異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
リトバレー村滞在2日目。
わたしはサンドラちゃんの家族をはじめとする村人達と、サーベルタイガーのお肉の加工をしていた。すると狩りに出かけていた人達が大慌てで帰ってきた。
「大変だ! はぐれマンモスがこっちへ向かっている!」
「なんだと!?」
「森の中にいたんだが、村道に出てしまって、人の匂いを嗅いで村落があると気付かれてしまったようだ」
とたんに村は大騒ぎになった。
右へ左へと走り回る人達の中で、わたしだけ何をしていいか、何が大変かわからず、ぽつんと口を開けて突っ立っている。
「マンモスなんているんだ」
サンドラちゃんを掴まえて聞くと、焦った顔で答えてきた。
「うん。マンモスは普通群れでいて、移動生活してるんだけど、群れは怒らせでもしない限り人里には来ないの。だけど、はぐれ者は群れから追い出されたか、群れになじめない個体で、そういうのはだいたい気性が無茶苦茶荒っぽいの。嗅覚が鋭いから、人間の匂いを追って村を襲ってくる。お肉も食べちゃうんだよ」
「え!? サーベルタイガー食べられちゃうかもしれないじゃん!」
「こんな美味しそうなの、ぜったい食べられちゃうよ~」
これは一大事だ。わたしのこれからの生活資金がふっとんじゃう。いや、それだけじゃなくて、サンドラちゃんの村がひっちゃかめっちゃかにされちゃう!
「村長さん、どうするの!?」
「村の鹿よけの柵なんか、マンモスには全く役に立たない。なるべく村の遠くで迎え撃つしかない。みんな、剣と槍、弓矢を用意しろ! おそらく村への一本道を突き進んでくるだろう。途中の大岩のところに集まれ!」
「「おう!」」
「「おう!」」
男衆が一斉に声を上げ、武器を取りに走った。
「わたしも、なんかして手伝わなきゃ」
「マヤさんは危険です。女子供と一緒に逃げてください」
「だって、止められるの!?」
「分かりません。いや、マンモスの大きさによっては止められないでしょう。でも村は再建できます。まずは命を守ってください」
「サンドラ、お母さんを頼むぞ」
「お父さん! 無理しないでね! 負けそうだったらすぐ逃げてなの!」
「ああ、分かってる」
サンドラちゃんのお父さんも槍を持って駆けて行った。
「村より人命か。この世界でもあるんだね。それは共感できる。でも、本当に逃げるしかないのかな」
暴れマンモスがどれくらい危ないのか分からないけど、怒ったアフリカゾウは車もひっくり返すんだから、あれより劣ることはないと見た方がいいよね。男の人達は多少なりとも戦うだろう。怪我人も出るだろうな……
お師匠様……。
わたしの授かった法力。隠していきたかったけど。
村を救うことは良い事だよね?
……決めた!
「マヤちゃん! どこ行くの!」
「サンドラちゃんは逃げて!」
わたしは村長さんの所に駆けた。
石器時代の人達はマンモスを狩るとき、落とし穴とか崖とかに落として、上から槍や石を落として弱らせて仕留めたという。上からの攻撃、マウントを取るのは戦いの常套手段だ。
「村長さん、わたしも手伝います」
「何を言ってるんですか! 12,3そこそこの女の子に何ができるっていうんです!」
「なっ!?」
東洋人は若く見えるとはいえ、小学校高学年程度に見られてたとは!
「わ、わたしは17歳です! 失礼な!」
「「「「ええええーー!?」」」
おい、村人総出で驚くんじゃない!
「あとで猛抗議します! それより、どこか窪地とかないですか? すり鉢状のところが理想ですが」
「落っことして上から攻撃するってんだな?」
「そうです」
「しかし、すり鉢状のところなんて、近くにはないな」
「尾根谷はどうだ?」
「道からかなり逸れる。無理だ。奴はまっすぐ村への道を行くに決まってる!」
「なんとか、おびき寄せられないですか!?」
「凶暴マンモスは人間の村のにおいに引き寄せられる。何もない谷の方へなんか向くものか」
サンドラちゃんもマンモスは嗅覚が鋭いって言ってたっけ。においか。
「サーベルタイガーの肉はどうですか?」
「「え!?」」
あの美味しそうな匂いはどうよ? 肉食べるんでしょう? その狂ったマンモスは。
「確かに、あれなら振り向くかもしれん……」
「し、しかし、あんな高価なものを囮に使うなんて!」
わたしは声を張り上げた。
「使います! あれはわたしのです。どうせここに置いといても食い散らかされるんです。誰か持ってきて! 村長さん、その尾根谷ってところ、案内してください!」
「わ、わかった」
◇◇◇
当初の迎撃ポイントと言っていた、村への1本道の脇にデーンと鎮座する大岩。高さは3、4メートルありそうだ。登っている人もいる。あそこで戦うなんて、落ちたらそれだけで大怪我するじゃん。
岩の右の方の地面は傾斜していて、傾斜に沿って少し行くと急斜面になり、V字に切れていた。そこが尾根谷と言っていた所だ。15メートル程崖状の斜面を下ると平になっている。V字なので、その先は広がっているから、追い詰めるという地形ではない。むしろ下に降りたらそのまま開けてる方に逃げられてしまう。
ただ、上にいる限り、下に落ちた者とは空間的に切り離すことができる。
よし。ここに決めた!
向こうの方からバキバキと木が倒れる音と、ズシンとかいう地響きが聞こえてきた。
道脇の岩の上へ、迎撃の投げ槍隊、弓矢隊、そして背中に飛び乗って剣を突き刺す決死隊が登っていく。気休めかもしれないが、足を引っ掛けるべく道にロープを張る人達もいる。
ここで止められなければ、村は蹂躙されること決定だ。
「もう、いくらもしないで来るぞ!」
「マヤさんはどうする?」
「ここへ来ながら話した通り、お肉持って谷の方へ誘うわ」
持ってきてくれたサーベルタイガーのもも肉を肩に担いだ。
ああ、涎が出そうな匂いだよ。いや、もう出てるよ。これもう、唾液腺を解放する化学物質が出てるんじゃないだろうか。
「斜面ギリギリか、谷の下まで誘わないと、きっとマンモスは落ちてくれないぞ」
「法力で持ち上げられる人いましたよね? 斜面ギリギリのところでわたしジャンプするんで、下に落とさずに拾ってくれます? マンモスと一緒に転がり落ちたくないわ」
「チトレイ!」
サーベルタイガーを解体してた時、あれを持ち上げてた人が進み出た。
「ああ、たぶん大丈夫だ」
「じゃあお願い。お肉はその時、谷へ落とすわ。悔しいけど。それで追っていってくれればもうこっちのものよ」
「それじゃあ、弓、槍隊はこっちへ配置換えか」
「いえ、もしわたしが失敗したときの為、そのままにしときましょう」
「それじゃあ、マンモスはどうやって仕留めるんだ? 谷の下へ逃がすのか? また戻ってきちまうぞ?」
わたしは肉を持って走るルートを目で追って確認しつつ、答えた。
「それもわたしがやります。火矢を持った人、2人程貸して」
「2人だけでいいのか?」
「十分です。それと、誰も絶対に、谷の下に降りないことっ!」
強く言い放った。そこだけは徹底してもらわないとだ。
くいっと顔を上げてみんなの方を向いた。
「降りたら、死にますよ?」
皆がびくっと背筋を反らすのが見えた。
「分かった。リネール、一人連れて一緒に行け」
「はい!」
火矢を持った若い男の人が走る。
ドシンドシンドシンと地響きが近付いてきた。
「来たぞ!」
「みんな構えろ!」
わたしはお肉を持って、1本道へ走った。
そして大岩の前方の、道の真ん中に立つ。
道がカーブしているところから斥候が姿を現し、こっちへ向かって必死の形相で走って来た。
その後ろから、木をなぎ倒してマンモスが姿を現した。
倒された木が回転しながら飛んで行く。
「な、なにこれ!!?」
で、でかいぃーー!
恐竜じゃないの!?
現れたマンモスは、動物園で見るような象の大きさじゃなかった。
家だ! 2階建て住宅がそのまま歩いてる!
大岩の高さより高いじゃん! 上からの優位なんて取れないじゃん! 何がマウント取るわだよ!
バオーンとか空気が震える大声を上げ、迎え撃とうとする人の集団を見たマンモスは、怒りをあらわにして突進してきた。
「「「わあああー!」」」
岩の上の人達も悲鳴を上げる。
ドスンドスンと地面を揺らして迫るマンモス。
わたしは大慌てで声も出せず、肉を担いだまま一目散に走った。一応当初決めてた予定ルートをたどって、岩の横の斜面へと駆けた。
が……
バオーンと吠えたマンモスは道を真っすぐ進み、その勢いのまま大岩に頭をぶつけた。ぐらぐらと辺り一帯が大地震のように揺れ、大岩の上にいた人達がばらばらと岩から零れ落ちる。
ま、まずいよ! 落ちた人、踏みつけられちゃう!
「こ、こっち! こっちだあーーーー!」
わたしは芳醇な香りを振りまくモモ肉を振って、盛大にアピールした。
だがマンモスは、わたしより岩から零れ落ちた人達を追いかけている。その人たちは一応わたしの方へ逃げてくるので、マンモスもこっちへ顔を向けた。
お、お肉必要あった!? なくてよかったかな!?
わあーっと落ちた人達は木々の中へちりじりに逃げていく。マンモスは首をグルングルン振り、その長い牙や顔が、その辺の木をなぎ倒す。
だめだ、ぜんぜんわたしを見てない!
「誰か、火矢を放って!!」
わたしが叫ぶと、わたし用に火矢を準備してたリネールさんが即座に火矢を撃った。
ヒューッと顔の方に向かって飛ぶが、顔も鼻も牙も勢い良く振り回してるので、まともに当たるとは思えない。
「こりゃ当たるの待ってたら遅いわ!」
そう思ったわたしは、両手をマンモスの顔へ伸ばした。
「
顔周囲の酸素濃度を一気に上げる。すると火矢がそこへ到達したとたん、矢が激しく燃えてマンモスの長い毛に飛び火し、ボワッっと顔が火に包まれた。
マンモスは、ボアアアーーンと悲鳴のように叫び、顔を激しく振って、その辺の木に顔をぶつけたり、擦りつけたりした。顔の周りの火は花火のように一度激しく燃えたが、散らされてしまい、すぐ消えてしまった。
「可燃物が少なかった!?」
顔を上げたマンモスは、ギロリと正面に目を向いた。そこにいたのはわたしだ。その目は怒りで炎が上がっているようだった。
ロックオンされた!
怒り狂ったマンモスは、雄たけびも上げず、闘牛のごとくまっしぐらに駆け出した。
無駄を一切省いて、殺すことだけに一点集中!
鬼だこいつ!
「きゃあああああ!」
一目散にVの字に切れてる谷へ向かって走る。
いる!? わたしを拾ってくれる人、いる!? 逃げちゃってない!?
目線の端に、あの持ち上げ法力の人、チトレイさんが準備して待ち構えるのが見えた。
拾ってもらえなかったら、わたしは斜面を転がり落ちて、後を追ってきたマンモスに押しつぶされてお陀仏間違いなしだ!
「た、頼んだわよ!」
全速力でチトレイさんの前を通過した。
既に背後には、もう鼻息がかかるくらいにまでマンモスが迫ってる。
わたしは、斜面ギリギリの所で踏みとどまる暇もなく、サーベルタイガーのモモ肉を放ると同時にジャンプした。
せりゃーっ!
すると、下から持ち上がるように何かに支えられ、空を舞うがごとく、ジャンプした位置よりも高みへ浮き上がった。
その真下を、マンモスの長い毛が少しかすめて通過。
マンモスはドドンッドンドンと土煙と地震を起こしながら斜面を転げ落ちていく。
そして、下の平らなところまで落ちて、ドーンという凄まじいい音を立ててひっくり返った。。
わたしは咄嗟にマンモスのいるところへ手を向ける。そして叫んだ。
「
谷の下の酸素を一気に奪い取る。
起き上がったマンモスだが、すぐに変化が現れた。苦しそうにもがき出し、ガッガガガガと妙な声だか音だかを発し、口から泡を吹く。顔を振り乱していたが、ドシーンと音を立てて倒れた。その後も地面でもがいていたが、次第に動きが鈍くなっていく。
「な、何が起こってるんだ」
斜面の上に集まってきた人達が、その恐ろしい光景を見て口々に呟く。
斜面を少し降りようとした人に、わたしは叫んだ。
「降りちゃダメ! 死ぬよ!?」
「なっ!」
その人は慌てて後ずさりした。
マンモスは谷の下でビクンビクンと痙攣している。
しかしこの酸素を収奪するというのは、閉鎖空間でやらないと周りからどんどん新しい空気が供給されるので、無限に吸い取り続けなければならない。わたし達のいる谷の上からも空気は落ちていってるので、自分の周りの酸素は大丈夫かと何だか心配になってきた。酸素を奪い続けているってことは供給もあるってことだから大丈夫なはずだけど、ちょっと怖くなってきたので、酸素除去作戦はいったん止めることにした。
「火矢を用意!」
「おう!」
「数本続けて放てるように」
リネールさんともう1人が駆けてくる。リネールさんが手先に炎を出すと、次々に持っている矢に火を点けた。この人は法力で火を出せるらしい。
「
わたしは谷の下の酸素収奪をやめ、炎を燃え上がらせるために今度は酸素を供給する。特にマンモスの周りの酸素濃度をアップした。濃くする範囲は限定できるのだから、その逆もできそうなんだけどな。
そろそろか? と思った刹那。
ブワアアアーッと叫び声が響き、マンモスが動き出した。
ちっ、やっぱりあの巨体を完全に酸欠死させるには時間が足りなかったみたいだ。
でも、もう遅い!
「放てー!!」
わたしの号令で、リネールさん達が火矢を放った。射ったら流れるような動作で次の矢を準備、そしてすぐさま放つ。
ひゅんひゅんと飛んでいく火矢は、先程の顔への攻撃同様に、マンモスの体近くへ届いたとたん、爆発的に火炎を上げた。
今度は潤沢に酸素を追加してってやる!
「
次々と届く火矢がまるで油を注ぐようにマンモスの体のあちこちで火の手を上げ、長い毛に引火、猛烈な炎を上げる。毛はみるみる焼けてなくなり、皮膚があらわになる。そしてその皮膚もじゅうじゅうと焦げていく。
斜面の上に立つ人達は言葉を失って、呆然とその光景を見ていた。
ゴウッっと斜面の上空に浮かぶわたしに谷下から熱風が吹き上げてきた。
「熱い熱い! 下ろして! わたしを下ろして!」
唖然としていた持ち上げ法力のチトレイさんもはっと我に返り、慌てて私を斜面の上に降ろした。
「ひゃー、自分で自分を焼きそうになっちゃったよ」
「マ、マヤ殿が、あれを燃やしてるのか?」
「燃やすのを手伝ってるっていうのかな。ねえ、あのままあそこでバーベキューにするのと、死んだところで止めるのと、どっちがいいのかしら」
「そ、そうだな。あのままでは牙など貴重な部位も燃えてしまう。バーベキューは解体してからの方がいいな」
「分かったわ。みんな、火を消すから、今一度谷には降りないで!」
皆が斜面の上に留まるのを確認すると、手をマンモスに伸ばす。
「
さっきは興奮もあって叫んだけど、今度は静かに、普通の声で言った。
すると、酸素を奪われ、火は瞬く間に鎮火した。酸素を自由に操れるわたしには、消火もお手の物だ。
火が消えると、おおおーっと驚きの歓声が上がる。そしてうおおーっとか、わあああーっとかいう歓声に変わった。さらに、
「マヤ様!」
「マヤ様!」
「マヤ様ばんざーい!」
「ばんざーい!」
こっぱずかしい勝どきに変わった。
そ、それだけはやめてーっ!