異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第62話「危険地帯でやっぱりイベント発生しました」

 

「近くの湖で薬草が採れると分かりました。

 湖は街道側からは全くうかがい知る事はできないと分かりました。

 パーティを分割する許可が出ました。

 イレムの探知法力に魔物は引っ掛からなかったので、薬草採りにいく事が決定されました。

 イベント発生条件が全て整いました。

 ……詰んだ」

「マヤはさっきから何をブツブツ訳わからん事を言ってんだ?」

 

 レオさんは首を傾げる。

 

「マヤさんの悪運を引くスキルがレベル3に到達しました」

 

 ニヤニヤと笑うリネールさんが、見事に異世界の神の声を代弁した。

 

 

 

 

 孤児院のパーティーと別れ、わたし達リトルウィングとリエラさん、フィリアさんは、細い山道を奥へと入っていった。標高差は殆どなく、若干下ってるかなという感じ。左右は雑木林の新緑で満たされている。

 イレムの探知で魔物はいないと分かってるけど、一応先頭を行くリネールさんは、木の棒で道にタイガー・スパイダーとかが糸を張ってないか探りながら進んだ。

 そして15分程して大きな岩に当たり、岩を回り込むようにすると道は急に下って、その先に大きな水溜りが見えた。

 

「おお、湖だよ。いい景色!」

 

 濃い水色をした湖は何とも幻想的だった。横からそよいでる風が、湖の上に雲というか霧を運んでいた。

 

「随分紫がかった霧だね。太陽光線の具合かな?」

 

 リネールさんが坂を降りていこうとすると、リエラさんが止めた。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 何事? と振り返るリネールさん。

 

「あの紫の雲、もしかして。フィリア!」

「は、はい!」

 

 呼ばれたフィリアさんは、メイドの前掛けの裏から棒のような物を取り出した。野外用のメイド服装備には、隠しポケットが沢山あるんですって。

 

「あ、それ魔素計? レオ兄さまが持ってたのと同じ」

 

 フィリアさんが手にした物をサンドラちゃんが覗き込む。

 

「はい。リエラさんがレオ様からワリナのを一つ譲って貰いまして」

 

 目線をリエラさんに向けると、リエラさんが頷いて説明を引き継いだ。

 

「ワリナ製のは濃度によって反応する魔石を使っただけの簡単な構造でね、大雑把だけど確実で丈夫。だから一つもらったの。ミリヤ製のは手が込んでて正確な計測には向いてるけど、壊れやすいからハンターが持って歩くには向かなくてね」

 

 わたしもゲージを覗き込んだ。そして今反応している魔石は、レベル4のところのだった。

 

「ひっ! リエラさん、か、かなり濃いですぅ」

 

 フィリアさんが動揺して思わずメイド口調を乱してしまう。

 

「あの紫の霧は魔素瘴気に間違いないわね。湖の畔はレベル5行くわよ」

「レ、レベル5っていうと?」

「人は瘴気マスクなしでいると気が狂ってしまうレベルよ。下りなくてよかったわ。魔物の卵も孵化するわね」

「た、卵って……。あのアンフィスバエナも卵が孵って大変な事になったんですよね!?」

「あれは人為的に瘴気を濃くしていた。ヘキサリネってそもそもそんなに魔素が濃いところが無いはずなんだから、これも怪しいわ」

 

 わたしは顔を引き攣らせる。領都の北の林では、絶滅したはずの魔術使いがブラウシュテルマーで魔素を濃くして、アンフィスバエナの卵を孵化させて、事件を起こしたんだった。

 

「そ、それじゃこれも魔法使いが!?」

「可能性はあるわ。ここも何か仕掛けられてるかもね」

 

 するとリネールさんの呼ぶ声がした。

 

「霧の向こうに何か変な物体がある。たぶん湖の対岸だ」

 

 皆でリネールさんの所に行くと、指し示す方向を見た。

 紫の魔素瘴気の霧の向こう側に、大きなドームというか、丸っこい巨大な塊のようなのが霞んで見える。

 

「な、何かしら」

「霧でよく見えないの」

 

 皆で目を凝らすが霞んでいてよく見えない。するとリネールさんがわたしの肩を叩いた。

 

「マヤさん、これが魔素瘴気なら、マヤさんの法力で除去できるだろ?」

「え? あそっか。うん。それじゃ、空気清浄からしますか」

 

 空気清浄とは、魔素が充満しているところで、魔素と酸素を反応させて無害化することだ。魔素と酸素が反応すると、魔素は結晶化して所謂魔石になり、安全な物になるのだ。

 もう少しだけ下って、見通ししやすいところまで行く。

 

「サンドラちゃん、この湖ってどれくらいの大きさなの?」

「対岸は薄っすら見えてる通り。長さは1kmくらいかな。細長いの」

「それじゃ、それをさらに100mくらい広く取り囲んで……これくらいかな。酸素障壁(オキシジェン・バリヤー)!」

 

 湖とその周囲を大きく酸素の膜のドームで覆った。

 

「ドームの中は少し酸素濃度を高くして。それじゃ奥の方からドームを縮めていきますよ。ほーら、来い来い」

 

 酸素ドームの中に魔素を閉じ込めたまま、わたしの方へと風船を縮めるようにドームを小さくしていく。酸素ドームの外に魔素はそのままで出てくることはない。酸素の膜に当たった時に魔石化してしまうからだ。

 ふふふ、湖の周囲の魔素は、これで全部逃さず集められちゃうのよん。

 わたしが酸素ドームを縮めている間に、リネールさんが先程の大岩の裏で草刈りをし始めた。

 

「ここ少し窪んでるから、ここに魔素の結晶を集めよう」

「手伝うの」

「私も手伝います!」

 

 サンドラちゃんとフィリアさんも草刈りに加わる。

 わたしの方法だと、結晶は小さな砂粒のようになる。つまりこういう濃い魔素瘴気の漂う所で空気清浄をすると、大気中から大量の魔石の粒が採れるのだ。魔石は大概磨り潰して細かくして使う事が多いので、わたしの回収する魔石は無加工ですぐ使えるというメリットがある。

 紫の霧はどんどん縮んで濃くなり、凝縮されて、液体になるのではというほどに濃い色をした直径3m程の紫の球が、わたし達の頭上に出来上がった。この中は即死級の魔素濃度だ。

 

「大雑把に草をどけたよ」

 

 魔素結晶を落とす窪地も準備ができた。

 

「了解。さあ仕上げますよ。酸素充填(オキシジェン・フィリング)!」

 

 直径3mの紫の球の中に酸素を注ぎ足して、中の酸素濃度を上げる。

 

「かなり魔素が多そうだから、もう少し酸素を足しとくかな。それそれ」

 

 酸素の膜で覆われた紫の球の中に酸素を多めに詰めたら、最後の作業だ。

 

酸素分子振動(オキシジェン・バイブレーション)!」

 

 球の中の酸素を激しく振動させる。酸素分子とぶつかった魔素は激しくキラキラと光って魔素結晶へと変化し、重さでざあざあと滝のように下の窪地へと降って落ちる。

 そのうちキラキラ光るのも収まり、紫の球も見えなくなって、空気清浄が終わった。

 湖の周囲に漂っていた魔素は、ここで結晶化されて全部回収されたのだった。

 

「さすがですマヤさん! 魔素計の魔石はどれも反応してません。濃度(ゼロ)です!」

 

 魔素計を確認したフィリアさんが、少し驚きを混ぜて嬉しそうに言った。

 窪地は魔素結晶で埋まり、小山ができている。軽トラの荷台で2杯はありそうだ。

 

「すごい量だね!」

「今日は持って帰れないから、隠しといて後日取りに来よう」

 

 リネールさんが、魔素結晶の山の上に大きな葉っぱや刈った草などで覆いをし、石を乗せて隠蔽する。

 

「フィリアさん、取りに来るのにまた付き合ってくれるかい? マヤさん、フィリアさんにも報酬としてあげていいよね」

 

 リネールさんの問いには勿論賛同した。

 こんな量、車もないのに普通には運べない。馬車を借りるとかすればいいんだろうけど、ここから街道までは細い獣道だから、そこだけは人力で持っていくしかない。フィリアさんのストレージがあれば全部解決だ。

 わたしは大きく頷いた。

 

「勿論! ていうかフィリアさん、運ぶの手伝ってくれるの?」

「はい。喜んでお手伝いします。それにしてもこの量、いったい魔物何匹倒したらこれだけの魔石が手に入るでしょう。それをたったの数分で……」

「百や二百じゃ済まないよねぇ。そう考えると凄おい」

 

 手ですくうサンドラちゃんも、言ったその場で驚いている。

 あらためてわたしが突拍子もないことをしているのだと、みんなしてこっちを見てくる。

 やめて、その宇宙人を見るような目は。

 

「た、大変だわ!」

 

 そんなところに、会話の輪に入ってなかったリエラさんの叫び声が聞こえた。青い顔をして対岸を指差しているので、皆で再び湖を見通せるところまで降りていくと、そこには霧でよく見えなかったものが見えるようになっていた。それは大きな白い綿のような塊だった。

 

「え、綿?」

「違うよ、クモの巣だよ」

「それかクモの寝床か!?」

「でっかいガの幼虫が作った繭じゃない?」

「どれも違うわ。あれは……」

 

 白い綿の中に小さな丸いものがうごめき出した。そしてそれが、いきなり湧き出るように溢れてきた。

 

「なにあれ!」

 

 もりもりと湧いて出てくる丸いものが、うようよと白い綿の周りを埋め尽くしていく。それは夥しい数だった。

 

「クモよ、クモが孵化してる! あれは、ラトロ・アトレイタの子供だわ!」

「「「えええー!?」」」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 その頃、街道では。

 

「うわあ! レオ兄ちゃん、魔物だ! 急に魔物の反応が現れた!」

 

 そっくり返って大声を上げたのはイレムだった。

 

「何!? どこだ!」

 

 剣の柄に手をかけて、レオが周囲に目線を飛ばす。

 

「あっち! 森の向こうだ! ここから600mくらい!」

 

 イレムが指さしたのは、リトルウィングが向かったと思われる方向だった。

 

「まさか湖の方か!?」

「湖かわかんねえけど、俺の探知ではあっちの方だ。そ、それも反応がどんどん増えていってる!」

「何匹くらいだ!」

「え! お、俺、数は20までしか数えられねえ」

「はあ!? せめて百くらい数えろよ! それができねえでハンターのランクアップもクソもあったもんじゃねえぞ!」

「うえええ」

「ええい、20まで数えたら、また1からでいいから数えろ! 今すぐ数えろ!」

「う、うん。1、2、3、4、5……」

 

 靴を脱ぎ棄て、手足の指を折り曲げながら数えていく。それを見て呆れ果てたレオは、ニーシャに言った。

 

「次回、百まで数えられなかったら、こいつ連れてこなくていいぞ」

「分かっただわよ。絶対連れてかないだわね」

「そりゃねえよニーシャ! 18,19、20! んで、戻って、1、2、3……」

 

 そうやって再び20までいく。そしたらまた1から数え始める。

 

「おいちょっと待て。同じの数えてねえだろうな?」

「か、数えてねえよ」

「するってえと今40だろ。ここまで数えた塊が、あと何個ありそうだ?」

「こ、ここまで数えた塊? え、どういうことだ?」

「うがーっ、このバカ頭が!」

 

 レオは石を拾うと、地面にガッ、ガッ、ガッと書きなぐった。

 

「お前に見えている魔物がこんだけだとする! 今数えたのがそのうちのこれだけだとするだろ! これがここまで数えた塊のことだ! そうするとこの絵だと、数えたのは全体の3分の1。つまり今まで数えたのと同じ量があと2つありそうだってことだ! 同じようにして森の向こうにいる魔物は、今まで数えた塊がいくつありそうだ!?」

「え、う、う、うんと、ええと、1、2、3、4、5……10、くらい?」

「10って……それだと400匹ってことになるぞ? てめえ、どんな数え方してんだ!」

 

 イレムの頭を掴んで、ギリギリと締め上げる。

 

「いててて! レ、レオ兄ちゃんが言った通りにやったよ!」

「なら何でそんな数の魔物が急に湧いて出てくるんだ!」

「待って下さい、若」

 

 クーノが割って入った。

 

「4、500匹くらいの数が湧いて出てきた。あり得る事象があります」

「なに!?」

「孵化です。卵からの孵化」

 

 レオは一度黙りこくると、理解が及んでさーっと顔から血の気が引いた。そして森の向こうへ目をやった。

 

「何の魔物か知らねえが、その数とこれまで出てきた魔物から考えりゃ、クモか!」

「孵化したばっかりの子供とはいえ、魔物のクモ500匹近くじゃ、あっという間に囲まれて、多勢に無勢でやられちまいます」

 

 レオは街道の前と後ろを見る。さっきマヤ達と別れてから20分くらい経っている。この先にあるらしい、湖から街道に出るもう1本の道が合流するところまでも、同じくらいの時間がかかるだろう。つまりレオ達は湖まで、直線距離なら近いが、道のりだと最も遠い位置にいるという事だ。勿論直線距離で向かう事は、森が邪魔をしてできない。

 

 レオは焦りで拳に汗を滲ませた。

 

 子供達を置いて助けに行くわけにはいかない。大量のクモが孵化したとなると、どのみちこの一帯がクモで埋め尽くされてしまう。ラトロ・アトレイタにしろ、タイガー・スパイダーにしろ、これはスタンピードだ。

 

「いずれにしても、リトルウィングに任せて逃げるしかありません。戻って道の駅のハンター達と合流するしか……」

「リエラは? マリエラはどうする!? ミリヤの皇女だぞ!」

「こんなところにやってくる時点で、危険は承知の上でしょう。それに一応Bランクの実力者です。なんとか逃げる手を考えるはず。あとはマヤさんの未知数の戦闘力が、どれだけ通用するか」

「マヤがバケモノじみてるったって、1人でスタンピードを止められるか!」

「だからって助けに行けないですよ! それに俺はその前に、ワリナの王子を守らなきゃなんです!」

 

 レオとクーノが睨み合う。

 

「ねーねー、お兄ちゃん達。何があったの?」

「スタンピードって聞こえただわよ……」

 

 不安そうな孤児院の子供達。ニーシャは顔を青ざめさせている。

 その中で唯一、能天気にちょっとうれしそうなのはイレムだった。

 

「なあ、魔物がうじゃうじゃ出てくるんなら、俺も1匹くらいやっていいよな?」

 

 ニーシャがイレムの襟首を掴んでがくがくと揺すった。

 

「イレム、あんたは魔物やっつけること以外、考えることないのかだわよ!?」

 

 その時、大地が大きく揺れ、森の向こうから巨大な火柱というか、火焔というかが立ち昇った。

 ひと呼吸おいて、轟音がやってきた。

 

 どぐぉおおおおおおおーーー!!

 

 何か爆発が起こったのだ。

 森の木の上に、巨大なキノコ雲が上がっていった。

 

 

 

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