異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

59 / 171
第58話「危険地帯でマヤちゃんデストロイヤー認定される」

 

「さあ、食事の準備しましょう」

 

 今や誰もが認める食事当番となったフィリアさんが言うと、何人かの子供も、手伝うよと寄ってきた。

 

「イレム、水汲み行くだわよ!」

 

 孤児院パーティーのリーダーのニーシャは、重要な水汲みを率先してやろうとする。年長者に声をかけ、イレムも連れて行こうとした。

 

「なんで俺が!」

「力持ちの年長の男子が行かないでどうするだわよ。ついでに護衛してだわよ」

「ご、護衛ならしかたねえ」

 

 ニーシャは上手いこと言いくるめて、イレムを連れて行く。

 

「イレムの護衛なんて信用できないんじゃありません?」

 

 傍から見ていたわたしは、心配をリエラさんに投げかけた。

 

「確かに、率先して喧嘩売りに行きそうだもんね」

 

 本来の孤児院パーティーの護衛であるレオさん達はどうしてるかと見ると……

 クーノさんは大きな石を運んで、クモの脚を焼く(かまど)の作成中。

 レオさんは全体を統率中。

 

「皆忙しそうだし、わたしが行くよ」

「ありがとうマヤさん。助かるわ」

 

 全体で大きなパーティーとして動いているんだから、皆でカバーし合えばいいのよね。

 わたしは水汲みに行った子供達を追っかけた。

 

 

 

 

 沢は野営地から斜面を下った先にある。子供達は身軽に斜面を駆け下っていくので、なかなか追いつけない。

 

「あの子達、速いなあ」

 

 軟弱な現代人と違って、機械力に頼らない子供達の身体能力に舌を巻いてると、聞きたくない声の主からトラブルのニオイのする言葉が聞こえてきた。

 

「魔物の反応あり! 見てくる!」

「えええ!?」

「ちょっと、離れないでだわよ!」

 

 言わずと知れたイレムだ。

 

「あんのクソガキ、ニーシャの静止も聞かず、斜面を斜めに横切って走ってっちゃった!」

 

 クソガキを追うべきか、水汲みメンバーの側にいて魔物の来襲に備えるべきか。

 考えながら下っていると、ニーシャがわたしに気付いた。

 

「マヤ姉、イレムが!」

「分かってる! ニーシャ、一旦野営地に戻って、皆に報告して! わたし、イレムを追っかける!」

 

 ニーシャはわたしが状況把握済みと瞬時に理解してくれた。

 

「わかっただわよ!」

 

 ニーシャ達が斜面を登って戻ってくるのを確認すると、わたしはイレムの足跡を追った。

 ところがである。

 

「なんてところ通ってんのよ!」

 

 足跡を追っていったら、斜面に突き出た岩のあるところに出た。そして岩を駆け上がった跡がある。イレムはというと、岩を越えた向こうで斜面を下っているのが見えた。

 

 断崖絶壁で暮らすヤギか!

 

 とても同じルートをトレース出来ない。わたしはイレムが斜面の下の川縁まで降りるものと予測すると、別のルートを探して追いかけることにした。

 

 

 

 

 イレムは斜面を下りきったところで止まった。

 目線の先には、沢水を飲みに降りてきていたウサギがいた。

 

「なんだ、ウサギだったのか」

 

 イレムの探知法力に引っかかったのは、魔物のウサギだったのだ。

 魔物のウサギといえばよく食糧にもなってる、鹿のような角を持った鹿角兎(ジャッカロープ)が思い付くが、そのウサギは1本の長い角を額から生やしていた。肉食で気性の荒い一角兎(アルミラージ)だ。

 

「イレム!」

 

 なんとか声の届くところまで追いついたわたしは、イレムに呼び掛けた。イレムはわたしの方を向くと、嫌な顔をした。

 

「なんだ、ガキババアかよ。手出しすんなよ、あれは俺の獲物だ」

「獲物って、あれは一角兎(アルミラージ)じゃない。一角兎(アルミラージ)は確かEランク。あんたあれやっつけたら、階級差違反だよ! ダメだよ!」

「お前だってサイハンしてんじゃん。お前に言われたかねえ」

「げげ!」

 

 恐れていた返しがやってきた。Fランクなのに、びしばし格上を倒しちゃってるわたしには全く説得力がない。

 

「わ、わたしには特別なライセンスがあるんだってば! そ、それにあんた、護衛にって付き添っといて、ほっぽり出しちゃダメでしょ。ニーシャ達はキャンプ地へ引換えらせたわよ」

「なんだって!? ナニ余計なことしてくれてんだよ!」

「だって護衛なしの状態で水汲みしてて、他の魔物に襲われたらどうすんの」

「お前が来てんなら、お前が護衛すりゃよかっただろ!」

「そしたらあんたの面倒を誰が見るのよ」

「どういう意味だ? 俺に面倒なんて必要ねえぞ!」

「格上の魔物目の前にして、もう面倒事起こそうとしてるじゃない!」

 

 うあああ、このバカタレが! 自分が迷惑になってる事全然自覚ないし!

 

 斜面を下り切って、わたしはやっとこイレムの所へ辿り着いた。

 

「はー、はー、あーしんど……」

「けっ、だらしねえ。へっぽこFランクが」

 

 おのれ、反論できない。

 

「あんた、あれ、どうやって倒すか知ってんの?」

「たかがウサギだろ? ねじ伏せてやる!」

 

 そう言うや、イレムは一角兎(アルミラージ)に向かって突進した。

 

 突進攻撃しかないって、どっちが一角ウサギよお!

 

 一角兎(アルミラージ)はイレムが突っ込んできても、一切慌てた様子はなく、むしろ笑ったかのようにさえ見えた。

 そしてイレムが3m程まで接近した時、動いた。まるで引きつけるまで引きつけたというように。

 本家の突進攻撃はイレムの数倍の速さだった。強力な後足の筋肉が生み出す跳躍力は、イレムの目からは姿が消えたように見えた。

「え?」

「わあイレム!」

 

 イレムの服の一部が舞い、一角兎(アルミラージ)はイレムを突き抜けて、後方の細い木へ角を突き刺して止まった。

 サーッと血の気が引いた。イレムはお腹をブチ抜かれて、その場に倒れると思った。

 が、イレムはなんともなさそうにバッと振り返えった。ただ表情は、あまりのウサギのスピードにビビっているようだった。

 イレムは一角兎(アルミラージ)が突進する直前、右に向きを変えていた。なので角に突き刺されずに済んだのだ。

 一角兎(アルミラージ)が木に突き刺さっている間に、わたしはイレムの所に駆け寄った。そして引きずって少しでもウサギから遠ざかる。

 

「ウルトラバカ! 怪我は!?」

「な、なんともねえ」

 

 上着の脇腹が切り裂かれただけで、体は無事のようだ。

 

「よく避けられたわね」

「タイガー・スパイダーは、間近まで近付いた時攻撃してきたろ。だから直前で一回横へ移動してから一撃するって決めてたんだ」

 

 どうやら避けたのではなく、予定の動作だったらしい。たまたま一角兎(アルミラージ)の攻撃タイミングと一致したようだ。というか相手が動きたくなるタイミングでこっちの動きを変えるというのは、前の経験を得ての戦術だから、学習しているとも言える。

 バキバキと音がしたので振り返ると、一角兎(アルミラージ)が頭を振って、突き刺さってた木を角で捻って切り倒してしまっていた。細い木とはいえ、ウサギがやる事とは思えない所業だ。一角兎(アルミラージ)はこっちへ向き直ると、再び闘志を剥き出しにして突進の構えをした。

 

「俺よりずっと速ええ。あれどうやって倒すんだ?」

「それ、突進する前に聞くもんでしょ!」

 

 一回痛い目にあってからでないと反省しないってレオさんやリネールさんは言ってたけど、これ!? 一回目の痛い目で死んでもおかしくないんですけど!

 

「前にリネールさんにウサギ狩りへ連れてってもらったとき聞いたのでは、盾を持って戦うんだって言ってた。突進させて盾で受け止めて、止まったところで急所に一撃入れるんだって」

「盾か。お前持ってねえの?」

「見ての通り持ってなんかないわよ」

「クーノ兄ちゃんみたいな事、できねえのかよ。氷の壁は?」

「わたしの出す固体酸素()は、水の氷と違うから、頑丈じゃないのよね」

「けっ、使えねえ。他に攻撃方法はねえのかよ」

「気付かれてなければ、遠くから弓で攻撃できるわよ。わたしの力じゃ矢に勢いがなくて刺さらなかったけど」

「ますます使えねえ」

 

 イレムは現状で戦う方法を考える。

 

「木を盾にして、その後ろで構えたらいいんじゃね? 木に体当りさせて、さっきみたいに角が刺さって動けなくなったら、ナイフで心臓刺してやる。さっきの木くらいの太さがあれば、突き抜けてこねえよな?」

 

 いっちょ前によく考えてるな。結構経験を生かすのは上手い子なのかもしれない。

 

「ウサギにも考えてる事バレバレな気がするけど、上手くいっちゃったら、イレムが階級差違反になっちゃうから、ここはわたしがさっさと終わらせるね」

「え?」

酸素除去(オキシジェン・リムーブメント)!」

 

 ジリジリと構えていた一角兎(アルミラージ)が、急にジタバタと苦しみだした。しばらく激しくのたうち回っていたが、次第に鈍くなり、やがて完全に動かなくなった。

 

「ウサギさん、ごめんなさい。全て余さず利用しますので、安らかにお眠り下さい」

 

 わたしは合掌してご冥福をお祈りした。

 

「さあ、持って帰ろう」

「え、何したんだ?」

 

 ウサギの所へ行くと、表情筋なんてないはずなのに、物凄い地獄を見たような顔で死んでいた。それを見たイレムが、ウサギを指差して叫んだ。

 

「何が安らかにお眠りくださいだ! すげえ苦しそうな顔してんじゃんか!」

「えええ? どうしてこうなっちゃうのかな」

「それに俺の獲物だったのに、横取りしやがって! インチキFランク! ずりーぞヘンな法力使いやがって、氷だけじゃねえのかよ!」

 

 げしっとお尻を蹴られた。

 

「あいた! あんたがこれ倒しちゃったら違反なんだってば!」

「同じFランクだろ!」

「わたしは特別に許されてるんだってば!」

 

 揉めてると、斜面の上の方から声が聞こえてきた。

 

「マヤさーん」

「大丈夫ですかー?」

 

 リネールさんとリエラさんだった。2人は下まで降りてくると、わたし達の所に駆けてきた。

 

「魔物は?」

一角兎(アルミラージ)でした」

 

 2人はホッとして、緊張してた肩の力を抜いた。

 

「よかった、それくらいの魔物で。きゃっ、何この表情!」

「うおっ、この世界の終わりみたいな顔! こりゃ、やったのマヤさんだな?」

 

 リネールさんはウサギの様子を見ると、わたしの方を向いてニヤニヤしだした。

 

「さすがだねえ」

「よ、喜ばないでくれる?」

 

 

 

 

 野営地に戻ると、イレムはレオさんから脳天にゲンコツを入れられた。

 

「……Eランクの魔物なら倒せると思ったんだ」

 

「1階級差だって簡単には超えられねえっつってんだろが! 仕留め方教わって練習して、格上パーティーに参加してからやれ!」

「ちぇーっ」

「で、これがイレムの服を破った一角ウサギさんです。今日は食材一杯ありそうだから、フィリアさんのストレージにしまって、明日とかに食べます?」

「そうですね。そういたしましょうか」

 

 わたしはウサギをフィリアさんに渡す。

 

「まあ凄い。どこにも傷がありません。どうやって仕留めたの……ヒイィィィ!!」

 

 ウサギの顔を見たとたん、フィリアさんはウサギを投げ出して悲鳴を上げた。

 

「またこの表情! マヤさん何したんですかぁ!? 怖いですう! 嫌です、わたしこれストレージに入れたくないですう!」

 

 メイドさんの佇まいをかなぐり捨てて地が出ちゃってる。相当慌てたみたいだ。

 

「あんなにお淑やかだったメイドさんが、あんなに取り乱して……」

「マヤ姉の法力攻撃はハンパないんだよ」

「だからあんなに苦しそうな顔して死んじゃうんだ」

 

 孤児院の子達がわたしの方を見てコソコソと囁き合っている。

 

「分かっただわよね? マヤ姉怒らせたら破滅が待ってるんだわよ。皆怒らせちゃダメだわよ」

「すげぇ。破滅をもたらす者だ。破滅者(デストロイヤー)だ」

破壊者(デストロイヤー)?」

破滅者(デストロイヤー)だよ」

破壊神(ザ・デストロイヤー)じゃない?」

「「「それだ!」」」

「マヤ姉ちゃんは破壊神(ザ・デストロイヤー)だ!」

「やめてええ!!」

 

 法力の本当の名前は秘密にしてるのに、何でその名が勝手に出てくるかな!

 

「マヤちゃん、容赦ないもんねえ」

「サンドラちゃんまで! 誰かわたしのこと女神と言って!」

「ガキババアでいいだろ」

「う……、デストロイヤーよりマシだけど、それも嫌!」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。