異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「魔物の反応だ!」
「「「またあ!?」」」
早期警戒レーダー「イレム」がまたも魔物を探知した。
「ええ? この辺だと、あの魔物の木のディオネアじゃないの? もうそろそろだよね?」
わたしが問うとイレムは激しく首を横に振った。
「違うよ! ディオネアの木の傍に、別の反応が急に現れたんだ!」
「急にって、まさかまた卵からの孵化!?」
「わかんねえ。今んとこ数は1つだけだ。いや待ってくれ。……もっと遠くから別の魔物の反応だ。こっちへ向かってくる!」
場の空気が緊迫してくる。と思ったら、リネールさんから呑気な声が聞こえてきた。
「なあマヤさん。魔物が出てくるのって、マヤさんの周りだけな気がしないか? 昨日野営地には出なかったけど、マヤさんが行った下見先にはうじゃうじゃ出たって言うしさ。それってもうマヤさんのスキルでいいかな」
「はぁ!?」
何を楽しそうな顔してるんですか。レベルはいくつかなじゃないですよ。
それ認めたら、わたしは単なる疫病神じゃないか。
おのれ大きなイレムめ。わたしは女神を目指してるのよ。。
「ないですから。ありませんから、そんなスキル」
でっかく否定する。
それはともかく、イレムレーダーはイレムのくせに正確なので、レオさんは無視するわけにもいかず、状況を聞きにやってきた。
「遠くの魔物とやらも急に湧いて出てきたのか? 数は? それと距離も教えろ」
「今んとこ、西から4匹、北から4匹、東から3匹。コイツらは移動してきて、今しがた俺の探知範囲に入ったって感じだ。どれも1kmくらい離れたとこだ」
「ディオネアのところのだけが、移動してきた形跡もなくいきなり出現したわけか」
「もうちょっとでディオネアの木が見えてくるよ!」
「ボク見てこようか!?」
昨日ディオネアの木のところまで一緒に行った子が偵察を買って出るが、レオさんは首を横に振った。
「いや、皆と離れない方がいい。クーノとリネールは、フィリアと子供達を連れて野営地へ急げ。リエラ、ディオネアを調べに行くぞ」
「いいわ」
「俺は行ってもいいだろ!?」
イレムはレオさんの傍から動かず、ディオネア調査に同行するという。
「むう、そうだな。急な魔物の出現があった時、お前がいると便利か。いいだろう連れて行ってやる」
「やったぜ!」
「ただし、好き勝手にさせるわけにはいかん。マヤ」
「は、はい!?」
「お前も来い。イレム掴まえとけ」
「え、イレムを!?」
「それにもしスタンピードだったらマヤには例の火山噴火やってもらおう。俺見てねえからな。いっぺん見てみたい」
は? 水蒸気爆発見たいからわたしを連れて行くと?
ここにもいたよ、大きなイレムが。
「あれは見世物じゃありません! それに水が無いとこじゃできないですからねっ」
調査にはレオさんとリエラさん、イレム、そしてわたしが赴いた。
ディオネアの木はすぐそこだった。
木が見えると、昨日見た時とはなんだか様子が違う。木の前に星の集まりのようなキラキラ光るピンク色の柱が立ち昇っていた。
「何だあれは?」
しかも光る柱の中央で何かが浮いている。拳くらいの光る石だ。
「レオさん、あれって魔石ですよね?」
光る柱の中央で浮いていたのは魔石だった。そして魔石の周りに、次第に生き物の身体が形造られようととしていた。
「なんだか動物の形が……」
「レオさん、下を見て!」
リエラさんが光る柱の下を指差す。
「あれは!?」
光る柱の根本には、円形の文様が回転していた。それはどう見ても魔法陣だった。魔法陣が輝いてる上に、ピンク色の光る柱が立っているのだ。
「魔法陣だと!? するとこれは魔法か!」
さらによく見てみると、魔法陣は昨日マヤがディオネの実を採る時に踏み台にした、台形の石の上に出現していた。
「まさかあの石、魔導具だったのか!?」
光の柱の中の魔石を包むように形造られていくものは、四つ足の動物だった。その動物の背中にはトゲのようなのが何本も生えている。それは昨日見た魔物にそっくりだった。
「あの形はギガント・ウルフですよ!」
「もしかして、昼間見たギガント・ウルフも、こうやって現れたのか!?」
そういうことか。
わたしはギガント・ウルフが元々この辺に生息していた魔物だと思っていた。そうではないという可能性もあったんだ。それはつまり、誰かが送りつけてきたのかもしれないということだ。だとすると今目の前で起こっている事は、もしかしてラノベとかでよく出てくるアレ?
「これって、転移魔法とか転送装置とかですか!?」
「てん、そうそう、ち? なんだそれは?」
「別の場所に物や人、動物なんかを一瞬で移動させるための仕掛です。って言っても、わたしもお話でしか聞いたことないですけど。もしお話に出てくるものと同じだとすると、この装置は入り口と出口の役割をするものなので、ギガント・ウルフは誰かがどこからか送りつけてきてるのかもしれません」
「送りつけてだと!?」
レオさんは頭に手を当てて、状況を飲み込むのに必死になっていた。無理もない。一瞬で転移するという発想自体が思いもよらぬ事だろうし。新たな概念を急に理解しろと言ってもそう簡単にはいかない。
「これ昨日の奥の群生地みたいに群れを引き寄せて、この辺の魔物を活性化させようとかしてるんじゃない?」
その点、リエラさんの頭は柔らかいようで、すぐ次のステップへと思考が進んだ。
「イレムが探知した1km向こうからやってくるっていう魔物は、ギガント・ウルフのところに集まろうとしてるんじゃないかしら」
「……なるほど。昨日見たギガント・ウルフは背中にブラウシュテルマーを乗せてた。近辺にいる魔物が、濃い魔素に惹きつけられてるってわけか」
転移の事はともかく、レオさんも魔物が集まってくることには理解が及んだようで、魔素計を覗き込んだ。
「確かに魔素濃度が高くなってきている。今レベル3から4になろうってとこだ。ギガント・ウルフが魔素を運んできてるの荷間違いねえな」
「誰かが転送装置使って、濃い魔素を持った魔物送りつけてきてるとしたら、その意図は何でしょう?」
「……人為的に魔素スポットを作ろうとしてるのか? ふむ。それで付近の魔物を呼び寄せて活性化させりゃ、スタンピードと同じようなもんだ。そんなこと企んでる奴ってのはいったい誰だ?」
「レオさん! そろそろ完全な姿になりますよ!」
リエラさんが叫ぶ。光る柱の中のギガント・ウルフは全身像が出来上がっていた。だがまだ身体は透けている。完全ではない。
「とにかく、これぶっ壊しゃあいいんだな!」
レオさんは剣を引き抜いた。そして真っ赤に灼熱化させる。
「うおりゃあ!」
熱を帯びた剣を具現化しつつあるギガント・ウルフの頭上へ振り降ろした。まだ透けて中途半端なウルフは手応えなく切断され、先に実体となっていた魔石を斬り裂いた。パキンと魔石が割れると、ウルフはウギャアア! と悲鳴を上げて、光の柱の中へ消えていった。
レオさんは剣を振り降ろす勢いそのままに、台形の石も叩き割ろうとさらに力を込める。しかし剣が石に当たる寸前で、バチッと激しい火花が散って剣が止まった。
「な、くそっ! こいつ抵抗しやがるぞ!」
ギリギリと力を込めて剣を押し付けようとするが、磁石が反発するように、台形の石が剣を跳ね返そうとする。
「俺が加勢するぜ!」
そこへ突っ込んでいこうとしたのはイレムだった。
「だ、駄目だって、じっとしてなさい!」
わたしはこんな事もあろうかと、イレムのズボンのベルト通しに指をかけていた。しかし孤児院の子が着てる使い古されたボロ服は脆かった。イレムが駆け出すと、引っ張られたベルト通しはブツンとあっさりと切れた。
「ああ、切れちゃった!」
タガーナイフを振りかざして勇ましく突っかかっていったイレム。
「だあああ!」
バシーン!
だが光の柱に当たったとたんに跳ね返されて、5mくらい吹っ飛んだ。そこにちょうどディオネアの木が仕掛けた罠があり、イレムは蔓に絡み取られ、肉厚の葉っぱのところまでぴゅんと引っ張られると、ばくんと閉じたディオネアの葉っぱに挟まれた。
「馬鹿か、あいつは!」
馬鹿なんでしょうねえ。いっこうに自制する気がないもんね。
レオさんはなんとか石を斬ろうと剣を持つ手に力を込めるが、バチバチと火花が散るばかり。
「レオさん、力任せは無理だわ! とは言ってもいったいどうすれば……」
リエラさんも手をこまねいている。そしてわたしの方に目を投げかけた。。
そんな目をされたって、わたしだって魔法なんかない世界から来た人間だ。魔法の知識なんてないからね。こっちに来て魔素と魔法が関係しているというのを初めて知ったくらいだ。
待てよ。魔導具ってことは、魔法で動いてるんだよね? 魔法ってことは、魔素が何らかの働きをしてるんだよね? ならば!
「レオさん、一旦引いて!」
わたしが叫ぶと、レオさんは一瞬わたしをちら見して、バッと退いた。
「気を付けてください、寒くなりますよ!
わたしは固体酸素を出現させると、台形の石を取り囲んだ。
「マヤ、何を!?」
「ちょっと試してみます。
固体となってる酸素の分子を激しく振動させながら、台形の石へと狭めていく。
やってることは、空気清浄や鉄製武器を一気に錆びさせた方法と同じだ。ただし気体の状態に比べ、固体化した酸素は超高密度なので、酸素分子の数は生半可ではない。それが一斉に振動するんだから、地面まで揺らすほどだ。
台形の石は接近するものを拒んでいたようだが、思ったとおりそれは魔法だったようで、固体酸素が魔素に反応して魔素が無くなっていくに連れ魔法は弱まり、すぐに台形の石は固体酸素に完全に覆われてしまった。
ここでさらに酸素分子振動を激しくする。すると台形の石の組成が強制的に酸素と結合させられた。
とたんに石はドシャアッと音を立てて砂のようになって崩れた。
「なに!?」
「なんですこれ!? え、魔石の粉!? それもかなり質の高い魔石だわ!」
レオさんとリエラさんが驚きで目を開く。それはいつも見る青い色の魔石結晶ではなく、濃い赤紫の粉であった。