異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第80話「危険地帯で持ち帰る荷物の再点検です」

 

「さあ、夕食にしましょう」

 

 わたしがレトルトパックシチューを作ってる間も煮込みを続けて、すっかり柔らかくなったスネ肉シチューは完璧に出来上がった。

 

「「「わーい」」」

「ちゃんと手を洗ってねー」

 

 手を洗って、食器持ってフィリアさんの所に並ぶ子供達。

 プラスそれに混じって並ぶ、棒切れのようにひょろ長い大人の男性陣。

 

「おっと、あんたなんで並んでるのよ」

「え?」

 

 わたしは列に並んでいた違反者を摘発した。

 

「イレム。あんたはディオネアの葉っぱから出してもらうのに、あんたの分の食料提供しちゃったでしょ。もう帰るまでフィリアさんの料理は食べらんないからね」

「うげえ、そ、そういう事かよ!」

 

 大声を張り上げた途端、イレムのお腹がぐう~っと鳴った。

 

「そ、それじゃあ俺、もうずっと飯抜きか!? 院長先生よりひでえ!」

 

 抗議に合わせるように、お腹もぐうぐう鳴る。

 

「何言ってるの。自分で持ってきた携帯食があるでしょ。それで自炊すればいいだけの事よ。本来の採取旅行に戻っただけでしょ」

「あ、そうか。俺食料持ってたんだった。チキショウ、3日分くらい食ってやる」

 

 イレムはぶつくさ言いながら列から離れ、自分の荷物からカビ混じりの硬いパンと、粉のようになった乾燥野菜と、硬いプラスチックのような何かの乾燥肉を一人用の鍋に入れ、水を注いで火にかけた。味付けは乾燥肉の塩気だけ。横でフィリアさんのゴルゴノプスのすね肉シチューが、レストラン顔負けのかぐわしい匂いを漂わせているのとは、あまりにも対象的だ。

 しかしいつまで煮ても肉は柔らかくならず、味が染み出てる様子もなく、一口すすったイレムは「うげえ!」と悲鳴を上げた。

 

「俺って今までこんなの食ってたんだっけ?」

 

 材料の質が悪いので、不味いを通り越して食べてもいいものなのか怪しい物になってるが、基本ハンターの行動中の食事は、これとそんなに変わらない。

 イレムは自分の食糧を食べてみて、ようやくこのパーティーがよほど常識外れな事をしているのを、食事から思い知らされた。

 

「「イレム兄!」」

 

 不味さで渋面に輪をかけていたイレムのところに、一緒に狩りに行ったラースとニコがやってきた。

 

「今日獲ったジャイアント・エルクラビットの肉だよ」

「これは食べてもいいって」

 

 それは前脚を焚き火で焼いて塩を振っただけのシンプルなものだった。

 一緒に付いてきたニーシャが腰に手をやって、食べていい理由を説明した。

 

「これは新しく増えた獲物だし、捕まえるのにあんたも関わったらしいから、いいってことになっただわよ。有難く思いなよね」

「ニーシャがレオ兄ちゃんに聞いて許可取ってくれたんだよ」

「そうか。サンキューなニーシャ、ナイスだ! うおお、旨そう!」

 

 先程のとはうって変わって、香ばしい肉と脂身の香りがそよぎ、とたんに口から唾液が迸る。

 ジャイアント・エルクラビットの肉をもらうと、イレムはかぶりついた。

 

「う、うめえ!」

 

 堰を切ったようにガツガツと肉にむしゃぶりつくイレム。指に滴ってくる脂もきれいに舐め取り、夢中になって食べる。

 そんなイレムを眺めるニーシャは、「あんた食べる前にちゃんと手洗った?」と小言を言うも、顔は笑顔だ。ラースとニコもそう。やっぱり一人でものけ者にするのは嫌なんだ。力を合わせて生きてきたから、イレムであっても仲間であり、家族なんだ。

 そんな様子をちょっと離れたところから見ていたわたしは、孤児院のみんなの絆を垣間見た気がした。

 

 半分くらい食べたところでイレムはがっつくのをやめて一呼吸置くと、一かみ一かみ肉を味わうように食べ始めた。そして時折、足元の不味いスープに目を落とす。

 食事できない事の惨めさ、食材の質の違いで変わる豊かさ、気持ちのゆとり。そういったものをイレムの体は感じ取り、ゆっくりと脳みそに吸収されていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 翌未明もパーティーはふた手に別れ、昨日と同じ群生地へと出向いた。

 どちらの群生地でも昨日採らなかった蕾が成長し、咲くタイミングを待っていた。蕾の数は昨日ほどじゃない。なので通常通り日の出前の30分での摘み取り勝負だ。

 

「スピードより品質だよー。丁寧に摘んでねー」

「「「分かりました、サンドラ先生!」」」

 

 わたし、リエラさん、フィリアさんが、サンドラちゃんの前に並んで敬礼して答える。

 

「リネールさん、予め麻袋は一定間隔に置いてきた?」

「おう、取りに戻らなくてもいいようにしといたぞ」

「ありがとう。準備も整ったね。それじゃ始めるよー」

「「「おーっ!」」」

 

 ぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷち

 

 お日様が顔を出すまで、わたし達はただひたすらに花の蕾をついばんでいった。

 結果の収穫量は昨日の半分。でもこれが通常のアイポメアニール収量だ。昨日が特別だったんだ。

 丸々と太った麻袋の列を前にして、サンドラちゃんの秘密の開花予想の凄さを改めて感じ取った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 孤児院の子達とディオネアの木のところで合流すると、サンドラちゃんは採取したアイポメアニールの蕾を確かめた。

 

「うん。ニーシャ達が採取した蕾も良い品質なの。皆よく頑張ったね」

 

 サンドラちゃんに褒められて、孤児院の子達はぱあっと笑顔になって喜んだ。

 

「孤児院パーティーは麻袋6袋。わたし達が7袋ね。昨日のと合わせると全部で35袋。350kgも採れたわ」

「「「凄ーい」」」

 

 孤児院の子達はパチパチと拍手した。

 

「フィリア、ストレージで運べるか?」

 

 問題はそこだ。レオさんが聞くと、フィリアさんは申し訳なさそうに答えた。

 

「ストレージはお肉と魔石だけで埋まってしまうと思います」

 

 そうすると、隙間を作るためにどれか持って帰るのを諦めないとということになる。

 

「フィリア、ストレージの中身をちょと整理してみましょうか」

「はい。では一旦全て出します」

 

 リエラさんに言われてフィリアさんはストレージを開ける。空の麻袋を敷物代わりに地面に敷くと、中身を出して並べていった。

 

 するとまあ出るわ出るわ、クモの脚が。こんなにやっつけてたんですねえ。これでもわたしが切り刻みすぎてダメにしたのは入ってないんだよね。にもかかわらず、数えてみると100本もあった。

 

 並んだのはこんなだった。

 

  タイガー・スパイダーとラトロ・アトレイタの脚、100本、約300kg。

  ゴルゴノプスの解体済みの肉、3匹分、約100kg。

  ヤム・ラナトゥース、約100kg。

 

 これに加え、昨日ニコが止めを刺したジャイアント・エルクラビット、150kgがあった。

 他にもフィリアさんは、背負っていたザックに調理道具や調味料、野菜などの食料が20kgも入ってた。もともとはストレージに入れてたものけど、収穫物に追い出された感じだ。

 

「フィリアさん、持ちすぎだよ! 少しイレムに持ってもらったら!?」

「これくらい問題ありません。それにイレムさんは高品質魔石の粉、40kgを運ばないとなのかもしれないのですよね?」

 

 げえっとイレムが嫌な顔をした。

 

「そのためにイレムの怪我を治したんだから、当然よ」

 

 サンドラちゃんの作った塗り薬によって、イレムのアザは朝にはきれいになくなっていた。さすがは薬に効能を5倍アップさせる法力だ。

 イレムはますます渋い顔になる。

 

 魔石は他にも、タイガー・スパイダーやラトロ・アトレイタ、サンダー・ウルフから回収した小魔石が70個もあって、孤児院の子に持ってもらっている。

 

「アイポメアニールを入れる隙間がぜんぜんないよ」

「アイポメアニールが最優先だ。そうなると肉の大半を捨てるしかないな」

「ヤム・ラナトゥースも結構重いね」

「やだあ! あんな美味しいの置いてけないよ!」

「置いてくなら魔石置いてこうよ!」

 

 子供にはお金になる魔石より、美味しいデザートの方が価値が高いみたいだ。

 アイポメアニールが350kgだから、ストレージの残量は150kg。ヤム・ラナトゥースを持っていくとすると、あと50kgか。高級魔石とクモの脚とゴルゴノプス、どれをストレージに入れようか。高級魔石はイレムに持たせればいいか。

 そんな事を考えていると、リエラさんがフィリアさんにきっぱりと言った。

 

「フィリア、予備ストレージを開けましょう」

 

 フィリアさんはちょっとだけ動揺した。

 実はフィリアさんにはもう一つ500kg入るストレージがある。それを予備ストレージと呼んでいるのだけど、そこを使うと副作用がある。

 

「そうしますと、明日動けなくなってしまいます」

 

 そうなのだ。もう一つのストレージを使うと、なぜか次の日から数日、フィリアさんは寝込んでしまうのだ。

 

「そこは気合よ! 護衛侍女の訓練に比べれば、それくらいできるでしょ」

「い、いえ、あれは訓練以上にしんどいのですが……」

「倒れたら私がフィリアを背負うわ。ミリヤの根性を見せてやりなさい!」

 

 拳を握って力説するリエラさん。中身はお姫様だけど、家抜け出してハンターやってるだけあって、いざという時は脳筋爆発、力技で解決だ。

 

「そうはいきません! リエラさんに担いで運ばれたとなったら、護衛侍女長に殺されます!」

「ならがんばって目を開けるのよ。帰って寝込んだら私が看病してあげるから」

「か、看病……」

 

 寝ているフィリアさんの横でリエラさんが付き添って、手を握ってくれたり、頭を撫でてくれたり、汗を拭いてくれたり、お着換えを手伝ってくれたり……。

 フィリアさんの顔がデレデレと緩んだ。

 

「うおっしゃあ! 気合い入れていきますよお! さあ、こちらにアイポメアニールを入れてくださあい!」

 

 動機は不純なれどやる気を出したフィリアさんは、空中に手で丸を描いて予備のストレージを開けた。

 

 

 

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