異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

79 / 171
第78話「危険地帯で感謝の祈りを捧げましょう」

 

 獣道を曲がったところで、わたしの検知通りクーノさん達が見えた。

 

「マヤさん、イレム」

 

 クーノさんもすぐわたし達に気付いた。

 

「イレムが魔物を探知したんで、見に来ました」

「おっ、そうだったのか。たぶんあれだな」

 

 クーノさんが指差した先には土の盛り上がってる所があり、その前で草を食べてる鹿角兎(ジャッカロープ)がいた。

 なる程、魔物は鹿角兎(ジャッカロープ)だったのか。ウサギなら人間の子供より酸素消費量が少ないのも納得だ。

 

鹿角兎(ジャッカロープ)だったよ」

 

 振り向いてイレムに伝えると、イレムは頷いた。

 

「これくらいの反応は鹿角兎(ジャッカロープ)なんか」

「クーノさん。イレムの魔物探知法力が、魔物の大きさも分かるようになったみたいなんです」

「大きさも? そいつは良いな」

「ただまだ反応の大きさと実際の魔物の関係が分からないので、レオさんが実物見てこいって謹慎解いちゃって」

「そういう事か。イレム、鹿角兎(ジャッカロープ)の反応はこれで分かったな?」

「うん」

「よしよし、よく覚えとけよ。それじゃ狩ってみるか。イレムは見てるだけだぞ」

「ちぇっ、分かったよ」

「風向きを見ろ。風下から回り込んで接近する。これは自分達の匂いを獲物に感付かれないようにするためだ。音で気付かれるのもある程度防げる」

 

 クーノさんとラース、ニコは、背を低くして大回りに鹿角兎(ジャッカロープ)へと接近していった。わたしは酸素レーダーで酸素の減り具合を見ながら、3人の動きを追う。

 ぐるりと回り込んで暫く。意を決して子供2人がワッと襲いかかった。一人が直接鹿角兎(ジャッカロープ)へ。もう一人は盛り土へ。すぐさま反応した鹿角兎(ジャッカロープ)は盛り土へ向かって逃げた。が、そこに人間も向かってると分かるや、方向を変える。

 速い速い。全然人間は追いつけない。

 その追いかけっこはすぐに終わった。結局鹿角兎(ジャッカロープ)は、盛り土にあった穴に逃げ込んでしまったのだ。

 わたしとイレムも盛り土の所へと向かった。

 

「この穴に入って行ったよ!」

「どうする、掘る!?」

 

 穴の入り口を引っ掻くラースとニコ。

 

「この盛り土はジャッカロープの巣になってるようだな。出入り口はここだけじゃなくて、幾つもあるだろう。ここを掘っても、他から逃げちまうだろうよ」

「じゃあどうするの?」

「穴を見つけて、片っ端から石なんかで塞ぐんだ。全部塞いだら、火を炊いて煙を流す。出口を1箇所だけ開けて、そこで待ち構えて、出てきたところを捕まえるってのがよくやるやり方だ。穴ネズミの巣なんかでもできるぞ」

 

 3人は穴を探し始めた。

 

「イレム、穴を塞ぐのは手伝ってもいいぞ」

「やるやる!」

「イレム兄、探知法力で鹿角兎(ジャッカロープ)の場所分かんないの?」

「穴に入っちゃったら探知できなくなった。外にいないとだめみたいだな」

 

 わたしの酸素使った検知方式も、穴に入られるとほとんど外の酸素が動かなくなったので、居場所は探れなくなっていた。

 わたし達も加わって、巣穴の出入り口を探して塞いでいると、イレムが叫んだ。

 

「あっ、反応が出た!」

 

 イレムの目線の先を見ると、盛り土から少し離れた地面から小さな鹿の角のようなのが揺れ動いていた。鹿角兎(ジャッカロープ)が顔を出していたのだ。

 

「あんな離れた所に!」

 

 イレムレーダーの反応は早いな。わたしが酸素レーダーの扱いに慣れてないせいもあるけど、今のところイレムの探知速度には完敗だ。

 鹿角兎(ジャッカロープ)2匹は穴から飛び出ると、猛然とダッシュした。

 

「待てー!」

 

 ラースとニコが追いかける。イレムもそれを追っかけていく。わたしとクーノさんも追いかけた。

 草原に逃げられたらもう追えないと思いきや、鹿角兎(ジャッカロープ)は斜面に開いていた大きな穴に逃げ込んだ。

 

「ここに逃げたぞ!」

「追うぞ!」

 

 中へ突っ込んでいくラースとニコ。しかしイレムが2人を止めた。

 

「待て! 迂闊に入るな!」

 

 穴に入ってすぐの所で、追いついたイレムが2人を掴んで止めると、イレムは2人の前に出て立ち塞がった。

 

「何かいるぞ!」

 

 わたしの酸素レーダーも、急に酸素が沢山穴の中に入っていくのを感じ取った。

 次の瞬間、不意に暗闇から板状のものが現れ、イレムが穴から放り出されるように吹っ飛ばされた。

 

「イレム兄!」

 

 飛ばされたイレムを追うように、ラースとニコも穴の外へ走る。僅かに遅れて到着したクーノさんがシールドを張って、子供達をその内側に匿った。途端にシールドへ板状のものがぶつかってきた。

 

「こいつは!」

 

 外の光に当たって姿を現したのは、鹿角兎(ジャッカロープ)を何十倍にも巨大化させたウサギだった。

 

「なにあれ! ウサギ!?」

「ジャイアント・エルクラビットだ!」

 

 巨大ウサギか。

 そのサイズは鹿くらいあった。角の形はヘラジカに似て板のようになっている。イレムはあれに引っ叩かれたみたいだ。

 

「イレム兄、目を回してるよ!」

「うわあ、またわたし、イレムを止められなかったよ」

 

 鹿角兎(ジャッカロープ)を追いかけて行ったとき、一瞬凍らせてやろうかとも思ったけど、やっぱり躊躇っちゃった。結果的にラースとニコはイレムに助けられたわけだし。

 

「まあ、仕方なかったよ。マヤさん、イレムを連れてちょっと下がっててくれ」

「わ、分かりました」

 

 イレムを引きずって少し離れた。怪我してないか服をめくって確かめてみると、右の二の腕から背中にかけて赤くアザができていた。変形はしてないし、まあアザ程度で済んだみたいだ。

 

「ラース、ニコ。ジャイアント・エルクラビットを仕留めるぞ」

「あんなでかいのを!?」

「ジャイアント・エルクラビットは図体は大きいが、動きは鈍いからギリギリFランクなんだ。ロープを引っ掛けて、木に縛り付けて動けなくして、それから止めを刺す。力は大きさに相当するだけあるから、お前達じゃ押さえつけられないだろうから、俺が手伝うよ。まずはロープ引っ掛けてこい。3人で囲い込みながら逃げ道を塞いで、斜面の方に追いやるぞ」

「「分かった!」」

 

 輪っかを作ってあるロープを2人にを渡すと、3人はじりじりとジャイアント・エルクラビットに近付く。クーノさんとニコで左右から挟み、斜面の方へと追い詰めた。

 

「こうやって追い詰める時は盾を使うと良い。体当たりしてくる時に防御もできるしな。Eランクの一角兎(アルミラージ)を相手にする時は盾は必須だぞ」

「う、うん」

 

 合間に講義を入れつつ狩りは進む。

 タイミングを見計らってラースが飛びかかった。ジャイアント・エルクラビットは角を振って応戦するが、角が当たらないところからラースはロープを放り、角の先の突起に辛うじて引っ掛かった。

 

「掛かった!」

「ニコも引っ掛けろ!」

「えい!」

 

 ニコの投げたロープも別の突起に引っ掛かる。

 

「いいぞ! そのロープよこせ。あの木に引っ張っていくぞ!」

 

 クーノさんはラースのロープを受け取ると、ロープを巧みに操ってもう一箇所引っ掛け、木に向かって走った。木の周りを半周すると、ロープを力いっぱい引く。

 

「お前達も引け!」

「「はい!」」

 

 2人り掛かりでもう1本のロープを引き、ジャイアント・エルクラビットはずるずると木の方へ引っ張られていった。

 

「そーれ、頑張れー。オーエス、オーエス」

 

 わたしが声援を送っていると、ふと見ればイレムが目を覚ましていた。

 

「あ、イレム起きた? 巨大ウサギに角で殴られたみたいだけど、大丈夫? 腕と背中にアザできてたよ?」

「ああ。ちょっくら馬車にぶつかった時とそんなに違いねえ。大丈夫だ」

 

 そう言って肩をぐるぐる回した。

 

「ば、馬車に? ……あんた丈夫ねえ」

 

 あまりの頑丈さに呆れるが、当の本人はそんなことよりと、食い入るように狩りの始終を見ていた。

 木に押し付けられるように拘束されたジャイアント・エルクラビットは、もう角を振り回すことは殆どできない。子供達も近くまで寄ってくることができた。

 そこからは止めを刺す最後の行程だ。

 クーノさんに心臓の位置を教わって、ニコが止めを刺した。

 暫くして、わたしの酸素レーダーから酸素の消費地点が一つ消えた。イレムの探知からも消えたのだろう、一度目を大きく開くと、後は何も言わず、表情を硬くしたまま見つめている。オレがやるとか、もっと騒ぐのかと思ったけど、意外にも引き締まった顔で大人しくしていた。

 すると急に、妙にしんみりとした口調で話し掛けてきた。

 

「なあ、ニコに、お前が言ってたアレ、教えてやれよ。アルミラージ仕留めた時に言ってたやつ」

「アルミラージ仕留めた時?」

「手を合わせてなんか言ってたろ」

 

 あれか。命を奪った者として感謝と責任を込めた祈り。

 

「わかったわ」

「悪りいな、ガキババア」

「むわあ、その呼び方やめなさい! せっかくのしんみりした空気が台無しだよ!」

 

 イレムに一発ゲンコツを落として、ともかくもニコ君の所へ行くと、彼はまだ息荒く、横たわるウサギを突っ立って見下ろしていた。

 その肩にポンと手を置くと、ニコリと微笑んだ。

 

「よくやったね。さあ、ウサギさんにお礼しよう」

「お礼?」

「わたしと同じようにやって」

 

 両手を組み合わせて胸の前に持っていくと、わたしは目を瞑った。

 

「ウサギさん、わたし達の明日の糧になってくれてありがとう。全て余さず利用しますので、安らかにお眠り下さい」

 

 わたしの祈りを聞くと、ニコはパッと笑顔になって、手を合わせて目を閉じた。ラースもやってきて、同じように手を合わせて、2人は口ずさんだ。

 

「ウサギさん、ありがとう。お腹いっぱい食べますから、安らかにお眠り下さい」

「ウサギさん、ありがとう。全部食べますから、安らかにお眠り下さい」

 

 そうそう。食べて、命を捧げてくれたウサギさんの人生を無駄にしないようにしないとね。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。