異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
2022/9/6 サブタイトル変更、内容の若干の加筆をしました。
藪が奇妙に動いて2、3回明滅すると、黒黄色の縞模様に変わった。
「「「わあ、タイガー・スパイダーだ!」」」
「何あれ! さっきまで見えてなかったのに、突然現れた。もしかして光学迷彩!?」
わたしは映画のSFXでも見ているかのような光景を目の当たりにして、目を疑った。
イレムに飛びかかろうとするクモに、リエラさんが素早く飛び込んで、剣を頭に突き刺した。クモは体を痙攣させて倒れる。
「さすがはリエラお姉ちゃん!」
「カッコいいー!」
綺麗で強い女性
しかし安心する間もなく、イレムが左右に首を振って、ヤバイものを見てしまったように叫ぶ。
「大変だ! あっちこっちから出てくる! こっちへやってくるぞ!」
「うそ、どこ!?」
「あそこ! こっちからも!」
「どれ? 見えないんだけど!」
「目じゃ見えねえけど、いるんだ!」
レオさんとクーノさんが孤児院の子達の前に立つ。
「カメレオ・タイガー・スパイダーだ! 体が透けるように進化した奴で、Bランクになる。周囲の景色に溶け込んで、接近して獲物を狩る面倒なやつだ!」
「カメレオ!? カメレオンみたいなの!?」
わたしは驚いて聞き返す。でも体の色を変えるんじゃなくて、透けるのか。カメレオンより上手だ。
「Bランクか! Fより4つ上、ばっちりじゃねえか。ぜってえ倒してやる!」
逆に張り切ってしまうイレム。
「今のお前じゃ無理だっつーの」
レオさんがイレムの襟首を捕まえて自分のところへ引きずった。
「おいイレム、お前もしかして、どこにいるのか分かるのか?」
「見えるとかじゃねえんだけど、なんか分かんないけど、頭の中に浮かんでくるんだ」
「ほう?」
レオさんはニヤリとした。
「リネール。イレムの言う所に火炎で攻撃してみろ!」
「お、おう!? どこだって?」
「あそこ!」
「この辺か!?」
ゴウッ!!
リネールさんがイレムの指差す方に法力で大きな炎を出す。途端にそこの景色が歪み、クモが姿を現した。
「こりゃいい。探す手間が省ける!」
レオさんが真っ赤に灼熱したヒートソードでクモの頭を切り落とした。
「この面倒な透ける体は、ちょっと刺激を与えれば解かれるんだが、なかなか気付くのが難しいからな。発見できるなら怖かねえ。姿が見えちまえば普通のタイガー・スパイダーとなんら変わりはない。イレム、リネール、今の方法で炙り出せ! 姿を見せたら俺達に任せろ!」
「うん! こっち!」
「ここか!?」
ゴウッ!!
背景に溶け込んでいるクモが次々に炙り出されていく。それをレオさん、クーノさん、リエラさんがどんどん倒していく。わたしは見てるだけ。感心しっぱなしで、すっかり見学モードになっていた。
するとイレムがダガーナイフを抜いた。そして急に振り返り、わたしの横を走り抜けた。
「てめえ、こっちはお見通しなんだよ! わざと気付かねえふりしてただけだかんな!」
なんかとんでもないこと言って、イレムはわたしのすぐ後ろにナイフを持って飛びかかった。
思いっきり振り下ろしたナイフはしかし、ガキーンと音を立てて何もない空中で止まった。いや、何もなくはない。そこの景色がなんだかガラスのコップ越しに見ているように、変なふうに歪んだ。
ドガッ!
「うわあああ!」
イレムはいきなり音を立てて吹っ飛んだ。まるで誰かに蹴られたかのようだが、その誰かがいない。だけど次第にそこの景色が揺らぎ、明滅を始めた。間違いない、光学迷彩してるクモだ!
「ひえええ!?
わたしは眼の前の揺らぐ景色に向けて、両手をクロスさせて引っ掻くように、超高圧で吹き出る酸素を浴びせかける。
途端にぴぴぴっと亀裂が入り、どばっしゃーっと眼の前で水風船が破裂したように水飛沫をあげて揺らいだ景色が裂け、遅れて黒黄色のバラバラになった塊がボトボトと地面に落ちる。
「「「ええ!?」」」
孤児院の子供達から驚きの声が上がる。
しかも落ちてきた足の数がやたらと多い。
「2匹いた!」
「マヤ姉ちゃん、一瞬でいっぺんに2匹やっつけちゃった!」
「す、すげえー!」
レオさんがすっ倒れているイレムの首根っこを掴んで、自分の顔の上まで持ち上げた。
「こいつ、自分で仕留めようと思って、わざと何匹か泳がせてたな!?」
「チキショウ、あと少しだったのに」
「吹っ飛ばされてたじゃんか! 全然少しじゃねえだろ! こっち来て魔物の位置残さず教えろ! 犬みてえに首輪が必要か?」
「わ、分かったよ」
暫くして戦闘が終わった。わたし達の周りには10体程のクモが倒れていた。うち2体は原型を留めていない。わたしがカッターで切っちゃった奴だ。
「もう、いねえみたいだ」
イレムが周囲を見渡して言った。
「よくやったと言いてえが、2匹言わなかったのがあるから減点だ」
レオさんがイレムの頭にゲンコツを落とし、五本の指で脳天を掴んでギリギリと締め上げた。
「いでででで!」
解放されたイレムの髪の毛はぐしゃぐしゃになっていた。「あ~あ~」とその髪をとかそうとして、ニーシャが手櫛をしようと手を伸ばすと、イレムは頭を振って逃げる。
どうして逃げようとするのかな。男子の頭の中は分からん。
アイアンクロー攻撃の痛みから復活したイレムは、鼻息を荒くして聞いてきた。
「カメレオ・タイガー・スパイダーはBランクの魔物だったよな! これで俺もナントカサイハンってのになれたろ!?」
階級差違反したかったのかこいつは。率先して罪を犯したいとはなんという奴。
「いいや。お前は見つけただけで、倒しちゃいねえから違反にはなってねえよ」
「え、サイハンじゃないの!?」
「ああ。リネールだって攻撃に参加したけど、倒してはいねえから違反じゃない。それに倒せったって無理だったろう? お前このクモを眼の前にして、そのダガーナイフでとどめ刺せたと思うか?」
「う~ん」
悩むなーっ! 全然ダメだったでしょ!
「本物の4階級差違反をするような奴とはこういうのを言うんだ。そいつの眼の前に現れたクモの成れの果てを見ろ」
レオさんが指さした先には、破裂して木っ端微塵になったタイガー・スパイダーの破片が散らばっていた。勿論、わたしがやらかしたものだ。
イレムは悔しそうに上目遣いでわたしを見てきた。
「へ、へへへへ」
「てめえ、氷法力使いじゃなかったのかよ! なんかいい法力持ってやがってズルいぞ! それにやり過ぎだろこれ。バラバラにし過ぎて、素材も回収できねえじゃんか。素人か!」
「ぐげっ!」
トドメはサンドラちゃんのいつものセリフである。
「マヤちゃん、容赦ないねえ」
「あうっ!」
しかしクーノさんは上機嫌である。
「でもまあ、イレムがいなかったら、こんなに早くこの数を倒せなかったのは確かだからな」
クーノさんはイレムの頭を撫でる。イレムは顔を赤くして照れた。
「それにしても、どうして背景に溶け込んでたカメレオ・タイガー・スパイダーをイレムは見つけられたのかしら」
わたしの問いにクーノさんが答えた。
「これは探知法力だろう。物陰に隠れてても暗くても、見つけられるっていう、すごくレアな能力だ。イレム、狩りにはなかなか良い法力を持ってるな」
「法力!? これ法力なのか!? 俺にもとうとう法力が発現したのか!」
「なんだ、自分の法力知らなかったのか?」
「俺、法力持ってなかったんだ。10歳になっても法力が全然現れなかったから、俺もう法力なしの無役だと思ってた。俺、法力が発現しなかったから捨てられたんだ。村の役に立たないって。寝てる間に山の中に捨てられてたんだ」
急に重たい身の上話になって、わたしは驚いた。
「起きた時、すぐ捨てられたって気付いた。そこが村で子捨て山って言われてた山の中だって。俺は自力でそこから脱出したんだ。そして偶然、院長先生に発見されて、孤児院に入ったんだ」
うわあ。いらなくなった子を売るとかいう話は、わたしのいた世界でも聞いたことあるけど、山の中に捨てられるというのも酷い。孤児院の子達はこんな子供の集まりなんだろう。
「よかっただわね、イレム!」
その孤児の一人であるニーシャは嬉しそうに喜び、ついでにイレムの髪をとかそうとするが、イレムは「なんだよ、うっとーしー」と逃げる。
「それじゃあこれからはイレムとかくれんぼできないな」
「そうだね。隠れててもわかっちゃう」
他の子がそう言うと、イレムは今更ながらにその法力がどんなものなのかを理解した。
「マジ? オレって隠れてる奴でも分かっちゃうの!?」
男の子が1人馬車の裏に隠れる。
「ボクがわかるかい?」
しかしイレムは首を横に振った。
「いいや。分かんねえな」
「え? でも魔物は分かったんだよね?」
するとクーノさんが推測した。
「探知法力は見えないところに隠れていても、動物や魔物の存在を感知できるはずだ。だけど魔物と人間を含む動物とでは、生き物としての性質が違うからか、見つけ方が違うらしい。今のイレムの探知方法は、魔物を見つけるのにちょうどいいんだろう」
「動物は探し方が違う……」
「もっと前から発現してたのかもしれないが、人間や動物を探知できなかったから、法力が発現していたことに気付かなかった可能性もあるな」
「酷い! それじゃイレムは勘違いで捨てられたの!?」
「お前のいた村は貧しかったか?」
「うん。作物や動物が獲れないと、すぐ死人が出た」
イレムの答えを聞いたレオさんは納得した顔をした。
「余裕がなかったんだ。そういう部落はワリナにもある」
皆がシーンとなった。
「でもおかげで、あたいらは助かった。よかっただわよね?」
ニーシャがそんな空気を破ってくれた。
「ああ。この先、ラトロ・アトレイタもいるんだ。イレム、その調子で頼むぞ」
レオさんに頼られて、イレムは鼻の下を指で擦って誇らしげに胸を張った。
「へへへ! 任せてくれ!」
「よーし、素材回収して、後始末して先を急ごう。素材取ったら、体の残りは燃やすから、ここへ持って来い」
「「「はーい」」」
クモの方に散らばっていく皆だが、バラバラになったのにだけは、行く人がいなかった。
「ねえ、なんであれには誰も行かないの?」
「自分でやったのは、自分で片付けろよな、ガキババア!」
イレムがわたしを指さして、無慈悲にもそんな事を言い放つ。
「ひええ!? やだよ、あんな気持ち悪いクモ!」
「置きっぱなしにすると、魔物が寄ってきちまう。ハンターの常識だろ!」
「ええ……?」
「はは。手伝うよ、マヤさん。魔石くらい取れると思うし」
「あ、ありがとう、リネールさん!」
孤児院の子達はタイガースパイダーの解体をして、魔石を取り出し、食材になる脚を回収した。皆がリネールさんから脚のもぎ方を教わったので、解体は短時間で終わった。
使えない残りの体は、穴を掘ってその中に放り込み、リネールさんが法力の火を放って、わたしが酸素をぶっかけてほとんど焼き尽くし、僅かに残ったカスを埋めて始末した。
取れた魔石はどれもヘキサリネでは珍しい大きさで、子供達は喜んだ。
問題は切り取って集められた脚である。馬車のところにいたのも合わせると12匹も現れた。そのうちわたしがオキシジェン・カッターでバラしちゃった2匹を除き、脚が取れたのは10匹。1匹あたり8本も脚がある。そのうち食材として使える状態で回収できたのが64本もあった。
脚は食材として人気があるらしいので、ギルドでは高価で買い取ってくれるそうだ。
「これを食べる人の気がしれないわ」
「食ってみりゃ分かるって。ギルドの買取価格が高いのが証拠だよ」
「絶対やだ」
わたしとリネールさんが問答していると、脚を担いでる子供達が目線をフィリアさんに向けた。向けられたフィリアさんも、その意味を理解した。
「遠慮なくお申し付けください。ストレージに格納しますよ」
ぱあっと子供達の顔が笑顔になる。
「フィリア、助かる。しかし帰るまでまだ日数があるが、腐らないか?」
レオさんの心配に、わたしは手を上げた。
「それじゃ、凍らせちゃいましょう」
レオさんはわたしを見て、思い出したように呟いた。
「マヤの出す青い氷か」
「はい。一緒にストレージに入れれば、肉はすぐコチコチに凍るでしょ。領都まで新鮮なままで持って帰れますよ」
しかもマイナス200度で凍らせれば瞬間冷凍も同じで、鮮度は抜群なはずだ。
「フィリアが凍ったりしないか?」
わたしと同じ心配をしてるね。
「大丈夫ですよ」
フィリアさんはニッコリ微笑んだ。そして空中に手で四角を描いた。すると空中にぽかっと穴が開く。
「マヤさん、お願いします」
「うん」
わたしは穴の中に固体酸素の氷をごろりごろりと入れた。穴からはもうもうと白い湯気が出る。
「はーい、皆さん脚を運び入れてください」
孤児院の子達がフィリアさんが開けたストレージの穴にクモの脚を運び入れる。
「うわ、さむーい!」
「湯気が出てるから熱いのかと思ったら、逆だ!」
「レオ兄様。帰りアイポメアニールを運ぶときも、フィリア姉様のストレージを使うかもだわよね? 入りきらなかったらどうするのだわよ?」
「その場合はタイガースパイダーの脚を捨てて、入れる場所を作る。アイポメアニールを持って帰るのが俺達への依頼だからな」
「あ、そうか。でもそうなると脚勿体ないだわね」
「そこは割り切れ。優先を間違えるな。捨てるのが惜しけりゃ、できるだけ食っていくんだな」
「じゃあ今日の晩飯は、タイガースパイダーの脚食おうぜ!」
「うわー、楽しみー」
今夜はクモの足でパーティーらしい。ぶるるる、嫌だなあ。