異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「「「ただいまー!」」」
わたしとイレム、クーノさんと2人の男の子は、無事野営地に帰ってきた。
「ジャイアント・エルクラビット捕まえたよ!」
そう言って木の棒に手足を結ばれてぶら下がった、狩りの成果であるヘラジカ角を生やした巨大なウサギを高らかに見せびらかした。
最初追っかけた
ところで この大きさでもウサギは1羽でいいんだろうか? ウサギを1羽2羽なんて数えるのは、獣を食べちゃいけなかった昔の日本の話であって、ここでは普通に1匹2匹で良い気がするけど。いやこれは1頭と呼んだ方がいいだろうか。
「なにこれ! これでウサギ!?」
「ジャイアント・エルクラビットだよ」
「これあんた達が捕まえても大丈夫なのだわよね?」
「一応これ、Fランクなんだって」
誇らしげに報告するラースとニコ。イレムは悔しがってるかと思いきや大人しくしてる。そうだ、この子怪我してるんだった。
「サンドラちゃん、イレムがちょっと怪我したの。診てもらえるかな」
「また? 今度は何?」
「ジャイアント・エルクラビットの角に叩かれちゃって」
服をめくってアザを見せた。二の腕と背中に広がってるアザは、さっきより大きくなっていた。
「わあ、痛そう!」
「ちっ、大したことねーぜ。寝りゃ治る」
「そうかもだけど、ちゃんと処置しておかないと、こういうのは年取った時に反動が来て、動けなくなる元になるよ。
ええとね、これは最初はよく冷やして、安静にしてるのがいいの。薬は火傷の時と基本同じでいいわ。そこにチドメグサを練ったものを加えるの」
「なんでチドメグサ入れるんだよ。血なんか出てねえぞ」
「そのアザは奥の方で血が出てるからできるの。止まってればいいけど、まだ出続けてるなら、もっと広がって腫れたりするわよ。下手するとそれが固まって体を動かすとき引っ掛かって邪魔したり、腐って痛んだりすることもあるの。だからチドメグサで早く出血を止めるの」
「へ、へえ……」
イレムはだんだん顔を青くしていった。
「安静にするのも出血を止めるのためなの。外にある切り傷だって、動かし続けてたら傷口塞がらないでしょ? それと同じね」
「わ、わかったよ」
「昨日採ったベラロカイの果肉とヘキサコルデートは取ってあるし、チドメグサのエキスも持ってきてるから、すぐ塗り薬作るね」
サンドラちゃんは荷物から調合道具を取り出すと、テキパキと薬を作り始めた。しかも薬の効能を5倍増加させる法力を使ってだ。
「これ以上ない野戦薬師様ねえ」
「やせん?」
「そのお薬って、買うといくらくらいなの?」
「そうねえ、薬草費と調合費で……」
「か、金取んのかよ!」
イレムはまた孤児院の報酬から引かれると思って、顔を青くした。
「クエストの途中で、他のパーティーにお薬売ることはよくあるわよ?」
「か、金取るならいらねえよ!」
「えー? でもぉ、同じパーティーの仲……」
サンドラちゃんが言い終わる前に、わたしはずいっと前に出て遮った。
パーティーの仲間だからいらないって言おうとしてたんだろうけど、ここは恩を売って有り難みを分ってもらわないと。
「帰りの荷物持ちとしてイレムが必要だから、体調万全にしてもらわないと困るわ。だから薬塗ってちゃんと治ってもらうわよ」
「か、金どうすんだよ」
「荷物運んで貢献してもらうことで交換かな。フィリアさんのストレージが一杯みたいだから、イレムが頼りなのよ」
「ま、まさかあの魔石の粉、領都まで運べってのか!?」
「覚悟しとくのね」
「マジかよ……」
今日のイレムは血色悪いわねえ。
◇◇◇
フィリアさんのすね肉シチューは、日が落ちる前に大方出来上がった。
一足先にわたしはレトルト用に分けてもらう事にした。
「もう少し煮た方が柔らかくなるのですが……」
「もう一度この袋ごと加熱するから大丈夫ですよ」
カレーのレトルトの野菜は生の状態で入れるんだって。パックを加熱する時に火が通って、冷めていくにつれて味が染みるんだと思う。豚の角煮も一晩おくと、冷める時に柔らかく味もまろやかになるから、すね肉も袋の中で熟成するでしょ。
まずは携帯食のコチンコチンのパンをディオネアの豆の袋に入れる。そしてシチューを注いで、割る前の割りばしのような木の棒で空気を抜きつつ口を閉じて、何重にも折りたたむ。そしてトドメに紐で袋全体を十字に縛って、絶対口から漏れ出ないようにした。
「サンドラちゃん、お湯湧いた?」
「湧いてるよー」
「ありがとうね。そうしたらこの豆の袋をお湯で煮て、殺菌します」
「なあに、サッキンって?」
「そのまま飲んだらお腹痛くなる生水も、沸騰させると飲めるようになるのと同じことするんです。物を腐らせたりするのは目に見えないほどの小さな生物のせいだから、細菌っていうんだけど、その細菌を熱で殺しちゃうのよ。口はしっかり閉じたんで、外から新しく細菌が入ってくることはないから、殺菌した後はもう腐ることはないんです」
「目に見えない生き物?」
「顕微鏡はまだないのかな。レンズってこの世界ないんでしたっけ? メガネとか」
中世くらいの時代だと、メガネはあったとしても、持ってるとしたらお貴族様くらいだろうと思って、リエラさんに聞いてみる。
「拡大鏡ならあるわよ。とっても高価だけど」
「やっぱあるんですね。それを応用して極々小さいものを見ようとすれば、そのうち分かってきますよ」
「まあ、小さいもの。極々小さいもの!」
目をキラキラさせたリエラさんは、凄く興味ありそうな感じだ。
「それで、お湯で煮とけば日中暑い中持ち歩いても大丈夫なの?」
「うん。あとはディオネアの豆の袋が、袋の外とをいかに完璧に、いつまで遮断できるかにかかってますね」
所詮は植物だし、アルミ箔ポリプロピレンほど完璧にとは難しいと思うけど、なにしろ魔物の木の実だ。1週間でもいい。もし安全にもつなら、美味しい野外ご飯が保障されるんだ。画期的よね?
レトルトは持ち運ぶには重いしかさばるけど、馬車移動とかならアリだよね。
流れ作業で袋詰め、口閉じ、煮沸殺菌をやって、10袋分のすね肉シチューのレトルトパックができあがった。
移動中のお昼に食べてもよし。作る時間がない時の朝や夕食にしてもよし。これで帰りの一食は確実に確保できたわね。