異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「なんですこれ!? え、魔石の粉!? それもかなり質の高い魔石だわ!」
レオさんとリエラさんが驚きで目を開く。魔導具だったらしい台形の石は、酸素と強制結合させられて魔石の結晶に変わった。それはいつも見る青い色の魔石結晶ではなく、濃い赤紫の粉であった。
「魔石に変わったってことは、この台形の石は魔素でできていたってこと!?」
「魔法は魔素がないと起こせないというが、魔導具ってのは魔素そのものででできてるのか」
「そして魔導具が置かれてたってことは、置いてった者がいるってことね」
「ギガント・ウルフを送り込もうとした奴か」
魔導具や魔法陣ということから見ても、やったのは魔法使い以外考えられない。
法力に負けて滅んだと言われてた魔法使い。でもアンフィスバエナ騒動の時にも現れたし、生き残ってるのは間違いない。
「レオさん。魔法使いはやっぱり生き残ってるんですよね? しかもこれって法力使いの人達に喧嘩ふっかけてるようなことして、復讐とかですか?」
「魔族の生き残りがいるってのはワリナでも言われてたが、姿を見たのはこないだのが初めてだったし、こんなに敵対的だとはな。実害まで出たのはこの辺じゃヘキサリネが初だろう」
「ミリヤも実際現れたというのは聞いてないわ」
「こりゃヘキサリネに隣接してる俺達もヤバイぜ」
「アンフィスバエナを魔族が操ってた事は本国にも伝えたけど、もう一段警戒レベルを上げないとね」
わたしはチャンス到来と声を張り上げた。
「今こそ三国は手を結ぶときじゃないですか!?」
しかし二人の反応は非常にさめたものだった。
「いや、まだこのまま様子見ろという指示になるだろう。ヘキサリネが魔族とのいざこざで国力を落としてくれるのを期待してな」
「何で!? ヴェルディ様とも仲良くなったんだし、助けてあげましょうよ!」
「国の執権を摂ってるのは親父達だ。先代のヘキサリネ領主とは仲が悪かったからな。簡単には肩入れしねえ」
「ミリヤもゆるい同盟を組んでるとはいえ、無条件に助けたりはしないでしょう。国力が弱ったところで、援軍と称して占領軍を進駐させるかもしれないわ」
わたしは唖然とした。みんな野蛮な考えしか持ってない。この世界の人達は自分の国が常に上に立つ事しか考えてないんだろうか。対等にとか、弱者に手を差し伸べるとかないんだろうか。
「マヤが不満だらけの顔してやがるが、俺やリエラが、ヘキサリネのために薬草採取のクエストをこうしてこなしてるのって、相当なことだと思うんだが」
「半分は趣味のお遊びで、半分は自国の為の情報収集じゃないですか」
「正体が分かっても、俺達が自由に動くのをヴェルディは見逃してくれている。それはある意味、恩を売っているとも言える。つまりヴェルディにとっては将来への投資だな。いずれ俺の世代が執権を取った時のための」
「いずれにしろ、お父様世代がある程度表舞台から降りないことには、マヤさんの思い描くような同盟は難しいってことよ」
「ぶすう」
なかなか思うようにはいかないもんだ。まあ政治に手を出すのは、ハンターに転生した女学生がやることじゃない。あまりにも偉い人たちと仲良くなっちゃったもんだから、期待しすぎたのかもしれない。
わたしのいた21世紀の地球だって、キレイ事言ってても裏ではしっかり損得勘定してたもんな。そういえばほとんどのお隣の国が野望むき出しだったっけ。
とすると、魔法使いへの対処は、ヘキサリネにご厄介になってるわたし個人が、何かできないか考えないとなんだ。サンドラちゃんやリトバレーと人達には恩があるからね。
そんなことを考えながらそれぞれは頭を巡らし、しばし無言で赤紫の魔石の粉を見つめた。
「ねえ、これは持って帰った方がいいんじゃないかしら?」
ふいにリエラさんがその魔石の粉を指さして言った。
「今までのと違うんでしたっけ?」
「質が全然違うわ。パワーも値段も普通の魔石の10倍するわね」
「魔石ライトやトーチも、魔石粉をこれに換えただけで何倍も長持ちするぞ」
「本当!?」
マンガン乾電池からリチウムイオン電池に変えたみたいじゃないか。
「持って帰るのに麻袋はと……イレムが持ってなかったかしら。あっ、そういえばイレムは?」
っとそこで思い出した。
「あ、そうだ。イレムはディオネアの木に捕まったんだっけ。一瞬頭から飛んでた」
「ひでえ野郎だ」
レオさんに呆れられた。
「い、いえその、考えようによっては、あそこは安全地帯だと思うんですよ。他の魔物は襲ってこないだろうし、捕まってもすぐ溶かされるわけじゃないですし」
「ディオネアの捕まえた獲物を横取りする魔物は聞いたことねえから、確かにそうかもしれねえが、それ今思い付いたんだろ」
わたしの言い訳はすぐにバレ、ますます呆れられた。
そんなことを言い合いながらわたし達はディオネアの木の罠を避けて、イレムが挟まってる葉っぱに近付いた。
「……やっと来た。たすけてくれー」
マットレスのようになってる葉っぱの内側に顔を半分
「あんたなんでそんな所に捕まってるのかしら?」
「……倒れた所に丁度ディオネアの罠があったんだ」
「昨日も捕まってたよね?」
「……わ、罠があるなんて知らなかったんだ」
「サンドラちゃんやわたし達が一緒にいなかったら、あんたどうなってたのかしらね?」
「……で、出れてねえってことか?」
「そう。つまりこの葉っぱの中で、溶けてなくなってたってことよ。ディオネアの栄養になって、木の実になって、もしかするとわたし達の食料になるのかもね」
「……ガキババアに食われたくねー」
「捕まったあんたにそんな選択権なんてないわ」
「……そうだよな。俺達が食ったラトロ・アトレイタの脚だって、襲われた商人が栄養になってるかもしんねぇし」
う……そう言われると、伊勢エビの脚の肉みたいって言って喜んでたことに罪悪感が湧くわ。
「と、とにかく。今日のはレオさんを手助けしようと加勢したものだったし、一概に悪いとは言えないけど、あんたやる事に実力が伴ってないのよ。いい加減、身の程をわきまえなさいよね。リエラさんどうします? 替わりのもの出さないと、木の機嫌悪くなるらしいですよ?」
「そうねえ。替わりがないから、このままイレムを捧げようか」
リエラさんが実質死刑宣告のようなことを言うもんだから、イレムが慌てた。
「……なんで!? 助けてくれ! お、俺の晩飯をあげてもいいから!」
「あらそう」
わたしとリエラさんはニヤリとした。
「フィリアに言って、イレムの分の食材を身代わり用に持ってこさせるから、それまでそこで反省してなさい」
「……ま、またかよ~。ここに挟まれてるの、なんかすげえ気味悪いんだぞ~」
「自業自得でしょ」
「そいつはな、麻酔剤が染み出てんだ」
レオさんが格子になってる葉の縁の隙間から覗くイレムに言った。
「ゆっくりと眠らされて意識を失い、痛みも何も感じることなく、ゆっくりと溶かされるのさ。生きたまま肉食獣に腹わた食われるより、ずっと楽に死ねるぞ」
「……と、溶かされんのもイヤだぞ」
レオさんはにやっと笑って頷いた。
「眠っちまう前にフィリアが間に合うといいがな。ところでイレム、こっちに来ようとしてた魔物がどうなってるか分かるか?」
「……ちょっと待ってくれ」
イレムは目を瞑ると、葉っぱに挟まれてるの中から魔物の気配を探した。
「……さっきは真っ直ぐこっちに向かって歩いてたけど、今はうろうろしてる感じだ。迷ってんのかな」
「ギガント・ウルフと、石の台座を壊したことが効いたんじゃないです?」
わたしがそう言うと、レオさんもそうだろうなと頷いた。
「野営地に籠もってるのが安全だな。あそこなら、もし魔物がやってきても応戦しやすいからな」
「……出してくれ~」
「待ってなさい。私はフィリアを呼んでくるわ」
リエラさんは野営地に向かった。
「それにしてもこの葉っぱの中、ベッドのマットレスみたいで柔らかくって居心地良さそうですけど。切り取ってこれを野営の時の寝床に使う人とかいないんですか?」
リエラさんを待ってる間、葉っぱの内側を観察したわたしはレオさんに聞いてみた。
「切っても暫くは生きてるからな。生きてる葉は麻酔剤が出るし、身体は溶かされるしだから、これをベッドに使う奴はいねえな」
「枯れた葉はどうなんですか?」
「枯れると硬くなるからマットレスにはならんな。ほら、あそこにある」
指さされた方向には、白くなったディオネアの葉が立てかけるように落ちていた。
近寄って調べてみると、水分はすっかり抜けており、とても軽くなっていた。というか、アレにそっくりだ。
「これって発泡スチロールそっくり!」
発泡スチロールと同じように断熱材として使えたら、生鮮品の輸送に革命起こすんじゃないだろうか。フィリアさんのストレージには、わたしの固体酸素を入れて保存性を高めてるけど、基本凍っちゃうから、凍らせたくない物とは一緒にできない。だけど発泡スチロールの箱があれば同居できるようになる。
わたしは小刀を取り出し、葉っぱの裏側を四角く切り出した。次に蓋となる部分を切り離し、本体の方の中をくり抜いた。そして法力で固体酸素のつぶてを出現させると、開けた穴にコロコロと入れた。蓋をして、蓋の上に手を置いてじっと待つ。
1分くらい手を置いたままじっとしていたわたしは、ニンマリと笑顔になった。
「マヤ、何してんだ?」
レオさんがやって来て聞いた。
枯れたディオネアの葉のところで工作していたわたしが気になったようだ。
「レオさん。枯れたディオネアの葉って、どんな使われ方されるんですか?」
「そうだな。良く燃えるから焚き火の火種とかかな。それくらい完全に枯れると、もう水を含むことはなくなるんだ。雨で濡れても拭くだけですぐ火を点けられる。水に浮くから、子供が舟のおもちゃを作ったりもするな」
よしよし。発泡スチロールのトロ箱のような使い方は出てこなかったわね。
「なるほど。それじゃこれからわたしが言うことを真似する時は、特許使用料を払っていただきます」
「なに? とっきょ?」
「最初に発明したり見つけたりした人の権利を守る仕組みです。真似した人が労せずして利益を得たら不公平ですからね」
「また妙なもの考えたな。従わなかったらどうすんだ?」
「仕組みに賛同した皆で制裁を加えます」
「従わない奴がスゲー強かったらどうすんだ?」
「だから皆で制裁するんです」
「皆を敵にしても平気なくらい強い奴なら、言う事聞かないかもしれないな。そういうルールって、ものすごく強い奴が一方的に決めて押し付けるか、皆の力が拮抗して優劣つかないかのどちらかでないと守られないな」
レオさん、なかなか特許料を認めないなあ。
そういや国連や国際機関で違反だって指摘されても、国力のある国は平気で無視するところもあったっけ。何だかんだ言っても、21世紀もまだ資源を持って軍事力で脅しをかけられる国が強いんだ。サル山のボス理論のままなんだ。
ましてやこの異世界なんて……。
「ああもう、そしたら違反者にはわたしの法力が炸裂するってことにします?」
レオさんが一瞬たじろいだ。
「それが手っ取り早く皆を従わせる方法だな。ただし敵も多く作るから、使う所はよく吟味した方がいいぞ。まあいい。それでマヤは何を考えたんだ?」
「ここに手を当ててみてください」
わたしは手を置いていた蓋のところをレオさんに譲った。
「特に温度をみてください」
「温度? ふむ。別に熱くも冷たくもねえが」
「でしょう? ところがですよ。蓋を開けてみると……」
蓋を取ると、なかからもわあっと白い煙が上がった。そして煙の下には青い氷、固体酸素が敷き詰められていた。
「こ、これはマヤの出すマイナス200度にもなるサンソの氷か!?」
「その通りです。枯れたディオネアの葉のマットレスみたいな部分は、熱をほとんど通さないんです」
「するってぇと、この中に氷入れて炎天下の中運んでも、氷は溶けねえって事か?」
「そういうことです。あとそれ実践すると特許使用料がかかります」
「こりゃあ知れ渡ったらすぐ使われるな。真似するなって管理する方が難しい。ガチガチに秘密にすると、運用が難しくて量を運べなくなる。大ぴらにして恩恵を受けた方がメリット高いんじゃないか?」
「え!? まさかのオープンソース! わたしの特許料は!?」
「世のために諦めるんだな」
「ええー」
わたしは断末魔の叫びをする。
「とはいえ、今はまだ秘匿事項だ。ある程度知られるまでは俺達の管理下に置こう」
「うう、仕方ありませんね。ってあれ? なんかレオさん、しれっと管理者の側になってますよ。知れ渡ってオープンソースになるまでは利用料払う側ですからねっ」
「ちっ。安くしろよ。後で交渉だ」
そうこうしていると、リエラさんがフィリアさんと一緒に戻って来た。