異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第50話「西の道の駅でキャンプご飯」

 

 領都を出て4時間程歩いただろうか。子供達は疲れることを知らず、しかしマヤは足の裏に疲れを知る。

 ここまで高低差はほとんどなく、ほぼ平坦な道ではあるが、歩くスピードが子供達含め、皆さんけっこう速いのである。

 

「ねー、そろそろ休憩しようよー」

 

 わたしは早くも音を上げていた。

 

「もうちょっとだから頑張って、マヤちゃん」

「もうちょっとって?」

「あ、あそこだよ。今日の目的地!」

 

 道の脇に数軒のお店が並んでいるのが見えてきた。近付くと奥の方にも大きな平屋の建物がある。見たことある外観だなあと思っていたら、思い出した。

 

「あ、これ道の駅だ」

 

 前泊して翌日早くに領都入りしたり、領都から旅立った者には休息にちょうどいい距離のところにある、休憩や野営ができる施設だ。リトバレーと行き来する時、毎度寄っている『領都の東4時間』とそっくりな作りである。

 大きさはあっちの半分程で、食事処、馬具や旅道具の修理整備や販売をしているところ、トイレ、後ろには野営場があるのも同じ。宿屋だけは見当たらない。あったところで道の駅の宿屋は小さすぎて、泊まれたためしはないけど。

 

「『領都の西4時間』だよ」

「うわー、名前もそのまんま。やっぱり東西南北にあるんだ。今日はここに泊まるの?」

「ここならハンターギルドの人が常駐してて、治安いいからね」

「場所取りしてくるのだわよ」

 

 ニーシャが子供達を連れて、野営場の方へ駆けて行った。

 東の道の駅と違って規模が小さいのは、西の交易規模が小さいからだ。ミリヤ皇国との国交が正常になったのはここ最近なので、まだまだ商隊の行き来は少なく、ヘキサリネの西の町との通運と、こっち方面の狩場へ行き来するハンター達が主な利用者だ。

 

 リエラは腰に手をやって道の駅を眺めると、隣にいるフィリアに力を込めて言った。

 

「ここがミリヤの馬車でいっぱいになるようにしなきゃね!」

「マリエ……いえ、リエラさんも国の事ちゃんと考えてるんですね」

「なにその意外そうな顔」

 

 

 

 

 野営場へ行くと、広い芝生のところで孤児院の子供達が手を振って待っていた。

 

「アイポメアニール採取の依頼書見せたら、タダで泊まっていいって言われただわよ」

「おお、特別待遇だね」

 

 どうやら領都のギルドから連絡が来てるみたいだ。

 

「それで今日は天気もいいから、この辺にしたのだわね」

「わあ、芝生がふかふかで気持ちいい。もし天気が悪かったら、どういうところを選ぶの?」

「雨風がしのぎやすい木の下とか、少し高くなって水がたまりにくいところとかだわよ」

「へー、ニーシャちゃん旅慣れてるねえ」

 

 てへへへと、ニーシャは照れる。

 

「それじゃ寝床を作ったら、夕食の準備しようー」

 

 サンドラちゃんの号令で皆は荷物を下ろした。

 まず子供達は野営場の横にある東屋に枯草を取りに行った。そこには干した牧草みたいなのが積んであって、それを持ってくる。わたし達の分も持ってきてくれた。そしてそれを寝る場所の地面に広げる。芝生があるとはいえ、地面からの冷気や湿気への対策だそうだ。そしてその上に毛布を敷いて寝床の作成は終わり、らしい。

 

「サンドラちゃん、夜露とか朝露なんかは降りないの?」

「この季節はまあまああるよ」

「毛布濡れちゃわない?」

「勿論濡れるから、出発までの間に広げて乾かすの。それでも乾いてなければ、あとは歩きながら乾かすの」

「最初から濡らさなきゃいいのに。ポンチョ使おうよ」

「あ、そうか!」

 

 それを聞いてリネールさんもポンと手を叩く。

 

「マヤさんが旅道具屋で作ってくれたポンチョか。別に雨でなくても、こういう時から使えばいいんだ」

「もとから野営用の天幕っていってたじゃん。わたしは1人用のサイズに作り直してもらったけど、もともとこういう用途のためのものでしょ」

「マヤさんが雨具としてアピールしてたから、雨用って勝手に思い込んじゃったよ」

 

 サンドラちゃんとリネールさんはポンチョを出すと、寝床の上にばさあっと掛けた。

 

「この下に潜ればいいよね。着てもいいし」

「うーん、それじゃ格好悪いなあ」

 

 わたしは木の枝を拾って来ると、ペグを何本か作る。そして1mくらいの枝を2本突き立て、ポンチョの長辺2箇所のグロメットに刺し、反対側は地面にペグで固定する。枝の方はさらにロープを引っ掛け、前の方の地面に刺したペグと結んでテンションを掛けてポンチョをピンと張った。ポンチョをタープとして使う方法だ。あ、勿論真ん中の頭を通すフード部分は、結んで閉じておくよ。

 そしてタープの下に枯草を敷いて、ブランケットを広げ、寝そべってみる。

 

「横殴りの雨でもなけりゃ、小雨くらいなら十分防げそうね」

「わあ、シェルターみたい!」

 

 子供達が集まってくる。

 

「なにこれ、マヤお姉ちゃん!」

「屋根ができてる!」

 

 リエラさんとレオさんも興味津々な顔でやって来た。

 

「マヤさん、これは?」

「ポンチョっていう雨の日に着るものだけど、こうして天幕にもなるの」

「雨の日に着るものだって?」

「ほら、こうすると雨の中でも歩けるんですよ」

 

 リネールさんがポンチョモードにして、実際に着て見せた。レオさんとリエラさんの目の色が変わる。

 

「……荷物も背負ったままでいいのか」

「……でも剣とか長物があると着にくそうね」

「それは外でもいいんじゃないか?」

 

 やば、この人達、もう兵隊に採用すること考えてる。

 

「あ、あの、すみません! このポンチョはヘキサリネの旅道具屋の製品だから、欲しかったらそこで買ってね!」

「ああ、数着買って、国へ送ろう」

「簡単な構造だから、うちの国でも作れるわね」

「ええー、特許とか、デザイン保護とかこの世界ないの!? 真似されちゃったら、そっちの国では売れないじゃん! しかも安く作られたら、ヘキサリネのお店のが売れなくなっちゃう! 早くも価格競争!?」

「何言ってんだ、マヤ」

「ねー、いずれ一緒の国になるんだから、これの製造はヘキサリネでいいでしょう? 考えたのこっちだし」

「何年後の話だそれ。それに他の国も真似するんじゃねえの?」

「むがー、これだから法の整備されてない世界は! こうなったら性能で差別化するしかないわね。サンドラちゃん! 防虫効果のある薬草のエキス滲み込ませて、虫除けにもなるのに改良するよ!」

「いいアイディアだけど、雨で流れちゃわないかなあ」

 

 

 

 

 しょんぼりしている間に、サンドラちゃんとリネールさんもタープを張り終わると、食事の用意に入った。

 

「俺達は店で食って来るよ。串焼きとか旨そうだったし」

「若、酒もちょっとばかりいいですかね?」

「明日支障がないようにしろよ」

 

 レオさんとクーノさんは道の駅の食事処へと歩いて行った。

 

「いいなあ、S、Aランクのお金持ちは」

「でもあんな贅沢してたら、ギルドの報酬じゃ足らなくなっちゃうよ」

 

 指を咥えて後ろ姿を見送る孤児院の子供達。見ると、彼らの持ってきた食料は基本わたし達が食料品店で買ったものと同じような構成だけど、質は明らかに劣っていた。

 硬パンはところどころカビがある。肉はかなり塩気のきついもののようだ。乾燥野菜に至っては殆どクズ、というか、欠けたり崩れたりして粉のようになったのを掻き集めたらしいものだった。孤児院の少ない予算の中で揃えられるのは、こんな程度なんだろう。

 

「串焼き肉を皆に1本ずつ買ってあげる!」

 

 思わずわたしは立ち上がってしまった。いけない施しかもしれないけど、道の駅の1泊くらいはゆるして!

 

「私も行きます」

 

 フィリアさんも一緒に立ち上がった。

 

「皆さんは、パンだけ用意しておいてください」

 

 そう言うと、フィリアさんはわたしに付いてきた。

 

「フィリアさん、何か作るの?」

「ええ。皆さんにスープをお作りします」

「いいの?」

 

 お上品に微笑み返された。

 

「お任せください」

 

 

 

 

 フィリアさんが自信ありげに言うわけだ。

 わたしが子供達にオークの串焼き肉を1本ずつあげて感激されている間に、フィリアさんはそれはもう手際よく調理をした。

 

 まずは買ってきたオークの肉、生の玉ねぎや人参、キャベツやネギのような葉物を刻む。野菜や肉は結構大き目に切られてる。

 次にフィリアさんは空中に手で四角を描いた。そしてそこに両手を入れて黒い鉄の塊を取り出した。

 

「わっ! 空中から鍋が!」

「ええ!?」

 

 子供達が驚くのも当然だ。そう、リエラさんの法力『ストレージ』だ。取り出されたのは、大型の所謂ダッチオーブンだった。

 

「熾火もいい具合にできたし、いいわよ」

 

 フィリアさんが下ごしらえをしている間に、リエラさんは焚火を準備していた。

 

「ありがとうございます、リエラさん」

 

 具材を入れ、幾つか調味料らしきものも投入されたダッチオーブンが焚火にくべられる。

 

「フィリアさん、その法力、旅においてはそれダントツに便利なチート能力じゃないですか!」

 

 わたしは思わず叫んでしまう。

 

 物を無限にしまえる道具や魔法。異世界に転生したチート野郎には必ずついてくる特典じゃない。

 なぜにわたしにはそれがないの!? そういうチート能力がないと、お話が楽に……じゃなくて面白く進まないじゃん! 苦労して背中に荷物背負って、バテて苦しむ主人公を見て何が楽しいの!? 他にも瞬間移動とか、空飛べるとか、わたしも転生者として転生特典が欲しい! 瞬殺技だけはあるけど。

 

「もしかして、この旅の為に生肉とか、生野菜とか持ってきてるの!?」

 

 ニーシャが物凄い驚きと期待の目をして聞いてくる。

 フィリアさんは火加減を調整しながら答えた。

 

「ストレージに入れても物は腐りますから、生でも日持ちするお野菜は持ってきましたが、肉類は塩漬け、燻製ものになります。でも量はたっぷりありますから、ご安心ください」

「「「「わあああ!」」」」

 

 子供達は歓喜に包まれる。

 

「あ、チート野郎のみたいに、ストレージの中は時間が止まったりするわけではないんだ」

「なんですかマヤさん? ちぃととか、時間がどうのとか」

「い、いえ聞き流して。それじゃストレージに氷とか入れても、フィリアさんは寒くなったりしない?」

「大丈夫ですよ」

「じゃあ、今度生肉は凍らせて持っていきましょう! わたしがマイナス200度の氷を出すんで、すぐにコチコチにできます。凍らせれば新鮮な状態で何日も保存できるからね。わたしがいれば氷はいつでも補充できるし」

「まあ、あのアンフィスバエナを凍らせたときのですね? 確かにあれなら新鮮なお肉を持ち運べますね」

 

 話しを聞いたリエラさんも乗ってきた。

 

「フィリアとマヤさんを組ませれば、食物輸送の最強コンビね! 通商運輸ギルドに所属して立派にやっていけるわ。マヤさん、やっぱりミリヤ皇国に来ましょうよ。お婿さん用意するから」

 

 まぁたリエラさんの勧誘が始まった。でも旅するときフィリアさんのストレージは超魅力的。お師匠様の目的を引き継ぐ旅に出る時、わたしがフィリアさんをヘッドハンティングしたいくらいだわ。

 

「ふふふ。ストレージの能力っていうのは、多くの法力持ちは自前で持っているのですよ」

 

 フィリアさんはそんなことを言った。

 

「え? わたしも持ってるの!?」

「マヤさんが出す氷とか、あの冷たい水。あれはどこにしまわれていると思います?」

 

 そういえば酸素は体のどこかに溜め込むって、お師匠様は言ってた。それって実は体っていうより、自分のストレージにしまってるってこと?

 

「水を出す法力、火を出す法力。こういった何かを出す法力持ちの人は、それをどこから出しているのでしょう。よく分かってないですが、おそらくストレージなんです。私の場合、出し入れできるものが決まってないというだけなのです」

「なるほど……。わたしはあの超低温の氷の元になるものを、意識して取り込んで溜めてるんだけど、それってストレージに入れてるのかもしれないのね。そういえばリネールさんは、火の元になる燃料はどこからか取り込んだりしてるの?」

 

 質問を投げかけられたリネールさんはキョトンとする。

 

「いや、俺は火の元になる“燃料”っていうのを自分が持ってるっていう自覚が、今までなかった。マヤさんから聞くまで知らなかったんだ。火を点けないで“燃料”だけ出すっていうのができてから、初めて理解したくらいだ。ただ“燃料”に限りがあるのは確かだよ。使い続けていると、そのうち火はでなくなるからね。でも時間をおけば、自然にまた出せるようになる」

「わたしみたいに意識して取り込んでるわけじゃないのね。自動的に作られるのかな。燃料って炭化水素だったから、取り込むってなると、石油やガスはその辺のどこにでも湧いてるもんじゃないから、補充するのがむずかしくなっちゃうもんね」

「なんだい? たんかすいそとか、せきゆやがすって」

「あはは。まあ燃料って事よ」

 

 先天的な法力は、自力で作って溜めるようになってるのかもしれない。オキシジェン・デストロイヤーは普通の人が先天的に持ってる法力とは別物のようだからね。違いがあってもおかしくはないよね。

 

 そんな話をしつつ1時間程が過ぎた。

 

「さあ、そろそろいいでしょう」

 

 フィリアさんが宣言し、ダッチオーブンで作ったスープが完成した。

 

「自分の食器を持って並んでください」

 

 子供達が陶器の深皿を持って並ぶ。みんな少し欠けたりヒビが入ったりしていた。早く金属プレス機で作ったコッヘルセットを完成させたいな。

 硬パンを置いた深皿に、リエラさんとフィリアさんが具だくさんのスープを注いでいく。ぷーんといい匂いが周囲に漂った。イレムなど男子達は、スープがパンに滲み込んで柔らかくなるのを待てず、思わずすすってしまう。

 

「う、うめえ!!」

 

 途端にバクバクと食べ始める。

 

「あ、イレム! パンにスープ吸わせないと食べられないだわよ!」

「うるせえ、待てるか!」

「うふふ、そういうのは自己責任ですよ?」

 

 フィリアさんはニコニコして他の子にもよそる。そしてわたしもよそってもらった。

 

「うわあ、本当に美味しそうないい匂い」

 

 匂いを嗅ぐとお腹が鳴ってしまう。唾液も蛇口が馬鹿になったみたいにドバドバと出てくる。

 たまらず一口すすってしまったリネールさんがカッと目を見開いた。

 

「うおおお!? 旅で食う食いもんじゃねえぞこれ!」

 

 リネールさんもパンが柔らかくなる前にガッツき始めた。

 

「リネールさん、パンで歯が欠けても知らないよ!」

「と、とてもじゃないけど待てねえよ!」

 

 サンドラちゃんに注意されるも、子供達同様に食べ続けるリネールさん。

 

「男って馬鹿ねえ」

 

 リエラさんはとても楽しそうにそう言った。

 わたしも同意したい。だけど、わたしは葛藤していた。そうなのだ。わたしもガッツきたいのだ。でもわたしは女子。欲を抑えられない男子とは違うのだ。

 違うの。違うのよ……

 

「マヤ姉ちゃんが泣いてる」

「スプーンを口の前にして固まって泣いてる」

「ホントだ」

 

 孤児院の子達に指さされてしまった。

 わたしは食べたい衝動をなんとか抑えて、パンにスープが滲みるのを今か今かと待つ。

 

 情けない姿を晒したけど、欲求と理性との戦いは理性が勝利した。

 パンにはスープが十分浸み込んで、水の滴るスポンジのようになっている。

 よく我慢した。えらいわたし! もう誰もわたしを止められないよ!

 

「いただきます!」

 

 両手を合わせて、日本人の食事のマナー、食材と調理した人に感謝の念を込めた食事開始の宣言をし、待ちに待った具材山盛りのスプーンを口に運んだ。

 

「くうううーーっ!」

 

 お肉は柔らかい。

 大きくカットした野菜ってこんなに甘くなるんだ。

 それらの味の染み出たスープは、徒歩行軍で疲れた体が欲する塩分を十二分に満足させる絶妙の塩加減がしてある。

 そして味を引き立てる香辛料!

 

「どんなものでも野外で食べれば美味しさ倍増なのに、圧力鍋の効果もあるダッチオーブンで作って、これはもはやレストラン!?」

 

 わたしもイレムやリネールさんのこと言えない速度でスプーンをかき込む。

 

「美味しい! フィリアさん凄いよ!」

 

 料理上手のお母さんに鍛えられた舌を持つサンドラちゃんでさえ叫ぶほどだ。

 

「まあ、お褒めにいただき、光栄ですわ。皆さん、もう1杯くらいお替わりできますよ」

「お替わりー!」

「お替わり!」

「お替わり!」

「オレが先だ!」

「何言ってんだ、俺の方が先に食べ終わったんだぞ!」

「こらーっ! 喧嘩したらお替わりあげないだわよ!」

 

 

 

 

 食事処から戻ってきたレオさんとクーノさんが、子供達から「超うまかった!」とフィリアさんの作ったご飯の話を聞いて、それはそれは悔しがっっていたのは知ったこっちゃない。

 それこそ自業自得ってやつよね。

 

 

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