異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第49話「採取探検旅行へ出発!」

 

 翌日、宿で早めの昼食を取って、大荷物を担ぎあげると、わたし達は宿を出た。

 いよいよ1週間の採取旅行に出発だ。

 わたしは新調したレイバーマン風のフィールドジャケット&カーゴパンツといういで立ち。勿論甲虫の殻のプロテクター入り。

 サンドラちゃんはいつもの薬草採取の時と同じ格好に加えて、新しいウィンドブレーカー。勿論甲虫の殻のプロテクター入り。

 リネールさんだけいつもの服装だ。可哀そうに。

 

 角を曲がってハンターギルドの前の道に出る。

 おお! まるで遠足の日の集合のようだ。

 ギルドの前には、孤児院の子供達が、それぞれ背中に大きく膨らんだザックを担いで、わいのわいのと集まっている。

 

「サンドラ姉、おはよう!」

「おはようー。皆体調はいい?」

「「「「はーい」」」」

 

 レオさんやリエラさん達も、格好良くマントを羽織って現れた。

 

「わあ! Sランクハンターだ!」

「かっこいい!」

「こっちのお兄さんは初めてだわね?」

 

 孤児院の子達の最年長、ニーシャがレオさんの連れてきた青年を見上げる。

 

「クーノ・ヴェスタルノ。Aランクの冒……じゃなくて探検者(エクスプローラー)だ。護衛役を仰せつかった。約1週間仲良くやろうぜ」

 

 クーノさんが気さくに挨拶すると、男の子達が沸いた。

 

「すげえ、Sランクに続いてAランク探検者かよ! 護衛じゃなくて、何かの討伐隊みてえだ!」

 

 特に大喜びなのは、孤児院の男の子の中でも一番やんちゃなイレム。もう薬草摘みの依頼の事なんか忘れて、この採取旅行中狩猟する事で頭の中は一杯になってるのが見え見えだ。

 一方のリエラさんが連れてきたのはメイド服の女性。こちらは孤児院の女の子達に取り囲まれた。

 

「メイドさんだ!」

「その格好で行くの!?」

 

 リエラさんが皆にフィリアさんを紹介した。

 

「私の友達のフィリア。護衛侍女(エスコートメイド)の修行中で、いい機会だから休みを取って来てもらったのよ。護衛侍女(エスコートメイド)のメイド服は、そんじょそこらの野外服より丈夫だから、野外行動でもなんら問題ないわ。心配しなくて大丈夫よ」

 

 フィリアさんが感激して頬を真っ赤にしてる。リエラさんに「私の友達」と言われたのがよっぽど嬉しいのね。本当はミリヤ皇国の第1皇女様とお付きのメイドなわけだから。

 フィリアさんはすぐ咳払いして気を落ち着かせると、姿勢を正し、静かにお辞儀をした。

 

「フィリアです。皆様どうぞよろしく」

「わあ、素敵!」

「きれいなお辞儀! 本物のメイドさんってこうなのね!」

「フィリアさん、作法とかいろいろ教えてください!」

 

 フィリアさんを囲ってる女児達の顔はやけに真剣だ。お姉さんを慕って集まっているって感じじゃなくて、つまりこれは、タダで教えてもらえる良い教師が来たと思っているんだ。

 いずれ孤児院を出て独り立ちしなければならない女児達は、良いところで働けるようにするには引出しは多い方がいい。作法などをきちんとした人に教えてもらいたいんだけど、孤児院に講師など呼んではお金がかかってしまうので無理。なのでこんな機会を見逃すはずはないのだ。(たくま)しい。

 

 ギルドの建付けの悪いドアがギギギ、ギゲッっと音を立てて開いた。あのアンフィスバエナ騒動の時、どこかのハンターが勢い良く開けたせいで、元々開きにくかったドアがとうとう傾き、完全に閉まらなくなってたのだけど、無理やり力技で閉まるように直したらしい。交換するという考えはないのかしら。

 開いたドアから、ギルドマスターのジオニダスさんと受付嬢のケイトさんが降りてきた。ギルドの前が騒がしくなったのを聞きつけたのかな。

 

「サンドラ、もう行くのか。今日出ると薬師協会の指定日より1日早く着くぞ。孤児院の子達の歩く速度を考えてか? この年長者達なら大丈夫だと思うが?」

「あ、別にそう言う訳じゃないの。むしろ足の遅さを心配するなら、孤児院の子じゃなくてマヤちゃんかな」

「はうっ!」

 

 わたしは何かで撃たれたかのように手で胸を押さえてよろめく。

 

「なら意図して1日早く着こうというわけか」

「えへへへ」

 

 サンドラちゃんは笑って受け流した。

 

「どうもお前といい、お前の母親といい、薬師協会の予想日なぞ気にせずに採取してるよな。何か違う予想の立て方があるのか?」

「さあ?」

「言うわけないか。そりゃそうだよな。……他のパーティーにも1日早く行かせた方がいいか?」

「行ってもいいけど、薬師協会が指定する日もちゃんと採取しないとよ? 1泊増えると負担の大きいパーティーもいるんじゃないの?」

「その負担をギルドで負ってもいい。それで夏の疫病を避けられるならな。それくらいヤバい事態だと俺は思ってる」

 

 サンドラちゃんは曖昧な笑顔から真顔になった。下を向いて指を咥え、少し考えると、再び顔を上げてギルドマスターに向き直った。

 

「なら行ってもらってください。多分薬師協会指定の日より多く採れると思うの」

「なんだって!?」

 

 ギルドマスターは耳を疑った。

 

「マスター、わたしが言ったって皆には言わないでほしいの。行かせるのなら、マスターの方で何か理由をつけてほしいの」

「……分かった。薬師協会より正確な予想が立てられるとなったら、お前の身に何かあるかもしれないからな。

 ……そうだな。予定群生地の周辺も探査するとか理由を付けて依頼を追加しよう。予定群生地が咲いてない可能性もないとは言えないからな。その場合、1日早く着けば別の場所を探す時間が取れて、薬師協会の予想日には新しい場所での採取ができるわけだ。十分理由になるだろう」

「ありがとう、マスター」

「構わん。俺が死ぬ前に、その予想の秘密を教えてくれると有難いな」

「うん。マスターになら、いいかな」

 

 ギルドマスターは強面の顔に笑顔を作って--マヤから見たら不気味でしかないのだが--サンドラに答えると、他の面々の方に向いた。

 

「みんな、よろしく頼むぞ。怪我などしないように気を付けてな。護衛役の……」

 

 護衛役が隣国の王子と皇女だったので、マスターは頬を引き攣らせる。

 

「護衛役も……頼むから怪我しないでくれ」

 

 レオさんはニヤついた顔で手をひらひらさせて応じる。

 わたしはケイトさんに肩をたたかれた。

 

「よかったわね、万年Fランク。Sランクのレオさんのもとなら、アンリミテッド・パーティーの肩書が最大限に活きる。文字通り青天井で何でも狩れるわ。ドラゴンでも捕まえてきなさいな」

「ぶるるる。そんなおっかないの、イヤです! っていうか、ドラゴンっているんですか!?」

 ケイトさんは「見たことないけど、いるらしいわよ~」と脅すような顔で見下ろして言ってくる。さーっと血の気の引くわたしの腕をサンドラちゃんが引きずって、わたし達の合同パーティーは出発した。

 

「それじゃ、行ってきまーす」

「「「行ってきまーす!」」」

 

 

 

 

 領都の門へ行くと、ギルドの依頼書を見せたとたん、衛兵達が姿勢を正した。

 一番年齢の高そうな30代後半くらいの兵士が号令を取った。

 

「皆さん気を付けて! 無事薬草が採れますことを」

 

 兵士達が“捧げ剣”の姿勢で見送る中を、子供達はキョロキョロ、ソワソワと恐縮しながら門をくぐっていく。

 マヤは号令を取った兵士に、そそっと歩み寄ると尋ねた。

 

「失礼します。あの、薬草採りに行くだけなのに、どうしてこんなに物々しいお見送りを?」

 

 兵士は優しく微笑んで答えてくれた。

 

「直近に起きた疫病は25年前でした。あれは……悲惨でした。私も兄弟を亡くしました。もうお分かりですね。これは皆の希望なんです」

「そ、そうだったんですね。領都に25年以上いる人には切実な事なんだ」

「あなたにも幸運がありますことを」

「ありがとう。頑張るわ。それじゃ行ってきます」

 

 マヤも門をくぐると、背中の重い荷物を揺すって皆を追って駆けて行った。

 

 

 

 

 一行はまず南街道を少し行く。

 そして大きな交差点で西街道へと折れる。

 その後は整備された街道をひたすら歩いた。

 後ろから駅馬車が追い抜いていった。

 あんないいものがあるのか。あれに乗って近くまで移動すればいいじゃん。わたしがそう言うと、

 

「そんな中途半端な距離乗る人はいないよ。それにこの人数じゃ、いっぺんには乗れないしねえ。孤児院の子達だって乗車賃払えないだろうし」

 

 わたしの前を行くリネールさんが振り向いて答えた。

 どうやらコミュニティバスみたいに気軽に乗り降りするものじゃないらしい。

 

「この街道をずうっと行くと、どこまで行けるの?」

「5日程で西外周街道に着くよ。西外周街道ってのはヘキサリネ領の西側山脈の麓に沿った道で、領の西の端だ。西外周街道を左に行くと、やがて峠道になって、山脈の峠を越えると向こう側はミリヤ皇国だよ」

「リエラさんやフィリアさんの国だ」

「西外周街道を右に行くと、タウエルンやウェストバレーといった町があって、山脈が低くなったところから魔境の森が広がってる」

「魔境!?」

「人が容易には住めない魔物の生息域だよ。ヘキサリネでも一番魔素が濃い地方で、魔物の素材や魔石の産出地だね。山脈を越えた向こう側の森が本魔境。上位ランクの探検者(エクスプローラー)でも入るのは危険な所だ」

「ヘキサリネにもそんなことろがあるんだ」

「ヘキサリネ領は山脈の内側まで。その外の本魔境はどこの国も領有してない。っていうかできないね」

「どれくらいに広いの?」

「ヘキサリネの4、5倍って言われてる。この魔境とはワリナ王国やミリヤ皇国も接しているんだよ」

「そうなんですか?」

 

 問いかけるとレオさんは頷いた。

 

「ヘキサリネは山脈があるからいいが、ワリナは平野の森で繋がっているから、放っておくとどんどん魔物が入ってくる。だから国境に砦を築いて、魔物討伐専門の軍隊を常駐させて、定期的に国境付近の魔物を狩って減らしてるんだ。その時に魔物の素材や魔石が手に入るから、それらには困らねえぞ。魔物とやりあいたきゃあ、ワリナに来ればいい」

「ミリヤはどうしてるの?」

 

 こちらはリエラさんに聞く。

 

「ミリヤの場合、魔境との境に緩衝地帯になる湿地と森があるのよ。そこを見張ってて、越えてきた魔物はすぐ討伐されるわ」

「ほええ。魔境と接してるって大変なんだね」

「なかでもヘキサリネの魔境は人気があったんだ」

 

 リネールさんは自慢げに続ける。

 

「ヘキサリネは山脈で仕切られてるから、越えてくる魔物の数は少ないけど、山脈の向こう側は魔境の深部、本魔境なんで、めっちゃ魔素が濃くて、強力な魔物が多いんだ。他の国は魔境の淵から本魔境に行くまで距離があるけど、ヘキサリネは山脈越えればいきなり本魔境だからね。だからその昔、あちこちから凄腕の“冒険者”が集まって来てたんだ。

 ヘキサリネでも若いのが度胸試しに行くのが後を絶たなくて、若い人がいっぺんに大勢死んだなんて時があってさ。働き手がごっそりいなくなったもんで、動物や魔物のランク付けと、ハンターのランク規則が厳格化されるようになった。ヘキサリネでは冒険者という言葉が使えなくなるっていうきっかけになった事件だね」

「その話、ギルドで教わったね。そこの魔境でのことだったんだ」

「そんなわけだから、タウエルンやウェストバレーは、魔境へ向かう冒険者が集まって、たいへん賑わってたんだよ。今は規制が厳しくなったせいで、こじんまりしちゃったけどね。でも今でも良い鍛冶職人や、武器防具職人が揃ってるよ」

「ふうん、なるほどねえ。かつて冒険者で栄えた町か」

 

 そしてそれはマヤにとって気になる地名でもあった。

 

 『タウエルン』

 

 お師匠様が訪問しようとしていた、ターニャという人がいると思われる町だ。マヤの当面の目標となっている地である。

 

「そうか。そこは魔境の玄関口の町なのか」

 

 これはしっかりした準備をして行った方がいいなと思うマヤであった。

 

 

 

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