異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
逃げようともがく2人の子供。だが動くほどに糸からは粘液が分泌し、子供達の腕が絡み取られていく。
「取れない!」
「このネバネバ、だんだん硬くなってきてるよ!」
糸から出る粘液はまるで接着剤だった。たった1本の糸で、子供くらいなら粘液で覆って動けなくしてしまうのである。
「暴れるな、よけい糸が絡みついて動けなくなるぞ!」
レオさんが叫んだ。
「リネール、火で糸を切ってやれ! クーノ、クモ探せ」
「了解!」
「クモここにいるよ! もう目の前にいる! 食べられちゃう!」
「慌てんな! 慌てて動いたりするなよ! リエラとマヤは他の子供達を頼む!」
「わかりました!」
「は、はいい!」
リエラさんとわたしは子供達を1ヶ所に集めた。サンドラちゃんとフィリアさんも手伝ってくれる。
レオさん、クーノさん、リネールさんは糸に絡まった子供のところへ駆け付ける。レオさんとクーノさんは剣を抜いてタイガー・スパイダーに対峙した。クモは獲物が横取りされると思って、前足をぶつけてカチカチと音を立てて威嚇する。
「前足が鎌状に進化してやがる」
「魔素の濃いところがあるのかもしれませんね」
2人がクモを抑えている間に、リネールさんは指先から法力で炎を出して、動けない子供達の糸を焼き切った。糸は簡単に切れた。リネールさんは手がくっついた状態のままで、2人を連れ去る。
それを見たクモが怒り出した。鎌のようになっている前足を振るって攻撃してきた。すかさずレオさんの灼熱化した剣がそれを受け止める。
ガイン! ジュワワワワ
剣は受け止めるどころか、クモの前足を溶かして切ってしまった。クモは驚いて数歩下がる。レオさんはニヤリと不敵に笑った。
さすがSランク。Bランクの魔物であってもまったく相手にならない。これが階級差というものだ。
子供2人は無事に、リネールさんによってわたし達のところに連れてこられた。
「よかったね」
「怖かった!」
「もう食べられちゃうと思った~」
前脚を斬られたクモは慎重になり、じりっじりっと位置を変えてくる。攻撃するタイミングを見図っているみたいだ。クモがあまり動かなくなってきたところで、レオさんはチラッと後ろを見た。
「クーノ、後方に注意だ」
「了解」
ゆっくりと位置を変えていたクモが、急にガバッと立ち上がって体を大きく見せて迫ってきた。それは襲い掛かるというよりは脅しのようだった。
クモは位置取りを考えていたのだ。レオさん達の後ろには、子供達が引っかかったのとは別の糸が張られていた。襲うと見せかけて圧力をかけて引き下がらせ、その糸に絡ませるつもりだったのだ。だがレオさんは糸に気付いていた。
2人は引くことなく、逆に剣を構えて前に出た。タイガー・スパイダーは威嚇が効かなかったと分かると、すぐさま攻撃に転じた。上体を少し引っ込めたかと思うと、口からぶぺっと液体を吐いた。しかしクーノさんの正面で液体は透明な壁に当たったかのように弾かれる。
「何度やっても無駄だぜ!」
透明な壁はクーノさんの法力『シールド』によるものだった。
粘液攻撃を防がれたクモは怒ったように突進してくる。その大きな巨体をして体当たりしようというのだ。わたし達からは、クーノさんと同じ背丈の鉄球がぶつかるかのように見えた。
が、またもクモは直前で壁に当たったようになって前進できなくなる。シールドだ。
「残念だったな」
クーノさんは剣を突き出した。それはシールドを突破してクモの頭に突き刺さった。頭を打ち抜かれたクモは電池が尽きたかのように動きを止め、地面に崩れ落ちた。
「すげえ! Bランクの魔物を難なくやっつけちまった!」
イレムは自分達の方の警戒そっちのけで、レオさん達の戦闘に見入っていたようだ。
「よそ見してる暇ないだわよ! 周りを警戒して!」
ニーシャが叫んでくる。
「どうしよう。これカチンコチンになってきたよ。どうやって取るの!?」
腕がくっついてしまった2人は、粘液が固まってきて焦っていた。リネールさんが来て、指先から炎を出して固まってきた粘液を下から焙る。
「火で炙れば溶けてくるはずなんだけど」
「リネール兄ちゃん怖いよ! そのままだと腕焼けちゃわない!?」
絵面的には下から腕を焼いているように見えるから、子供達は怖がって逃げてしまった。
「二人の腕を剥がすのは後にしましょう」
リエラさんがそう言って剣を抜いた。
木の上からがさりと音がする。
見上げると、そこにもタイガー・スパイダーの姿があった。木の上のタイガー・スパイダーは、左右に動きながらじわりじわりと近付いてくる。
「動きながら糸張ってるわ。こっちが動ける範囲を狭めようというのね。木にも登れる動物なら、もう木を伝っては逃げられないわね」
「マヤさん、凍らせ攻撃は?」
リネールさんが聞いてくる。
「わたし達の頭の上にいるからだめ。落ちてきた液体酸素や固体酸素がわたし達に降り掛かってきちゃうから、この位置だと危なくてできないよ」
「なんかよくわかんないけど、氷が降ってきちゃうって事?」
「まあそんな感じ」
「ならクモを下に落とせばいいのね。リネールさん、火で追い立てて落とせない?」
リエラさんの問いにリネールさんは少し考える。
「こっちから火を浴びせても、後ろに下がって逃げられるだけだ。いっそのこと木ごと燃やしちゃう!?」
「却下。火の始末も考えてから言ってね」
リエラさんに瞬時に返され、言葉に詰まるリネールさん。燃やした後の事は考えてなかったらしい。
そこでわたしは考える。後ろに下がらせたくないなら、後ろから追い立てればいい。
「正面でなくて、横へ回ってクモの後ろに向けて火を放てないかな。そしたらわたしが火を大きくするわ。後ろから焙られれば、クモも落ちてくるんじゃない?」
「マヤさん得意の攻撃技だね? いいよ」
「リエラさん、クモの注意を引きつけておいて」
「分かったわ。イレム、そんなに暴れたいならこっち来なさい。ここでナイフ振り回していいわよ」
「攻撃していいのか!?」
「攻撃じゃないわ。一定以上の距離離れたところから威嚇するのよ。粘液吐く動作に入りそうになったら教えるから、そしたら逃げなさい。そのまま突っ立っていると粘液かけられて、餌になるわよ」
「へっ、餌になんかなるかよ!」
「フィリア、他の子達をゆっくり下がらせて避難して」
「は、はい!」
孤児院の子達のうち1人残ったイレムは、鞘からタガーナイフを抜き取り、オラオラと威嚇を始める。
クモはイレムに注意を向けた。なんだかムカついているようで、脚をギシギシさせている。
わかる、わかるよ。いきがってるイレムを見てると、クモの気持ちが分かるよ。
「今だ。リネールさん、行くよ!」
「おう!」
イレムに注意が向いている隙に、わたしとリネールさんは気付かれないようにクモの横へと回り込む。そしてクモの後ろに酸素を充填した。
「
「おう! 驚けクモ野郎!」
リネールさんはクモの後ろへ向かって法力の火を放った。細い火が棒のように伸び、クモの後ろに到達すると、爆発的に燃え上がった。
ぼばあああ!
尻を焼かれたクモは驚いて木から飛び上がる。
だがそこはクモ。命綱の糸をしっかり引いている。素直に下へ降りることはなく、糸を使って振り子のように移動し、隣の木へ移ろうとする。
「させるか!」
リネールさんは糸を火で焼き切る。さしものクモも地面に落下した。
しかしそこで目を疑った。
「もらったあ!」
地上に落ちたクモに向かってイレムが突っ込んでいったのだ。
ナイフをクモの顔に突き立てようと振りかぶるイレム。だがクモは焦った様子もなくグイッと首を引く。粘液を吐く予備動作だ。
「イレム、粘液吐いてくるわ!」
「え?」
勢いよく突っ込むイレムは、
クモはぶべっと粘液を吐く。軌道変更のおかげで、イレムは全身に粘液を被るのは避けられたが、左足に粘液がかかる。とたんに地面に左足がくっつき、イレムはすっ転んだ。
「ああ、くそ! 足がくっついた! 取れねえ!」
自分から飛び込んでいったので、倒れたところはクモの目の前だった。まさにまな板の上の鯉。食べてくださいと言わんばかりである。
クモはイレムに毒牙を突き立てるべく、がばあっと振りかぶった。
「うわああああ!」
思わずイレムは目を瞑る。
「
どばっしゃあ!
クモの上から大量の水がかかった。水なのにクモの体や周辺の下草にツララが下がる。そのクモの脚も霜が降りて、ピシッ、パキッと音を立てて凍っていく。辺りには急に白くて冷たい霧が発生した。
冷たい霧を頬で感じたイレムは目を開ける。真っ白な霧の向こうで、水をかけられているクモがどんどん凍っていくのが目に入った。水がとんでもなく冷たいんだと、イレムは本能的に察知した。クモから滴り落ちる水が地表を流れ、イレムの方へも迫ってきた。
「わああ、来るな、来るなあ!」
「おっと危ない。
イレムの直前に青い氷の壁が立ちはだかる。液体酸素は固体酸素の壁に遮られた。
「さ、さぶう!」
しかし固体酸素はもっと冷たい。イレムにとってはこれもシャレにならない。
「一定の距離を取れって言ったのに、無視した挙げ句、まさかタイガー・スパイダーを倒しにいこうとするとは、思いもよらなかったわ」
リエラさんがゆっくりと歩いてくると、液体酸素で身動き出来ないでいるクモにトドメを刺した。
クモが動かなくなり、わたしが液体、固体酸素を回収すると、子供達が駆け寄ってきた。
「バカイレム、何やってるだわよ!」
「イレム兄ちゃん、やられたと思ったよ!」
「あれ、完全に死んでたよ!」
孤児院の子達からも誰一人としてイレムを褒めるものはいない。髪の毛に白く霜が降りたイレムが皆の方を向いた。
「え、俺、カッコよくなかった?」
「どこがだよ!」
「だってクモに切りかかって行ったんだぜ?」
「それでベトベトかけられて、動けないでいるじゃん!」
「マヤ姉ちゃんがクモを凍らせてなかったら、イレム噛みつかれてたよ」
イレムはぶすっとした。
そこへパシッとニーシャがイレムの頭をひっぱたいた。
「バカもほどほどにしなだわよ! 真上にいるとマヤお姉ちゃんの攻撃ができないから、木から下に落とすって作戦だったでしょ!」
「いてーな! 知ってるよ。それでリネール兄ちゃんが火で攻撃したんだろ。だから木から落ちたら、考える暇与えないうちにやっつけようとしたんじゃんか」
「下に落ちたらマヤお姉ちゃんが凍らせ攻撃するのだったわよ。なのにイレムが突っ込んでいくから、マヤお姉ちゃん困ってたわよ! ね?」
「はわっ!」
ニーシャに同意を求められたものの、変な叫び声を返してしまった。あまり気にせず液体酸素かけてたとは間違っても言えない。
「え? そうだったか?」
イレムはもっとバカだった。
「クモを下に落とせば氷が自分達に当たらなくなるから、何の心配もなく凍らせ攻撃ができるはずだっただわね。それなのに邪魔して、案の定あんたも凍りそうになるし!」
「氷じゃなくて、水が降ってきてたぞ!」
イレムがわたしの方を向いて抗議してくる。
「わたしが出す水は、その辺の氷なんかよりずっと冷たいのよ」
「なんだよそれ、最初に言っとけよ!」
「最初から凍らせるって言ってたじゃん。水をかけようが火を点けようが、結果凍らせるんだったら、何だっていいでしょ」
「クモの足凍らせたら、リエラ姉ちゃん、クモやっつけるの簡単そうだったね」
「ええ。動けない状態なら、あなた達でも倒せたんじゃない?」
「ボクでも?」
「あたいでも?」
「ええ」
簡単に倒せたと聞いて、イレムが起こり出した。
「なにい!? ちきしょう先言えよへっぽこFランク! ずりーぞ!」
「言ってたし。人の話聞かないで連携乱したイレムが悪いし」
わたしが突き放すと、イレムはぎりぎりと歯ぎしりをした。
「くそ、へっぽこFランクの法力は氷だったのか。凍らせて動けなくなったところをやればよかったのか。くそっ、くそっ!」
「わたしの法力は氷じゃないっての」
レオさん達が戻ってきて、リエラさんの肩を叩いた。
「やっつけたようだな」
「マヤさんのおかげで楽なもんだったわ」
「イレムがもめてたようだが?」
「人の話聞かないから、こうなっただわよ」
ニーシャがイレムを指さす。
「くそっ、この足どうやって取りゃあいいんだ!」
粘液が固まってきて、さっき以上に地面に貼り付いて、動けないでいた。
「自業自得だな」
「わたし達の腕も取ってぇ」
腕がくっついた2人もやってきた。
「この粘液は温めると溶けて柔らかくなる。ただしかなり熱くなるからな。火傷を覚悟しとけよ」
「「ええ!?」」
「何度くらいに温めるの?」
「確か50度くらいだ」
「それは大変!」
それを聞いた途端、サンドラちゃんは立ち上がった。
「わたし、火傷に効きそうな薬草探してくる!」
駆けるサンドラちゃんをリエラさんが追っていった。
「待って、一人で行くと危ないわ。私も護衛で付いていきます」
サンドラちゃんとリエラさんが駆けて行くのを見送ると、フィリアさんが顎に手をして呟いた。
「薬はともかく、火傷はなるべく早く冷やすのが良いです。流水があればいいのですが……」
近くに水が流れる音はしていない。この辺に沢などはないようだ。
「へっぽこハンターの出す水で冷やしゃあいいじゃんか」
イレムが口を尖らせて言う。
「あれは冷たすぎて腕が凍っちゃうよ。そうね、そしたらこれはどうだろ」
わたしは固体酸素を出現させ、青い酸素の氷をちくわ状に形作った。
「この中に腕を入れるのはどう? ただし周りの氷に触っちゃだめだよ。腕も凍っちゃうから」
「ええ! マヤ姉ちゃん、怖いよそれ!」
不評なようだ。まあ確かに危ないよね。
「えー? ……じゃあ普通の氷作るか」
わたしは固体酸素を立方体にし、上に四角い凹みを作る。水筒を出し、その凹みに水を注いだ。水はすぐさま凍って氷になる。その氷を取り出した。
「これなら危なくないよ」
「素晴らしいです! 布で包んで、火傷したところに当てれば完璧です」
氷を渡すと、フィリアさんが氷嚢を準備した。
「それじゃ粘液の塊を溶かすのはどうやるの? リネール兄ちゃんの法力の火は怖いんだけど……」
腕を固められている子が少し怯え気味に訪ねてくる。
「俺がやろう」
レオさんが二人の腕を固めている粘液の塊に手を当てる。
「俺の法力は灼熱。触れたものを熱する事ができる。鉄も溶けるほどだ」
「うわあ、熱くなってきた!」
「なるべく早く済ませるが、我慢しろよ」
「熱い、熱い!」
粘液の塊が溶け出した。とろとろボタボタと溶けていくのも構わずさらに熱すると、水のようにさらさらとなって流れ落ちた。しかし……
「熱いよう!」
その頃には子供には耐えがたい温度になっていた。
「終わりだ、冷やせ!」
「はい!」
フィリアさんが素早く水筒の水で洗い流す。そしてわたしの作った氷を包んでいる布で、赤くなった腕を包んだ。
「ふわあ、気持ちいい」
「助かったあ」
そこにサンドラちゃんが到着した。
「いい薬草があったの」
サンドラちゃんの方に振り向いたわたしは、思わず叫んでしまった。
「うわ、でっかいアロエだ!」
サンドラちゃんが持ってきたのはアロエの葉だった。わたしのいた世界でも火傷にはアロエが効くと言っていたけど、ここでもそうらしい。
肉厚の葉で、葉の端にトゲがあり、先端にいくほど細くなる形は同じだ。ただ大きさが半端ない。サーフボードのようだ。
「ベラロカイっていって、この葉の中の透明なのが火傷に効くの。それとこれ」
「あ、これ前に見たね」
こちらは丸みのある深緑の葉っぱだ。ポーション作りに使ったやつだ。
「リトバコルデート。火傷の痛みを取って、皮膚を直してくれるわ」
サンドラちゃんは法力を発動させながら、それらを混ぜ合わせる。薬の効能を5倍に引き上げる法力だ。それで湿布薬を作った。
「すぐ冷やしたから、火傷もたいしたことなさそうね」
「うん。すこしヒリヒリするだけ」
「それなら、これ貼っておけば、夕方待たずに直っちゃうよ」
「わあ、ありがとうサンドラ姉!」
「ありがとう!」
さて次はイレムである。レオさんが地面とくっついた足の粘液を溶かしているところだった。
「あぢぃーー!!」
「我慢しろ、これくらい」
「もう柔らかくなってきたよ、もういいだろ!」
「もう少し待て。……よし、溶けきったぞ」
フィリアさんがやってきて、イレムの足を持ち上げた。
「洗いますね。マヤさんは氷を」
「は~い」
イレムの足は少々赤いが、火傷というほどでもなかった。まあ50度くらいなら、温泉でもないわけじゃない温度だしね。
「
「
「薬なくてもよさそうだけど、作っちゃったから貼っとくわ」
サンドラちゃんが湿布薬を貼る。
「これの薬草と作り方覚えた? あなたしょっちゅうこんな目に合いそうだから、覚えておいた方がいいと思うの」
「俺そのリトバコルデートの臭い、嫌いなんだよな。それ抜きじゃダメか?」
「ダメに決まってるでしょ。ベラロカイだけだと火傷の傷が悪くなる時があるの。組み合わせにはちゃんと意味があるのよ」
「ちぇっ」
イレムは湿布を貼って、大きめの葉っぱで包んで紐で縛ってもらっている間に、クーノさんに質問した。
「クーノ兄ちゃん。さっきタイガー・スパイダー倒した時、シールドがあったのに、なんで剣はシールドを突き抜けたんだ?」
クーノさんは、よく見てたなと言ってにやりと笑う。
「シールドは俺の法力だ。だから形や厚み、硬さを自由自在に操れる。剣を通すだけの穴を瞬時に開けるのだって造作のない事さ」
「そうなんだ、すげえ!」
子供達が倒されたクモのところに集まっていた。
「魔石取ろうよ!」
「体は素材にはならないの?」
「脚が食べられるんだよね!?」
「食べたい!」
リネールさんが側に行くと、解体の仕方を教え始めた。
「虫とか甲殻類の脚を取る時は、関節に刃を入れて切るんだ。こんなふうに曲がる側の内側の薄い皮から切れ込みををいれて、中の腱や肉を切って、曲がる方向と反対側にこう捻るともげる」
「取れた!」
「簡単!」
1本切るのを実践して見せると、場所を譲った。
「誰かやってみ」
「俺やる!」
処置を終えたイレムが真っ先に手を上げた。
「うわあ、あんな体液ぶっしゃあってなる、キモい魔物バラすのに率先して手を上げるなんて、どんな神経してるのよ」
わたしが嫌そうな顔をすると、リエラさんが怪訝な表情で聞いてきた。
「マヤさん、タイガー・スパイダーの体液ぶっしゃあってなるの、見たことあるの?」
「ええ。こないだアイポメアニール採取に行ったときに出くわして、その時に」
「マヤさんがやったの?」
「ええ、まあ一応。わたしとサンドラちゃんが糸に捕まって、目の前に迫ってきたから、しょうがなしにスパッとやったんですけど」
リエラさんは目を丸くした。そしてため息をつくと言った。
「それ程のダメージを与えるには、体を中心まで切り裂くか、体が潰れるほど押し潰すかしないとなんだけど。タイガー・スパイダーの体の中心にある大きな粘液袋は物凄く丈夫で、剣を突き刺したくらいじゃ破けないはずなんだけどねえ」
「え!?」
「スパッとなんて、体から粘液袋を取り出して、その粘液袋に相当な切れ味の両手剣で一刀切りする腕がないとできないわ」
そ、そうなんですか? あの時わたし、タイガー・スパイダーを4分割くらいに切っちゃったと思ったんだけど……。
「けっ。またガキババアの大ボラかよ」
自分で切り取ったらしいクモの脚を担いで戻ってきたイレムが、へっぽこFランクに次ぐ新たな呼び名をわたしに付けてきた。
「むがーっ、何よガキババアって!」
「ガキのクセに嘘ついて大人だとか言ってるからだアホ」
「なんて安直な悪口、小学生か! って実際小学生の歳かこの悪ガキは!」
「なんだしょーがくせーって? はっ!?」
急にイレムは後ろを振り向いた。
「何よ。とうかした?」
イレムは背後の藪をじいっと見つめる。
「すぐそこに何かいる」
「は? 何も見えないけど」
「おかしいな。目じゃ見えないけど、いるんだ」
「何それ」
リエラさんがはっとした。
「え、まさか!」
リエラさんは石を拾うと、思いっきりイレムが見つめている方へ石を投げた。すると石は藪へ落ちず、ゴインっと鈍い音をして跳ね返った。するとそこの景色が歪み、藪が奇妙に動く。そして2、3回明滅すると、黒黄色の縞模様に変わった。
「「「わあ、タイガー・スパイダーだ!」」」