異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
日が暮れてきた野営地では、焚き火の上で豪快にゴルゴノプスの丸焼きが作られていた。
横ではギガント・ウルフのモモ肉も焼かれている。ついでにタイガー・スパイダーの脚も並べられて、くつくつと沸騰した肉汁が切れ目から滴っている。そして大型ダッチオーブンでは、フィリアさん特製の絶品スープが重たい蓋をぽこぽこと揺らしていた。
「お食事の前には手をきれいに洗いましょうね。汚れた手で食べ物触って口に入れると、お腹痛くしたり、変な病気になったりするからね」
フィリアさんが肉切り包丁でゴルゴノプスを切り分けている横で、わたしは子供達の手を洗わせている。子供達にというか、ほぼ自分に言ってるようなものだけど。わたしは不潔にしたとたんに、確実にお腹を壊す自信があるよ。
女の子達は桶に汲んである水をすくって素直に手を洗っている。男の子は「なんでだ」とか「面倒くさい」などと言ってたけど、デストロイされたくなかったら洗うだわよと言い聞かせてる年上の声が聞こえた後は、静かになったような気がする。
香辛料と濃い塩水で作られたタレをつけて焼かれた一頭丸ごとのゴルゴノプスのお肉。滴る油が熾火に焙られて煙となり、肉にスモーキーな香りをつけて何とも香ばしい。これをスライスしたお肉に、みじん切りの玉ねぎとピクルスで作った酸味のあるソースをかけると、ゴルゴノプスの絶品ローストの完成だ。
「このゴルゴノプスって、テオ兄ちゃんのパーティーが討伐に行くはずの猛獣だったんだよね?」
「討伐される前にクモに捕まってたけどね」
「そのクモも、レオ兄様やマヤ姉がやっつけちゃったしね」
「そして僕らが食べちゃってるってね。おいし~」
「テオ兄ちゃんもギルドに買い取ってもらうだろうから、自分では食べないだろうしね。わたし達凄くない?」
「ギガント・ウルフの脚もあるよー」
ニーシャが持って帰ったギガント・ウルフの脚は、一変してベリーとサトウカエデの蜜で作った甘いソースがかかっている。
「ギガント・ウルフってBランクに近いCランクなんだって」
「これもテオ兄ちゃんじゃ狩れない魔獣だよ」
「売れば高いんじゃないの?」
「アイポメアニールを持って帰らないとだから、このお肉を運ぶ余裕がないんだって。だから捨てるか、ここで食べるしかないんだって」
「わあ、来てよかったあ」
「スープにはマヤ姉が獲ったウサギ肉が入ってまーす」
堅パンをひたして食べるいつもの絶品スープは、ウサギの骨と野菜くずで出汁を取って、玉ネギ、ニンジン、ショウガ、イモ類なんかと一緒に煮込んである。これでもいつもより具は少なめにして、汁物として楽しむようにしてあった。
「アルミラージの肉なら、孤児院でも出なくはないね」
「ばっか! これ食ってみろ、全然違うぞ! アルミラージの肉団子スープだぞ」
「包丁で叩いて細かくした肉に、ショウガ、ネギなんかと混ぜて団子にしてよく練って、多めの油で一回焼いてからスープに入れたんだ」
「手が込んでるね」
「メイドのフィリア姉さんが作った、貴族様が食うレシピだぞ。こんなの孤児院じゃ絶対食べられないよ!」
「焼いたタイガー・スパイダーの脚もありまーす」
「俺、ラトロ・アトレイタの方食いてえ」
「クモの脚食うなら、やっぱラトロ・アトレイタだよな!」
話を聞いていると、この子達が孤児院に復帰できるのか心配になってきた。
切り株のテーブルにずらりと並んだ料理の数々。その周囲で料理を取りながら嬉しそうに食事を楽しむ子供達。
クーノ、レオ、リエラは口を半開きにして半ば呆然と立って見ていた。
「何のパーティーですかねえ」
「日に日に豪華になってるな」
「食材が増えていってますもんね。ないのはお酒くらい? みんな優秀なハンターってことね」
「その食材ってのが、アルミラージは良いとして、タイガー・スパイダー、ラトロ・アトレイタに、ゴルゴノプス、サンダー・ウルフ、そしてギガント・ウルフ。凶暴なのばっかですよ」
「出てきたのがそんなのばっかだったし、こっちにゃ普通じゃねえのがパーティーにいたからな」
3人は振り返って普通じゃねえのを見た。
「リエラさーん、レオさん、クーノさーん。美味しいよおー? 早く食べなよー」
普通じゃねえらしい黒髪の少女は、それはそれは旨そうに、豪勢な野外料理を頬張っていた。
「だがその食材を、採取旅行中の野営の食事に、毎回毎回きちんと調理して出すフィリアもただモンじゃねえ」
「護衛の戦闘訓練そっちのけで、何やってたのかしら、あの娘は」
ただモンじゃねえらしい
「はぁ~、旅先での丸焼きは初めての挑戦だったけど、上手くできて良かったぁ。完璧な仕上がりね。偉い私! マリエラ様まだ来ないのかしら。一番良いとこ取ってあるのに。早く食べてもらわな……」
視線を感じて下に目線を落とすと、孤児院の子が一人、口を半開きにして見上げていた。
「お、おほん! お肉ですか? たくさん食べて大きくならないとですね。はいどうぞ。お代わりもできますよ?」
「フィリアお姉ちゃん、さっき口調が違ってたよ」
「き、気のせいですわよ。おほほほ!」
ただモンじゃねえ
「フィリアのストレージがもっと収納できたなら、多分この数倍持って帰ってたのよね」
「護衛部分は怪しいが、野外でこれほど使えるメイドはワリナにはいねえな」
「エスコートメイド制度を続けているミリヤならではですかね。羨ましいですね、若。ワリナも復活させますか」
「そうだな。俺が執権を取ったら、優先課題にしないとだな」
日のあるうちに始まった夕食も、終わる頃にはとっぷりと日が暮れて暗くなっていた。
食事の後片付けは、孤児院の子が10人みな年長組なこともあり人海戦術ですぐに終った。
「お鍋洗い終えたらディオネアの実を茹でるだわよ。明日の朝食にするだわね」
「あそっか。作ってる時間ないもんね」
きれいにした大鍋でお湯を沸かしなおした。
サンドラちゃんとニーシャが、巨大そら豆のさやのようなディオネアの実を、うんしょうんしょと持ってくる。そしてナイフでさやを切り開く。中にはずらっと緑色の豆が並んでいた。ただしそれはそら豆のようなのではなくて、スナック菓子の大きな袋のようだった。
「まさかポテトチップでも入ってるわけじゃないよね?」
一つ取り出してみると、結構重たくて、中は固くてぎっしり詰まっている。
「やっぱり豆なんだな」
サンドラちゃんが大鍋の蓋を開けた。
「マヤちゃん、お湯沸いたから入れていいよ」
「煮て食べるの?」
「うん。煮るとホクホクになるの。一度煮れば冷えても食べられるよ。食べ切れなくても、この豆の袋は凄く丈夫だから、しっかり閉じておけばこぼれることもないし、簡単には痛まないから、行動食にはぴったりなの」
「お弁当として最適ってことね。さやは2つだから24個あるのか。ええと、人数分17個茹でればいいの?」
「二人で一個で十分よ。あ、大人の男の人は一個にしといた方がいいかな。レオさんとクーノさんとリネールさん」
「そうすると孤児院の子で5個、わたしとサンドラちゃんで1個、リエラさんとフィリアさんで1個、男の人が3個と」
じゃぼんじゃぼんと10個を大鍋に放り込んだ。
そして30分ほど煮ると引き上げた。コチコチだった豆は、押せば凹むくらいには柔らかくなっていた。
「お湯もったいないから、これで体拭こうよ」
「お湯濁ってないの?」
「ディオネアの豆の袋は、中身が外に滲み出るとかないから大丈夫なの」
魔石ライトで鍋の中を照らしてみると、お湯は透明なままだった。
「こうなると豆を煮たっていうより、レトルトの袋を湯煎したみたいだね」
リエラさんとフィリアさんも呼んできて、女性陣は身をきれいにしてから1日を終えることができた。
明日は夜中に起き出して、アイポメアニールの蕾を採りに行かないとなんだ。わたし達は早々に寝床に着いた。
◇◇◇
真っ暗な砂の大地の上で、チラチラと燃えていた焚き火の炎が大きくなった。
「おはよ~。リネールさん見張りお疲れ様」
「マヤさんおはよう。やっと時間かあ」
夜中の見張りからそのまま出発になるような当番順になってしまったリネールさん。でもそれは仕方ない。誰でもそういう巡り合わせになる可能性はあるんだ。今日はそれがリネールさんだったってだけだ。
「朝のうちに野営地に戻ってこれるんだから、昼寝でもすればいいよ」
「勿論、そのつもりさ」
「マヤちゃん、リネールさん、準備するよー」
「はーい。了解しましたー、サンドラ司令官」
寝床を片付け、装備品は全部持つ。一旦皆野営地を出ることになるから、焚き火のかまどなんかはそのままにしとくけど、荷物は残していけないからだ。
最後にディオネアの豆を取った。
「お行儀悪いけど、歩きながら朝食分を食べるよ」
「おおー、演習中の陸上自衛隊員みたいだ」
レトルトタイプの戦闘食を行軍しながら食べてるのを、お父さんの持ってた雑誌で見たことあるよ。
わたし達がお互いの装備を点検し合ってると、孤児院の子達も起き出してきた。
レオさんが焚き火の所にやってきた。
「それじゃリトルウィングパーティーは出発するね」
「ああ、気を付けてな。特に枯れ川を渡るところでは、目印を見失わないように。護衛担当もしいっかりな」
「わかったの」
「行ってきまーす」
「「「行ってきまーす」」」
「「「気を付けてー」」」
「「「いってらっしゃーい」」」
遠い向こう岸の採取地へ行くわたし達は、孤児院のパーティーより一足先に野営地を出発した。