異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第64話「危険地帯でマヤちゃんの扱いに悩んでます」

 

 わたし達は孤児院の皆と合流するため、予定通り湖沿いの道を先に進んで行った。

 ただし道の状態は予定通りではない。爆風で周りの草や木はなぎ倒され、沢や谷に架けてあった丸太の橋などは吹っ飛んでどこかへ行ってしまっていた。なので渡る時は少々大変だ。見通しだけはやたらと良いけど。

 

「爆発見えたかな」

「間違いなく見えたでしょう」

「街道を戻ったと思う?」

「時間的に微妙な位置にいたと思うけど、もし行ってみて合流地点にいなかったら、街道を戻ればいいよ」

 

 来た道を戻るか、先へ進むかをリエラさんと相談して、わたし達は先へ行くことにしたのだ。

 木も草もなぎ倒されて見通しの良くなった湖岸の道には、時たま魔石が落ちている。拾い上げるとパチンコ玉のように小さい。たぶんラトロ・アトレイタの幼生のだろう。生まれたばっかの子供だったもんね。

 

「こんなのより、胃腸薬の原料の薬草が欲しかったねえ。ごめんね、みんな吹き飛ばしちゃって」

 

 普段ならこのサイズでも喜ぶところなんだろうけど、今はありがたみが薄い。湖を覆ってた魔素を、全部酸素と結合させて大量の魔素結晶にしちゃったのがあるからだ。軽トラ2台分にもなるその粉は、岩のそばの窪地に隠してきた。後日取りに来ないとね。

 それより水素爆発で薬草もダメにしちゃったことが悔やまれる。

 わたしはサンドラちゃんへ申し訳無さげに頭を垂れた。

 

「仕方ないよマヤちゃん。ラトロ・アトレイタのスタンピードを止めたんだから、そっちの方が大事だよ」

「その事だけどマヤさん」

 

 リエラさんが真面目な顔をわたしに向けて言った。

 

「これは由々しき事態だわ」

 

 その顔はお友達モードじゃなくて、国を取り仕切る皇女様のものだ。

 

 あっちゃー。だよねえ。やらかしちゃったもんねえ。大爆発だよ。火山なんかない湖で、まるで噴火のごとき大爆発を起こしちゃったもんねえ。事実かわからなかったトロ様の伝説の出来事を、実際やって見せちゃったからねえ。

 

 わたしはリエラさんが向けてくる硬い表情に身構えてしまう。

 

「私は小さい時にトロ様達、東方三勇士にお会いした事がありますが、何ぶん幼少だったので何を話したのか殆ど覚えがありません。ですがお母様の手記には、噴火のごとき爆発はトロ様とガリ様がお手を合わせる事でようやく行った、と書いてありました。一人でできる技とは聞いておりません」

「え!? そ、そうなんですか? でもほら、わたしもリネールさんとやったし……」

「リネールさんとでないと絶対できない技なのですか? 東方三勇士級の事をリネールさんがしたと?」

 

 ちらっとリネールさんに目線を向けると、リネールさんはむすっと口を尖らした。

 

「それって、俺がそんな事してるわけねーって、暗に言ってますよね?」

 

 ジト目をリエラさんに返すリネールさん。

 

「お、おほん。失礼しました。しかし実際のところ、リネールさんご本人としてはどうお思いですか?」

「リエラさん、口調がだんだんハンターらしくなくなってるよ。なんか俺、変なこと言ったら首チョンパされないよね?」

「ああ、ごめんなさい!」

 

 首をぶんぶん振って、マリエラになりかかっていたのをリエラモードへ戻した。

 

「んんーっ! 気にせずいつも通りでいいわよ。フィリア、クナイに手をかけるのやめなさい」

 

 メイド服の前掛けに手を入れていたフィリアさんは、すっと両手を前掛けの前に出した。どうやら物騒な物が前掛けの中には隠されているらしい。

 さっきは取り乱し醜態を晒してしまってたので、今度こそ護衛侍女(エスコートメイド)のメンツ挽回とばかりに、失礼なこと言ってはこないかとリネールさんに監視の目を光らせていたみたいだ。

 リネールさんが少しビビりながら答える。

 

「俺がやったのは火矢を放っただけ。別に特別な事じゃないよ」

 

 リエラさんは、そうでしょうと頷いた。

 

「ガリ様の法力も、トロ様のとよく似ていたのだそうよ」

「お師匠様のと? どんなのだったんですか?」

「よくは分かりません。ガリ様はよく風船を飛ばしていたわ。驚くほど高く上がるので、それだけはよく覚えているの。それがトロ様の法力、つまりマヤさんのとどう似てるのか……。思い当たるところはある?」

「……風船が高く上る」

 

 それがヒントだとしたら、わたしはガリ様という勇士の法力が何なのか、なんとなく想像ついた。

 とにかくトロ様達は、2人がかりであの爆発を起こしたんだ。それをわたしは1人でやって見せてしまった。オールインワンでやらかすことができる危険人物ってことだ。

 リエラさんはわたしに近付くと、わたしの手を取った。

 

「マヤさん。さっきの爆発はレオさんも見たはず。そしてあれをやったのはマヤさんだと、当然感付いているでしょう」

 

 そうだよねえ。このメンバー見渡して、一番怪しいのは誰かと考えれば、どう見てもわたししかいないわよねえ。

 

「お伽話か誇張された話だと思われてた事を、本当にやってしまったのだと知れば、レオさんがどの様な態度を取るか……。正直、マヤさんの力は国家にとっては驚異よ。ミリヤもワリナも放ってはおけない存在だわ」

「ええ!? わたしリエラさんともレオさんとも敵対する気なんて全くないですよ!」

「分かってる。マヤさんにそういった事への野心がないことも、望んでないことも、そういう勢力に組みする気もないって事も。深いこと考えずに、今この場で目の前のことを解決する為だけに、できる事をやってくれてるだけよね。その後の影響とか、前後関係とか、そういうの一切気にもせず、思いつくままにやってるだけよね」

「うーっ、褒められてるのかと思ったら、後先考えない単純バカと言われてるだけだったよ!」

単純な(それ)だけに他国に出国したり、騙されて利用されたりするのが一番心配よ。そんな事が起こるくらいなら……って物騒な事を考えていてもおかしくないわ」

「こ、殺されるってこと?」

「もしくはどこか山奥とかに幽閉されて監視下に置かれるか」

 

 どっかのニュータイプみたいな扱いだな。

 

「だからわたしはマヤさんを守りたいの。ミリヤに連れていきたいけど、それはレオさんも許さないでしょう。そうするとヘキサリネに留まるのが一番望ましい。でもレオさんは……レオナルド王子はどうお思いになるか」

「ええー? リエラさんは、もうレオさんといい仲なんでしょ? 止めてくださいよ!」

「国の(まつりごと)となれば、私情には囚われないかもしれないわ。ああもうどうしよう。レオさんと合流したくないわ」

 

 リエラさんが頭を抱えていると、

 

「え、えーと」

 

 恐る恐るという感じでリネールさんが割り込んできた。

 

「マヤさんが道中やからした事については、戻り次第ヴェルディ様が話し合いの場を設けるので、早まらずまずは無事帰ることに専念してほしい、と伝言を承ってます」

 

 わたしとリエラさんは、えっ? とリネールさんの方を向いた。

 

「すげえ的確な伝言だな。領主様はマヤさんがこの旅で絶対何かやらかすって、確信してたみたいだね」

「どういう事? なんでリネールさんが?」

「俺、戻ったらマヤさんの事、領主様に報告しなきゃなんです。領主様のところから監視役みたいな人を同行させない代わりに、俺がその役をやる事になってて」

「え、リネールさん、政府のスパイ!?」

「ええと、せえふとかすぱいとかよく分かんないけど、ただこの採取旅行中あった事、起こった事を領主様に報告するだけだよ。包み隠さずってとこが肝だと思うけど」

「クモをスパスパ切っちゃった事とかも?」

「そうだね。リトバレーの者は、ヘキサリネ初代王の第一の家臣の末裔だからね。隠さず報告しないとと思ってる。一方でマヤさんに助けられた恩もある。これでマヤさんが不利になるようなことがあれば、俺はマヤさんのことも全力で守るよ」

 

 そしてリエラさんをチラ見する。

 

「夜、俺の首掻き切るとかしないでくださいよ」

「リ、リエラさん、そんな事しないですよね!?」

「しないわよ、たぶん」

「うおお、たぶんって言った!」

「リエラさーん!? リネールさん、わたしが間に入って盾になるから。そういう理不尽な事はわたしは許さないよ」

 

 リエラさんは苦笑した。

 

「安心して、そんな事しないから。あなた達も仲良いわねぇ」

「へ? わたしとリネールさんが?」

「いや、心配しなくても、そういうのはマヤさんが大人になってから考えますんで」

 

 わたしはリネールさんの言葉を疑った。

 

「んが! わたし大人だよ、ここの基準では! リネールさんと1歳しか違わないじゃん」

「そういやそういう事になってたっけねえ」

「本当にそうなんだってば! ああ、信用してなかったんだ! 今までサンドラちゃんと変わんないと思ってたんだ! どうりでわたしを見る目が子供を見守るようだったわけだよ」

「そ、そんな事ないよ。大人として一生懸命見てるよ。だけど見た目は……アレだからねえ」

「くう~、味方に裏切り者がいたとはだよ!」

 

 そうこうしているうちに、わたし達は街道に出てしまった。

 細い山道から出てくると、既にレオさんが腕組みをして仁王立ちして待ち構えていた。

 

「無事だったか。さすがはマヤだ」

「あ、えーと、ただいま」

 

 見下ろされるが、目を合わせる事ができなかった。

 

「レオ兄様、薬草は採れなかったの。その、見つからなくて。……吹っ飛んじゃってて」

 

 サンドラちゃんは緊張しまくって、後半は小声になって報告する。

 

「そうか。それは残念だった」

 

 レオさんが返事をすると、それっきりしーんと静まり返る。

 暫くして、静寂はレオさん自身が破った。

 

「報告はそれだけじゃねえだろ?」

 

 目線はわたしに注がれている。努めてレオさんの声は冷静だ。それがかえって怖かった。代わってクーノさんが、ため息をついてから話を紡いだ。

 

「あんたらと別れてから、イレムが魔物の大量発生を探知したんだ。400匹とか500匹とかいうとんでもない数だった。それからしばらく経って、森の向こうで大爆発が起こった。こっちまで地響きや爆風が来て凄まじかったぜ。それが起こってから、魔物の反応は消えたんだ。ぷっつりと全く」

 

 ワリナの2人はじろりとわたし達を見回す。レオさんが腰を曲げて屈み、わたしの間近に顔を寄せた。

 

「まさか知らなかったとは言うまい?」

 

 だらだらと脂汗が顔中を流れ落ちる。

 指をもじもじさせてたが、覚悟を決めたわたしは口を開いた。

 

「え、えっとですねぇ、それたぶんラトロ・アトレイタのことですねぇ。ラトロ・アトレイタの卵が孵化してましてぇ、物凄い数のクモの子供が溢れ返って湖の湖畔がクモだらけになってたんですよねぇ。これはこの一帯が大変な事になるってゆうんでぇ、わたしの法力で一番凄そうなのを試す事にしたんですよぉ。やった事ない初めてのだったんですけどぉ、やってみたら結構上手くいっちゃって、どうやら無事やっつけられたみたいなんですよねぇ。よかったねぇって言って、皆で帰ってきたんです」

 

 ちらりっと上目遣いにレオさんを見上げる。

 

「ほう、一番凄そうなのか。どんなのをやったんだ? リエラ、見てたのか?」

 

 リエラさんに目を向ける。リエラさんはコホンと一つ咳払いして答えた。

 

「見てたけど、さっぱり分からなかったわ。いつものように手を上にあげたり振ったりしてるだけで。そしてリネールさんが火矢を放って火を付けたとたん、大爆発が起きたの」

「それ、マヤの法力に間違いないんだな?」

 

 レオさんの口は口角を上げているが、目は笑ってなかった。リエラさんがレオさんの傍に寄って、そっと腕を掴んだ。

 

「レオ様、彼女はその力を悪い事には使わないと思うわ。ヘキサリネに留まっていれば他への脅威にはならないでしょう」

「ヘキサリネとワリナが敵対したときは? ワリナをミリヤに置き換えてもいいぞ」

「ヴェルディ様は関係改善に努めてるし、大丈夫じゃない? それと、この採取旅行が終わったら、ヴェルディ様が話し合いをしようって」

「ヴェルディは知ってるのか?」

「勿論今ここで何が起きたかは知らないでしょうけど、何かを起こすとは予想してたみたい」

 

 レオさんはふうんと唸って、一呼吸入れると、再びわたしを見下ろした。

 怖いよお。

 

「マヤ」

「は、はいぃ!」

「俺はお前がその法力を使って、悪巧みとか何かやらかそうとか、微塵も思ってねえという事を知っている。今のとこワリナやミリヤに敵対するような気もなさそうだし」

「わ、わたしは、レオさんともリエラさんとも仲良くしてたいですよ!」

「だがその力が知れ渡れば、利用しようとする奴が必ず出てくる。そそのかしに来る奴が絶対現れる」

「そ、そんな時のためにも、お二人がヴェルディ様を仲人にして結婚して、一つの国になっとけば万事解決……」

「お前の話は飛躍し過ぎてラチ開かねえ」

「ひどい、本気で言ってるのに!」

「まあいい、国家間の事はヴェルディと話そう。あいつも思った事はズケズケ言ってくる奴だから話は早い」

「結構ヴェルディ様を信用してるんですねえ」

「国との関係ってのも、結局は住んでる奴、治めてる奴との信頼関係だ。分かるか?」

「はい」

「ならマヤ。お前との関係もどれだけお互いに誠意を見せ合えるかだ。俺達の信頼を得たいなら、お前も誠意を見せろ。お前の法力が何なのか、話せ。俺達はダチだろ。ダチに隠し事なしだ。そうしたら個人的に俺達とマヤは一層強い信頼関係で結ばれる。だろ?」

「ダチって、王子様との関係じゃなくて、不良グループみたいな……ああいえ! 確かにその通りです」

「うちは平和ボケした貴族グループじゃねえんだ。命はった仲間にしかダチなんて言わねえ」

「うわあ、こ、光栄です」

 

 リエラさんの方を見ると、にっこり「お友達ですよ」と頷かれた。

 法力の秘密はハンターの秘匿事項なんて言って逃げてられるような関係じゃないって事ね。

 本当に三国には仲良くなってもらいたい。だけど一方的にわたしの理想を押し付けてるだけじゃだめだよね。腹を割ってとはそういう事だ。

 

「分かりました。野営地に着いて、落ち着いたら教えます」

 

 レオさんは頷いた。

 

「それでいい。まずは目的地へ急ぐぞ。今の俺達の使命はアイポメアニール採取だからな」

 

 レオさんは孤児院の子供達に一声かけ、街道を先へと歩み出した。

 どうやらわたしの事は後回しにされたみたいだ。レオさんからの重圧がなくなり、わたしはほぅっと胸の中に溜まってた空気を吐き出した。

 胸をなでおろし、孤児院パーティーの後ろを付いて行くと、リエラさんが来てわたしの背中を撫でて、にっこりと微笑んでくれた。

 

 

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