異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
夜の間は護衛チームには見張りのお仕事が待っている。
わたしは護衛チーム側のメンバーになってしまったので、お当番をしなければならない。
「やはり
フィリアさんはそう言ったが、メンバートレードしたんだからしょうがない。
「というより、このまま寝てしまっては明日起きられないのではと思いまして」
「予備のストレージを使っちゃったから?」
「はい」
フィリアさんは予備のストーレジを使うと、翌日寝込んでしまうらしいのだ。今回は目的のアイポメアニールの蕾と、道中に獲った獲物と、さらには元魔導具の転送装置だった高級魔石結晶とで、大量の持ち帰り荷物が出てしまった。だから仕方なくフィリアさんには予備のストレージを解放してもらっている。
そんな心配をするフィリアさんを、リエラさんは、いいのいいのとなだめた。
「フィリアには荷物の輸送っていう最重要課題があるんだし、その為に予備ストレージを使ったことで寝込むかもしれないのは想定してるんだから、気にすることないわ。もし寝込んでたらそのままフィリアを運ぶまでよ。1000kgもある荷物を手分けして運ぶより、フィリア一人を運んだ方がずっと楽だわ」
「その前にぃ、マヤちゃんに夜中の見張りやらせていいのぉ? 子供には起きてるのきついんじゃないのぉ?」
ホワイト・ガーディアンの女性弓使い、エリンさんがそう言うと、リネールさんがぶふうっ吹き出した。
「わたしは大人です! リネールさん笑ってんじゃないわよ!」
結局信用されてなさそうだったけど、レオさんに「これまでもやってるし、アンリミテッドパーティーとかいうおかしな資格保持者だから目をつぶってくれ」と言われ、それ以上は追及されなくなった。
トラの爪とホワイトガーディアンはお疲れではあるが、護衛担当でもあるし夜間見張りからは逃れられない。ただわたし達のパーティーが来たことで、担当時間は短くて済むので、彼らは喜んでいた。彼らの見張り当番は後の方、明日の朝早い時間に回した。
「先にゆっくり休んでくれ。その代わり明日朝はちょっと早起きしてもらうぞ」
「すまん」
「大変助かります」
「護衛の皆さん、これ飲んでねー」
サンドラちゃんとリネールさんが温かい飲み物を持ってきた。サンドラちゃんは何種類かお茶を持ってきていたが、これは特に疲労回復効果の高いものだそうだ。「タ・ウリンゴ・セン」とかなんとかいう薬草なんだとか。主成分は栄養ドリンクに入ってるアレなのかな。もちろんサンドラちゃんの法力で効果は5倍に膨れ上がってるので、現代地球のより効くに違いない。
「1番手はいつものようにレオさんから。2番手はわたしリエラ、3番手クーノさん、4番手マヤさん、以降『トラの爪』、『ホワイトガーディアン』の順で見張りします。皆頼むわよ」
「「「うおっす!」」」
「「「分かりました!」」」
「「「了解です姉御!」」」
護衛メンバーではないけど、いざとなれば加わるつもりで聞いていたリネールさんは、いつの間にかごついメンツも束ねているリエラさんを見て、「やっぱ統率者のスキルだよねえ」とわたしに囁いた。
◇◇◇
それで見張りの方はどうだったかと言うと、最初のレオさんの時点から動きがあった。
「何か来やがったな?」
Sランクの目は、暗闇の中の怪しい影を見逃さなかった。
それはゴブリンだった。
「……2、3、4匹か。今回のクエストでは初お目見えだな」
灼熱化させた剣を構えて迎え撃つレオさん。
最弱の人型魔物のゴブリンは、Sランクに瞬殺された。
次のリエラさんの番。
「なにこれ」
交代の時、積み上がってるゴブリン4体の死体を見て、リエラさんはレオさんに問うた。
「なにって、出てきたんだ」
「私達を起こさなかったの?」
「これくらいじゃ起こすほどでもねえだろ」
「まあそうですね。ゴブリン本当に出たんだ」
「リエラ。何か出てきたら遠慮なく起こせよ」
「ありがとうレオさん」
時間が過ぎ、次のクーノさんとの交代時間。
「リエラ嬢。これは?」
「野営地に入ろうとしてたの。2匹だし、起こすほどでもないかなと思って」
ゴブリンより一回り大きいホブゴブリンの死体が、2つ追加されていた。
「一人で殺ったんで?」
「そうよ」
「頼もしいお姫様だねぇ」
時間は過ぎ、マヤが起こされた。
「ふわわわ」
「マヤさん。もしかすると結構騒がしい夜かもしれないよ」
「何かあったんですか? うわあ!?」
ホブゴブリンの死体がさらに2体増えて、合計8体が積み上がってた。
「気持ち悪う!」
「こいつらは魔石くらいしか取るものもない。明日朝、魔石取ったらさっさと燃やしちゃおう。手伝ってね、例の法力で」
「それはいいですけど。ええー? こんなのが次から次へと出てくるんですかあ?」
「この様子だと出そうだよ。出てきたら遠慮なく起こしていいからね」
「ありがとうございます」
「それじゃお休み」
クーノさんはその場で丸くなると、あっという間に寝息を立てて寝てしまった。
「うーん、やだなあ。出てきたらもう間違いなく遠距離からオキシジェン・カッターだよね。あーでもゴブリンとか人型だし、手とか足とか首とか、どこ切っても人切ってるみたいでやりたくないなあ。それでやっつけたら、ここまで死体持ってこないとなのよね?」
生きてようが死んでようが、こんな怖い顔の魔物触りたくない。
そうだ。魔物も動物と同じように息してるんだっけ。つまり酸素を取り込んで呼吸してるってことだ。魔物といえど、この世界の地球で進化した生物なのよね。
わたしはまず、草刈りをした時誤って切っちゃった木の廃材で、立て札を作った。そしてそれを街道から野営地へ入る入り口のところに立てた。
『この先立ち入り禁止。罠があるので危険です。御用の方は朝までお待ちください』
「これでよし」
パンパンと手を叩いて、満足げに頷くわたし。
次にわたしは両手を空に向けて広げ、マヤちゃん流の結界を張る。
「これで誰も入ってきませんように」
そしてわたしの見張りの時間は何事も起こることなく、交代の時を迎えた。
次のトラの爪のバーガーさんを起こしに行く。
「おはよう。お疲れさん」
「体調大丈夫ですか?」
「ああ。寝る前に飲んだお茶が凄い効いたみたいだ。疲れが吹っ飛んだ」
さすがはサンドラちゃんの栄養ドリンクだ。
「それはよかったです」
バーガーさんは積み上ってるゴブリンの山に目が止まった。
「あのゴブリン共の死体は?」
「レオさん、リエラさん、クーノさんの時に出たらしいです。わたしの時は出ませんでした」
「そうか。気を付けないとだな」
「はい。それでですね、もっと気を付けてもらいたいことがあるんでよく聞いてください」
「な、なんだ?」
「朝まで野営地の敷地から出ないでください。もしどうしても出たい場合は、わたしを起こしてください」
「そりゃあどうして?」
「ちょっと危ない仕掛けをしといたので。敷地から出ると多分死んじゃうから、本当に出ちゃだめですよ」
「死ぬ!? いったい何をしたんだ!?」
「まあ罠ですかね。『ホワイトガーディアン』の皆さんにも忘れずに引継ぎしてくださいね。ふわああ~、それじゃおやすみなさい」
「お、おい!」
◇◇◇
そして日の出の頃、ニーシャが水汲みの用意をしている音で、わたしは目を覚ました。
目を開けると、水運び用の革袋を準備するニーシャがニッコリと微笑んだ。
「おはようマヤ姉。夜中は見張りお疲れ様だわね」
「ふわわわ。おはよう。あれ、水汲み?」
「うん」
「危ない危ない。行くのちょっと待って。今罠を解除するね」
「ワナ!?」
「
右手を上げて宣言する。別に声に出す必要なんてないのだけど、気持ちの切り替えの問題だ。
「はい、いいよ。魔物が近寄らないようにちょっと仕掛けしてたんだ」
「な、何しただわよ!?」
ニーシャはやたらと怖がった。
「大丈夫大丈夫。無事朝を迎えられたってことは、何もなかったんじゃないかな」
「おはよう、マヤ殿」
最後の見張りをしていたホワイトガーディアンのメンバーが岩から降りて来た。
「あ、見張りご苦労様です。異常ありませんでしたか?」
「ああ、何も出なかったよ」
「そうですか、よかったあ。それじゃ結界なんていらなかったかな」
「絶対野営地から出るなってぇ『トラの爪』から引き継いでたけどぉ、何だったのぉ?」
「ちょっとマヤちゃん流の結界を。さっき解除したから、もう野営地の外出ても大丈夫ですよ」
わたしの言ってる事がさっぱり分からん様子のホワイトガーディアンの皆さんは、怪訝な顔をする。
そして水汲みに行ったニーシャの悲鳴で、野営地の皆は飛び起きた。
「いぎゃあああ!」
真っ青になって戻ってきたニーシャが、わたしにしがみついてきた。
「野営地の周りがオークの死体で死屍累々だわよ! マ、マヤ姉、何したの!? みんなデストロイされちゃって、凄い苦しそうな顔して死んでるだわよ!」
涙を浮かべて走って戻ってきたニーシャに話を聞くと、なんと野営地に向かってオークの死体が何体も倒れているらしいのだ。
悲鳴と話を聞いてすっ飛んで調べに行ったホワイトガーディアンの面々は、その死体を見てさらに驚いた。
「ち、ちょっと待ってくれ。これは単なるオークじゃない。オーク種の上位個体、ハイオーク・ボアだ!」
しかもそれが野営地をぐるりと取り囲むように倒れているという。
「こんなのに囲まれて俺達は寝てたのか! 知ってたら一睡もできねえ!」
「え、どういう事?」
「ハイオーク・ボアは力も知能も、オークよりずっと上だ。火も武器も使うし、簡単な罠も避けられる」
「それもう人間並みじゃないですか」
そのハイオーク・ボアの死体が30体もあった。完全に群れで包囲して襲おうとしてたようだった。
「早期警戒レーダーのイレムは何してたの!?」
「イレム兄ちゃんならまだ寝てるよ」
「サンドラ姉が絶対安静って言ってたしね」
「起こしてくるねー」
この騒ぎでもあのトンチキは目覚めないらしい。余計な時は勝手に魔物見つけて一人で突っ込んでいくってのに。
早朝からの騒ぎに、レオさんが寝起き早々から寝癖頭に湯気を立てて、わたしのところにツカツカとやって来た。
「てめえマヤ! 何しやがった、説明しろ!」
「ええ!? え、えっとですね、ちょっと結界を……」
「けっかい? けっかいって何だ」
「この野営地に入ってこようとすると、酸素が取れなくなるっていう仕掛けをしてまして……。それであのオーク達は酸欠で死んだのかなあっと……」
「ぬわぁにぃ!? そんな危ねえことしてたのか!?」
「ど、どういうことだ?」
トラの爪のバーガーさんは理解できず尋ねてくる。
「まあ息ができなくなるっていうのと、似たようなもんです」
「「「はああ!?」」」
顎を外しそうなほどにパカンと大口を開けてて驚くトラの爪とホワイトガーディアンの方々。
クーノさんとリエラさんが小声で聞いてきた。
「マヤさんの法力で?」
「野営地の周りの、サンソってのを取っちゃってたってこと?」
こくこくと頷くわたしに、はあーと大きくため息をつくお二人。
「だ、だってゴブリンとか人型の魔物やっつけるのって、殺人してるみたいで嫌じゃないですか。怖い顔してるし、できれば近付きたくないし。あ、ここに用事のある人には、ここは危ないですよ~ってちゃんとわかるように、入り口に注意書きの立札を立てておきましたよ。無策で危ないことしたわけじゃないですから!」
あわあわと言い訳をする常識外なわたしへ追い打ちをかけるように、叩き起こされてきたイレムが、余計なものを見つけた。
「ふええぇ眠みいよ。ガキババアが何したって? うおお!? そこの木の上に魔物の反応がある!」
イレムが指さした木を見上げると、微妙に歪んだ景色があった。前にも見たカメレオ・タイガー・スパイダーの光学迷彩だ。無酸素地帯を解いた途端に入り込んだみたいだ。
光学迷彩の中に、幾つもあるクモの目が赤く光って浮かんだ。その目とわたしの2つの目が合ってしまった。
「いやあああ、
ぴぴぴ。
どばっしゃあーーっ!
酸素のエアカッターがクモの乗っかっていた木の枝ごと切り裂き、クモは粘液袋を爆発させて、空中で木っ端みじんに吹っ飛んだ。光学迷彩の解けたトラ模様の体がボトボトと落ちてくる。
もう慣れたリトルウィングや孤児院の子達は、「あ~あ」と嘆いたが、初見のブルーラインと、トラの爪と、ホワイトガーディアンの人達は、声の出ぬ絶叫で凄い顔になっていた。
「カ、カメレオ・タイガー・スパイダーの粘液袋が破裂!?」
「あんな硬いのがどうやってやぶれたの!?」
「あいつFランクだろ!?」
「これが4階級差違反の生現場か!」
「こ、これ、5階級差違反もわけねえんじゃないか!?」
「やべえ。マジやべえ。すげえやべえもん見た」
もはやわたしを見る目は宇宙人かUMAである。
ぎこちなくゆっくり振り返ったわたしは、引き攣った笑いを浮かべた。
「み、見なかったことに、してくれませんか」
「で、できるかあ!」
わたしは顔を手で覆った。