異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第57話「危険地帯で快適な野営地作りをしよう」

 

 日暮れまであと2時間という辺りで、わたし達は野営地を探した。

 そして大きな岩のある開けた土地を見つけた。少し行ったところに沢もあって、水も補給できる。

 

「この岩を背後に置いて、野営地を作ろう」

 

 場所を決めると、レオさんが皆に次々と指示を出した。

 

「マヤ、リネール。周囲の背の高い草を刈れ。ここからの見通しをよくして、ラトロ・アトレイタが身を隠しながら接近できないようにするんだ」

「「はーい」」

「フィリアとサンドラ、孤児院の子供達は、木や枝を集めて、野営地をぐるっと囲むように垣根を作ってくれ。1m位の高さになると良い」

「かしこまりました」

「わかったの」

「クーノ、リエラは周囲の警戒だ。子供達が困ってたら手を貸してやってくれ」

「了解」

「分かったわ」

「俺も見張りやりてえ! 探知の法力あるんだからそっちの方がいいだろ!?」

 

 そう言ってイレムが手を上げる。どっちかというと、力仕事をしたくないってのが本音なんじゃないの?

 

「見張りは護衛役の仕事だ。いいからお前は垣根作りの方やれ」

「ちぇっ」

「ほら行くだわよ、イレム」

「うっせーな、押すなよ」

 

 企みは許可されず、ニーシャに引っ張られてイレムはぶつくさ言いながら連れて行かれた。

 

「さあて、それじゃあリネールさん、やりますか草刈り」

「おう! マヤさん、ささっと燃やしちゃおうぜ!」

「燃やすの?」

「その方が早いだろ?」

 

 わたしは河原で花火をやって、周りの枯れ草に燃え移っちゃって、危うく消防車を呼び寄せるボヤになりそうだったことがあるので、こういうフィールドで火をつけるのはちょっと怖い。酸素を操れる法力を持ったから、火を勢いづかせるのも、消すのも、今のわたしには自由自在だけど、それでも怖い。

 

「リネールさん、火つけるの好きだねぇ」

「そりゃもう! 火を出せる法力持ちの性かな」

 

 うきうきしちゃって。いやあ、リネールさんは大きいイレムだわ。

 

「火は危ないからダメよ!」

 

 背後から怒られた。振り向くとリエラさんが腰に手をして立っていた。

 

「燃え広がったら消すのは大変よ。それに林に燃え移ったら、もう手付けられなくなっちゃうわ」

「マヤさんの法力は火も消せるよ。消すのも訳ないよ」

「そういえば、どうして消せるのかわからないけど、確かに消してたわね。それより燃やすと後で灰が舞って、野営地にも降り注ぐわ。食べ物にも入るし、朝灰まみれになってたくないでしょ」

「俺、ポンチョあるから……」

 

 リエラさんの背後から、ゴゴゴゴゴと地響きがしだした。

 

「ポンチョ持ってない子供達の事考えてる? それに朝、レオナルド ワリナ王国第一王子が灰まみれになってたら、その怒りは何処へ向かうかしらねえ」

 

 リネールさんは一瞬で真っ青になった。

 

「俺達はこれより、手作業で草刈りするであります!」

 

 ビシッと敬礼を決めたリネールさん。わたしもビシッと敬礼を返した。リエラさんはにっこりと微笑む。

 

「安全第一にね」

 

 そう言って、リエラさんは子供達が作業している方へと巡回していった。

 

「いやあ、ちゃんと監視の役目はたしてるわねー」

「すげえ威圧感だったんだけど」

「人の上に立つ人は違うねえ。はっ! もしかしてあれは皇族だからこそ持つスキルの『統率者の覇気』!? ここは異世界ファンタジー。そういうスキルがあってもおかしくないわ」

「スキル? いせかいふぁん……ってなに?」

「あ、えっとね、一定の経験値に達すると取得できる技能とか能力、かな」

「ふーん。公認の資格や免許みたいなもんかな。それじゃ俺は弓ができるから、弓のスキル持ちだ。マヤさんも少し使えるようになったから、弓のスキル持ちだ。でもまだ下手だから、俺と同じってのはなあ」

「そういう時は、同じスキルでもレベルで差をつけるの。最上級がレベル10なら、わたしはレベル1ってことね」

「それじゃあ俺はレベル5くらいかなあ」

「リネールさんでもそんなもんなの?」

「そりゃあ弓の道は険しいよ。それじゃさっきのリエラさんの『統率者の覇気』ってのは?」

「皇族や王族が生まれながらに持ってる威厳による威圧ってとこね。使うほどにレベルが上がっていくっていうの」

「なるほど。王族は生まれた時点でレベル1持ってるってことだな。リエラさんはまだ16歳だし、レベル3か4くらいかな」

「そうするとレオさんは年齢的にレベル5くらい? もっとありそうだよね?」

「あの悪ガキぶりだと昔から使ってそうだから、レベル7ぐらいじゃないか?」

「いえてる。うふふふふ」

「あはははは。面白れー。マヤさん、もっと考えよう!」

 

 リネールさんと意気投合していると、

 

「おらー、そこ! くっちゃべってねーで仕事しろー!」

 

 岩の上から全体を見回していたレオさんに怒鳴られた。

 

「はい!」

「うぃーす!」

 

 あれはもうすぐレベル8になるね、などとクスクス笑いながら、わたし達は仕事に取り掛かる。

 

 火を使うのは止められてしまったので、わたしとリネールさんは短剣を引き抜いて、バッサバサと草を刈り始めた。

 そして1分でわたしは音を上げた。

 

「大変だよこれ!」

 

 夏の草刈りは大変な重労働だ。電動草刈り機があっても、この面積は大変だろう。自治体に頼まれて河原の土手の草刈りをする業者が使う、人が乗って操縦するような大型の草刈り機が欲しい。

 

「マヤさんの、クモをも切り裂く法力技で草は刈れないの?」

 

 リネールさんはオキシジェン・カッターを使う事を提案してきた。

 

「な~る。やってみるね」

 

 わたしは足元付近に酸素の噴出点を発生させ、さっと動かすことでオキシジェン・カッターをやる。

 すると何本かは切れたが、大部分はのれんに腕押しのように草がなびいてしまい、切れずに残った。

 

「草は柔らかいから、いなされちゃうね」

「剣だってゆっくり振ったら切れないんだから、スピードの問題じゃないかな」

「もっと早く動かせばいいのね」

 

 今度は野球のアンダースローのように腕を振って、勢い良くオキシジェン・カッターを放った。

 

「それーっ!」

 

 しゅぱあーっ!

 

 腕を降った方向に酸素の刃が地面を這い、草は根本の上数センチで切れていく。

 

「「おお!」」

 

 2人して喜んだのも束の間。草が刈られていくその延長線上で、木がぐらりと傾く。

 

「わあ!」

 

 慌てて酸素の噴出を止めたが既に遅し。

 オキシジェン・カッターは林にまで達し、木を切ってしまった。

 どしゃあっ、と5mくらいの木が2本倒れる。

 

「よかった、人がいない方で!」

 

 人がいたら真っ二つだ。木が倒れたところにも、誰もいなくてよかったよ。

 

「何やってるのマヤさん!」

「わあ!」

 

 またリエラさんが飛んできた。

 

「ちょっと法力で……。ちょっと切る範囲のコントロールに失敗しました」

「もうっ! マヤさんの法力は危ないんだから、使うなら一言宣言してからにしてください!」

「は~い」

 

 木こりの『たーおれーるぞー』みたいな?

 

「マヤさんの切断技はスキル10いってそうだね」

 

 リネールさん喜んでるし。

 

「勢いよく速く動かせば草も切れると分かったけど、速いからすぐ止めないと思った以上に遠くまで切っちゃうわ」

「いいねえマヤさん。そのやり過ぎ感」

「マヤお姉ちゃん、あの倒れた木、もらっていい?」

 

 孤児院の子達がやってきて、倒れた木を指差した。

 

「構わないよ」

「やったあ、垣根作る材料が手に入ったよ!」

 

 子供達は喜んで倒れた木を運んでいった。

 

「やり過ぎも無駄ではなかったわね」

 

 それでは仕切り直し。

 今度も酸素噴出点をダッシュさせる。けどすぐに止める。手を振りながらイメージトレーニングする。

 

「こんな感じかな。みなさーん、法力発動しまーす。こっち側には近寄らないでねー」

 

 皆に宣言すると、皆は手を止めてわたしの方を見る。

 

「は、恥ずかしいので、見つめないでくださーい。自分の作業に戻ってくださーい」

 

 とは言ったものの、大部分の人が見学モードのままだ。

 

「しかたない、やるか。酸素切断(オキシジェン・カッター)! えい! やっ!」

 

 シュパパパパパ

 

 わたしが手を振った方向の草がたなびいて、その後にふさあっと草は倒れる。おおーっと歓声が上がった。が……

 

 ぐらっ、ずずずず、どしん!

 

 進行方向にあった岩が急に動いて倒れた。

 

「え、まさか!?」

 

 岩に駆け寄った子供がひっくり返った声で叫んだ。

 

「い、岩切れちゃってるよ!」

 

 一瞬その場が冷たくシーンとなる。

 

「マヤ、てめえ加減くらい考えろ!」

 

 大岩の上のレオさんから怒鳴られた。

 

「こ、これでも加減したつもりなんだけど!」

 

「全員作業中止! こっちに集まれ!」

 

 皆はレオさんのいる大岩のところに集合した。

 

「危なくて他の連中と作業させられねえ。先にマヤに草刈をやらせる! リネール、切る方向指示しろ」

「おうっす!」

「みんなごめんねー」

 

 後頭部を掻きかき、ペコペコしながら、誰もいなくなった草原にわたしは立った。

 横にリネールさんもやって来ると、2人で草原を見渡す。

 

「この際だから野営地の草刈りもついでにしちゃおう。この大岩から外に向かってやればいいんじゃないかな」

「わかった。それじゃ幅10mくらい一気に刈ってみるね」

 

 わたしは酸素の噴出点を幅10mくらいにずらりと出現させる。

 

「マヤさん、すぐ止めるんだよ」

「分かってるよ。でもある程度スピード出さないと草が切れないからさあ。止めても結構行っちゃうのよね」

 

 アンダースローに手を振って噴出点を動かす準備をする。

 

「それじゃ法力発動しまーす。それっ!」

 

 手を振るのに合わせ、酸素の噴出点をダッシュさせる。そしてすぐ止める。

 草がぶわっと盛り上がるように動き、くたっと倒れる。

 そして、その延長線上の木が数本と、岩が1個、犠牲になる。

 

「てめえマヤ、次やったら脳天にげんこつ1発だ!」

「うわあ、暴力反対です!」

「お前ほどの暴力があるかー!」

 

 そんなわけで、その後3回オキシジェンカッターを放ち、必要な場所の草刈りはあっという間に終わった。ゲンコツもプラス1発で済んだ。

 切り倒した木は垣根作りの材料と、焚火の薪になった。それでも豊富に余ったので、おトイレ用の目隠しも作られた。

 切れた岩もかまど作りに使うという。

 

「マヤお姉ちゃん、この草もらってもいい?」

 

 刈り取った草を抱えた孤児院の子が聞いてくる。

 

「いくらでも持っていっていいよ」

「ありがとう。寝床の下に敷くのに使うんだあ」

 

 刈った草も役に立った。

 これだけ役に立ったんだから、怒られなくてもよかったんじゃないかなー?

 

 野営地の境にフィリアさんと孤児院の子達が作った垣根は、木の枝を活かしつつ、隙間を細い枝や葉っぱ、蔦、茨などで埋めてあった。

 

「大きな動物なら、体当りして壊わしちゃわない?」

 

 フィリアさんに聞いてみると。

 

「はい。ですが、ここからが私達人間のテリトリーと動物達にはアピールできるので、近寄って来なくなります。何か飛ばしてくる魔物の攻撃からも、身を隠しながら反撃できますし、無いと有るとでは大違いです」

「そっか。そうだよね。トイレだってペラペラの壁1枚、いいえ布1枚で隔てるだけでも、安心感は断然だもんね。その気になればいくらでも入れちゃうのに。あははは」

 

 そんなこと言ったとたん、フィリアさんがメイドの落ち着いた雰囲気を取り乱すほどに引いた。

 

「マ、マヤさん、た、例えがお下品ですよっ。可愛い顔して、もしかしてリエラさん同様、見かけによらない系ですか~?」

「あう!」

 

 しまった、また乙女の品格を損なうような事を口走っちゃった!

 しかしそれはさておき、野営地は根の上3cmで草刈りしたおかげで、きれいな芝生のキャンプ場のようになっている。子供達からは大変好評だ。

 

「わあ。マヤ姉ちゃん、素敵な野営地になったね!」

「ここでキャンプ場を開設して、ハンターからお金取れるかな」

「お店も出して、護衛のハンターも置かないとだわね」

「それって、道の駅?」

 

 レオさんも岩から降りてきて野営地を見回すと、感慨深げに唸った。

 

「こんなにきれいな野営地になるとは思わなかった」

「ふふーん。わたしの芝刈りのおかげですよ。怒るばっかりじゃなくて、もっと褒めてください」

 

 レオさんは微妙な顔をして見下ろした。

 わたしが鼻の穴を広げて自慢してると、クーノさんがすっかり感心してわたしに話し掛けてきた。

 

「マヤさんって便利だなあ。やっぱりワリナに来てよ。部屋用意するから」

「え、クーノさんのお嫁さんになれって事?」

「定期的にうちの屋敷の庭も刈ってくれると嬉しいなあ」

「そ、そんな事で行くかあ!」

 

 

 

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