異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
右手に丘陵地帯が見えてきた。街道は丘陵の左の方を行くようだけど、わたし達は丘陵の手前で右へ行く細い道へと入った。この先にサンドラちゃんの言っていた西の採取地2ヶ所があるそうだ。
「この2ヶ所は近いから、野営地は皆一緒でいいと思うよ」
「そりゃありがてえ」
嬉しそうに声を上げたのはレオさんだ。
フィリアさんはリトルウィングパーティーの方にいるので、別行動となるとレオさんは孤児院の子達とキャンプすることになる。孤児院の子達がマトモな食材を持ってるわけもなく、食べに行くお店もないわけで、そうなると食事は自分達で作らなきゃならない。持ってる食材と自分達の料理スキルでは、酒のつまみのようなものしか作れなさそうだ。
依頼を引き受けた当初はそういう覚悟だったので、それで文句もなかったが、フィリアさんの野外料理に舌を飼いならされてしまった今、もはや普通の行動食で満足できるわけがない。
そんな訳だから今日も合同パーティーでキャンプ決定と分かると、レオさんはフィリアさんへ向けて嬉しさと期待に顔を綻ばせた。
「今夜もフィリアの旨い飯が食えるってわけだ」
するとリネールさんがフィリアさんにニヤけた顔で言った。
「男を仕留めるにはまず胃袋からってね。やりましたねフィリアさん。大物を仕留めましたよ」
リネールさんはそんな事を言ってからかうが、たとえ仕留めた胃袋が隣国の王子のモノだったとしても、フィリアさんはブレなかった。
「私はミリヤ皇国の
どこかの王子などときっぱり切って捨てられ、レオさんはショックと驚きの表情をフィリアさんに返した。
「若、振られましたねえ。でもリエラ嬢を射止めればもれなくフィリアも付いてきますから大丈夫ですよ。俺、今後飯は若の家に食いに行くことにします」
「おいクーノ。リエラもフィリアも来るなんて一言も言ってねえぞ。第一おめえは今でもほとんど俺の家で食ってるじゃねえか。」
一方、まずは胃袋から掴むのか、と耳をダンボにして聞いていたリエラさんは、早速やる気を見せた。
「お、おほん。フィリア、今度ちゃんとした料理教えてもらおうかしら」
「マリ……いえ、リエラさんはご自分で料理する必要はありません!」
「お屋敷でじゃなくて、こういう野外でよ」
「野外でも私が作ります!」
「まあまあフィリアさん。こういうのは、できた物でもいいから、ちょっとでも自分の手を加えて、好きな人にお出ししたいものなんですよ~」
「マヤさんは黙ってて下さい。リエラさんには必要ありません!」
「フィリア落ち着いて。ところでマヤさんは料理はできるの?」
「わたしですか? そうですねえ。多少はできますよ」
両親が亡くなってからは、暫らく自炊しなきゃだったし、親戚に引き取られてからは、ご飯が出ない時もあったからね。
「やっぱりマヤさんも女性だからちゃんとしてるのね。マヤさんからも何か教わろうかな。どんなのが得意なの?」
「ええと、ハンバーグとか、カレーとか……って、あれ? この世界じゃ無理なんじゃ……」
他にも麻婆豆腐とか回鍋肉なんてのも作ってたけど、この世界にはない便利な食材や調味料とかが前提での調理ばかりじゃないか。スパゲッティのソースも出来合いのを温めるだけだったし。
考えてみると実は殆どが半完成品で、自力で作ったというには程遠い状態だったことに気付いた。こりゃあ、この世界ではろくな料理できないかもだよ。
「……えっと、食文化が違うというか、材料が絶対手に入らないとかが結構あって、無理っぽそうですね~。
それに野外でお供を連れてのピクニックなら、フィリアさんに料理作ってもらって、バスケットに詰めたりとかをリエラさんが手伝ったりでいいじゃないですか」
「お供なんていないわよ。ハンターやってる時は、基本何でも自分でやらなきゃだもの。レオさんと狩りに出かけて、野営地でフィリアのように美味しい料理が振舞えたら、レオさんもきっと喜ぶに違いないわ」
リエラさんの想定場面は、王族やお貴族様らしくぞろぞろお供を引き連れての、近郊の丘でのピクニックとかじゃなくて、ハンターの野外活動だった。それもお供なしだって。二人だけで行くの?
「その立場の人が、お二人して危険なハンターやってちゃまずいと思うんですけどねえ」
そんな話をしつつ道を進んでいると、急に木々がなくなり、目の前に広大なガレ場が現れた。
「わあ、何この景色」
縁のところが盛り上がった砂地になっていて、それを越えると、ごろごろの石が敷き詰められた景色が広がっていた。はるか向こうにこっちと似たような土手があり、土手の向こうはまた林や草原になっている。ごろごろ原野の幅は2kmくらいあるだろうか。そんなガレ場が東西に細長く延びていた。
「これを東へ行くと、領都ヘキサチカの方か?」
「方向的にはそうね」
レオさんとリエラさんは方角を確かめながら見渡し、首を傾げた。
「俺の予想じゃ川があると思ったんだがな」
「さっきラトロ・アトレイタが孵化してた湖もあったし、私もあると思ってたんですけどね」
「だが実際は水なんかねえ。石ころだらけだ」
水がないと二人は言うが、わたしは疑問には思わなかった。
「目の前のこれ、川なんじゃないですか?」
わたしがそう言うと、二人は不思議そうに見返してきた。
「これが川? 水が流れてねえぞ」
「もしかして大雨の時だけ流れるの?」
「いえいえ。それは地表だけの話ですよ。きっとこの地下には豊富に水が流れてるんです」
水無川ってのはよくあるからね。
「地中の砂や砂礫の層を水は流れるんですよ。井戸で水が出てくるのは、そういう水を含んでる砂礫層まで掘り進んだからでしょ。ここは砂礫の層が地表にまで出てて、しかもかなり分厚いんじゃないかな。少しくらいの水じゃすぐ浸み込んじゃって、表面には出てこないで、地中の中を流れてるんだと思いますよ」
「それじゃ掘れば水が出てくるのか?」
「ええ」
「ふうむ。後で掘ってみよう」
「そうすると、もし本当にここを水が流れてるというなら、ヘキサチカの水源に水を供給してるのは、この見た目は枯れてる川ってことになるわね」
「そういえばお二人はヘキサチカの湧き水がどこから来てるのか探してたんでしたっけ。水源を断ち切るとか物騒な事言ってましたけど」
「ああ。普通の川なら、堰き止めるとか流れを変えるとか考えられたんだが、地中の川となると難しいな」
「ヘキサチカって、なかなか堅牢な都市かもしれないわね」
「お二人共、いい加減攻め滅ぼす事ばかりに頭使うのやめません?」
レオさんはむうっと眉をしかめた。一方でリエラさんは満足気に笑った。
「まあ謎は解けたってことで良いんじゃありません?」
そこへサンドラちゃんがぬっと頭を割り込ませた。
「景色見るのは終わった? もう少し行くと砂地の広い所があるの。そこを野営地にしようと思ってるんだけど」
そう言って枯れ川の上流の方を指さした。
「ああ、待たせてすまんな。サンドラ案内してくれ」
サンドラちゃんの案内で、今日のキャンプ地に着いた。
そこは砂の台地だった。周りより少し高く、周囲をぐるりと見渡すことができる。見張りを立てておけば、野獣の接近にもすぐ気付けそうだった。
台地に登ると、下はふかふかの砂。わたしはグランドシートを敷いて座ってみた。
「これは寝心地良さそうねえ」
「でも夜は地面から冷えるかもしれないから、ブランケットはちゃんと敷かないとだわよ」
「あたし、草とかあったら刈って持ってきとくね」
野営の知識豊富なニーシャ達孤児院の子が、その辺はテキパキと準備してくれる。昨日の野営地のように整地や草刈りの必要はないので、荷物を下ろしてグランドシートと毛布を敷くだけで基本寝床は完成だ。あとは快適さをどこまで追及するかってとこだ。
「アイポメアニールの群生地はどの辺だ?」
レオさんが聞くと、サンドラちゃんはさらに上流の方を指さした。
「一つはこの先2キロ位。もう一つはこの石ころ荒野を渡った向こう側になるの」
「ふむ、そんな遠くないな。それじゃあ下見しておこう。明るいうちに群生地の広がり方とか、花の蕾が十分あるかとかを見ておいて、夜迷わないようした方がいいだろ」
「それは良い考えね」
「よし、サンドラは案内だ。ニーシャも孤児院パーティーの代表として下見に付いて来い。そんなに遠くねえから、護衛は俺とリエラでいいだろう」
「またそんな楽観視して。またまたなんか変なフラグ立ててる気がするんですけど」
わたしが心配げに言うと、リネールさんがニヤニヤして追随した。
「マヤさんの悪運を引くスキルは上昇中だからねぇ」
「わたしのせい!?」
「それじゃあマヤも来い。そうすりゃ野営地の方の危険はなくなる」
「本気にしないでください!」
「んで、ヤバいのがわらわらと出てきたら、俺にも大爆発を見せてくれよ」
水素爆発のこと言ってるみたいだ。
「レオさん、あれは見せものじゃないですよ~」
「クーノはここに残って、ここの面倒を見てくれ。周辺の状況把握と、野営地の防御砦化もしといた方がいいだろう。フィリアは食事の用意。孤児院の連中はクーノとフィリアを手伝うように。リネールは皆の安全にも気を配ってくれ」
「「「はーい」」」
レオさんが指示を出すと、皆は仕事に取り掛かった。
「それじゃあ下見に行こう。サンドラ、案内頼む」
「わかったの」
「ほらマヤ行くぞ。野営地から危険を遠ざけなきゃだろ」
「それ本気ですか!?」