異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

47 / 171
第46話「お泊り採取旅行準備 ~服屋~」

 

 ハンターギルドを出たわたし達は、子供達と孤児院へ向かった。

 

「リネールさん。そのタイガースパイダーの足、売らなかったの?」

 

 リネールさんは、昨夜返り討ちにした巨大なクモの足を、1本だけ持って担いでいた。倒したクモからは魔石と足を回収して、ギルドに買い取ってもらったはず。2匹だから足は16本もあった。

 

「ああ。孤児院へのお土産にしようと思って」

「もしかして、子供達に食べさせるの?」

「そりゃそうさ。食材だもん」

「大丈夫なの? お腹壊さない?」

「大丈夫だよ。生で食わないかぎり。旨いし。食べてみなよ」

「えー……」

 

 あの危険につき立ち入り禁止みたいな黄色と黒のシマシマ模様の体で、切り裂いたら体液ぶっしゃーって飛び散らせるアレの足を?

 うー、ぶるぶるぶる。

 

「い、いいよ。もし採取旅行中にまた出てきて、食べざる得なくなったら考える」

「食わず嫌いだなあ」

 

 

 

 

 住宅地区の中に孤児院はあった。

 飾り気のない三角屋根の木造2階建ての建物に、中規模の庭。庭には木登りしやすそうな数本の木が植わっている。畑のようなのもあった。その中を小さい子が走り回っていて、幼稚園のような雰囲気だ。

 

「ただいま」

「あ、ニーシャお姉ちゃん、お帰り!」

 

 小さな子達が走り寄ってくる。

 少しして40代くらいの女性が建物から顔を出すと、玄関から出て、歩いてやってきた。

 

「ニーシャ、お帰り。怪我はなかったかい?」

「院長先生ただいま。皆怪我もなく大丈夫だわよ」

 

 この人が孤児院の院長先生らしい。真っ白な頭髪の、細身のおばさんだ。

 ヘキサリネの人は金髪が多い。金髪といっても色々あって、黄色っぽいのから白いのまで、色の濃さは様々だ。白であっても多少は色がついてるもので、それでも本当に真っ白な人もたまにいる。老人だ。

 院長先生は、顔はそれほど老けてはいない。なのにこの人は完全な白髪だった。ということは、よっぽど苦労してるのかもしれない。温和な笑顔でどっしりと構えているというタイプではなく、ちょこまかとせわしなく動き回ってそうな感じだ。

 ニーシャは済まなそうに頭を垂れて、上目遣いに院長先生を見上げた。

 

「でもお金は稼げなかったのだわよ。あたいがキャルステイジアをアイポメアニールと間違えちゃって、買い取ってもらえなかったのだわよ……」

 

 院長先生は息を大きく吸い込むと、心底ガッカリした顔をした。しかしゆっくり首を横に振ると、安心させるように言った。

 

「まあまあ、それは残念だったね。あれはそっくりだからね。暗い時だと余計だろう。ひとまずお休み。夜中に出たから疲れたろう」

「うん。その前に、次の依頼受けてきたんだけど、その事を言っておきたいのだわね」

 

 ニーシャがサンドラちゃんを手招きした。門のところにいたわたし達は、中へ入った。

 

「おやおや、リトバレーの子達じゃないか」

 

 やって来た一行を見て院長先生は言った。

 リトバレーの“子”ねえ。リネールさんは18歳。わたしの元いた世界でも立派な青年だけど、子供なんて言っていいのかな。まあ院長先生から見たらそうなんだろう。

 

「土産です。タイガースパイダーの足です」

 

 リネールさんがクモの足を差し出す。

 

「タイガースパイダーだって!? 高級食材じゃないか! 高かったろうに。いいのかい?」

「ええ。俺達が仕留めた奴ですから」

 

 院長先生は心底嬉しそうに笑みをこぼした。

 

「ありがとう。遠慮なくいただくよ。皆お礼を言うんだよ」

「リネールお兄さん、ありがとう」

「「「「ありがとう!」」」」

 

 リネールさんはちょっと照れながら片手を上げた。そして駆け寄ってきた小学1年生くらいの2人にクモの足を渡した。

 

「お台所に持ってくー」

「大きいね。重いね」

「いくよー」

「ああ! そっちの端、地面引きずるよ!」

「ちゃんと持ち上げてよ」

「持ち上げてるよぉー」

「お、落とすなよ」

 

 走って運ぶ後ろ姿を皆はハラハラして目で追っていったが、無事建物に入ったのを見届けると、ホッと一息ついて向き直った。ニーシャは年長組に向かって号令を出した。

 

「さあ、みんなは荷を解いて、片付けをしていいだわね。イレム、片付け終わったらみんなを食堂へ連れて行くだわね。あたいいなくても先に昼食を取っていいだわよ」

「あー、腹減った。行くぞ!」

 

 イレムは皆をぞろぞろと引き連れて、建物へ入っていった。

 わたし達は院長先生に、庭の脇にあるベンチの方へと促された。

 ニーシャが丸テーブルの周りにベンチを並べ直し、皆で座ると、ニーシャから話し始めた。

 

「次の薬草採取の依頼なんだけど、領都の外の西まで行くことになったのだわね。場所が片道2日半かかるところなんだわ。向こうで採取する日も含めると、帰ってくるのに1週間かかると思うのだわね」

 

 院長先生は目を大きくして驚いた。

 

「どうしてそんな遠くの依頼を!? 他に良いのがなかったのかい? そりゃ孤児院の財政は厳しいけど、そうまで無理をして依頼を取ってこなくてもいいんだよ。なければ良い依頼が出るまで休んでいればいいじゃないか」

「うん。でも今回のはちょっと違うのだわよ。採りに行かないとヘキサチカで病気が広まっちゃうらしいんだわね」

「病気!? どういうことだい?」

「サンドラ姉……」

 

 ニーシャがサンドラちゃんへ目線を向けた。サンドラちゃんは頷き、続きを引き継いだ。

 

「今日アイポメアニールを採りに行ったパーティーは、みんな採取できずに戻って来たんです。どうやら今年は、アイポメアニールが不作の年かもしれないの」

 

 それを聞いた院長先生は、さらに目を大きく見開いて驚いた。しかしそれが何を言わんとしてるか理解すると、表情が険しくなり、細めた目をサンドラちゃんに返した。

 

「疫病が流行る年になるかもしれないんだね」

「はい。でもわたしが採りに行った、ヘキサチカの南の方の秘密の採取地では沢山取れたの。他にもわたしが見つけてある採取地がいくつかあるんで、そこへ採りに行くのよ」

 

 リネールさんも会話に加わった。

 

「サンドラが知ってる採取地をギルドに公開したんだ。それでギルドから調査と採取の臨時依頼が出たと言う訳さ。売れ残った一番遠い場所の依頼を、孤児院のパーティーと、うちらリトルウィングで受注したんだ。これにはSランクハンターを含む4人の護衛も付くから、安心していいよ」

「まあ、そうだったのかい。……アイポメアニールが採れないと一大事だからね。町の為となると仕方ないところだね」

 

 目を瞑って頷くと、院長先生は立ち上がった。

 

「分かりました。ニーシャ、行っておいで。支度を手伝おう」

「ありがとう、院長先生!」

「できれば子供達の世話に、1人くらい大人を出したいところだけど、孤児院のスタッフもぎりぎりで、ニーシャ達年長組が留守になると、残った子の面倒が見れなくなってしまう。悩ましいわ」

「採取パーティーの人数減らしてもいいだわよ?」

「いいえ。薬草探しは人手が多い方がいい。こっちは何とかするから、ニーシャ達はお荷物にならないように頑張るのよ」

「はい!」

「リネールさん、サンドラさん、子供達をお願いします」

「分かりました」

「分かったの」

「ところで……」

 

 院長先生の目はわたしに注がれる。

 

「こちらの子は? 外国の方のようですけど」

 

 わたしは慌てて立ち上がり、お辞儀をした。

 

「申し遅れました。初めまして。マヤと言います」

「マヤさん。まあまあ、礼儀正しくてしっかりした子ね。私はコノリー。この孤児院の院長をしています。とても素敵な黒髪ですね」

「この度はお世話になります。わたしの国の者は皆こんな髪ですよ」

「マヤさんは東方三勇士の一人、トロ様のお弟子さんで、リトバレーの恩人なんだ」

「まあ、こんな子が勇士様のお弟子さん?」

 

 分かってたけど、またわたしは年齢を間違わられてるわね? と思っていると、先を越された。

 

「マヤさんは幼く見えるけど、これでも17歳だそうですよ」

「え!? ではもう成人……。私はてっきりニーシャやサンドラさんと同じくらいかと……。失礼しました」

 

 リネールさんニヤニヤしてるし。この人、最近この反応を楽しんでる風があるわね。

 

「そのような方が、薬草採取にご一緒してくださるのですか?」

「はい。あの、全然大した事ないですから。きっとわたしがあの子達に助けられる事になると思うんで、皆にも期待しないよう言っといてください」

 

 わたしは顔の前で手を振って、今のうちに防衛線を張っておく。

 

「ふふふ、ご謙遜を。勇士様のお弟子さんなら、ニーシャ達も安心ですね」

「お姉さん、すごい人だったんだ」

「やめて、幻滅される未来しか見えないから」

 

 挨拶と採取旅行の説明、明日の集合などの話を一通り終えると、わたし達は孤児院を後にした。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 商業地区に行くと、お腹の減ったわたし達は適当な食堂に入った。そして食べながら旅行装備についての話をした。

 

「何持っていけばいいの? わたし旅装備は全部なくしちゃったから、一から買い揃えないとで」

「今日の装備に、夜営用の装備と着替え、食料を持っていけばいいよ」

「着替えって、1週間分っていうと、何着いるかな」

「普通1着しか持たないけど。着替えたら水のあるところで洗って、乾かして、次の時にまたそれに着替えるのよ。マヤちゃんだってずっと旅してきたんでしょ?」

 

 ヤバイ、藪蛇な質問しちゃった!?

 そういえば、お師匠様も身軽な装備しかもってなかったな。ザックの中には着替えもテントも寝袋もなかった。どうやって旅してきたんだろう? まさか着た切り雀?

 

「ふへ、ふへへへへ。じ、実は途中まで荷物を持つポーターがいて、あまり不便な旅してないのよね。ポーターと別れた直後にサーベルタイガーに襲われたでしょ。そこで荷物は失うし、お師匠様は先を急がないとだしで、お金になるサーベルタイガーだけ残して後は一人で頑張れって感じだから、もう訳わかんなくて」

「それは大変! 後でお店紹介するよ」

「まあサーベルタイガーが売れれば、荷物持ちや馬車とかも雇えただろうから、確かにわざわざ苦労する一人徒歩旅を選ぶ必要はないもんな。マヤさんはそっち方面を選んじゃってるけど」

「それはほら、急がなくていいって言われたから、わたしはもっといろいろ見聞を広めなきゃって思って、わざわざ苦労する道を選んでるわけよ」

「なるほどな。マヤさんは結構いいとこのお嬢様のようだもんな」

「でもおかげで、わたし達の知らないこと一杯教えてくれるし、リトバレーにとってもわたしにとっても、とっても有難いよ。ありがとうね、マヤちゃん」

「……サンドラちゃん」

 

 わたしとサンドラちゃんは、ひしっと抱き合うのだった。

 うーむ。無理やりっぽかったけど、なんとか誤魔化せたっぽい?

 どのみち今後の旅に必要なものだし、ちょうどいい機会だよね。

 

 そんなわけで、わたし達はお昼ご飯を食べ終えると、色々買い揃えに行った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 まず行ったのは服屋。

 先日、現代の服のデザインで、野外服をオーダーメイドしたお店だ。

 

「マヤ様、お待ちしてましたよ。手直しは終わってます。ご試着下さい」

「ありがとう。どれどれ」

 

 慣れない現代服のデザインなので、何回か修正入るだろうと覚悟して注文をしていたのだ。それで5回までは手直し料払うけど、それでも満足に直せなかったら、それ以降はタダで直してもらうという条件をつけていたのよ。

 今日のは3回目の手直しの結果確認だ。

 試着室から出てくると、ストレッチ運動したり、歩いたり飛んだり。脱着やポケットの位置なんかも確かめる。フードもついてるので被り具合もみる。

 

「うん。いいよ。直ってる。いいんじゃないかな」

 

 なんと3回で作業服のレイバーマンで買ったのと同じ感じに仕上がった。この世界の服飾技術を甘く見てたようね。材質は炭素繊維には及ばないけどね。

 でも天然素材でも凄いのがこの世界にはあったのだ。

 それは魔物のクモの糸。こないだのタイガースパイダーみたいな危ないのじゃなくて、家畜化されたクモがいたのよ。人語を解し、こっちから要求すると、お望みの糸を作ってくれるらしいのだ。

 その糸というのがナイロン並に丈夫で、防水もある程度効くというスグレモノ。しかもめちゃ軽い。ただし火にはちょっと弱いのだそうだ。

 そしてこの服、なんとプロテクターを入れられる場所がある。ジャケットは肩や肘、背中、胸に。ワークパンツは膝からスネに。それぞれ薄くて軟骨のように柔らかいのに、削ったり貫通させたりが困難なプロテクターを入れてある。

 このプロテクター、何でできているかというと、でっかい甲虫の殻だそうだ。特徴は柔軟性があること。つまり曲げられるのよ。なお値段はかなりする。ま、お金にはそんな困ってなかったからね。わたし自身に防御力なんてないから、お金で命が守れるなら、それに越したことはないのだ。

 

「サンドラちゃんはどう?」

 

 サンドラちゃんの分もオーダーしてある。彼女はわたしのようにごっついのは好みじゃないので、いつもの町娘風の服の上に羽織ってもおかしくない、ウィンドブレーカー程度のジャケットにした。両サイドには大きめのポケットがついてる。もちろんフードもある。そして、何気に薄っすーい甲虫の殻プロテクターも入れてある。ぺらぺらで柔らかいので、まさかプロテクター入りなんて思わないだろう。

 

「うん、いい感じ! こんな凄いの、わたしも作ってもらっちゃってよかったの?」

「もちろん。遠慮しないで」

「サンドラ、いいなー」

 

 リネールさんが羨ましそうに言う。

 

「リネールさんにも作ってあげちゃったら、リトバレーの人みんなにあげないとってなっちゃいそうだから、ごめんね」

「ああ、うん。マヤさんに買ってくださいなんて、言えないよ」

「プロテクターなしなら、リネールさんも買えるんじゃない?」

 

 リネールさんは値札を見た。

 

 プロテクターなし 8小金貨。

 

「うおお、高けえ」

「ちょっと貯金すれば買えるよ」

「プロテクター入れるといくらすんの?」

「4金貨」

 

 こともなげに言うわたしに、リネールさんは凄い顔して固まっている。

 富豪との価値観の噛み合わない会話ってこういう感じなのかな。まさかわたしが富豪側になるとは思わなかったけど。

 すると店主さんがリネールさんに別のを勧めた。

 

「何着か鉄板のプロテクターを入れて値を下げたのを作ったのですが、さっそく探検者(エクスプローラー)に売れましたよ。そちらではどうです?」

「え!?」

 

 もうこれ着てる人がいるの? でも鉄板? 重くない? ジュラルミンとかならアリだと思うけど。でもアルミ系の金属はこの世界ではまだ見たことない。

 

「鉄板プロテクターバージョンなら1金貨ですよ」

 

 4分の1か。確かにそれなら安いね。いや、1金貨って10万円か。レイバーマンの作業服に10万は出したくないな。しかも鉄板入り。何のトレーニングスーツよ。

 

「鉄板は重すぎるんじゃあ……」

「男なら大丈夫ですよ」

 

 店主は笑って言うが、見せてもらうと、わたしはこんなの着るのはあの世紀末ハンターくらいだと思った。それに鉄板だと生地が傷みやすいんじゃないかな。

 

「鉄板プロテクターはやめよう」

 

 リネールさんも流石に首を横に振った。わたしの甲虫の殻プロテクターバージョンの軽さを知ってしまったら、もう戻れない。しかも甲虫の殻の方が鉄板より丈夫なんだっていうのだから尚更だ。

 

「マヤさん、お約束通り売値の5%のデザイン使用料をお納めしますよ」

 

 服屋の旦那さんはニコニコして言った。わたしの現代風デザインで服を作る許可を出した代わりに、デザイン使用料をわたしに払うような契約をしたのだ。さもわたしがデザインしたかのように説明して。知られたらレイバーマンに訴えられそうだね。

 でもまあ、これで儲ける気は全然なくて、いざって時の副収入程度にしか考えてないんだけどね。

 

「う、売れて良かったですね。それじゃデザイン使用料は月締めで、一月単位でわたしの商業ギルド口座に入れてもらえます?」

「承知しました」

 

 仕方ないじゃん。バックボーンを持たないわたしが、この異世界で生きていく為だもん。体動かして働けない時だってあるかもなんだし、収入の道はいくつあってもいいよ。

 

 その他、下着や普通の服も何着か買った。レイバーマン風の服だと、行く場所によっては目立っちゃう。この世界の女性らしい服はやっぱ必要よね。下着はお高いけど、シルク。この世界の木綿のは、わたしには質感が悪く感じられちゃって合わなかった。シルクの肌触りは、一度知っちゃうと逃れられないよ。

 しかし結構な量になったな。

 

「まだ買い物しなくちゃなのに、ちょっとこの量は持っては歩けないな。宿に届けてもらってもいいかしら?」

「お安い御用ですよ」

「じゃあお願いします。えっと、いくら追加?」

「貴族や商家では、商談時も店でなくお屋敷でするのが常ですから、今日中でよければ道中に寄って届けますので、お代はいりませんよ」

「わあ、ありがとうございます!」

「いえいえ。また次回もご贔屓に」

 

 というわけでわたし達は服屋を後にした。

 次は野営道具だ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。