異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
ディオネアの木のところで皆は朝食を取り、荷物を纏めて帰り支度をした。
ジャイアント・エルクラビットは、リネールさんが指導を兼ねて子供達と解体した。肉だけでなく毛皮も良い商品になるとのことで、孤児院の子達は喜んだ。孤児院パーティーで獲ったことになってるから、全部孤児院の収入なるからだ。
「院長先生喜ぶよ」
「でもさあ、お肉は売らないで孤児院に持って帰った方が良くない?」
「美味しかったもんね。帰ってもまた食べたいなあ」
「それじゃ毛皮だけ売るだわよ」
解体して嵩を減らしたけど、それでも80kgくらいある。これだけあれば孤児院の食卓は、当分お肉には困らないだろう。
不要となった部分をディオネアの葉っぱにあげようとしていたところで、わたしはイレムに声を掛けた。
「この際だから、得体の知れない携帯食のお肉もあげちゃったら?」
昨夜に引き続き、イレムは自分の携帯食で朝食を作ってみたが、プラスチックのような肉の塊は柔らかくもならなければ、お湯に味を出すこともなかった。ちなみにこの肉は孤児院の子達が一律同じものを持っており、イレムの惨状を目の当たりにした皆は一様に戦慄を覚えていた。
「次採取旅行行く時、あたし達これ持っていかないとなの?」
「フィリア姉ちゃんの料理食べたら、俺もうこんなの食べらんないよ」
「ディオネアにあげちゃおうよ」
皆謎の肉の塊を出すと、開いてるディオネアの葉っぱの前のジャイアント・エルクラビットの不要部位と一緒に置いた。
そいて葉っぱの内側の突起を押すと、葉っぱはパクンと閉じ、マットレス状のところに捧げたものは包み込まれた。
「ディオネア様、お世話になりました。また来た時もお供えしますので、よかったらその時もわたし達にお恵みをお与え下さい」
「「「お世話になりましたー」」」
皆で木に拝んで頭を下げると、背後にどさどさと実の詰まったさやが落ちてきた。
「もうお恵みをくれたよ」
「ありがとう、ディオネアさん!」
落ちたさやは5つもあった。この世界で携帯保存食として認められている豆が12個入ったさやだ。しかもその豆の皮はレトルトパウチとして使えるのだ。こんなにありがたいことはない。
「ねえ、このさやだけ色が黄色いだわよ?」
ニーシャが落ちたさやの1つを指さして言った。
こないだ食べたときのは緑色のさやだった。今落ちてきたのも緑色だが、1つだけ黄色かったのだ。しかもそれはコチコチに硬かった。
サンドラちゃんもさやを見ると、嬉しそうに微笑んだ。
「これは熟成した実なの。これ植えてうまく発芽すれば、ディオネアの木になるわ。ディオネアさん、わたし達に子供を分けてくれたの?」
ディオネアの木は何も言わなかったけれど、意志を持つ木なのだから、きっとわたし達を認めてくれたんだろう。
「ありがとう。大切に育てるね」
「ディオネアさん、ありがとう!」
「わあ、孤児院の庭に埋めよう!」
「実が生ればご飯に困らないよ!」
「何年くらいで実が生るの?」
「たしか3年くらいなの。リトバレーにもほしいわ」
「おおいいね。そしたらリトバレー村でレトルト携帯食をたくさん作って売ろう。わたしはサンドラちゃんのお母さんの、マンモスのお肉の煮物がいいな」
「マヤちゃん、あれお気に入りなのねー」
「わ、私も1つもらっていいかしら」
「いいけどリエラさん、レトルト作る時は特許料貰いますよ」
「え! あれ作る方法も“とっきょ”なの?」
「当然です」
ディオネアがくれた実もフィリアさんのストレージにしまい、いろいろとご厄介になったディオネアの木に別れを告げて、いよいよわたし達は帰路へと着いたのだった。
◇◇◇
枯れ川から街道へ向かう獣道を進むわたし達は、なおも食べ物の話で盛り上がっていた。人間何をおいても食べることが解決しないと、次の事に手が回らないのだ。文化文明の発展も、まずはお腹がいっぱいになってからの話だ。
「携帯食の干し肉、さっきディオネアの木にあげちゃったけど、次の採取旅行の時どうする?」
「院長先生にまた買ってもらわないとだわね」
「同じのはもうやだなあ」
孤児院の子達もすっかりフィリアさんによってグルメ舌に変えられてしまったようだ。今後支障ありそうだとは思ってたけど、やっぱりだったわね。
「これはフィリアさんの食事のせいですねえ。なんかこうなりそうな気がしてたんですよね。これはちょっと責任考えないとじゃないですか?」
「わ、私のせい!? そ、そんなこと言われましても……。マヤさんもお知恵を貸してくださいませ」
それともミリヤ皇国の責任? とリエラさんに向くと、あんなことする護衛侍女はフィリアしかいませんと、皇女様に突っぱねられた。言った手前、わたしも頭をひねることになった。
「そうねえ。自分で作るとかはできないのかしら」
幸い孤児院パーティーはジャイアント・エルクラビットを自分達で狩っている。自前のお肉があるのだ。
「なるほど。ではジャイアント・エルクラビットで干し肉を作ってみてはどうでしょう?」
「あ、それで作り方覚えとけば、また獲物狩った時できるね」
フィリアさんの提案に、孤児院の子達は目を輝かせた。
「それいいだわよ!」
「フィリア姉様、作り方教えて!」
「はい。帰ったらお教えしましょう」
わあっと喜ぶ孤児院の子達。そこへレオさんが、草の茎を楊枝のように咥えながら冷やかし気味に入ってきた。
「その肉で生ハム作ったら、片足の肉だけでジャイアント・エルクラビットがもう1匹買えるぞ」
「え、片足だけで!?」
「それじゃ1匹で足2本あるから、1匹捕まえると2匹のジャイアント・エルクラビットが買えて、その足でまた4匹買えるの?」
「凄い! どんどん増えてくよ!?」
「魔法みたい!」
「それはどうやって作るの!?」
「それってもしかして、こないだレオ兄様が食べさせてくれたあの、めっちゃ旨かった干し肉のこと!?」
「ああそうだ。燻製したり乾燥させたりして、6ヶ月くらいかけて作るんだ」
「「「え!」」」
6ヶ月と聞いて皆固まった。
「僕、すぐ食べたい」
「あたいも」
どうやら子供には6ヶ月は待てないようだ。
でもどうだろう。わたしはフィリアさんに聞いてみる。
「フィリアさん、生ハムの作り方知ってます?」
「ワリナの特産品のようなのは無理ですが、一般的な保存食としてのハムでしたら分かります。2週間程度で作れます」
「さすがフィリアさん。ねえ皆、胴体だけでも結構な量あるから、足だけちょっと我慢して、一度やってみない?」
子供達は顔を見合わせた。
「2週間ならいいよね?」
「でも置いといたら、イレム兄がこっそり食べちゃいそう」
「み、皆がマジで何か作ってんなら、俺手付けたりしねえよ!」
「どうだかだわね」
イレムとニーシャが睨み合いを始めた。
「ふふふ。まあ帰るまでによく考えときなよ。やる気になったら院長先生にも相談してさ」
「マヤさん、孤児院でハムの加工でもさせるおつもりですか?」
「うーん、そういう技術持ってると孤児院の経営にも役立つと思うのよね。あとはお肉を定期的に手に入れられるかどうかだけど」
「イレム兄の魔物探知で見つければいいんだよ」
「ふははは、任せろ。オレがさっと見つけてやる!」
「でも見つけても捕まえられないと意味ないよ」
「あと怪我ばっかして、薬代でお金なくなっちゃいそうだね」
「ぬわにぃー!」
イレムの狩りの評判はさんざんである。
こればっかりは経験と訓練を積んでもらうしかない。
すると獣道の前に整備された太い道が現れた。久しぶりの道らしい道、西街道だ。
「わあ、歩きやすいねえ」
「そりゃ街道だもん」
「領都はどっち?」
「こっちだわよ」
「ニーシャ、逆逆」
「え!?」
「ニーシャがパーティーリーダーって、危なっかしいんだよなあ」
「アイポメアニールとキャルステイジア間違えるし」
「うえええ!?」
前の薬草採取でやらかしてるだけあって、ニーシャも反論できない。
でもそうやって成長していくもんだ。まだニーシャは12歳でしかないのだし。
「大丈夫。わたしなんかが12歳のときより、ニーシャはよっぽどしっかりしてるよ」
わたしはしょぼくれるニーシャの頭を撫でながら元気づけた。
「ぐす。それって去年くらい?」
「5年前だよ! わたし17だってば!」
なぜかわたし以外の皆がニヤニヤしつつ、わたし達は街道を領都の方へ向けて歩いていった。