異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
大きな岩を背後において、周りの下草を短く刈ったキャンプサイト。
倒木を置いて林までの間の草原を緩衝地帯とし、キャンプサイトの安全を図る、という基本スタイルは変わってなかった。そして大きな岩の上は全周を見渡す見張り台に、というのも引き継がれていた。
キャンプサイトには石で竈も作られていたが、クーノさんが作った立派なのとは違って、丸く囲っただけのものだ。
ここの難を言えば、水場が斜面を下った所の沢だということだろうか。水汲みに行かなとなんだ。
「いい野営地でしょう? 本当はウェスト・
「広いうえ、周囲の監視もしやすくて、掘り出しもんだった。こんな所が街道脇にあったんだな」
「知ってますよ。だってねえ」
わたし達は顔を見合わせてニンマリした。
「だってここ、あたいらが往きに作っただわよ」
「なに?」
「僕らの人数に合わせて作ったから、倍近い人数が泊まるとなると狭いよねえ」
「どうします、レオさん?」
わたしが問い掛けると、さも当たり前に返された。
「どけとは言えねえし、俺達で広げるしかねえだろ。マヤ、もう一区画、草刈りしてくれ」
「言われると思いましたよ」
「リネール、また刈る範囲の誘導をしろ。くれぐれも人のいる方にやるなよ。魔物も輪切りになるんだ、シャレじゃ済まねえ。余計なもんも切るんじゃねえぞ」
そう言ってゲンコツをチラつかせた。怯えたリネールさんが慌ててわたしに注意する。
「マヤさん、やり過ぎ禁止だぞ!」
「別にわたしだって、狙ってやってるわけじゃないよ!」
立入禁止だとお触れを出して草刈りの準備をしていると、かえって何事だとあちらのパーティーの方々が見に来ることになった。
「あ、えーと、別に面白いもんなんて何もないので、皆さん自分のお仕事にお戻りくださーい」
と言ってみたものの、やっぱりギャラリーは減らない。
「こっから向こうの木の辺りまで。いいマヤさん、この向きにだよ!」
「分かってるよ。こんな感じかな」
アンダースローのように手を振って動作をシミュレーションする。
「いい? こうだよこう。んで、あの辺でピタッと」
「分かったよ! それじゃ始めまーす」
地上5cmに幅20mの酸素噴出点を出現させると、向きを定めた。そしてさっと腕を振る。
「
草原がブワッとたなびいて、ふわりと草が倒れる。
「むふふ、いい感じ。オッケー、草刈り取っていいよー」
振り向いて孤児院の子達に草の回収をお願いするも、誰も動かない。
「もう少し待つだわよ」
ニーシャが皆を制止させていると、木が2本倒れた。
「いくよー」
「「「おーっ!」」」
見透かしていたかのように木が倒れるのを待って、孤児院の子達は散らばって倒れた草を集めに行った。
「てめえマヤ~~!」
「お、おっかしいなあ」
「いてえ! なんで俺もゲンコツもらわなきゃなんねえんだ!?」
レオさんにポカリとやられている間に、孤児院の子達が人海戦術であっという間に整地してキャンプサイトを作ってしまうと、ギャラリーしていたあちらのパーティーの方々が目を点にして、この野営地を作ったのは本当にわたし達だったのかと囁き合い、やっとのこと納得したようだった。
こちらの野営地の整備ができ、荷物を下ろして広げ始めた頃、ホワイトガーディアンのニエミネンさんが声を掛けてきた。
「怪我や毒に効く薬草持ってないですか?」
聞いたところ、度重なる魔物との戦闘で、ホワイトガーディアンとトラの爪の人達は、皆大なり小なり怪我してるらしい。実際あちこちに傷はあるし、包帯のように布を巻いてる人もいた。特に湖でのラトロ・アトレイタとカメレオ・タイガー・スパイダーには苦戦して、ホワイトガーディアンの一人が大怪我、トラの爪の一人が毒を受けてまずい状態らしい。
サンドラちゃんがスックと立ち上がった。
「見せて。傷によく効くお薬あるの」
カメレオ・タイガー・スパイダーに切られた人のところに連れて行かれると、ホワイトガーディアンの弓使いのお姉さんが看病していた。
「スパイダーの鎌に切られちゃってぇ、チドメグサで止血だけはしたけどぉ、たぶん痛くて今夜は眠れそうにないのぉ」
腕と太ももが見事に深くざっくり切られていた。幸い筋肉部分らしく、動脈は無事なようだ。傷口がパックリ開いたままだけど血が止まってるっていうのが凄い。チドメグサって本当に出血止めるんだ。なんでも動いても血が出てこないそうだ。
その代わり痛みは酷いらしく、切られた男の人は、額に脂汗を浮かべて痛みと戦っていた。
「こ、これ、縫わなきゃダメじゃない?」
「大丈夫。パテで埋められるの」
「パテ!? 人の体もパテで穴埋めるの? 模型じゃあるまいし」
サンドラちゃんはさっそく持っていた荷物から、パテ状に練られた薬と、生のヘキサコルデートをその場で調合した。淡く光る調合鉢を見たホワイトガーディアンの人は驚いていた。
「サンドラちゃんは薬の効能を5倍アップさせる法力を持ってるのよ」
「まあ、そんな人に会えたなんてぇ、あんたラッキーだったねぇ」
薬が出来上がると、傷口を埋めるようにそれを塗った。
すると数分で痛みと腫れが引いたのを見て、皆の目の色が変わった。
パテの表面が乾いたところで、布で傷口を覆うと処置は完了した。
「すまん。驚いたな。すごく楽になった」
「後はよく食べて、よく休むのがいいの。パテが浮いてきて、かさぶたみたいに取れたら完治なの。それまで布は毎日きれいなのに取り替えてね」
「すごぉい! パテは知ってるけどぉ、塗ってすぐ痛みが引くのなんて見たことないのぉ!」
「これもサンラちゃんの薬効を高める法力のおかげ?」
「そうね。ヘキサコルデートに法力の当て方を変えることで、効能の方向も変えられるの。今ここで新鮮な材料使って調合できたのも効き目に効いてるみたい」
「凄すぎるよ! これでもサンドラちゃんは薬師見習なの?」
「いくつも作り方覚えてないもん。それにこのパテはお母さんが作ったものなの」
「いくら払えばいい?」
怪我をした人が聞いてきた。
「あ、ええと、パテが大銀貨1枚。ヘキサコルデートはその辺で採ったものだし、調合費は銀貨1枚でいいかな」
「エリン、小金貨1枚渡してやってくれ」
「わかったわぁ。それくらいの価値あるよねぇ」
弓使いのお姉さんは小金貨1枚をサンドラちゃんに握らせた。
「小金貨は多いよ」
「そんなことないわぁ。旅先でちゃんとした薬で治療してもらえただけでもぉ、助かったのぉ。だから受け取ってぇ、小さな薬師さん」
サンドラちゃんはわたしを見上げた。
「貰っていいと思うよ。それだけのことしてるよ、サンドラちゃんは」
わたしが微笑むと、サンドラちゃんはパッと笑顔を輝かせ、そしてホワイトガーディアンの2人にペコリと頭を下げた。
「他の人も診てもらえるぅ? 皆何かしら怪我しててぇ」
「分かったの」
サンドラちゃんが臨時野戦病院を開いて、診てもらった人がみんな凄い効き目の薬だと騒ぎになるくらいになった。
ブルーラインの一部の人達は傷が小さいからいいと言っていたが、レオさんがむしろ小さな傷を負った人こそ診てもらえと言って、結局みんなサンドラちゃんのところに行くことになった。
「これくらいなら、明日の朝には治っちゃうの」
「すげぇ、塗った途端に傷が塞がったぞ」
「これなら軽傷者は明日には完全復帰だな」
「その方がパーティーにとっていいと思うの。魔物が出ても皆で全力で戦えるもんね」
「確かにその通りだ」
「すまん。薬代は魔石と交換でどうだ?」
「魔石? うーん魔石はいくらでもあるからいらないかなあ」
そんな中で、サンドラちゃんが手に負えない人もいた。クモの毒にやられた人だ。
「毒にやられた人、リエラさん診れますか?」
「いいわよ」
トラの爪の一人は、ラトロ・アトレイタの投げた毒糸に触れたようで、触れたところはどす黒くなり、痺れて動かなくなっていた。
「なるほどね、毒糸にやられたのね。10分くらいそのままじっとしてて」
リエラさんが患部に手をかざしていると、毒で変色していた部位が次第に色を取り戻していった。さらに痺れと痛みも取れててくると、本人のみならず、見ていた人達も驚きで目を丸くした。
「こ、これ、まさか解毒法力か!?」
「おお、最悪切断しかないと思ってたのに、助かった! ありがとう、ありがとう!」
「お嬢さん、もしかしてミリヤの人か? 解毒法力といやミリヤ皇国が有名だ」
「その通りよ。飲む解毒薬もあるから、国交が復活したからそのうち入ると思うわ。その時は買ってね」
「パーティーで1本くらい持っててもいいよな」
「うちも買っといた方がいいな」
「しかしこの解毒料、いくら払えばいいんだ?」
「金貨2枚でいいわよ」
「金貨2枚!?」
20万円だ。でも高い? 腕や脚、切断かもしれなかったんだよ? それにミリヤ皇国の皇女様に解毒してもらったんだよ? 瞬間解毒するほど強力な法力のマリエラ姫だったから、たった10分で解毒できた可能性もあるよね。
皇女様に処置してもらったのに渋っている連中を見て、フィリアさんが秘密ポケット満載の前掛けに手を入れて、もの凄い不穏な表情をしている。放っておいたらあの人刺されちゃうかもしれない。
わたしは慌てて間に入った。
「あの、手足、いえひょっとすると命が助かったかもなんですよ。お金に変えられるもんじゃないと思うけどなあ」
「そのとーりですう。帰ったら相場調べてみなさーい。一般の解毒屋の値段ですよー? あなた誰にやってもらったと……」
「はいはい、フィリアさん、その辺にしときましょうね。ほら、分かったみたいですし」
むしろフィリアさんの表情と雰囲気に押された感じで、解毒してもらった人は「払う、払うとも!」と叫んでいた。