異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
サンドラちゃんとリエラさんが活躍してる間に、クーノさんも頑張っていた。またも渾身の石竈を再建したのだ。後ろと横にも壁のように石を積み上げて、正面に輻射熱を集めるような作りになっており、スパイダーの脚を美味しく焼くのに最適なのだ。
組み上がったところで、わたしはクーノさんに呼ばれた。
「ようし。マヤさーん、熾火作るの手伝ってくれない?」
「はーい、任せてください。リネールさん、薪に火を点けてー」
「火? 点ける点ける!」
火を出せる法力持ちのリネールさんは、その法力のせいか火を点けるのが大好きだ。一歩間違えば放火魔の恐れがある。
「ん? 今なんか俺のこと言わなかった?」
「な、なんも言ってないよ」
さっきわたしが草刈りをした時、やり過ぎて切り倒しちゃった木が、割られて薪として組み上がっていた。
普通なら細かい枝や葉っぱから着火して、だんだん火を大きくしていって、最終的に太い薪に火を移していくんだけど、リネールさんの法力は火炎放射器と同じで燃焼剤入りの火なので、いきなり太い薪に火を点けちゃえる。そこへわたしが酸素を吹き込んで火を大きくし、さらにどんどん薪を焚べていく。酸素を入れ過ぎちゃうと何も残さず燃え尽きちゃうので、火の回りを良くする程度に気を配って、大量の熾火を作っていく。熾火とは炭と同じようなものだ。
石竈の中が溶鉱炉のように赤々とした熾火で満たされると、いよいよスパイダーの脚の登場だ。
「マヤさん、これ竈の幅に合わせて切ってくれるかな」
「分かりましたー。それ、
スパスパとスパイダーの脚を切り、切った脚を横竿のように横の壁に渡して、熾火の遠赤外線輻射熱で焼いていく。
ゴルゴノプスも一頭供出されて、丸焼きが作られた。
そして極めつけは、フィリアさんの絶品スープだ。
ここまで来ると、フィリアさんだけでなく手伝う子供達も慣れたもので、食事の準備は流れるように進む。
◇◇◇
日の入りを前に、野営地は何の祭りかというような賑わいとなっていた。
マヤ達のパーティーが準備した夕げは、どう見ても子供達で消費できる量ではなかったので、もしや俺達も食えるのか? と期待のヨダレが海となっていたトラの爪とホワイト・ガーディアンとブルーラインの方々。
声を掛けられた時の喜びようといったらなかった。
「さあ皆様、お並びください。あ、そちらのパーティーの皆様の分もありますよ」
「い、いいのですか!?」
「本当にいいのか? メイドさん!」
「リエラさんへの感謝を忘れなければ。あとサンドラさんにもですね」
「も、もちろんだ」
「この恩は一生忘れねえ!」
膝をつき頭を垂れる皆に、リエラさんは「何をやらせてるのよ」と苦笑、サンドラちゃんは「あ、頭を上げてください!」と青ざめる。満足したフィリアさんは、にっこり微笑むと夕げの会場へ「どうぞ」と手招いた。
「「「おおおー!」」」
大ご馳走の数々が並んだところに呼ばれた護衛達はバンザイと叫び、ブルーラインは抱き合って喜んだ。
「こ、これが採取旅行中の野営食だと!?」
「臭い飯じゃねえ!」
「味のしない汁だらけの飯じゃねえ!」
「塩辛くて硬いばかりの飯じゃねえ!」
この人達はいったい今までどんなキャンプご飯を食べてきたんだろうか。あれか。イレムが作ってた携帯食。
「うおおおお!?」
「う、うめえ!」
「このスープはいったいなんなんだ!?」
案の定、スープに浸した堅パンが柔らかくなるのを待ってられずに飲み始めてしまった。
「タイガー・スパイダーとラトロ・アトレイタの脚も程よく焼けてるよー。どんどん食ってくれ」
「スパイダーにやられた奴は、食って復讐だー!」
「「おおー!」」
こいつめ、こいつめ、と貪り食う人の中には、解毒してもらった人や、サンドラちゃんにパテ薬を塗ってもらった人もいた。
「デザートありますよ~」
わたしが配った白いモヤが立ち上る赤いスティックには、女性メンバー達が口に入れた途端、目が飛び出るほどに驚愕していた。
「なにこれ!」
「冷たあい! 甘~い!」
「なんなのぉ!?」
「こんなの非番でも食べたことないよ!」
そう、あのヤム・ラナトゥースを凍らせたデザートだ。皆ほっぺたが落ちそうと悶絶していた。
ブルーラインの女の子はサンドラちゃんに掴みかからんばかりだった。
「サンドラさん! いつもこんなの食べてるの!?」
「えへへ。そうねえ、マヤちゃんが来てからいろいろ変わったかなあ」
「あたしリトルウィングに入りたい!」
「お、おい、ブルーラインどうすんだよ!」
「じゃああんたも採取旅行中、こういうの出して!」
図らずもリア充に亀裂を入れたマヤだった。
さて、採取旅行中とは思えぬご馳走の数々に、無言で獣のようになって食べていたトラの爪のごっつい
「おい、ボーズ。食わねえのか?」
「う。お、俺、それ食っちゃいけねえんだ」
自分の身代わりに、自分の食べる分を供出しちゃったってことで、食べちゃいけないことになっているイレムだった。イレムはジャイアント・エルクラビットの肉と、自前のパンと野菜クズ、塩でスープを作って、前よりは随分良い物になっていたが、それでもフィリアさんのとでは味は雲泥の差だ。
「何があったんだ?」
トラの爪とホワイトガーディアンの面々は、イレムからこれまでしでかした事を聞かされた。
トラの爪のリーダーのバーガーは、「そうかそうか」と頷きながら話を一通り聞くと、
「そりゃあ確かにやっちゃあいけねえことだ。その理由はもう身に染みて分かったな?」
「う、うん」
バーガーはイレムの頭をガシガシと掻き回すと、自分の皿を差し出した。
「え?」
「しーっ。ほら食え。内緒だぞ」
他のメンバーも、自分の皿から肉やら野菜やらをすくうと、そこへ盛っていった。
「い、いいの?」
「ああ、いい、いい。見つかる前に食っちまえ」
「なんだか他人の気がしねえしな」
「貴様もそう思うか」
「俺もお前くらいの頃は同じようなもんだったぞ」
ガハハハと笑うごっつい
「でもな、掟にはやっぱり理由があるんだ」
「それはいつか自分に返ってくる。悪い事は悪く、良い事は良い事としてな」
「だから明日からはちゃあんと言う事聞くんだぞ」
大きくなった元イレム達に囲まれて、少年は少しずつ育っていく…………のかしら?
そんな現場をチラリと目撃してしまったわたし。
男の子の世界はよくわかんないけど、黙認することにした。