だった。きっと先頭切ってみんなを率いていたんだろう。

 

「違うの採ってきちゃったの?」

 

 サンドラちゃんが聞くと、皆が「キャルステイジアだった」と答えた。そしてあのつんけんと尖ってた男の子が吐き捨てるように言った。

 

「けっ。だから俺は薬草摘みなんて嫌なんだ。ウサギでも狩ってる方がマシだった。リネール兄さん、それなあに?」

 

 リネールさんが、関節のある棒のようなのを買取カウンターに立てかけているのを見た男の子が近寄ってくる。

 

「これはタイガースパイダーっていうクモの魔物の足だ。アイポメアニールを採りに行く途中の森で出くわしたんだ」

「クモの足がこんなに太いの!? それじゃでっかいんだ!」

「こんなだぜ、こんな」

 

 リネールさんは1.5mあったクモの体を手で表現した。

 おいおい、それだと2m以上ありますよ。男の子達がビビりまくってるじゃないですか。漁師の話は話半分という現場を見た瞬間だよ。

 

「リネール兄さんスゲエ! やっぱ俺、そういうのやりたい!」

「そうかそうか。男だもんな。でもこいつ倒すのは大変だったぞ。殆どそっちのマヤさんがやったようなもんだけどな」

 

 男の子はわたしに目線を向けた。凄い胡散臭そうな目で。

 

「コイツ、Fランクだろ? この魔物、Fランクだったの?」

「いや、Dランクだよ」

 

 男の子は目を丸くした。

 

「やべえじゃん! え? もしかしてナントカイハンってやっちゃいけないやつ、やっちゃったの、この女!?」

 

 犯罪者を見るような目を向ける男の子。やめなさい。

 

「なんでサンドラちゃんは、ちゃんとお姉ちゃんって見られてるのに、わたしは『この女』扱いなの?」

「だってサンドラ姉と同い年くらいのくせしてまだFランクだし、17歳とか嘘言ってるしさ」

「むがー、本当に17歳なんだってば!」

「ならよけいダセエ。その歳でFランク」

「ふん! 大人には大人の事情があるのよ。お子ちゃまには分かんないのよ」

「けっ! ずっと言ってろババア!」

 

 げしっ!

 

「いたああ! この子、足踏んだあ!」

「べろべろばあ~~」

 

 男の子は走って逃げていった。

 

「むわあ、ムカつく! これだから男って生物は!」

「なんかごめん」

「あ、いえ、リネールさんの事じゃないですよ。5年前はあんなだったかもしれないけど」

「いやあ、なんか自分を見てるみたいだったよ」

「あ、やっぱり?」

 

 すると今度は、ゴトッ、ゴトッと階段を降りてくる足音が響いてきた。この登場の仕方はギルドマスターのジオニダスさんだ。

 ざわついていたサロンが少し静かになった。

 

「サンドラ、アイポメアニールをどこで採取した?」

 

 買取カウンターから振り向いたサンドラちゃんは、階段の上を見上げて答えた。

 

「領都の南の、アレスタ川の支流のどれかなの」

「そんな方にも群生地があるのか。そっちは咲いていたのか?」

「うん。目を付けてあったんだけど、思った通りに大きな群生地になってたの」

「ほう、新しい群生地という事か。他に咲いてそうな場所の心当たりはあるか?」

「あるけど……」

「何ヵ所くらいある?」

「……結構あるけど」

 

 サロンがざわざわし出した。

 

「群生地を知ってるのか」

「結構あるとか言ってたぞ」

「この辺はまったくの坊主だったのに、咲いてるところがあるというのか」

「お前知ってるか?」

「見たかもしれねえが、どこだったか覚えちゃいねえ。もう薬草摘みなんかしねえからな」

「花の季節が終わったら、俺はもう葉っぱ見ただけじゃ区別つかねえよ」

「傷に効く薬草は忘れねえけどなあ。便所の虫に効く薬草は覚えちゃいねえよな」

 

 なるほどね。サロンにいるランクの上がったハンター達は、裏方で影に徹して活躍してる地味な薬草は忘れちゃってるんだ。簡単に採ってこれるこういった薬草は、まさに孤児院の子みたいな、見習いや成り立てハンターの為にあるような依頼だもんね。

 

「薬草の採れる場所はお前の財産だろうが、緊急事態だ。ギルドでお前の情報を買う。だから教えてくれないか。このままだと夏にはヘキサチカに死人の山ができ兼ねない」

 

 死人の山と聞いて、サンドラちゃんはぶるるるっと身震いした。

 

「わ、わかりました」

「すまん。情報は高く買うぞ。ケイト、地図を持ってきてくれ」

「はいっ!」

 

 受付カウンターにいたケイトさんが立ち上がって、2階へと駆け上がっていった。

 

「これって、ヘキサリネ全土が緊急事態になるんですか?」

 

 わたしの質問に、ギルドマスターは首を横に振った。

 

「いいや。これは大きい町ならではの問題だ。例えばリトバレーなら、生ごみやし尿はそれぞれの家の敷地で埋めてしまうか、村共同の穴にまとめて肥料などにするだろうが、ヘキサチカのような大きな町だと毎日凄い量が出る。1か所に集めるにしても、集めるまでの半日の間にも、虫が湧いて荒らされてしまう」

 

 え、その虫ってそんなに繁殖力あるの?

 わたしのイメージしてるのとはもしかして違うのかな? ネズミとかハエとかGとかみたいのじゃないのかな。聞いた感じだと、そんなもんじゃない気がする。

 

 サンドラちゃんの周りには、また孤児院の子供達が集まって来ていた。

 

「ギルドマスターがサンドラ姉に頭下げてた!」

「サンドラ姉、カッコイイ!」

「うふふ。そうよ、どんなに強い探検者(エクスプローラー)だって、薬草を馬鹿にする人は病気やケガのとき痛い目に合うんだから。皆も忘れないでね」

「「「「はーい」」」」

 

 さながら幼稚園の先生だ。

 薬草に続いて、もう一つの懸案をギルドマスターは確認した。

 

「リネール。アレスタ川の方の森で、魔物のタイガースパイダーが出たのか?」

「は、はい!」

「魔物は南にも広がっているのか」

「その可能性はあります。薬草採取パーティーはランクの低いのが多いから、ちゃんとした護衛ハンターをつけないと危ないっす」

「うむ」

 

 ケイトさんが2階からロール状の紙を持って降りてきた。領都周辺の地図である。

 

「サンドラ、来てくれ」

 

 ギルドマスターはサンドラちゃんを呼んだ。わたしも付いていく。

 サロンの一角のテーブルに地図を広げると、ギルドマスターはサンドラちゃんに尋ねた。

 

「規模の大小も含め、サンドラが知っているアイポメアニールが生えている場所を教えてくれ」

 

 サンドラちゃんはむーぅっと少しむくれる。

 

 まあそうよね。サンドラちゃんにとって薬草の採れる場所は財産だもんね。これでアイポメアニールについては秘密にしてたところが全部情報公開されちゃうわけだもん。

 

 サンドラちゃんはテーブルに両手をついて、地図へ屈みこんだ。

 じーっと地図を見つめている。

 目線は地図のあちこちに移動していた。

 

 すごいな。そんなにあっちこっちに生えてるのか。

 

「マヤちゃん」

「なに、サンドラちゃん?」

「ヘキサチカって、ここよね?」

「ふむ。そうみたいね」

 

 サンドラちゃんが指さしたところは地図の中央の丸く円が書かれているところ。円の真下の一箇所が切れていて、そこから太い線が色々な方へ延びている。たぶんこの丸は、領都の城壁代わりになってるクレーターの外輪山。切れてるところが城門で、太い線は街道だろう。

 城門は東側にあったけど、地図だと真下か。地図の上が北という常識は、この世界にはなさそうね。

 地図にはわたしの行った事のある所も載ってる。あの道の駅『領都の東4時間』や、こないだ巨大アンフィスバエナを狩った北の林がそうだ。

 

「昨日行った森は……」

 

 わたしは地図のヘキサチカの場所に指を置いて、そこから這わす。

 

「城門を出て南の街道をしばらく行って、南の狩場へと曲がって、そこから森の方へ……」

 

 南の狩場や森の中には細い線が数本描かれている。たぶん狩場の中の主要道に違いない。その中に見覚えのある道の曲がりや、目印になる岩とか、距離感とかが一致する道がある。もしかしてこの地図、結構精巧? 測量とかしてたりして。

 

「歩いたのこの道だわ。この辺のどこかでタイガースパイダーに襲われたのね。その先で獣道に入ったけど、それは地図には載ってないわ。そして川に出たけど、それも載ってないみたい。この地図に載ってる川は離れ過ぎてるわ」

「そ、そう」

 

 サンドラちゃんは顎に手を当てて考えている。

 

「あ、採取した場所で一番奥のところって、小さな丘みたいなののてっぺんだったよね? これそうじゃない?」

 

 林に囲まれた小さな火山みたいな絵が描いてあった。

 ギルドマスターも地図を覗き込む。

 

「この小山の頂上に生えてたのよね。ここから川沿いに下りながら、砂地のところにアイポメアニールの群生地が点在してたわ」

「ほう。この辺に群生地が塊っていたのか。サンドラ、この周囲には他にも群生地はあるか?」

「うーん」

「近くでなくてもいいが、知ってるところを示してくれ」

「うーん」

 

 サンドラちゃんは頭をひねっている。

 

 はて? 教えたくないとか、出し惜しみしてるって感じじゃないな。なんか変だな。

 

 わたしはサンドラちゃんの顔を横から覗き込む。

 すると、目がぐるぐる回るように渦巻いて、沢山汗を掻いていた。

 

 あー。

 

「サンドラちゃん?」

「は、はいい!?」

「もしかして、地図で場所を示すのが難しい? ていうか地図の見方が分かんない?」

「えへ? えへ、えへへへへへへ」

 

 当たりかあ。

 学校とか、標準化された教育とかないわけで、当然地図ってものを習ってないだろうし、そもそも地図の書き方だって統一されてないかもしれない。まあこの地図も、お伽噺の宝の場所が書いてある地図みたいな見た目なんだけどね。

 だけど方位とか距離が正確そうなんだ。さっきも思ったけど、意外と精巧なのかもしれない。とすれば決まった測量方法があって、記述ルールなんかもあるのかな。

 どのみちそういうルールに則った地図の扱いを知ってなきゃ、場所を示すっていうこともできないってことだ。

 そんな教育もない世界だけど、読み書きや計算ができてたサンドラちゃんってすごいな。リネールさんもできるから、リトバレーには寺子屋でもあるのかもしれない。

 

「サンドラちゃんは道案内する時、迷うことなくずんずん進んでいくもんね。きっとその場その場の景色で場所を覚えていて、こうやって地図で俯瞰して見るっていう方法での道案内に慣れてないんじゃない?」

 

「う、うん」

「そうか。サンドラはまだEランクだしな」

 

 わたしの話を聞いていたマスターは、リネールさんに向き直った。

 

「リネール、地図の扱いは習得したか? Cランク探険者(エクスプローラー)への昇格には地図の扱いが必須だぞ」

「うえ。は、はい、一応」

「ではサンドラから場所を聞き出して、地図と照らし合わせて、報告しろ」

「り、了解!」

 

 リネールさんはサンドラちゃんから聞き取りを始めた。サンドラちゃんもリネールさん相手だと気が楽なようで、あれこれ説明している。

 あの道をこう行って、こんなところを曲がって、どれくらい行くとこういうところに出て、それからこんなところまで行ってと、サンドラちゃん目線での道順から、リネールさんはあの辺かなあなどと場所を特定していく。

 この辺の地理が全く分からないわたしはついていけなくなり、突っ立っているだけとなってしまった。

 

「マヤは地図には慣れているようだな。国で習ったのか?」

 

 暇そうなわたしにマスターが聞いてきた。

 

 そりゃあ小学生の時から地図帳使ってたし、オリエンテーリングとかで地形図も扱ったしね。こっちの子供が大人の補助をして生活を支えているいる時間に、わたし達は生産活動には従事せず、勉強とか部活とかゲームとかに(うつつ)を抜かしているわけだからね。無駄に知識だけは持ってるよ。

 

「こっちの地図でも通用するのかは分かりませんが、まあ一応」

「そうか。それは色々助かるな」

 

 そうこうしている間に、リネールさんの聞き取りが終わったようだ。

 

「マスター、大体わかりました」

「うむ」

「大きな群生地は、南のここと、ここからここの間。

 規模はまあまあだけど生えているらしいのが、北のこの辺と、南東のここいらです。

 それと、5輪以下なんですが、以前花が咲いていたらしいのを見たという話が、どうやら西の街道近くと、西のこの辺りみたいでした」

「こんなにあるのか」

「このうちどれだけが今年も咲いてますかねえ」

「候補があるだけでもありがたい。サンドラ助かるぞ」

 

 サンドラちゃんは、少し照れながら笑った。

 マスターは地図を見ながら腕を組んで考える。手を上げるとケイトさんがメモ帳を持って横にやって来た。

 

「ケイト、薬師協会が立てている次のアイポメアニールの開花予想は?」

「5日後です」

「よし。それに向けてヘキサチカ探検者ギルドからの特別臨時依頼を出すぞ」

 

 ケイトは頷くと、メモを取り始めた。

 

「内容はアイポメアニールの蕾の採取だ。採取地をギルドで指定する。10ヶ所だ。つまり依頼は10件となる。採取した蕾は全量ギルドが通常の1.5倍の価格で買い取り、特別臨時依頼に参加したパーティーと、それとサンドラに、均等に分配する」

 

 わたしは目と口を大きく開けて驚嘆した。

 

「おー! サンドラちゃんはここに居座ったままふんぞり返っているだけで、皆が働いて上納金を収めてくれるんだって」

「え? わたし採りに行かなくてもお金もらえるの?」

 

 リネールさんがサンドラちゃんの頭を撫でる。

 

「サンドラの情報のおかげで、皆は群生地を探さなくていいんだもんな。情報提供料ってことだ」

「わあ、楽ちん」

「でもちょっと待って。サンドラちゃんは群生地の場所を教えなければ、来年も再来年もここで稼げたのよ。分配してくれるって言っても、今年だけじゃあ割に合わないんじゃない?」

 

 チラリとギルドマスターを見る。マスターは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「マヤ、意見は後で個別に言ってこい。サンドラも後で話をしよう。まあマヤの言う通り、お前に損はさせたくない」

「はーい」

 

 マスターは話を続けた。

 

「E、Fランクのパーティーは護衛を付けることを義務とする。護衛にはギルドから1日あたり2小金貨を払うので、費用の心配はいらん」

 

 わたし達が魔物に遭遇したことへの対処だね。E,Fランクパーティーはお金持ってないのが殆どだろうから、費用はギルドが持つから躊躇わず雇えと言うことだ。2小金貨なら2,3人は雇える。Cランク以上の腕の立つ人を1人でもいい。

 マスターの話を聞いたケイトさんは、10枚の依頼票を作成した。それぞれに場所の割り振りをすると、掲示板に張り出された。

 さっそくハンター達が掲示板に集まってくる。まだギルドに残っていた、アイポメアニールを採れなかったパーティーの面々だ。いずれもE、Fランクの駆け出しっぽい若手ばかりだ。

 

「現地までは、近い所が1日。遠くて2日半か」

「もし行った先にアイポメアニールがなくても、報酬もらえるんだよね?」

「他のパーティーが採ったものの買取額が、みんなに山分けされるからな」

「他のパーティーが採れてればだよな?」

「どのパーティーも採れてなかったらどうすんの?」

「そっか。何ももらえないね」

「採れた量が少な過ぎても、皆に分配した時の額が小さすぎて、必要経費が賄えないかもだよ」

「確かに。この条件じゃ飲めないね。マスター!」

 

 話を聞いていたマスターは即座に頷いた。

 

「分かった。群生地の調査ということで、1日の距離の所は2小金貨、それより遠い所はハーフ金貨を払おう」

「うほほほー! ハーフ金貨に薬草代上乗せして、がっぽり稼いでやるぜ!」

 

 Fランクのハンターだと、1日に1小金貨以上稼ぐのは、なかなかに難しい。Fランク依頼の薬草や動物は安いのばかりだからだ。

 

「でもよ、2.5日の所は往復だけで5日だろ? ハーフ金貨は貰えるけど、それなりの装備整えて行かないとだぞ」

「そうだな……」

 

 結局西の2.5日の所は人気なく、Eランクパーティーが西街道近くの1箇所を請け負っただけで、街道から離れた2箇所が余ってしまっていた。

 すると騒がしい声と共に、孤児院の子達がやってきた。

 

「テオ、お願いだわよ。護衛に付いてきて欲しいのね! 同じ孤児院の出でしょ!?」

 

 声を張り上げているのはニーシャだった。

 テオと言われたのは15歳くらいの少年だった。とは言ってもこの世界では成人の仲間入りしてる年齢だけど。

 テオの横にはあの生意気な男の子イレムもいた。

 

「孤児院出身だからって、仮にもDランクパーティーに薬草摘みの依頼かよ。テオ兄ちゃん達をバカにすんな!」

 

 テオに代わって答えるイレムに、ニーシャはキッと顔を向ける。

 

「イレムには聞いてないだわね! それに頼んでるのは、薬草摘みじゃなくて、護衛だわよ!」

 

 目線はテオという少年に向けられる。テオも肩をすくめた。

 

「それでどこまで行くんだって?」

 

 掲示板のところに着くと、依頼を見上げた。

 

「あっ!」

 

 残っているのは領都の西の、片道2.5日の所だけになっていた。

 

「もう依頼なくなっちゃってるだわね……」

「往復5日かよ。そんな依頼の受注、孤児院の許可出ないだろ」

「そーれみろ。やーい、バーカバーカ」

「うるさいイレム! 大人が付き添ってれば、お泊りの依頼だってできたはずだわよ! それこそテオのパーティーが付いてきてくれればいいのだわね!」

「ん-、いやちょっと待てよ。これ採取日が指定されてるじゃんか。5日後? これ駄目だ。俺のパーティー、ゴルゴノプスの討伐依頼を受注しててさ、1週間後に出発するんだ。1匹でハーフ金貨。今3匹いることがわかってるから、全部仕留められりゃ1.5金貨の稼ぎになる依頼だ」

「テオ、すげえ! 俺もついて行っていい!?」

 

 イレムがテオの腕を引っ張るが、ニーシャがぴしゃりと遮った。

 

「あんたはあたい達のパーティーでしょ! こっちで薬草摘みだわね!」

「冗談じゃねえ! もう薬草摘みなんてまっぴらだ!」

「そんなこと言ったって、孤児院のお金どうするつもり!? 少しでもいい食事が出来るよう、こうやって自分達でも稼いでるんだわね!」

「俺は狩りがしてえんだ! それで獲ったもの食えばいいじゃんか!」

「今は狩りよりも、アイポメアニールの方が大事だわよ! 夏の疫病防がないとだわよ!」

「へっ! 俺は丈夫だから、病気になんてならねえよ!」

 

 睨み合うニーシャとイレム。近くで見ていたわたし達は、これは年上が叱った方がいいのかなあと眉をしかめていた。わたしはリネールさんを肘で突っついた。

 

「リネールさん、ちょっと言ってやってよ」

「ええ? いやあ~、なんか数年前の俺を見てるようで、胸が痛いんだけど」

「俺もだ」

 

 と、そこへいきなり後ろからぬっと別の男の人が現れた。

 背の高い金髪の超イケメン。粗野な態度を取ってはいるが、良い身なりに根本的な物腰の良さは、そこいらのごろつきハンターとは住む世界の違いがわかる。しかしその顔は少々バツの悪そうな、昔の中二病だった自分を見て恥じらっているような表情をしていた。

 

「うわ、レオさん!?」

 

 ワリナ王国のレオナルド王子様だった。

 わたしは少し頬を引きつらせながら、急に現れた隣国の王子様に言った。

 

「レ、レオさんも、あんな感じだったんですか?」

「少々腕っぷしがある元気な男のガキなら、たいていあんなだろ」

「うわあ、まったく男ってのはどいつもこいつも野蛮なんだから」

「そういう男っていうのはね」

 

 さらにその後ろから、ふわりとした栗色の髪が美しい女性ハンターが現れた。

 

「頭では理解できないから、体に分からせてあげないとなのよ」

「わ、マリエ……じゃなくてリエラさん!?」

 

 またまた唐突に現れた女性ハンター。その正体は、ミリヤ皇国のマリエラ皇女様である。

 2人共、お隣の国の次期当主権利を持つ最重要人物にもかかわらず、ハンターのなりをしてヘキサリネのギルドに入り浸っている問題児。実際実力も確かなハンターであるだけに、始末が悪い。

 何かあったらどうすんですか。国がひっくり返っりますよ。ていうか、数日前にその何かがあったばかりじゃないですか。

 

「いい機会だから、フィールドワークで子供達を鍛えてあげるのがいいんじゃない?」

「誰が?」

「レオ様が。私も行きますので、護衛として付いていってあげましょう」

 

 言ってるそばから、危険へ身を投じるお誘いを持っていくリエラさん。

 さすがのレオさんも顎をカクンと落とす。

 

「お前、5日とか、へたすると1週間とかかかるってのに、大使かn……家をずっと留守にするつもりか?」

 

 ふふん、とリエラさんは鼻を鳴らす。

 

「いい口実を教えてあげましょう」

 

 リエラさんはレオさんの腕を引っ張って後ろに向かせると、顔を近付けてひそひそと話をする。

 わたしはすすっと近付いて耳をダンボにした。

 

「ここ領都ヘキサチカの水源はどこか知ってますか?」

「街の西寄りにある池じゃねえの?」

「半分当たりです。そして町中を巡らした水道を通って、東の門の横の排水道で外へ流れていきます。

 ところがあの池、水はあそこで湧いてるんじゃなくて、もっと西の方のどこからか流れてきてるんです」

「ヘキサチカの西か? 西の方は領主の別邸や、ヘキサリネ軍の施設なんかの後ろで、町からは全く見えねえ。ヘキサチカの城壁、つうか、町を囲ってる山にでも登れば見えるんだろうが、登らせてくれねえからな」

「そう。つまり領主ヴェルディ様は水源をいじられないように、一般の人が入れないところに隠しておられます。水源は領都の生活のみならず、籠城戦になったときにも重要な戦略拠点ですからね」

「その通りだな。領都ヘキサチカは山に囲まれてるから川はない。町へは水道で水を供給している。大使館も井戸じゃなくて、水道が引いてあるもんな。

 その水源は井戸から汲み上げてるのか、自噴してるのかも分からねえが、井戸だとあの量を汲むのは大変だから、湧いてるんだろうな」

「わたしも湧いてるんだと思います。湧いてると仮定して、そこで興味が湧いてくるのが、ヘキサチカの湧き水はどこから来てるのかってことです」

「山に降った雨が地面にしみ込んで湧いて出てくるもんだから、裏の山じゃねえの?」

「ヘキサチカを囲ってる山は規模が小さすぎますよ。それに木があまり生えてないから、あまり水を蓄えられないと思います。山肌からも滲み出してますけど、町に水を供給するには役不足かと」

「じゃあなんでえ。さっぱりわかんねえ」

「ヘキサリネ領の大雑把な傾斜は、北が低くて、東西と南が高いんです。だから川はみんな北の方に向かって流れてる。領都ヘキサチカの近くの川も北に向かって流れてますが、東から北にいくのと、南から東へ曲がって北へいくのとがあります。ということはヘキサチカの辺りは北への傾斜に加え、西から東へも傾斜してるんでしょう。そして西には川がないことになってます」

「……ないことになってる?」

「少なくとも街道沿いからは見えないです。でもヘキサチカの町の西に水が湧くなら、その水はさらに西の方から来ているはず。どこかに水脈の痕跡があるんじゃないかなあって思うんですよ」

「ははーん。分かったぞ。この薬草摘みの依頼を使って、ヘキサチカの西の方にあると思われる水脈を探してみようってんだ」

「水脈を見つけてどうするんです?」

「決まってる。戦になった時、それをぶった斬りゃあ、ヘキサチカの水を枯らすことができる。ここに籠って戦うなんのてできなくなるって事だ」

「どうしてヘキサリネと戦う話になってるんです?」

「ん? うぉ! 質問してたのはマヤだったか!」

「マヤさん!」

 

 面白い話だと聞き耳を立ててたけど、その目的がキナ臭い事のためだったんで、わたしは思わず顔を突っ込んでしまった。

 

「ミリヤ皇国とワリナ王国とヘキサリネと、3国仲良く手を組むんじゃなかったんですか?」

「も、勿論そのつもりよ」

「だ、だが、今日の明日のというわけにはいかねえからな。弱点は探っておこうってだけだ」

「そうそう! 併合した時、ここに籠るのは私かもしれないしね!」

「お前、ヘキサリネをミリヤに併合する気満々じゃねえか」

「そ、そうかしら」

 

 じとーっとわたしは隣国の次期当主達を睨む。

 

「戦争して取り合うんじゃなくて、ヴェルディ様を仲人にして、お二人は結婚して、3国は一つの国になる。それがわたしの理想なんです!」

 

 ぼふっとリエラさんは顔を真っ赤にした。そしてちらちらと横目でレオさんを見る。

 ほら、レオさんのことそれだけ好きなくせに。

 

「そんな話、検討するにしても親父共が死んでからだな」

「……はい。それまでどこにも嫁がないようにしま……ってそうじゃなくて、今は薬草摘みの護衛の話しよ!」

「おう! なんかさっきの話、長期間留守にする口実にはなりそうだ。おいガキ共、護衛引き受けてやろうじゃねえか」

 

 孤児院の子達の方へ向き直ったレオ様の宣言に、子供達がわあっと笑顔になった。

 

「お兄さん、護衛やってくれるの!? お兄さんランクなに!?」

 

 喜びで目を大きくしたニーシャが聞く。

 

「俺か? Sランクだ。ふふっ、これ以上の護衛はないぞ」

「エス!?」

 

 今度はイレムが目の色を変えた。テオを放り出すくらいに。

 しかし慌てたのはニーシャだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってお兄ちゃん! 護衛の人には1日2小金貨しか報酬出ないだわよ。本当にいいの? Sランクだったら1金貨くらいするんじゃないだわね……」

 

 足りないとか言って、途中で引き返されたらたまったもんじゃない。

 

「気にすんな。たまにゃあボランティアもいいもんだ」

「お姉さんも来るの? ランクはなに?」

「私はこないだのアンフィスバエナ騒動でBランクになったのよ。よろしくね」

 

 リエラも行くと聞いて、きゃーっと孤児院の子達が黄色い悲鳴を上げて、抱きあって喜んでいた。

 

「あ、でも私達、この国のハンターじゃないから、ここの土地に詳しくないんだけど、道案内とか大丈夫?」

「はーい、それはわたしがやるの!」

 

 手を上げて輪に入っていったのはサンドラちゃん。

 

「残ってた西の候補地のもう一方は、わたしのパーティー『リトルウィング』で受けるよ。この2か所は殆ど隣同士だから、一緒に行けばいいよ。そもそもわたしが見つけた場所だしね」

「サンドラさんの案内なら安心だわ」

 

 リエラさんは頼もしい人がついたと納得の笑顔だ。

 

「サンドラ姉と一緒なら、他の薬草の事も教えてもらえるよ!」

「これでニーシャがキャルステイジアとアイポメアニールを間違えることもなくなるね!」

「ちょっとそれは酷いだわよ」

 

 孤児院の子達もきゃいきゃいと嬉しそうに笑う。

 イレムと他の男の子達は、さっそくレオさんにまとわりついた。

 

「ねえねえ、狩りをしようよ! 途中で何か狩ろうよ!」

「んー、襲ってくる奴がいたらな」

「すげえ! ティラノサウルスとか襲ってこないかな!」

「そういう疲れるのはやめてくれ」

 

 話がまとまったらしいと見て、ケイトさんがやってきた。

 

「決まった? 受注するの?」

「はーい、受注するの! 採取は孤児院のパーティー10人で西の1番と、リトルウィングの3人で西の2番なの。リエラさん、護衛担当の人は何人になるの?」

 

 サンドラちゃんはリエラさんとレオさんに聞いた。

 

「私の方は、あとフィリアを連れて行くわ。彼女は実質荷物持ちだけどね。レオ様はどうします?」

「俺と、ケンかクーノのどっちかを連れて行こう。うちは2人だ」

「それじゃあ、リエラさんはリトルウィングの護衛を、レオさんとこは孤児院パーティーの護衛を担当してね。ケイトさん、こういう布陣で行くよ」

「分かりました。西の2ヶ所、あなた達に任せるわ」

「しかし孤児院の子供は、こんな遠出、大丈夫なのか?」

「Sランクの保護者がいるとなれば、文句はないと思いますが」

「保護者……」

 

 レオさんは渋い顔をした。わたしも別の理由で大丈夫なのか心配になって、サンドラちゃんに聞いた。

 

「歩いて行くんだよね? この子達、大丈夫なの?」

「平気だよ。みんな10歳以上だし」

「すごい。平気なんだ。もしかしてわたしが一番体力なかったりして?」

「サンドラ姉、院長先生に泊りがけの採取に行く説明しなきゃだわよ。説明するの手伝って」

「いいよー。この後付いていってあげるの」

「ありがとう! 1週間近い採取旅行は皆初めてだわよ」

「「「楽しみー」」」

 

 孤児院の子達はまるで遠足気分だ。おやつは500円までとかあるんだろうか。

 

「サンドラちゃん。そうすると出発はいつになるの? 5日後に採取しろって依頼だから、現地まで2日半だと……明後日?」

「ううん、明日お昼前に出発するよ」

「え、どうして? 1日早く着いちゃわない?」

「マヤさん。薬草採取の事はサンドラのいう通りにしとけば、ほぼ間違いないよ」

「ふうん。リネールさんが無条件にそんなこと言うなんて、もしかしてサンドラちゃんの例の企業秘密情報?」

「うふふ、マヤちゃん、わたしに任せといて。リエラさん、レオさん。明日早めに昼食を取っておいてね。お昼前に出発するから」

「随分慌ただしいわね。わかった。明日お昼前にギルドに集合ね」

「よっし。さっそく帰って支度するか」

 

 レオさんも剣を担いで立ち上がった。

 半日しか準備期間ないっていうのに、みんな全然慌ててない。慣れてるってこと? だいたい持っていくものって決まってて、頭の中に入ってるんだろうな。

 

「じゃ、孤児院に行こうー」

「「「「はーい」」」」

 

 サンドラちゃんとわたしとリネールさんは、孤児院の子達を引き連れてギルドを後にした。

 

 

 

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