異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第67話「危険地帯だからウルフが群れでいました」

 

「あの小山の上にアイポメアニールがあるのに。よりにもよってサンダーウルフの群れに囲まれてるなんて……」

 

 立ち入り制限までかけられた危険地帯を突き進んで、2日半かけてようやく辿り着いた薬草採取地。そのゴールを目の前にして近寄れないなんて。サンドラちゃんは、アイポメアニールを持って帰れない、領都の疫病を防げないという想いが巡り、ショックを受けているようだった。

 

「でもDランクなら、リエラさんやレオさんからしたら格下だから、おちゃのこサイサイでしょ?」

「数匹ならそうだが、群れとなると話は別だ。見たところ50はいたぞ」

「50って、50匹!?」

 

 それはもう普通のオオカミの群れでも数群いるような状態だ。群れで狩りをするのが得意の狼50匹なら、人間5人なんて簡単に追い詰められるに違いない。

 

「あそこに集まってるって事は、もしかして小山の周りは魔素濃度が高いんですかね?」

 

 わたしがそう言うと、レオさんは魔素計を取り出して値を見た。

 

「レベル3.5、てところか。群れのところはレベル4くらいかな。確かに高いな」

 

 またブラウシュテルマーが置かれているんだろうか。だとしたらまた魔法使いが絡んでいるのかもしれない。

 でも魔素濃度が高いだけなら、わたしには対処方法がある。

 

「そしたら、わたしが空気清浄して空気中の魔素を取り払っちゃいます。そうすれば魔物は力が弱まるんですよね?」

「ああ。魔素がなくなれば雷魔法は撃てなくなるだろう。例外は大きい魔石を持っている場合だが、サンダーウルフならその心配はない」

 

 あ、そうか。魔石は魔素と酸素の化合物。還元して魔素を取り出せるのか。大きい魔石を持っていると、魔素がないところでも自分で魔素を作り出して、力が出せるのかもしれない。アクアラングの空気タンクみたいに。

 

「魔素を取り除けたとしても、厄介なのは数ね。魔法が使えなくなっても普通のオオカミより体は大きいし、それが50匹ともなると、何か仕掛けでも用意してないと、まともには戦えないわ」

 

 リエラさんは難しい顔で腕組みをする。

 

「仕掛けって?」

「罠とか、こっちが有利になるような作戦だったりとかよ。一挙に数を減らす方法を考えないと」

「俺も範囲攻撃する法力じゃないしな。力任せに切り伏せてもいいが、遠距離から1匹ずつでも攻撃できりゃあ楽なんだが。どうすっかな」

 

 できるだけリスクの少ない方法を探そうと考え込むリエラさんとレオさん。

 

「遠距離攻撃……」

 

 そのキーワードがわたしの耳にとどまった。

 わたしの法力は目の届く範囲ならどこにでも酸素を出すことができる。つまり遠くても届くって事だ。

 

「わたしの法力なら届くかもしれません」

 

 レオさんは顔を上げると、頭の上で電灯が灯ったような顔をした。

 

「そういや昨日の野営でも、マヤは岩の上から野営地の縁に現れたクモやっつけてたっけな。よし許す。やってみろ」

「許すって言われても、どこにいるか見えないんですけど。高いところにでも登らないと」

 

 首を振って見渡すが、ここはわたしの胸くらいまである草が茂るだけの草原。登る木もない。しかしサンドラちゃんとニーシャは見上げて一点を見つめる。

 

「この辺じゃレオ兄様が一番高いだわよ」

「そうね。肩車してもらえば?」

 

 ニーシャとサンドラちゃんの目線の先はレオさんだった。わたしも振り向いて、その高くてがっしりした肩を見た。一瞬、脚立を思い出した。違う違うと首を振る。

 

「え! で、でも王族の人に肩車だなんて……」

 

 わたしはたじろいだ。しかしその御本人曰く。

 

「今までろくに気を使ってもこねえ奴が、いまさら何言ってやがる」

 

と、レオさんにジト目で見下ろされた。

 

「俺の肩で良けりゃいくらでも貸してやる」

「リ、リエラさん、いいんですか?」

「なんで私の許可を得るの?」

「だって将来の夫ですし……」

 

 リエラさんは真っ赤になってわたしをレオさんのところに押しつけた。

 

「な、何を言ってるのかしら! さっさとウルフを倒して下見をしましょ! レオさん、しゃがんでください」

「リエラも落ち着け。子供乗せるのに、なにを気を使う必要ある」

「むわ!? わたしは大人です!」

 

 

 

 

 わたし達はウルフの群れを排除して群生地を取り戻す事にした。

 まず手始めにわたしは、いつもの要領で一帯の魔素を取り除いた。

 今わたしの横には、魔素が結晶化した水色の砂が積もってる。リヤカー1杯分弱ってとこだろうか。

 

「広さの割には少なかったですね」

「まだそんなに濃くなかったってことだろう。群れの中心部に偏ってたのかもしれない」

 

 それよりニーシャがびっくりしている。ヘキサリネでは貴重な魔石が、急に空中から降ってきて積もったのだ。

 

「うわあ!? 凄い量! マヤ姉、これ金貨何枚になるだわよ?」

「でも今は持って帰れないからねえ。なんなら好きなだけ取っていいよ」

「本当!?」

「これも後日取りに来るパターンかなあ。フィリアさんみたいなストレージ持ちで、もっと大容量の人っているんですか? それか無限に入るとか」

 

 かなりレアな法力らしいストレージ。だけどミリヤ皇国ではちらほら見られるくらい知られた法力だそうだ。なのでこの質問はリエラさんにしたものだ。

 

「極たまに大容量持ちの人がいるわね。どうやってか容量が増える事があるらしいのよ」

「その増える時ってのがどんななのか分からないんですか?」

「わたしが知る限りでは条件は定かでないわ」

「残念。この旅の最中にフィリアさんのストレージ容量、大きくならないかなあ」

「あっちこっちにうまく埋めて隠して、旅先での補給地にしたら?」

「あ、燃料デポってやつですね。よく通う所なら、そういうのも手だなあ」

 

 魔素を取り除き終えたら、次はウルフの方だ。

 レオさんに肩車してもらって、わたし自身の目で確認をする。どこにウルフがいるか、どんな風に群れが広がってるか、どれからやっつけたらいいのか、それを見極めないとだ。

 

 草むらからひょこっとわたしの頭が持ち上がった。

 

 うおお、めっちゃ目線が高い。レオさんの身長は190cmくらいあるだろうか。肩車してもらうと、わたしは2m以上のところに来ることになる。ちょっと怖い。思わずレオさんの頭をぎゅっとしてしまう。

 

「……胸ねえな」

「んがあ!?」

 

 確かに頭にしがみついた時、お胸がレオさんの後頭部に当たりましたよ。そんなことに神経を集中させてた男の人にも呆れるけど、そこで言ってはいけない事を口にしてしまいましたね!

 

 思わず頭を掴んでた手が首の方に回ってしまう。

 

「んげっ! お、おま、ワリナ王国を敵に回す気か」

「もうマヤ台国を敵にしましたよ! それにジャケットに胸当てのプロテクター入ってるし、わかるわけないでしょ!」

「しーっ、静かに! ウルフに気付かれますよ」

 

 ワリナ王国とマヤ台国の開戦寸前の危機は、ミリヤ皇国の仲裁によって防がれた。

 気を取り直してウルフの配置を偵察する。

 

「見えるか?」

「はい、よく見えます。レオさんはいつもこんな景色見てるんですね。そりゃあ人を見下したくなるのもわかりますわ」

「失敬なこと言ってねえで、さっさとやっちまえ。魔素がなくなってかなり慌ててる。あそこに群れの密度が高いところがあるな。あの中にリーダー格がいるんだろう。群れの中心から離れたところに点在してるのが周囲の警戒をしている見張りだ」

「それじゃ見張りを先にやっつけますかねえ」

 

 そうやって群れを分析していると、群れの中心部にちょっと異様なのが目に映った。

 

「群れの中心と思われるところに、一匹大きいのがいます。背中にトゲみたいのがたくさん生えてて、原爆怪獣の背中みたい……」

「なに?」

 

 レオさんも首を伸ばして、わたしが指し示す方向を見た。そして頭が揺れてレオさんの動揺が伝わった。

 

「あ、あれはギガント・ウルフ! 背中のは、あれはブラウシュテルマーだ!」

「え? ブラウシュテルマー!?」

「こいつら、ブラウシュテルマー(あれ)が開花して、濃い魔素が出るのを待ってるんだ」

 

 その時、問題の大きいウルフ、ギガント・ウルフが顔を持ち上げてこちらの方を向いた。

 

「あっ!」

 

 わたしはギガント・ウルフと目が合ってしまった。お互い1秒ほど見つめ合って、そしてお互い行動に出た。

 ウルフは仲間に知らせるべく息を吸い、声帯を震わせんとする。

 一方、わたしは何をしたか。

 ギガント・ウルフが叫ぶのを阻止しようとしたのか。

 違う。

 ギガント・ウルフの警告を聞いたサンダーウルフ達は、間違いなくわたし達へ襲い掛かってくるだろう。だから目の前にいるウルフ達を全部、ただちに止めないとと思ったのだ。

 

酸素切断(オキシジェン・カッター)!」

 

 一瞬にして高さ50cmくらいの位置に出現させた高圧酸素の噴出点。それを技名を叫ぶと同時に群れの方に向けて一気に射出した。その幅、およそ150m。

 

 ぶわっとたなびいた草原の草のウェーブは、瞬く間にウルフの群れを通過した。

 左右に展開していた見張りも、ギガント・ウルフの周りに集まっていた群れも、全てだ。

 

 ウルフたちは固まったように動きを止めた。

 

 ……しかし暫くして。

 

 立っていたウルフ達の腰のあたりから体がずるっと傾斜し、上半分と下半分に分かれて、どっと崩れ落ちた。

 しゃがみ込んでたものは首や頭のあたりにぴぴっと線が入り、ぽろりと落ちた。

 ギガント・ウルフは咆哮をあげようと口を開いていたが、そこからは声の代わりにガハッと血が吹き出た。首を下ろすと凄い形相でこっちを睨む。だが地表から50cmのところで身体が左右にずれ、上側がドドッと地面に落ちた。その衝撃で背中のトゲ、ブラウシュテルマーもパリンと割れた。

 

 最後にギガント・ウルフが倒れると、辺りは風の音だけになった。

 静かなもんだった。

 

「えげつねえ」

「ほんと、破壊神(ザ・デストロイヤー)ね……」

 

 レオさんとリエラさんが小声で呟く。

 

「やめてください、それで呼ぶのは!」

 

 

 

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