異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第69話「危険地帯でイレムはランクの差を思い知ります」

 

 野営地に戻ると、そこは砦になっていた。

 野営地は枯れ川の岸辺に積もった砂の土手の上に作られていたが、その中でも一番高い丘のようになってるところが選ばれていた。そして縁のところの砂をさらに高く盛って、上には丸太まで乗せてあった。見事な遮蔽物だ。その後ろに見張りらしい子供が目だけ出してこっちを窺っている。あれで機関銃でも備え付けられていたら、この世界じゃもう誰も近付けないんじゃないかな。

 

 見張りの子供が、わたし達の姿を見つけてなにやら言ってきた。

 

「止まれ、そこの者たち! それより近付くとリネール兄ちゃんの火矢が飛んでくるぞ!」

 

 あっそうか。飛び道具って言えば弓矢か。弓使いのリネールさんがいたっけ。完璧じゃないの。

 横でレオさんが両手を上げた。

 

「参った、降参だ。良い防御陣地になってるじゃねえか」

「そお!?」

 

 子供が2人、遮蔽物から姿を見せると、嬉しそうにはしゃいだ。

 

「変わりはないか? 野営地の支度は整ったのか?」

「寝床に敷く草も集めてあるよ」

「フィリアお姉ちゃんがゴルゴノプスを解体してるよ。丸焼きにするんだって」

「うほほ、マジか! よしよし、順調そうだな」

 

 今夜も美味しい飯にありつけると涎を拭くレオさん。

 

「あとさっきイレム兄ちゃんが、魔物の反応があるって言って出ていったよ」

「見なかった事にしろって言ってたけど、目の前で見てたのに見なかった事にって、どうやればいいんだろうね?」

「ぬわにぃい~?」

 

 喜んでいたのも束の間。爆弾発言にレオさんの目が釣り上がる。

 

「あのバカタレ、また一人で行っちゃったの!? あれだけ痛い目にあってまだ懲りないんだ。バカなの? そろそろ締め上げたほうがいいかしら」

 

 わたしも呆れて空いた口が塞がらない。

 

「あのマヤ姉を何度も怒らせるなんて、怖いもの知らずもいいとこだわね……」

 

 ニーシャはわたしに妙な誤解を持ってしまっているみたいだ。早く矯正しないと。

 

「どっちへ行った?」

「あっちの林の方」

「クーノか誰かには伝えたか?」

「誰にも言ってないよ」

 

 レオさんの顎がカクンと落ちた。

 

「……子供に見張りやらせるのは無理なんじゃないか?」

 

 レオさんが眉をひねるが、リエラさんはそれに同意するより先にイレム探しの為動いた。

 

「それより早くクーノさんにも知らせて、イレムの捜索に行きましょう。ニーシャ、ここで見張りしてて。君達はクーノさんにイレムの事を知らせてきて。知らせたら戻ってきてニーシャを手伝ってね」

 

 リエラさんは子供達に指示を出すと、わたし達の方へ向き直った。

 

「さあ、とっとと捕まえてきてお説教するわよ」

「了解! 悪い子はご飯抜きにしましょう!」

 

 

 

 

 そのイレム(問題児)であるが、簡単に見つかった。

 林に入っていくらもしないところで、イレムは緑色のマットレスのようなのに挟まれていた。体には蔦のようなのが絡まっている。

 緑のマットレスは縦長の楕円形で、向かい合って二枚貝のようになっており、ギザギザの櫛のようなのが縁に生えている。閉じると檻のようになり、中に入ったものは閉じ込められて出てこれないのだ。さらにイレムは葉の内側のマットレス状になってる柔らかなクッションに体が半分埋もれていて、サンドイッチ状態で身動もできず、しかも縛られているので、もはや檻に収監された囚人である。

 

「なんなの、あの緑色の分厚いマットレス状のものは?」

「葉っぱなの」

「葉っぱ!?」

 

 サンドラちゃんが教えてくれたものの、にわかには信じられない。

 

「……た、助けてくれ」

 

 イレムの顔は肉厚のマットレスにぎゅうぎゅうと挟まれていて、苦しそうな声が漏れ聞こえた。

 

「とにかく出してやらなきゃ」

 

 わたしは助けに行くべく近付こうとしたら、サンドラちゃんに止められた。

 

「マヤちゃん、うかつに近付いちゃダメだよ!」

「え?」

「これはランクEの魔物の捕食植物で、ディオネアっていうの。周囲に蔓で罠を仕掛けて、それに触ると蔦に絡み取られて、この檻のような捕食部に引っ張られるの。そうするとこうやって厚い葉っぱに閉じ込められちゃうの。ここに挟まれると、だいたい3日くらいかけて溶かされて、ディオネアの栄養にされちゃうの」

「……マジか、助けてくれぇ!」

 

 イレムが自分の行く末を聞いて悲鳴を上げた。

 

「あなた不用意に近付いて、蔓の罠に触れちゃったんでしょう」

「……そんなのがあるなんて、知らなかったんだ」

「知ってても、Fランクのあなたじゃ罠は簡単には見つけられなかったでしょうけどね」

「……なんでだよ!」

「場数の差っていうの? 経験がぜんぜん足んないの」

「……なにぃ!?」

 

 サンドラちゃんは木の周りに目を配った。

 

「例えばあそこ。なんてことない跨げる程度の小さな藪だけど、所々切れてるでしょ。木に近付こうと思ったら、あそこを通りたくなるよね?」

「そうね」

「それが罠なの。そこを通ると、藪の切れ目の周りに這わせてあるディオネアの蔓に触れる。そうすると途端に蔓は絡みついて、口を開いて待ってる葉っぱのところまで引っ張られてっちゃうの」

 

 サンドラちゃんは太めの木の棒を拾うと、藪の切れ目のところを棒で突っついた。とたんにヒュッと蔓が棒に絡みつき、サンドラちゃんの手から木の棒を奪い取る。そして蔓が鞭のように踊り、木の方へと持っていってしまった。そこにはマットレス状の葉が開いて待っており、中に棒が入って葉に当たると、葉っぱがぱくんと閉じた。

 

「これが今のイレムの状態なのね」

「うわあ、恐ろしい! でもこの小さな垣根の切れ目が、たまたま欠けてるんじゃなくて、罠だって判別できたのは何でなの?」

 

 サンドラちゃんはゆっくりと腕を動かし、一帯を指し示した。

 

「ちょっと広く見渡してみて。一つ一つは小さな藪だけど、よく見るとあの木を中心に同心円状に散らばってるでしょ」

「……本当だ」

「魔物の木は知能をもってるの。だから自分の周りを作り変えたり、罠を仕掛けたりできちゃうの。そこの地面の盛り上がりも怪しいわね」

 

 そう言ってわたしの足元のすぐ近くにある盛り上がった地面を指した。

 

「中に蔦のとぐろがあって、踏むと絡み取られるのかも」

「ふええ」

「サンドラちゃん、Eランクなだけあって、立派な探検者(エクスプローラー)ぶりねえ」

「ああ。しっかりしたもんだ」

 

 リエラさんとレオさんからも褒められて、サンドラちゃんはえへへと微笑んだ。

 

「……分かったから、早くこの木ぶっ倒して、俺を出してくれえ」

 

 イレムが情けない声を漏らした。しかしサンドラちゃんは無情にも告げる。

 

「そうはいかないの」

「な、なんで!」

「さっきも言ったけど、この木には知恵があるの。せっかくの獲物、イレムのことだけど、それを盗ったら木が怒るわ」

「……じゃあ俺は、このまま木に食われるんか!」

「サンドラちゃん、お仕置きは必要だけど、このまま消化されちゃうのは可哀想じゃない?」

「代わりがあればいいのよ」

「代わり?」

「フィリアお姉ちゃんがゴルゴノプスを解体してるんでしょ? 食べないところを木にあげればいいと思うの」

「あ、なる程」

 

 わたしはポンと拳を手のひらに打ちつけた。

 

「それとこの木は、食べられる実もあるの。あれ」

 

 サンドラちゃんが上の方を指さした先には、大きなそら豆のさやのようなのが沢山ぶら下がっていた。

 

「あれだけ生っていれば、ちゃんと獲物をお供えしてあげれば、一つ二つ採っても怒られないよ」

「へえ、礼儀をわきまえれば、共存できるんだね」

「それじゃフィリアお姉ちゃんに、解体していらなくなったところもらいに行こう。イレムはそのままそこで反省していなね」

 

 皆はくるりと踵を返した。

 

「……え! 俺を置いて行っちゃうのか!?」

「人の言う事聞けないような悪い耳は、少し溶かしてもらうといいわ」

「ええ!? 耳溶かされたくねえよ! た、助けてえ!」

 

 イレムは皆が戻ってくるまでさらに30分程、葉っぱに挟まれたまま放置され、反省を促された。

 

 

 

 

 数人の孤児院の子を連れて、わたしとサンドラちゃんは戻ってきた。

 この子達にはゴルゴノプスを運んできてもらった。どのみちフィリアさんのストレージに空きスペースを作る為に、解体して使うところだけにして(かさ)を減らさないとだったんだ。いらなくなったところは、埋めるか燃やすかだったので、木の肥料になるのならその方が有効活用になって良い。ここに持ってきたのは主に内臓や骨、皮、頭などだった。

 なおレオさんとリエラさんは、もう大丈夫と思ったらしく、任せたと言ってもうこっちにはこなかった。

 

 葉っぱに挟まれたイレムを見て、子供達はケラケラ笑い出した。

 

「ぷぷ。イレム兄ちゃん、格好悪ぅー」

「顔、ギューってなってるよ。変な顔! あはは!」

「……ちきしょう、覚えてろ」

 

 年下にかっこ悪いところを見られて、イレムは顔を真っ赤にする。

 

 サンドラちゃんに先導されて、わたし達は罠を回避して、イレムが捕まってる葉っぱの所まで来た。

 

「サンドラ姉すごおい。罠みんな分かっちゃうんだ」

「皆も先輩達の言う事ちゃんと聞いてハンターやっていれば、分かるようになるよ」

 

 サンドラちゃんは木の幹に触れると、木に語りかけた。

 

「ごめんね。この人はわたし達の仲間なの。だから返して下さい。代わりを持ってきたから受け取ってね。こっちの葉に入れるね」

 

 イレムが捕まってる横に、開いて獲物を待ってる別の葉っぱがある。その下に、縛ってひとかたまりにしてあるゴルゴノプスの不要部位を3つとも置くと、サンドラちゃんは葉っぱの内側に生えてる棘のようなのを棒で突っついた。すると葉っぱはぱくんと閉じて、ゴルゴノプスの不要部位の塊を挟み込んだ。

 

「この突起に獲物が当たると、葉っぱが閉じられるの」

 

 次にイレムが挟まってる葉っぱの裏手に回った。

 

「閉じた葉っぱを開けるのは簡単で、ここの蝶番部分にある液体の入った袋に穴を開けて中の液体を出すか、液体の袋を押してる“ハンマーヘッド”ていう部分を動かすの。できれば傷付けたくないから、今回はハンマーヘッドを動かすよ」

 

 液体の入った袋をぎゅうっと押し付けているハンマーヘッドなる器官を、サンドラちゃんは孤児院の子と押し戻した。すると袋に液体が戻ってきて、蝶番が緩んだ。

 

「なる程ね。これは油圧シリンダーと同じ仕組みなんだ」

「マヤちゃん。蝶番が緩んだから、葉っぱを広げてイレムを出して」

「オッケー」

 

 葉っぱは簡単に手で開けることができた。イレムはコロンと人形のように地面に転がる。まだ蔓に縛りつけられてるので、自力では起き上がれないのだ。蔓の根本はイレムが葉っぱの中に入った段階で切れるようなので、わたしは遠慮なくナイフで切ってイレムを解いた。

 

「ふー、助かったあ」

「イレム、なんか言うことない?」

 

 わたしは眉をピクピクさせながらイレムに笑ってない笑顔を向ける。

 

「……お、俺が何を……」

「あんた勝手に動いちゃあ、格上の魔物にやられてばっかじゃない。このディオネアっていう木もEランクだっていうし、格下のFランクのあんたは、上位者に捕まって危うく木の栄養にされるところだったのよ?」

 

 イレムの鼻先に人差し指を押し付けながら、お説教モードに入った。

 

「でもEランクのサンドラちゃんは危なげなくここまで来て、あんたを助けることまでできた。これがランク差なんでしょ。あんたの実力はサンドラちゃんにもぜんぜん及ばないのよ。いい加減解りなよ!」

「……」

 

 イレムはちらっとサンドラちゃんを見た後、悔しそうに唇を噛んだ。

 

「助けてもらったのよ。分かったらまず言うことがあるでしょ」

 

 イレムはサンドラちゃんの方に向き直ると、手をグーにして、それでも頭を垂れた。

 

「……助かった。恩に着る」

「むわあ、なにその偉そうな謝り方! 落ちたものを拾ってあげたのとは違うのよ!?」

 

 カリカリするわたしとは違い、サンドラちゃんはまあまあと穏やかに微笑みを返した。

 

「わたしはいいけど、この木にも謝っといた方がいいよ。魔物っていっても全部が敵じゃないんだし。糸を紡ぐクモみたいに役に立ってる魔物もいるでしょ。この木もそう。魔物の木は意志があるから、襲われたことに怒ってたら、ここから出ようとするとまた捕まるかもよ?」

「ええ!?」

 

 イレムは一瞬で顔を青ざめさせた。そして木を見上げる。そしたら木の上の方で蔓が触手のようにさわさわと動いていたので、ますます青くなった。

 

「ご、ごめんなさい! もうしません!」

 

 深々と木に向かって頭を下げた。

 わたしとサンドラちゃんはニンマリと微笑み合った。

 

「それと、実を1つください。育ち盛りの子が10人もいるの。ディオネアの実は栄養あってお腹の持ちもいいし、旅には最高の食料だから」

 

 サンドラちゃんは木の幹をポンポンと優しく叩きながら木に語った。

 

「マヤちゃん、そこのに手届くかな?」

 

 サンドラちゃんは下の方にあるディオネアの実を指差した。

 

「これ? ええと、下に台になるもの置けば取れそうだよ」

 

 きょろきょろして何か台になるものはないかと探してると、台形の石が目に止まった。広い方の面がちょうど上を向いており、その面も平で、踏み台にするにはピッタリだ。

 

「あ、これ踏み台にするのに丁度いいわ」

 

 皆でズルズル引きずって実の下に持ってくると、石の上に乗って手を伸ばす。

 

「う、もうちょい、もうちょい……」

 

 微妙に手が届かないでいると、枝がさわさわと揺れた。するとでっかい豆のさやが2つ、どさどさっと落ちてきた。

 

「わ、びっくりした!」

「わあ、ディオネアの方からくれたよ。ありがとう」

「ええ? 魔物の木ってそんなに賢いの?」

「この木は特別かもねえ」

「へええ。驚いた。ディオネアさん、ありがとう」

 

 わたしも木の幹に手を触れてお礼を言った。なんとなく、微笑まれたような気がした。

 落ちた豆のさやを持って帰ろうと持ち上げようとしたら、重くてびっくりした。

 

「うわ、重い!」

「この中には大きな豆が、たいがい12個入ってるの。朝食べれば夜まで持つって言うくらい食べごたえのある実よ。わたしには大き過ぎて、一度には食べきれないサイズね」

「このさや一つで12人の一日分かあ。旅行日数の数、これ揃えればいいのね。準備しやすいね」

 

 よっこらせと豆のさやを担ごうとすると、子供達がすぐ手を伸ばした。

 

「マヤお姉ちゃん、持つよー」

「重いよ?」

「まかせてー。よいしょ」

「イレムも持ちなさいよねっ」

「ちぇっ。わかったよ」

 

 男子最年長のイレムはまあともかく、10歳程度の女の子までもが、巨大な豆のさやを軽々と肩に担ぎ上げて、よーし戻ろうーっと元気に駆けていった。

 

「え!? 早!」

 

 機械のない時代の子供のパワーに圧倒されるわたしだった。わたしとほぼ同じ体格のサンドラちゃんが、わたしの何倍もの荷物をひょいひょいと持って歩くわけだ。

 

「片手で岩を持ち上げるチートパワーがほしいわ……」

「マヤちゃんが時々呟いてる“ちいと”って、物凄いとか桁外れっていうニュアンスのこと? マヤちゃんはもう十分あると思うけど」

「え?」

「湖が噴火するんだよ? ザ・デストロイヤーだっけ?」

「そ、そんな技じゃないし!」

「わかってるよ。マヤちゃんの二つ名だよね?」

「絶対イヤ!!」

 

 

 

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