異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第87話「危険地帯でレトルトパックを試す時が来ました」

 

 朝っぱらからハイオーク・ボアとカメレオ・タイガー・スパイダーの襲撃未遂事件で、あれだけ大騒ぎしていたというのに、いつもなら真っ先に起きて家事をしているはずのフィリアさんが見当たらないことに、孤児院の子達が気付いた。

 

「変だね。フィリアお姉ちゃんがいないよ?」

 

 孤児院の子達の言葉に、わたしは一瞬、まさか野営地の外に出ていこうとして酸欠で倒れてるのではと心配になったが、「もしかして」と言うリエラさんがフィリアさんの寝床を見に行くと、まだ毛布にくるまったままだった。

 

「フィリア、フィリア」

 

 リエラさんが丸くなった毛布を揺すると、目の下にクマを作ってやつれた顔が出てきた。

 

「マ、マリエラ様……はっ! も、もしかしてもう朝ですか?」

「あらあら。予備ストレージ使った影響が出てるみたいね」

「す、すみません。今起きます」

 

 手をついて上半身を起こすが、くらくらしてるらしく後ろにひっくり返った。

 

「やっぱり起きれないか。無理しなくていいから、まだ寝てなさい」

「で、ですが」

「朝食や撤収くらいあなたいなくたってできるから、心配しなさんな」

「申し訳ありません……」

 

 リエラさんはすまなそうに言うフィリアさんを寝床に戻し、毛布を掛け直した。そしたらおでことおでこをコツンと触れさせた。

 

「マ、マ、マリエラ様!?」

 

 目の焦点が合わない程近くに、第一皇女様のドアップが!

 

「ふむ、熱はない。やっぱり予備ストレージのせいね。原因が明らかなら心配いらないわ」

 

 柔らかに微笑み、リエラさんは身を起こした。

 

「ふわわわ……」

 

 フィリアさんは顔を真っ赤にさせて毛布を口元まで引き上げた。

 目の前にいた時に口づけしてしまえばよかったと一瞬思ったとは言えない。

 リエラさんは目の前にそんな邪心があるとは知らず、フィリアさんの髪を撫でながら、運ぶ方法を考え始めた。

 

「どうやってフィリアを運ぼうかな」

「わ、私はリエラさんの背中がいいかなぁ……」

 

 気持ちよさそうに撫でられてるからか、思わず願望がこぼれる。

 

「短時間ならともかく、1日中大人の人を背負うのは無理よ。トラの爪の筋肉マッチョに頼んでみる?」

「え!!」

 

 天国から一瞬で汗臭い男の背に移されて、フィリアさんは体を硬直させ、恐怖でおびえた顔になる。

 

「毛布で担架作るのはどうですか? 真っ直ぐな木の棒が2本あればできますよ」

 

 わたしが提案すると、それがいいわねという事になった。

 

「担架にして2人か4人で交代しながら行けば、そんな負担にならないわね」

「申し訳ありません……」

 

 ごつい男性ハンターに担がれずに済みそうとなって、ホッとしたのかフィリアさんの力が抜けた。そんなフィリアさんの頬を撫でるリエラさん。

 護衛侍女(エスコートメイド)の訓練を兼ねてるとはいえ、リエラさんの趣味に付き合わされてるようなものなので、やはりそのせいで体を壊したりというのは気になるのだろう。撫でる優しい手つきにはそんなものを感じた。

 

「出発前に起こすわ。ゆっくり休んでなさい」

 

 フィリアさんは再び緩んだ顔に戻り、笑顔を乗せた。ついでに声色が変わって、リエラさんに追加質問した。

 

「あのぉ、帰っても看病してくれるんですよね?」

 

 振り向いたリエラさんは一瞬キョトンとしたが、手をひらひらさせた。

 

「え? ああ、するする」

 

 凄い適当に返事してる感じがする。お屋敷に戻って、本来の皇女様とメイドの立場になったら、いろいろ障害がありそうな気がする。

 それでもフィリアさんは、うへへへと怪しげな口約束に満足して、毛布に潜り込んでいった。

 心配して損した気もするが、一応気にかけてみる。

 

「リエラさん。フィリアさんは大丈夫ですかね?」

「平気平気。病気じゃないし、寝れば治るものだから心配ないわ。それよりマヤさん、出番よ」

「はい?」

 

 

 

 

 リエラさんに引っ張られ、わたしと孤児院の子数人は、調理場にしているところへ連れて行かれた。

 

「私達の分の朝食を用意しましょう。あっちのパーティーは自分達でやってもらえばいいから、考えなくていいわ。もともとそういうものだし」

「ま、そうだわね。夜ご飯はフィリア姉様が好意でやってただけだもの」

「好意というか、やらなきゃすまない(タチ)な気が……。それで何作ります?」

 

 尋ねたわたしに向かって、リエラさんは言った。

 

「マヤさんの“れとると”を試してみたいわ」

 

 なる程、そういう事か。

 

「大丈夫なの? あれ。傷んでないかなあ」

 

 レイヤが不安な声を上げる。

 

 レトルトパックは孤児院の子らに手分けして持ってもらっていた。一昨日の夜作って、昨日炎天下の中を丸一日、普通にザックに突っ込んだだけで持ち運んだのだ。何も対策してなければ、少々酸っぱくなってたり、カビで膜が張ってたりしてもおかしくはない。

 もう少し日数経ってから試したかったけど、時間かけず手間かけずに食事を取りたいという、シチュエーション的にはまさに今が最適だ。この世界のディオネアの実は、それができるものの一つで味も良かったけど、味は一種類しかないので、毎度ディオネアの実では飽きるかもしれない。その点レトルトパックは、普通の料理をそのまま持っていけるので、味は無限だ。

 

「分かりました。傷んでないかの確認も含めて、レトルトのを食べましょう」

 

 

 

 

 竈の火を熾し、鉄鍋でお湯を沸かすと、そこへレトルトパックを入れて湯煎していく。

 竈は共同利用なので、あちらのパーティーも横で朝食の準備をしていた。当然のようにわたし達のを覗き込んできた。

 

「ほう、お前さん達はディオネアの実か。いいものを持ってるな」

「行った先にディオネアが生えてたんですよー。仲良くしてたら沢山実をもらったんです。でもこれ、中身は違うんですよ」

「どういうことだ?」

「へっへっへ」

 

 鉄鍋のお湯をかき混ぜながら、意味ありげな笑いをわたしは返した。

 

「マヤ姉、そろそろ温まっただわよ」

「おっし、引き上げるから紐解いてちょうだい」

「オッケーだわよ」

「皆を呼んでくるねー」

 

 声が掛けられると、いつものように孤児院パーティーとリトルウィングは、お皿を持って鍋の前に一列に並んだ。

 しかしレオさんとリエラさんは、列関係なく鍋の前に来ると、鍋を覗き込んだ。

 

「あーっ、レオ兄様、順番守らないといけないんだぞ!」

「リエラ姉様、大人の人がお手本見せないとダメなんだぞ!」

「あ、いや、具合を見るだけだ。真っ先にもらおうってわけじゃねえ」

「ごめんね、食べたりしないから、許してね」

「絶対食べちゃダメだぞー!」

「分かった分かった」

 

 味見くらいはするかもと、言っとけば良かったかなとリエラは一瞬思ったが、すぐ思い直す。

 

『いえいえ、もし腐ってたら、いくら解毒法力があるとはいえ、こういう毒見役を買って出るものではないわ』

 

 腐っていれば当然美味しくないのである。

 なお強力な瞬間解毒法力を持つリエラは、結構無警戒に何でも口に入れるので、護衛侍女(エスコートメイド)の間では恐れられている。

 しかし、そんな心配をよそに、ニーシャが開けた袋からは美味しそうな匂いが漂ってきた。

 

「変な臭いもないし、見た目も大丈夫そうだね」

「ちょっと味見してみるだわよ。……うん、美味しい! こないだ食べたのと変わんないだわよ」

「ほらあ、大丈夫そうだから、列に並んでよー」

「お、おう」

 

 列の最後尾に追いやられる隣国の王子様と皇女様。

 一方、茹で上がったディオネアの豆を配るのだろうと思っていたあちらのパーティーの面々は、レトルトの袋を開けた途端、漂ってきた抜群に食欲をそそる匂いに、一斉に首をこっちへ向けると、口を半開きにして動きが止まった。

 

「パンはもう入れてあるから、柔らかくなるの待たなくていいんだね。すぐ食べていいんだ」

「うめえ! またこれ食えるなんて嬉しいな」

 

 さほど待つこともなく順番が回ってきたレオさんとクーノさん、リエラさんも、一口食べてお互いの顔を見合った。

 

「美味い。一昨日食ったまんまだな」

「傷んだりもないし、味も変わってない。本当に作りたての料理を持ち運べるんすね。すげえ」

「これ、うちの軍でも使いたいわ。“とっきょ料”とかいうの払っても全然いいと思うわ」

 

 リエラさんは最初から軍部での糧食での利用を考えていた。

 

「その価値はありそうだが……マヤにというのがなあ。脅してロハにさせるか」

 

 どうにも納得いかない顔のレオさん。

 

「払わない者には実力行使って、言ってませんでしたっけ?」

「それ実際できる人ですもんねえ、マヤさんって」

 

 そう言って旨そうにシチューを啜るクーノさんに、苦々しい顔を向けるレオさん。

 

「……ちっ。たった一人に国が逆らえねえってどういうことだ。頭にくる」

 

 採取旅行中、レオは統括パーティーリーダーのように振る舞い、時には脅したりゲンコツ落としたりと、マヤを従わせているようではあるが、理不尽な要求や敵対行為となれば話は違うというのは分かっていた。あれは仲間同士だから通じてるのだ。

 本気で敵に回した時は、あのスイソ爆発のような報復を覚悟しなければならないのだ。

 

「お、お前ら、何食ってるんだ?」

 

 ヨダレを垂らし、血走った目で質問してきたのは、トラの爪の人達だった。

 

「ゴルゴノプスのすね肉のシチューだが」

 

 レオさんはひと塊の大きな肉を見せると、ポイと口に放り込んだ。

 

「そうじゃなくてだな!」

 

 ホワイトガーディアンの面々はマヤに詰め寄っていた。

 

「マヤ殿、何なんですそれは!?」

 

 ディオネアの実をひっくり返してお皿に掻き出してるマヤに、ニエミネンは尋ねた。

 

「フィリアさんのシチューですよ。以前の夕食で沢山作ってもらって、こういうときの為にとっといたのよ」

「それ昨日食ったのとは違うよな!?」

「てことは昨日以前のってことだよな? いつ作ったもんだ? なぜ腐ってない!?」

 

 次々と疑問を投げてくるあちらのパーティーの人達。

 

「それは秘密だなあ」

 

 明後日の方を向いてしらばっくれるマヤに、バーガーさん達は顔を突き合わせる。

 

「ディオネアの豆の袋に入れてたよな? あれに入れりゃ腐らないのか?」

「そうに違いねえ」

 

 横目でこっちを見ながらひそひそと囁きあった。

 なお後日、ディオネアの豆の袋に、単に料理を入れただけで持ち運んだトラの爪が、腹痛で一週間休業することになる。

 

 同じようにヨダレを垂らしていたのはイレム。幽霊のようにマヤの横に立った。

 

「……なあガキババア」

「なあに? うわ汚! ヨダレ服につけないで!」

「お前がさっき木っ端微塵にしたカメレオ・タイガー・スパイダーの脚、食っていいか?」

 

 ぐう~~とイレムのお腹が鳴る。ケータリングしてもらえないペナルティを課せられているから、シチューをもらえないのだ。

 

「カメレオ・タイガー・スパイダー? ああいいわよ。あんたが見つけたものでもあるし」

「助かったあ」

 

 解体して取ってきたカメレオ・タイガー・スパイダーの脚を、竈に立て掛けて焼くイレム。しかしそれでさえも、トラの爪やホワイトガーディアン、ブルーラインにとっては、ご馳走に見えた。

 

「オスカ、あたしあっちのパーティーに入りたい」

「わたしもー」

「ブルーライン解散させる気かよ! せめてあっちのパーティーみたいになるぞって言おうぜ」

「オスカ兄ちゃん達も食う? 脚まだあるぞ」

「食べる食べるー。イレム君優しいー」

「くう~、孤児院の子に、それもまさかイレムに施しを受けるとは!」

 

 その後ブルーラインは、暫く本気で解散が話し合われたという。

 

 

 

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