異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
小山の上に登ると、やっぱり頂上部は少し凹んでいて、アイポメアニールがびっしりと生えていた。火山の噴火口程ではないにしろ、形は火口のようではある。地質は溶岩ではなく砂なので、火山でないのは確かだ。あとの2つも同じ作りだった。
「これは地中から砂が湧き上がったのかな」
わたしは現物を見た感想を言った。
「え、砂が? もりもり湧いて出てくるの?」
驚いたサンドラちゃんが聞き返してくる。
「うん。正確には砂交じりの水が湧いたっていうのかな」
「どうしてそんな事が起こるの?」
「それは分かんないけど、大雨や地震の後に水が湧くとかは普通にある事だし、湧き出た後ってこんな火山みたいな恰好になるじゃん」
「なるかもだけど、大きさがハンパないよ?」
「うん。だから凄い出かただったんだろうね」
サンドラちゃんとそんな話をしていると、リエラさんに感心された。
「マヤさん、そういうのよく思い付くわねえ。学者の家系かなんか?」
「えへへへ。わたし、学者に見えます?」
「見えないわね」
「ですよねえ」
小山の様子を見終わって降りてくると、ニーシャがウルフから魔石を回収しつつ、一生懸命引きずって一か所に集めていた。
「ごめんねニーシャ。手伝うよ」
「ありがとうサンドラ姉。でも体が輪切りになってるから、魔石取り出すのは結構簡単だっただわよ」
ウルフの輪切りとはいっても、ソーセージを輪切りにするようなのではなく水平にスライスしてるので、非常に変な見た目の輪切りが出来上がってる。脚の生えてる下の部分だけとか、逆に上の部分だけとか。元いた世界でこんな死体見たら、宇宙人の仕業とか思われるだろうな。
「これ、後ろ脚?」
1本だけきちんと解体して外された脚が置いてあった。大きいので、ギガント・ウルフのみたいだ。
「そうだわね。魔物のウルフも美味しいっていうから、食べてみたいのだわね。せっかくマヤ姉が獲ってくれたんだし」
「別に狙って獲ったわけじゃないけど。明日アイポメアニール採るのに、ここに居座られたら邪魔だから排除しただけだよ」
「そのついでにやっちゃいました感が凄いだわね。歩く先の邪魔な小石をちょっとどけたみたいに、ギガント・ウルフとサンダー・ウルフをやっつけちゃうんだから。それも群れだわよ! さすが
「わあああああ!」
みなまで言われる前にかき消した。
そうこうしているうちに、レオさんが枯れ木をたくさん集めてきて、魔石を取り終わったウルフの周りに積み上げた。
「マヤ、燃やすの得意だったよな?」
「は、はい。燃やすのっていうか、燃えるのを勢いづかせるのっていうか」
「どっちでもちゃんと燃えるならそれでいい。他の動物に食われないようにしっかり燃やせよ」
「わかりました。なるべく燃え残りが少なくなるようにやります」
レオさんは腰から短剣を取り出し、法力で灼熱化させて枯れ木に火を点けた。短剣をライターのように使うなんて始めて見た。わたしはそこに酸素を吹きかけ、火勢を勢いづかせる。
「うお! 油もねえのに、何でこんなに勢いよく燃えるんだ?」
わたしはついでだから、ここで酸素とわたしの法力について説明をすることにした。
「わたしの法力は、燃える時に必要な空気の一種を自由に扱えるというものなんです」
わたしの法力と聞いて、レオさんとリエラさんの動きが止まり、真剣な眼差しをわたしへ向けた。ニーシャも興味のある目をし、既に知っているサンドラちゃんも改めて向き直る。
「酸素っていうんですけど、特別なものじゃなくてごくありふれたものです。普通の空気中にも2割くらい含まれています。だから火は燃えるんですよ。酸素の量を増やすと、こんなふうに激しく燃えるんです」
「あの冷たい水や氷はなんだ?」
「あれも酸素ですよ。水と同じで冷やすと氷みたいになるんです。水は100度以下で液体に、0度以下で固体になりますけど、酸素はマイナス183度以下で液体に、マイナス219度以下で固体になります」
「マイナスひゃく……!?」
「それじゃあれ触ったらやべえじゃんか。どうやってそこまで冷やすんだ?」
「そこが法力の凄いところで、冷やした状態の酸素をいきなり出せるんですよ」
「サンソってのなら何でもアリってことか。さすがは法力だ」
レオさんは感心した。リエラさんと法力の有無を言わさぬパワーに頷き合っている。
レオさんの手で触れれば鉄をも溶かす灼熱とか、リエラさんのどんな毒でも瞬間解毒する体液とかだって、現代科学では説明つかない理屈を通り越した存在という事で、オキシジェン・デストロイヤーと同類だ。法力ってそういう無茶苦茶な力なんだ。
「魔素を魔石にしたりっていうのは何なの?」
今度はリエラさんが質問してきた。
「魔石って、魔素と酸素が結合してできたものなんですよ。物質っていろんな元素、物を作ってる元となるものですけど、それが集まってできていて、ほかの元素とくっつきあうと違う物質になったりします。酸素は結構いろんなものとくっつきやすい性質で、例えば鉄とくっつくと酸化鉄、赤さびになったり、炭とくっつくと二酸化炭素っていう空気の一種になったりします。今燃えてるウルフの体にも炭素っていう炭が含まれてるんで、それと酸素が結びついた時に燃えるってことが起きてるんですよ」
「髪の毛に火がついたりするけど、あれも髪の毛に“たんそ”っていうのがあるからってこと?」
「そうですよ」
「炭みたいに黒くないけどねえ。マヤさんの髪は黒いけど、炭には見えないわ」
「炭そのものじゃなくて蛋白質ですけどね。あと、わたし達生物は呼吸をしてますけど、実は呼吸で空気中の酸素を体に取り入れてるんです。酸素がないとわたし達は動けなくなります。数分で死んじゃいますよ。わたしが狩った動物で、凄い苦しそうな顔して死んでるのってあったでしょう? あれってそうやって酸素を取れなくして仕留めたものです」
「人間もそうなるのか?」
「人間も同じですよ」
レオさんとリエラさんの視線が冷たかった。
「お前、相当ヤバい奴だな」
「のほほんとその辺歩いてちゃ、まずい人なんじゃない?」
「んな! せっかく秘密教えたのに、そういう扱いですか!?」
「敵にしちゃいけないってことがよく分かった」
「ねえねえ、大爆発はなんなの?」
「ああ、それはですね、水素っていう元素があって、それと酸素が結びつくときに燃えるんですよ。燃え方が激しすぎて大爆発になるんです」
「本当に火山噴火かと思ったわ。そのスイソはどうしたの?」
「水から作ったんです。水って酸素と水素が結合してできてるんですよ。わたしが水から酸素を取ると、水素だけが残るってわけです。そこへまた酸素を戻してあげて、火を点ければ爆発の完成です」
「水が? あんな爆発物になるの?」
「水素と酸素に分けちゃうと危なくなるってだけですよ」
「トロ様もそれをやったの?」
「たぶんそうだと思うんですよねえ」
「でもガリ様と2人でやったっておっしゃられたそうよ?」
「わたしの想像ですけど、ガリ様は水素を出す法力を持ってたんじゃないかと思うんです。よく風船を飛ばしてられたと言ってましたよね」
「ええ。すごい勢いで、とっても高く上がるのよ」
「水素って、気体……ええと空気の中で一番軽い物資なんです。この辺にある空気は殆どが窒素と酸素、二酸化炭素なんで、水素はどれよりも軽いから浮いてっちゃうんですよ」
「だからガリ様の出すのはスイソっていうものだと思ったのね。もしその通りなら、トロ様と組めばスイソ爆発を起こせられると」
「はい。わたしは水のある所でしか起こせませんが、ガリ様とトロ様が組んでいれば、どこででも水素爆発を起こせられたはずです」
なる程すげえコンビだと、レオさんとリエラさんは頷き合った。
そんな話をしているうちに、酸素をドバドバと注いで燃やしていたサンダーウルフの体は焦げて炭のようになり、その炭も赤々と燃えると、跡には焦げ跡以外何も残らなかった。
「なんてこった。50匹の群れが跡形もねえ」
「……マヤさんには驚かされてばかりだわ。サンソっていうのにも」
「ええ!? ウルフがなくなっちゃっただわね! なんでどうして!?」
「ニーシャ、
「わ、分かっただわ。絶対怒らせないだわよ」
プルプルと怯えながらわたしを覗き見るようにするニーシャ。もうこの娘にはすっかり
「ああ、女神が遠のいていく!」
アイポメアニール採取地の偵察と、ウルフの後始末を終えたわたし達は、来た道を引き返し野営地へと戻って行ったのだった。