異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
次に入ったのはキャンプ用品屋……ではないけど、揃えている品のラインナップは同じような店だった。
「ライナーさんが旅道具揃えるのに使ってる店だよ。値は少し高いけど、ここのは長持ちするから、結果的にはオトクなんじゃないかな」
「魔石トーチとか、煮炊きする道具はパーティーの共同所有の物でいいから、自分用の食器だけ揃えてね」
リネールさんとサンドラちゃんに案内された棚に並んでるのは、陶器のコップやお皿だった。地味な色合いのが多い。そりゃそうか。レジャーでキャンプする現代人と違って、ここの人たちにとってキャンプは余暇じゃないわけだし。
「陶器なんて割れちゃわない?」
「ぶつけたり落としたりすりゃ割れるさ。だから持ち運ぶときは布で包んどくんだよ。そうすれば平気さ」
リネールさんはそう言うけど、持ち運びの不便さは他にもある。陶器製は重いし、嵩張るのよ。しかも割れにくいようにしてるせいか、やたらと肉厚なのでよけいだ。
お店の人がいたので、声をかける。
「金属製のはないの?」
「あるとも。でも高いよ。子供の小遣いじゃ買えないよ」
「わたしはもう成人してます。お金もたっぷりあるから心配いらないですよ」
「え!?」
驚く店員。ほっとけば子供扱いされちゃうんだから、先制攻撃だ。いつもと違う流れになって、リネールさんが面白くなさそうな顔をする。そこへ「ねえ?」と同意を求めると、渋々といった感じで肯定してくれた。
「本当ですよ。俺なんかよりよっぽど金持ちです」
リネールさんが言い添えると、店は目を丸くした。
「外国のお姫様とかですか?」
「今は違うけど、いつかはなるかもだよねえ。領主様や隣国の王族に目付けられてるし」
サンドラちゃんがそんな事を言うもんだから、お店の人は目の色を変えると共に態度も変わった。
「失礼しました。どうぞこちらへ。私、店主のソレイユです」
おお、店員でなく店主さんでしたか。
「本気にしちゃだめですよ。皆からかってるだけですから」
「まあまあ。そうだとしてもお名前くらいお伺いしても?」
「マヤです。今はリトバレーでお世話になってます」
「おお、なんとも神秘的なお名前。お姿から察するに、遥か東の方のお方ですな?」
「ええ」
定番の受け答えをしつつ案内されると、金属製の調理器具や食器類が並ぶコーナーに着いた。そこには鍋やケトルなんかもあった。鋳物の鍋なんかもある。いわゆるダッチオーブンだね。これはめちゃくちゃ重いから歩きの旅では絶対持ちたくない。勿論これらは一人用の物ではないしね。
お皿は色々なサイズがあって、大皿から取り皿みたいなのまで揃ってる。バスケットのケース付きでお洒落な5人用セットみたいになってるのもある。どれも金属板を叩いて形成した品だった。値段は陶器なら銅貨で買えるところを、銀貨を出さないと買えない。桁が一つ大きいんだ。
「良い品でしょう? うちの職人が作った物ですよ」
「売ってるだけじゃなくて、工房も持ってるんですか?」
お店の人は頷いた。メーカー直売所だったのか。
「確かに良さそうだけど、ちょっと装飾入ったりして随分おしゃれな感じ。もっと簡素な質実剛健なのはないんですか? プレス機なんかで大量生産して作った安い値のでいいんですけど」
「はっ? ぷれすき?」
「鉄板を型にプレスして作るやつ」
なんかハテナマークを頭上に飛ばしてますね。
知らない? あっそうですか。
プレス機っていつ発明されたんだっけ? 産業革命の頃? いいえ、もっと前から水力を使ったのがあったはず。でもこの世界ではまだなのか。
「お皿やカップの形の窪みをした鉄の塊を下に置くじゃないですか。同じようにお皿やカップの内側の形をした鉄の塊を作って、間に金属板置くでしょ。そしてその形どった上下の鉄の塊でギューッと金属板を挟み込むと、金属板はお皿やカップの形になるわけよ。余計なところ切って、角を丸めたり、取っ手をつけたりすれば、それで完成。そういう作り方知らない?」
店主さんは目を丸くして、続いて興奮して声を張り上げた。
「なんと! 画期的な作り方だ! 挟むだけで出来上がる。短時間に全く同じ品をどんどん作れるというわけだ!」
この様子だと、知らなかったみたいだな。また勝手に発明の芽を摘んでしまったかもしれないわね。
まあ原理はさっきの通りだけど、プレスしても割れない粘り気のある金属板とか、錆を考えるとステンレスの方がいいだろうとか、それかメッキするとか、プレスする機械的な仕組みなんかも考えないとだから、言ってるほど簡単ではないかもだけどね。
でも今の一言でヒントを得て、技術のある職人さんなら作っちゃうかもしれない。まだ世にない物なら、手柄を持ってかれたくないわね。
となるとこれは、投資案件かな?
「ねえ、プレス製造法は今言った通りなんだけど、作ってみる気ない?」
「良いのですか!? 勿論作りたいです!」
よしよし、乗り気だね。
わたしはコホンと咳払いする。
「仕組みはさっき簡単に説明した通りなんだけど、実際のモノとして実現させるノウハウは、実は持ってないの。そこを職人さん達とあなたが考えて作ってくれるなら、画期的な野外食器のデザインと、資金を少し、提供する用意があります」
店主はキョトンとした。そしてわたしの言った事を頭の中で反芻し、考え始めた。
「……それ、何か大きな欠陥があって今まで不可能だったとかですか? 実現できるものなんですよね?」
「できますよ。遅かれ早かれ、そのうち誰かが思い付いて、実現するでしょう。今のうちだと思うけどなあ」
「うむ……」
考えて、考えて。
わたしはこの道の専門家じゃないから細かいところまでは分からないけど、あなたができそうと思えばきっといけるのよ。
「仕組みは難しいものじゃない。実現方法もこうやればというアイディアも浮かびます。資金も出してくれるなら、やってみたいですね」
「それ! その何でもやってみよう精神が何よりも必要なんです。分かりました。一緒に商品化目指しましょう!」
わたしと店主さんはガシッと握手をした。
「えーと、それじゃ契約内容をもう一度整理しますね」
店主さんに紙とペンを用意してもらう。
「わたしから提供するものはと。
まずはプレス製造法のアイディアについて。これは既に説明した通りです。今までこの話を他の人にしたことはないので、知ってる人は店主さんだけです。
次に研究開発費の一部を提供します。差し当たり10金貨くらいならすぐ用意できます。最初は実現性を確かめるのを優先してください。報告を受けつつ、追加資金を出すか、撤退するかなど、進み具合を見て話し合いましょう。
3つめに、プレスで作る商品案の提示。これはこの後でサッと説明します。
それと最後に、今後プレス製造法で作った商品と、この後説明する商品案の品について、販売を始めた時のわたしの取り分の取り決めです」
わたしは以上の4箇条を書き出した。
店主さんは真面目な顔でこちらを見ている。
「マヤさんの取り分は、商品案を聞いてからでいいですか?」
「それもそうですね。つまらない品にがっつり上前取られては、そちらも納得いかないでしょうし」
わたしは紙に絵を描く。
それはわたしのいた世界でのキャンプ道具、コッヘルセットだった。
小さいフライパンと、中小の鍋と蓋。これを重ねてコンパクトに収納できるものだ。取っ手も折り畳めるようになってるもの。
「大きさはこれくらいかな」
手で直径20cmくらいを示す。
「おお、重ねて一体化して収納できるのですな……。これらは取皿だけでなく、調理にも使えるのですな?」
「ええ。金属製だから火にかけられますし。どうです?」
「材質はよく吟味しないとですね。でも素晴らしいアイディアです」
「よかった気に入ってもらえて。それで、さっきのわたしの取り分ですけど、販売価格の1割でどうですか?」
「これらを売価の1割で良いのですか?」
わたしは紙の横でちょっと計算してみる。
「販売価格って1大銀貨くらいですかねぇ?」
5千円ってとこだ。わたしのいた世界じゃ2千円くらいで買えたはずよね。
「え、そんな安くですか!?」
「プレスすればばんばん出来るんだから、職人さんが1つ1つ手をかけるのとは段違いのコストで作れると思うんですけどね。まあでも、安売りすると商品価値が落ちるから、ある程度高く設定してもいいですよ。手作りよりは安くしてくださいね」
わたしとしては投資額はせいぜい30金貨、300万円くらいまでしか出さないつもりなのだ。足りなけりゃ店主さんにも投資して貰わなきゃね。
商品の売価が6千円としたら、1割は600円。300万円を回収するには……5千個売ればいい。ヘキサリネだけじゃそこまで売れないかもだから、隣国にも売ろう。
「ミリヤやワリナ、オルデンドルフにも販売しましょう。話を持ちかける
「分かりました。これで契約しましょう」
わたし達はもう一度握手した。
「よいお話ができました」
「こちらこそ。って、わたし、明日から使う旅道具を買いに来たんです! そのコッヘルセットがあれば一番だったけど、ないのは仕方ない。出来るだけ軽くて壊れにくい、カップとお皿ください」
「おお、そうでしたか。金属なら割れませんが、軽いとなると木製ですかね?」
見せてもらうと、木のは少し厚みがあるので小さくはないが、軽くて壊れにくく、ピッタリに思えた。
「木製はあまりお勧めじゃないんだけどね」
しかしリネールさんはそう言った。
「どうして?」
「木製は食べ物の水分がしみ込むだろ? 水が十分にないところでは洗えないから、ふき取るだけになったりする。そうすると臭いがついたり、カビが生えたりするんだ」
「あ、そうかあ。わたし、きっとひ弱だろうから、カビたお皿とか使ったらすぐお腹壊しそう。やめた方がいいなあ。そうなるとやっぱり金属製かな」
ということで、金属製のお皿とスープ用の深皿、それとコップを所望した。縁に装飾が入っててキャンプ道具らしくない。
他にフォークとスプーン。箸は木で自分で作ろう。ナイフはお師匠様の持ってたのが数種類あるから、それを使えばいい。
「あとは何?」
「寝る時使う毛布だね」
見せてもらうと、持って運ぶとあって、寝具の毛布よりも薄く小さい。ブランケットって感じの物だった。
材質は動物の毛、いわゆるウールのものと、綿製のもの。
ウールの方が温かそうだけど、少し重い。綿製の方が軽くてわたしに向いてそう。
「ウールの方が水に強いから、馬車移動ならともかく、野外行動用には綿製でない方がいいよ」
「そうなんだ。軽さは魅力なんだけどな。しかたない。それじゃウールので軽めのこれにして、それでふたつ折りにして……あ、すみませーん、こことこっちの辺を閉じられるように改造できる?」
わたしは毛布売り場の店員さんを呼んだ。
「え!? 完全に閉じちゃうんですか?」
「ダッフルボタンみたいなので開け締めできるのがいいな」
「はあ。できなくはないですが。締めると袋になっちまいますけど?」
「それでいいの。スリーピングバッグだもん」
「はあ?……」
そう。わたしの改造案通りにすると、ボタンで閉じたときは封筒型の寝袋になるのだ。
店員さんは怪訝な顔をするが、追加料金で請け負ってくれた。
「あと今度、試作品頼みたいの。できます?」
「試作品ですか? ちょっと待っててください」
店員さんは奥へ引っ込むと、スキンヘッドの人を連れてきた。
「お、あんたは万年Fランクハンターのマヤさんじゃないか!」
「ひぐっ! ど、どこでそれを!?」
「はははは! 普段はここで働いているが、俺も
「うえええ、お恥ずかしい……」
「何言ってる! やろうと思ったって出来ねえ伝説級のペナルティだ。俺はあんたのファンだよ!」
ははははと笑いながら、スキンヘッドの店員さんに握手を求められた。
うう、恥ずかしい。前科を自慢するなんて、暴力団じゃあるまいし。乙女への賛辞じゃないよ。
「俺はジョージ。それで試作品だって? 遠慮なく申し付けてくれ」
「ジョージさん。実は防水の効くクモの糸を外側にして、中に綿を詰めたもので、このスリーピングバッグを作ってみたいと思って」
「何、クモの糸で?」
「うん。ウールのはわたしにはちょっと重くて」
「ああ、この辺のウールはマンモスや毛長ウルフのが多くてな、重いんだ。……なるほど、それなら水にも強いし、軽いものができそうだな」
「鳥の羽が手に入ったら、綿を減らして羽を入れるかも」
「ふむ。しかしそりゃ材料費がかかさみそうだな」
「お金は出すから心配いらないわよ」
「そういやそうだ。マヤさんは荒稼ぎしてるって噂だしな。すごい量の魔石の粉を持ち帰ったって聞いたぞ?」
「そ、それは、話半分で受け流してください」
ハッハッハッハとジョージさんは笑って、今度打ち合わせしようと快く引き受けてくれた。
「さて、水に強いの弱いのって話が出てたけど、リネールさん、雨の時はどうするの?」
「雨が降ってきたら、急いで雨を凌げるところを探して避難するだけだよ」
「雨の中は歩かないの?」
「濡れちゃうじゃないか」
「合羽とか着ないの?」
「カッパ?」
レインウエアとかないのかな。
「しいて言えば、マントやサーコートなんかが雨避けになるから、それで騎士や兵隊なんかは雨でも移動続けるってのはあるけど。でもまったく濡れないわけじゃないから、ハンターは普通なるべく早く雨宿りだね」
「えー、それじゃ雨宿りするところ見つからなかったら、ずぶ濡れで夜も寝られないじゃん」
「そんな時は、急いでシェルターを作るんだよ。木の枝で骨組み作って、周りに葉っぱを立てかけるのが多いね」
「テントとか、天幕とかないの?」
そこにジョージさんが入ってきた。
「野外行動用の天幕を最近開発したんだ。使ってみないか?」
リネールさんは眉をひねる。
「天幕って、屋台の店なんかが使ってるやつだろ? 分厚くて重たくて、徒歩で持ち運ぶようなもんじゃないだろ」
「野外行動用だって言っただろ?」
ジョージさんは棚から折り畳まれたシート状のものを下ろした。
「綿に特殊な油を染み込ませたものだ。ペラペラに薄いだろう? これを張れば屋根代わりになる」
おお、周囲に紐を通すグロメットがあって、完全にタープだねこれ。ナイロンじゃなくて布っていうのがいかにもこの世界らしい。
「こりゃいい。断然軽いじゃん」
シートを広げてみたリネールさんが気に入ってそう言った。
しかしそこで、わたしは思い出した。わたしのいた世界のアウトドアグッズを。
「あ、ジョージさん! これを一畳くらいの大きさにしてくれる!?」
「いちじょう?」
「あ、ええとね、これくらいの大きさ」
「するってえと、こっちの奴の半分ってとこか。一人用か?」
「うん。それでね、真ん中に穴を開けてほしいの」
「真ん中に穴? 雨露を防ぐためのシートなのに、それじゃ雨入っちまうぞ?」
「その穴にね、わたしが今着てるこの服のフードみたいのを被せるの」
わたしのレイバーマン風アウタージャケットにはフードが付いている。それを見せた。
「その頭巾みたいなものをか?」
「まあいいから、穴開けてみてよ」
「失敗しても買ってもらうぞ?」
「オーケーオーケー」
ジョージさんはもったいなさそうに丸く穴を開けた。
「そしたらね、このシートを頭から被って、穴から顔を出すでしょ」
ジョージさんとリネールさん、そしてずっと横で見てたサンドラちゃんの目が、大きく見開かれる。
「腕はここから出す。腕を出した下はボタンで閉じられれようにしてほしいな。こうすれば雨の中でも歩けるよ。それにこのまま木に寄りかかって腰掛ければ、土砂降りでないかぎり、休むことだってできるよ」
つまりこれ、ポンチョってやつだね。
「あ、ボタンで2つを繋げて、大きくできるようにするっていうのも有りだね。もちろんグロメットも残しとけば、紐で張って元の天幕としても使えるよ」
「すげえ! マヤさん天才だ!」
お、ジョージさんのこの反応は、商品化決定コースだね。
「はいいー、このアイディアで商品作ってもいいけど、その場合は売値の1割をわたしに納めて下さい」
「店長に言ってくる!」
ジョージさんは駆け出した。
まあこれもわたしのアイディアじゃなくて、元いた世界の軍隊が使ってるポンチョに、こういうのがあったのを思い出したわけなんだけどね。
「何! マヤさんがまた新しいアイディアをだと!?」
店主のソレイユさんを引き連れ、ジョージさんがダッシュで戻ってきた。
「見てくだせえ。マヤさんが今着てるのは、例の野外用天幕ですぜ。天幕としての機能を持たせたまま、雨用マントにしちまったんです」
「おお!」
「ポンチョね、ポンチョ」
というわけで、ポンチョについても製品化した時の覚書を交わして、ジョージさんにポンチョの試作品を3枚ささっと作ってもらった。サンドラちゃんとリネールさんの分ね。
「さっそく明日からの採取旅行で使ってみるから、改良点見つけたら直しをお願いね」
「引き受けたぜ、マヤさん」
ジョージさん、店主のソレイユさんとも色々仲良くなって、またアイディアが浮かんだら相談してくれと言われた。
明日から使うようのザックも買い、ブランケットと、試作のポンチョをザックに詰める。
ザックを背負うと、このまま旅に出かけられそうな様相をして、わたし達はキャンプ道具屋を後にした。
「わたし達の分までありがとう、マヤちゃん」
「ポンチョはパーティーのお金で買ったんだから、わたしがお礼言われる必要はないよ」
「サンドラ、パーティーの金使わせてくれてありがとう」
「そうそう。この反応が正しいのよ。それで次は何?」
「野外行動食だね」
次は食料の調達のようだった。
「マヤさん」
「なに?」
「次の店でも何か商売始めるの?」
「何それ、どゆこと?」
「服屋でも、旅道具屋でも、マヤさんの発明新商品で新事業立ち上げてるからさ」
そういえばそうだ。
でもそれは仕方ないじゃん。わたしが使うとなった場合、この世界の品そのままだと口を挟みたくなるんだもん。
わたしの要求も、この世界の材料や技術レベルから大きく逸脱してないし、あとはお金でちょっと後押ししてるだけ。
「自分好みのものが欲しいだけよ」
「それじゃ次も期待してるよ。野外行動食って旨くないからさ」
「食べ物かあ。食べ物は難しいかもねえ」