異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第63話「危険地帯でイベント攻略です」

 

 巨大なキノコ雲が上空へと上がっていく。

 続いて突風と衝撃波がやってきて、森の木が大きく揺さぶられた。

 

「うおっ!」

「みんな伏せろ!」

「きゃああー!」

 

 突風が去った後、孤児院の子達とレオとクーノは、唖然と口を半開きにして森の上に盛り上がっていくキノコ雲を眺めた。

 その事象を表現するとすれば、一番しっくりくるのは“噴火が起きた”だ。

 

「……マヤ、かな」

「……マヤ、さんですね」

 

 レオとクーノは暫く立ち昇るきのこ雲を見上げていたが、立ち上がって埃を払うと、子供達に向かって言った。

 

「先へ進むぞ。道の合流地点まで行って、あいつらを待つ」

 

 子供達も何の疑問ももたず、質問もせず同じように立ち上がり、それに従った。

 

「マヤ姉だね」

「マヤ姉だよね」

「手加減しなかったんだね」

「だって破壊神(ザ・デストロイヤー)だもん」

「デストロイしちゃったんだね」

 

 口々にそう呟き納得して、何事もなかったように孤児院のパーティーは街道を先へと歩いて行った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 一方のリトルウィングパーティー。

 少し時間は遡る。

 

「クモよ、クモが孵化してる! あれは、ラトロ・アトレイタの子供だわ!」

「「「えええー!?」」」

 

 白い綿のような塊から、もりもりと湧いて出てくる丸い形のクモの幼生。それは瞬く間に湖岸を埋め尽くしていく。

 

「50や100なんでもんじゃないわ。まだ出てくる!」

「どど、ど、どうすればいいんですか、リエラさん!」

 

 この中でハンターとして一番格上なのは、Bランクのリエラさんだ。わたしより歳は1コ下らしいけど、国を背負って立つかもしれない皇女様でもある。無駄に年齢だけ食ったわたしとは違う。きっといい策を思いついてくれるに違いない。

 

「ど、どうすればって言ったって、これはスタンピードよ。どこかに何重もの防衛線を張って、大勢の人で迎え撃ちながら少しずつ数を減らしていって、勢いがなくなるまで耐えるっていう代物よ。数人で何とかするもんじゃないわ」

 

 淡い期待はあっさり打ち砕かれてしまった。

 そりゃそうだ。国の軍隊を引き連れて来てるわけでもない、お隣の国の皇女様に頼るなんて、お門違いとは分かっている。けど、津波が迫るような恐怖に、何かにすがりたくなるのは仕方ないでしょ。

 

 そんな情けないわたしの腰に、誰かがぎゅっとしがみつく。サンドラちゃん。もう顔は真っ青だ。こんなわたしでも抱き枕くらいにはなるらしい。

 この子をこんなところでクモの餌になんかしたくない。

 

「このまま食べられるのを待つしかないの? マヤちゃん、リネールさん」

 

 リネールさんも難しい顔をして、クモたちを睨んでいる。得意の火の法力も、湖岸を埋め尽くす数には焼け石に水だ。

 

「うわああ、マリエラ様! 私、私、皇帝陛下に何てお詫びをすればいいんですかぁ!? 大ばあ様、フィリアは護衛侍女(エスコートメイド)の家系をここで汚し終わらせ、果てるしかないんですかあ!? せ、せ、せめて盾にでもなるしか」

 

 フィリアさんは錯乱気味になって、リエラさんに覆いかぶさろうとして、「落ち着きなさい!」と引きはがされていた。

 綿のような卵胞からもりもりと湧いて出てくるクモの幼生。湖岸は既に先に生まれたクモで溢れかえっており、後から生まれたクモに押されて湖岸を回って歩いてくる。いくらもしないでここにも来るだろう。その後は餌を求めて森に散らばっていくのかな。ここにいたら餌にされるのは間違いない。

 それにこの事をレオさんや孤児院の子達にも知らせないと、みんなこのクモの大群に飲み込まれちゃう。でもどうやって知らせろっていうの?

 

 のろし?

 爆発でもさせたら気付くかな?

 ……爆発、か。

 

 その時、リネールさんが顔を上げて、わたしの方へ向いた。

 

「マヤさん。吟遊詩人の話しに出てきたっていう、マヤさんのお師匠様が魔物を火山噴火で全滅させたっていう奴。あれって実際できんの?」

 

 わたしが思い付いたのもそれだ。

 お師匠様がやったのは、たぶん水素爆発。

 湖が目の前にある。材料には困らない。

 ここならできる!

 

 わたしは顔を持ち上げると、ゆっくりと頷いた。

 

「やった事なんてないけど、たぶんこうだろうって、やり方は見当がつくわ」

「マヤさん、できるんですか!?」

 

 リエラさんが目を見開いた。

 

「リエラさん、リネールさん! とんでもない突風と熱風がきても避けられるような所探して! 物陰で、伏せられるところ! あと皆、これから絶対火とか点けないで! 剣とかナイフとか金属をぶつけて火花を出すのも禁止!」

 

 そう言ってわたしは駆け出した。

 

「ここで待っててね、下には下りないで!」

 

 そう言い残し、わたしは坂を駆け下る。湖岸近くまで降りると、手を空に向けてかざし、まずは湖のある盆地に蓋をするように酸素のドームで覆った。

 

酸素障壁(オキシジェン・バリヤー)!」

 

 湖を酸素ドームで蓋をすると、両手を広げた。

 

「湖の水から酸素を急速補充!」

 

 体のどこかに物凄い勢いで酸素が入ってくる。体そのものじゃなくて、脇の下とか横腹の辺りとかに入れ物でもあるように蓄えられていく。これがフィリアさんが言っていたストレージなのかもしれない。

 酸素が蓄えられるにつれ、湖の水はみるみる減っていく。湖岸の陸地が増えるが、クモがすぐにそこを埋めてしまう。

 湖の水を酸素と水素に分解して、そのうち酸素だけをわたしが取っているので、湖の上は水素だらけのはず。最初にオキシジェン・バリヤーを張ったのは、水素は軽いから上へ逃げてしまわないよう、酸素ドームで覆って閉じ込めたのだ。

 

「あとは火を点ければ、水素が酸素と反応して水素爆発が起こる。だけどその時用いられる酸素は、湖の周囲のだ。皆がいるところからも奪い取られるから、わたし達が呼吸できなくなっちゃう。なので、今補充した酸素をもう一度酸素ドームの中に戻してあげる。反応しないように慎重に」

 

 酸素を再び出しながら坂を登った。湖が盆地のような地形にあってよかった。蓋をするだけでいいので、作業がやりやすい。

 そして酸素の蓋の外に出て、皆と合流した。

 

「坂道の入り口にある大岩の下に、少しえぐれてるところがあるから、そこに潜って伏せるのがいいんじゃないかって」

「うん。それでいいわ。じゃ、リネールさん以外はすぐそこへ逃げて! 目と耳を塞いで、たしか口は開けた方がよかったはず」

「な、なんで?」

 

 わたしが奇妙なことをやらせようとするので、サンドラちゃんが不安な顔を向ける。

 

「目玉が飛び出たり、お腹が破裂したりするから、だったかな」

「ひいっ!」

 

 サンドラちゃんとフィリアさんが悲鳴を上げる。

 

「急いで! リネールさんは火矢を用意! でもまだ火は点けないで!」

「お、おう!」

 

 湖岸は物凄い数のクモで埋め尽くされている。もうこっち岸にも辿り着いたのがいた。上がってこないうちにやらないとだ。

 

「ええと、火矢は山なりに射ましょう。狙いは必要ない。あの辺の高さまで落ちたら火矢の火が移って、湖の上が大爆発するから。わたし達はそれまでに逃げないとよ。射ったらダッシュで岩のところへ走って!」

「わかった!」

 

 リネールさんがギリギリと弓を引いて構える。

 

「3つ数えたら行こう」

「おう! いつでもいいぜ!」

「3、2、1!」

 

 ゼロと言った瞬間、法力で矢の先に火を点け、パッと火矢を斜め上へ向けて放った。

 

「よっし、思い通り!」

「逃げて!」

 

 わたしはリネールさんの手を引いて岩陰へ向かって猛ダッシュした。

 岩を回り込み、下の少しへこんだところへ、ずざーっと体を潜り込ませ、地面にできるだけ伏せる。

 こんな時何を気を使ってか、リネールさんはわたしの上に身を半分被せるように乗っかってきた。

 

「そんなのいいから、ちゃんと耳も塞いで! ほら口は開けるのよ! 身を守って!」

「あ゛あ゛!」

 

 直後。

 

 

 どっごぉおおおおおおおーーーん!!

 

 

 めちゃくちゃな衝撃と地響きが起こった。背中を熱波が掠り、全身が熱い湯を被ってずぶ濡れになる。

 さらに上の大岩が震え、倒れるのではという恐怖!

 

 時間にして数十秒と思うけど、まだ、ごおおおおーっという音とかき乱れた風が舞う中で、ゆっくりと目を開けた。体をのっそりと動かして横を見る。半分被さってたリネールさんもむくりとする。

 

 はい、この人は無事ですね。

 

 リネールさんを払いのけて、わたしは起き上がった。

 

「み、皆は!? サンドラちゃん!」

 

 サンドラちゃん、リエラさん、フィリアさんも、被った土からざあっと身を起こした。

 

「えええ、まさか本当に火山が!?」

 

 辺りを見回したサンドラちゃんが、その光景に驚いて声を上げた。

 

「うわあああ?」

 

 周囲の木は、湖とは反対の方へ横倒しに倒れていた。

 

「みんな無事!?」

「へ、平気のようね」

「よかったあ」

 

 皆の無事を確認すると、土を払うのも忘れ、わたしは坂のところに駆ける。

 木や草はすっかり払われ、湖は見渡しやすくなっていた。

 そしてそこには、ざぶざぶと揺れる湖の水があるだけ。湖岸にあれだけいたクモは一つ残らずなくなっていた。白い綿のような卵らしきものもなかった。

 時折空から光る石が落ちてくる。サンドラちゃんが拾い上げて、眼の前に持ってきて、食い入るように見た。

 

「これ、魔石だね。ラトロ・アトレイタのかな」

 

 数百匹いたんだから、その数の魔石が辺りに散らばった事になる。

 

「胃腸薬の薬草も、吹っ飛んじゃったのかな」

 

 薙ぎ払われた湖岸を見る限り絶望的だろう。

 

「うーん、望み薄だねえ」

 

 

 

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