異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「魔物の反応だ!」
見張り台の方から聞こえる早期警戒レーダーからの声に、わたしは「はあー?」と悪態ついた。
別にイレムが悪いわけじゃないんだけど、思わず「あのクソガキ~」と声が漏れてしまう。
護衛役のレオさんとリエラさん、そしてわたしは、イレムがいる見張り台に集まった。台とは言っても、野営地の端に少しだけ足元の砂を盛って、丸太バリケードも高めにしてあるだけの所だ。
「数と距離は? こっちに向かってるか?」
レオさんの質問に、イレムはしっかりと答える。バッチリ見えているみたいだ。
「東の方、反応は2つ。500mくらいだ。向かって来る気配はない」
「急に近くに現れたな。また“てんいそーち”とかいう奴で送り込まれたのか?」
「そ、そこまでは分かんねえ」
「方角はクーノ達が行った方だな」
「ど、どうしますか? 助けに行きます?」
「反応は2つか」
わたしの問いにレオさんが考えを巡らせていると、イレムが続けた。
「なあレオ兄ちゃん。反応の大きさって、魔物の大きさなのかな」
「何? 反応の大きさが違うのか?」
「今までこんなじゃなかった気がするんだけど、今反応してる2つは、ディオネアの木の反応よりずっと小さいんだ」
「何だと?」
それを聞いたリエラさんは、「もしかして」と言う。
「イレムの探知能力が上がったんじゃない?」
「確かに。これだけ毎日、日に何度も探知法力使って、いろんな種類の魔物を見てくりゃあ鍛えられもするか。実戦に勝る訓練はないからな」
おおー、スキルのレベルアップみたいだ。法力も使うほどにレベルアップするんだね。あとでリネールさんと、法力についてもレベルランク付けしないとだって言わなきゃ。
「そうするとディオネアの木より小さい反応なら、クーノで対応できるだろう。マヤ、イレム連れて今反応した魔物が何か見てこい」
「え、わたし!?」
「Cランク以上の魔物でない限りクーノに任せて、手出ししなくていいぞ。特にイレムに言ってるからな」
「イレムは謹慎中なんじゃあ……」
「法力の能力が上がってるって言うなら、この反応はこういう魔物だって学習も早くやっといた方がいい。せっかく実戦の場にいるんだ。機会は有効に使わんと」
「なんでまた、そんな急に方針転換するような甘いこと言うんです? 予想と違って強いのがいたら、またイレムが暴走するかもですよ?」
「その為にマヤを付けるんだ。言う事聞かなかったら、お前の法力でイレムを凍らせちまえ」
「固体酸素で凍らせたら死んじゃいますよ?」
「本当ならもう何回か死んでるんだし、それを助けたのがマヤだったこともあるわけだし、殺されても文句言えんだろ」
「はあ~、分かりました。言う事聞かないようだったら凍らせます」
「お、おい、マジで凍らせる気かよ!」
「凍らせます」
キッパリ言うと、イレムは顔を引き攣らせた。
と言うわけで、わたしはまたイレムのお守役をさせられることになった。
これまでわたし、イレムを止められたことないんですけど。これイレムは凍るの確定じゃない?
「それじゃ野営地の守りは、レオさんとリエラさんでラブラブやってて下さい」
「な、何の事かしら?」
「マヤちゃん、気を付けてねー」
「イレム、デストロイされないよう、しっかり言う事きくだわよ」
リエラさん、サンドラちゃん、ニーシャに見送られて、わたしとイレムは魔物の反応を追って野営地を出た。
「はあ~。昼寝したいのに、なんで休ませてくれないのよ」
「魔物に言えよ」
砂山の坂を下りながら、ぶつくさとイレムに愚痴をぶつける。
「謹慎をあっさり解いてまで、あんたに経験を積ませようとしてるレオさんに感謝しなよ」
「俺の才能を見込んだからだろ」
「死刑宣告しただけかもよ。どうせ絶対イレムは言う事聞かないから、わたしに凍らされるに違いないって」
イレムは青い顔をして、わたしに敵対的な目線を向けた。
実際のところ、レオさんは何かとイレムを成長させようとしてるように感じる。リネールさんも言ってたけど、自分が子供の頃と重なって見えるみたいなんだ。こっちには迷惑なだけだし、女の子には理解できないんだけど、やんちゃな男の子には必要な何かがあるんだろうか。
「ちょちょちょちょっと、イレムどこ行くの?」
急にイレムは川岸に行くのではなく、ガレガレの川底の方へ向かい出した。
「魔物がいるのはこっちだろ。こっちの方角へ真っ直ぐだ」
「いやいや、直線ではそうかもだけど、道が険しいじゃん」
「これくらいのどこがだよ。それに川岸回ったら遠回りだろ。とっとと行くぞガキババア」
「そんな石ゴロゴロ、かえって時間が……って行っちゃったわよ! 凍らすわよ、待ちなさい!」
オーバーハングの岩も平気で越えるイレムである。人が歩けるところを行くとは限らない。イレムのお守りは早くも難関にぶち当たった。
◇◇◇
「ハアハアハアハア……」
「やっと来たか。けっ、だらしねえ」
辛うじて人が抜けられるところだったので、なんとかわたしはイレムを追いかけて、巨岩で埋めつくされた河原を抜けることができた。
「つ、次やったら、もうレオさんに言って、鎖につないでもらうからねっ!」
「でもおかげでホラ、あと少しで魔物のとこだぞ」
そりゃそうでしょうよ。探知法力使って、直線で最短距離を移動したんだから。
「それにしても便利な法力ね。探知かぁ」
「えっへん。羨ましいか? ざまあみろ」
「凍らすわよ」
口の減らない悪ガキめ。
オキシジェン・デストロイヤーにはそういう探知技ないんだろうか。お師匠様の本を読んで探してみるか。
とは言っても、お師匠様の本は宿に置いてきているので、何かないものかと、わたしは自分の周りに酸素を出現させた。数パーセント酸素濃度が濃くなった。
人間は酸素を必要としてるくせに、あまり濃い酸素は体に良くないんだよね。老化現象も活性酸素がいけないらしいし、酸素は良いんだか悪いんだか難しい物質だ。
その酸素を沢山持ってて自由に扱えるわたしだけど、自分の体にはどういう影響をもたらすんだろう。早く老けちゃうのかな。
周りに酸素を出したり入れたり、動かしたりしてると、ある事に気が付いた。自分が出した酸素と、周囲にもともとある酸素を区別できることだ。それは自分が出す酸素にマーキングのような事をしておくとできるようになる。酸素分子にどうやって印しつけてるのか分かんないけど、こうやると自分の出した酸素の行方を追っていけるのだ。
試しにイレムの周りにマーキングした酸素を撒いてみると、イレムの呼吸によって少しずつ減っていくのが分かった。
こいつ、あんな酷いルート通ったのに、ぜんぜん息が乱れてないのが頭に来る。
「イレム。息が苦しいとか、なんか変とかある?」
「え? 別にねえけど……」
ふむ。マーキングしたからといって、別に普通の酸素となんら変わりはないようだ。
そこでイレムが、ハッとしてわたしから後退りした。
「ま、まさか俺に何かしたか!? お前の変な法力で! 急に俺、苦しんだりすんじゃねえだろな!?」
「大丈夫でしょ」
たぶん。
わたしはこれを応用してみることにした。
「
マヤ印をつけた酸素を広範囲、半径500mくらいに撒いてみた。さっそく減っていく所があるか検知してみよう。
ところが始めた途端、頭の中が爆発しそうになった。
「うわっ!」
極わずかの酸素の減少が至る所で起こってた。自分から同心円状に検知範囲が広がるに連れ、脳細胞が検知したものに埋められていき、そして脳みそが処理しきれず悲鳴を上げたって感じだ。眼の前が真っ赤になったんで慌てて検知を止めた。
そうか。虫とか微生物だって酸素を使う。感度をよくし過ぎるとそんなのも拾っちゃうんだろう。これは検知する下限を絞って見ないとだ。一定数以上の酸素を減らしてる所だけを見た方がいいんだ。
どれくらい感度を下げた方がいいのかな。もう一度イレムを使って実験し(考えてみると酷い)、検知するレベルを調整することにした。
「やり直しやり直し。それじゃ感度を落としてもう1回」
イレムの呼吸で減る酸素量が分かるところより少し下を基準にして、それ以上減っている所を探すことにした。すると……
「おお……」
分かる。分かるよ。
後ろの方で酸素を減らしてるひと塊の集団がある。これは野営地だ。中央で周りじゅうから酸素をバキュームしている、減り方が他のと違うのがあるけど、これは焚き火じゃないかな。
わたしの前の方150m程に3つ、酸素を一定間隔で入れたり出したりしてるのがいる。これはクーノさんと2人の男の子だろう。呼吸って吐くときもまだ酸素残ってるのよね。
「イレム、魔物はどう? どの辺だっけ?」
「位置は変わってない。前方200m」
前方200mか。クーノさん達の近くだけど、わたしには検知できてない。酸素を使う量が人間の子供より小さいってこと?
ちょっと感度を上げてみると、またそこかしこから酸素を減らしてる存在が見え出したので、慌てて止めた。また頭の中が爆発するかもしれない。
これは広範囲を見るのは難しいな。
一旦酸素を回収し、新しくマーキングし直した酸素をクーノさん達の辺りだけに限定して撒いた。そして感度を上げる。
うん。これだと脳ミソがついていける。
……いた!
2つ、クーノさん達の前にいる。
でもこれ、かなり消費量少ない。小型の魔物なんじゃないだろうか。
クーノさん達も立ち止まったのが分かった。
「もう少しでクーノさん達に追いつくわ」
「なんで分かんだよ」
獣道を曲がったところで、わたしの検知通りクーノさん達が見えた。