異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
レトルトシチューは飲み物のようにあっという間に食べられてしまい、リトルウィングと孤児院パーティーはさっさと片付けに入った。
調理に使った道具も、お湯を沸かした鉄鍋だけなので、これは洗う必要もなし。お湯は取り皿を洗うのに使うので、無駄にならない。取り皿を使わず、ディオネアの豆の袋から直接食べたレオさんやクーノさんら大人の人は、スプーンを拭くくらいしかやることもない。
その頃ブルーラインやホワイトガーディアンの人達は、まだイレムとスパイダーの脚を焼いていた。
「これは益々採用させてもらいたいわ」
リエラさんは、自軍の戦闘糧食への採用を、わたしに告げてきた。
「ほうほう。特許料を払ってもいいから、レトルトを採用したいと?」
「ええ。美味しい食事を腐らせずに持ち運べるっていうだけじゃなくて、他にも利便性が多々あることが分かったわ」
当然よね。自衛隊のみならず、世界の軍隊にも、ものぐさな一般家庭にも採用されているんだから。中世程度の文明世界にはオーバースペックで心配なくらいだ。
「そうでしょう、そうでしょう。帰ったら交渉しましょうか。あ、豆の袋はまた回収しまーす。持ってきてねー。まだ破れそうにないですもんね」
「袋、また使うの?」
「ええ。わたしの母国は、極力物は捨てず再利用が方針なのです。ただそのためには、これをきれいに洗う方法を見つけないとだなあ」
シチューは獣肉を使った料理だったので、袋は脂ぎっていた。お湯をかけたくらいでは完全には流しきれない。
「面白い国ね。……そうですか。私にちょっと考えがあるので、お気に召した時は“とっきょ料”負けてくれるかしら?」
「ほうほう、良い考えをお持ちだと? 結果如何によっては熟慮いたしましょう」
「いやですわマヤさん。腹黒い
国の事を考えてる時は半分マリエラモードが入ってくるリエラさんと、おっほっほっほと笑っていると、レオさんに睨まれた。
「あらどうかしました? “とっきょ料”を払うのがお嫌なレオ様」
「あれ、レオさんところは採用しないんですか?」
「……考えあぐねている」
「ふーん。もし勝手に使ってるの見つけたら、特許庁から特許侵害として訴訟しますよ。……って法で裁くなんて仕組みないんでしたっけ。となると“砲”で裁く?」
「けっ。とっきょだかなんだか知らねえが、要は使用権みてえなもんだろ。マフィアがやってることと変わりねえ」
「マフィア!? わたしそんなごろつきと違いますよ!」
「まあまあ。大きな力を持つ者というのは、そうそう違いなんてないものですよ。例えば地方領主なんて大きな地元ヤクザみたいなものですし。ヴェルディ様とか」
ヘキサリネ領主様をヤクザ呼ばわりしてるよ、この人は。そしてニコニコとリエラさんはわたしに言い放った。
「マヤさんは1人でそういった勢力みたいなものですからね」
「え、リエラさんまで、まさかもしかして、そういう物差しでわたしを見てたんですか!?」
「国家を危険に晒す力を持つ人が何を今更。でも私とミリヤはいつだってマヤさんの後ろ盾になりますわよ?」
「なんか、俺の後ろには○○組が控えてるんだからなあ、みたいなことになってる気がする」
「おいリエラ、ナニ勝手に引き込もうとしてやがる」
「あらだって、そちらは反りが合わないようですし」
「考えあぐねてると言っただけだ」
ワリナとミリヤの代表がパチパチと火花を散らし始めた。
「……あれ、おかしいな。三国は同盟組んで、自由貿易世界でわたしはちょいとおこずかいを稼いで、平和の女神マヤちゃんになるはずなのに。どこで計画が逸れたのかしら……」
するとそこへ、リネールさんがやってきた。
「片付け終わったから、ゴブリンの魔石取って、死体始末しましょうよ」
レオさんとリエラさんはにらめっこを止めた。
「お、そうだったな」
「若、俺が行きますよ」
「すまんなクーノ」
「マヤさんも来てよ」
「え、わたしも!? リネールさん、わたし必要!?」
「そりゃあきれいに燃やすとなりゃあ、マヤさんの法力がないとねえ」
「あううう……。そ、そうだね、分かりましたよぅ。やだなあ、魔物とはいえ人の形してるし」
魔物に特有の臓器である魔石器官は、心臓の下辺りにあった。これは獣形でも鳥形でも魚形でも蟲形でも同じのようだ。
切り裂いたホブゴブリンの胸から魔石を取り出したリネールさんは、ピンポン玉サイズの魔石を空に掲げて嬉しそうに言った。
「このホブゴブリンすげぇ。こんな立派な魔石が取れた」
「それくらい普通じゃないか」
「いえいえクーノさん。ヘキサリネではせいぜいビー玉サイズが良いとこですよ」
「この体の大きさでそれだけなのか? そうか、ヘキサリネは魔素が少ないからか。そうすると普通サイズが取れるこの現状は、よほどこの辺の魔素濃度が異常だったってことだね」
「こっちのオークは、もっと大きいのが取れそうですね。いつもなら嬉しいとこだけど、マヤさんがいるから魔石はそんなにいらないんだけどなあ」
するとそこへ、朝食を終えたらしいトラの爪とホワイトガーディアンの人達がやってきた。
「マヤ殿。そのハイオーク・ボア、魔石取った後はどうするおつもりですか?」
ホワイトガーディアンのニエミネンさんが聞いてきた。
「ハイオーク・ボア? フィリアさんのストレージはもういっぱいだし、持っていけないから、ゴブリンと一緒に燃やしちゃうつもりですけど」
「燃やす!? 捨てちまうんですかい!?」
トラの爪の人が血相を変えて叫んだ。
「でも他にどうしろっていうんです? あの図体ですよ?」
「何言ってんですかい!」
「ハイオーク・ボアですよ!? 高級食材ですよ!?」
ニエミネンさんの後ろからも轟々と反対の嵐が飛んできた。
「そうなの?」
「キロ銀貨8枚にはなりますよ! 一頭あたり200kgとして……金貨16枚。30頭だから、金貨480枚だ!」
「ええ!? そ、そんなにするんだ。でもそんなこと言っても、持って帰れないものはどうしようもないし……」
「つまりマヤさんはあれの権利放棄するんですね!? なら私がもらう!」
ニエミネンさんが叫んだ。
「お、俺も一頭もらうぞ!」
「抜け駆けは許さねえぞ、こっちにもよこせ!」
ホワイトガーディアンの人が貰っていくと言った途端、トラの爪の人達も我もわれもと言い出し、ぎゃあぎゃあと大変な喧騒になった。1頭持って帰れば、金貨16枚の臨時お小遣いが手に入るのだ。
前にわたしが空気清浄して作った魔石の粉を、持って帰れないと思ったハンター達が、取り合いしようとしてたのを思い出す。あの時はフィリアさんのストレージに入れることができたんで、おこぼれにあずかれなかったハンター達が凄いガッカリしていた。
昨夜の夕食の時に聞いたところでは、あっちのパーティーは、これまでブルーラインを守るのと魔物から逃げるので手一杯で、やっつけた魔物の素材を殆ど回収できなかったらしい。いかについでに仕留めた獲物で副収入を得られるかも、パーティーにとっては重要なのだ。このままでは彼らは、護衛の依頼報酬以外、何も得られず終わってしまうのだから必死だ。
でも困ったな。持ってってもらうのは構わないけど、護衛の人が皆こんなの担いでたら、いざ魔物に襲われた時、すぐに対応できないんじゃないだろうか。解体して持ち運ぶサイズにするにしても、解体するのにも時間かかる。早く領都に帰らなきゃなんだから、そんなことに時間使ってる暇はないはずだ。
「ちょ、ちょっと待って下さい皆さん。アイポメアニールを持って帰るのが最優先ですよね?」
「こんな金儲け、見逃せるか!」
「全部燃やすなんて信じらんねえ!」
「俺達は護衛じゃなくて、街道調査が依頼だ。アイポメアニールの事には縛られてねえぞ!」
「ここにきてそれ言うか、卑怯者め!」
わあだめだ、お金に目が眩んでる。
せめて希少な部位だけ持って帰るとか説得しないとかも。って言っても、オークの希少部位ってどこだろう? それだって持てるかどうか分かんないけど。
まずは空きがどれだけあるかの確認からだ。
なんとか起き上がって出発準備しているフィリアさんを捕まえた。
「フィリアさん、ストレージにちょっとだけでも空きってないですか?」
「ええ? 少しくらいなら、あると思いますが」
ストレージを開けて入りそうなところを見てもらう。
「20kgくらいなら入るかもです」
「20kg? よかった。1頭あたり600gくらいなら持っていけそうだわ」
これは俺のだ、あれが俺のだと、ハイオーク・ボアを取り合ってる人達に声を掛ける。
「おーい、ストレージにちょっとだけ空きがあるみたいです。ハイオーク・ボアの希少部位ってどこですか? そこだけ切り取ってだったら、なんとかなるかもですよー」
「メイドさん、空きあるのか? 入れさせてくれ!」
血走った目のハンターの一人がオークを引きずってきた。
「あ、いや希少そうなとこだけですよ。1匹当たり600gです」
「は!? オークの希少部位といやあ睾丸だが、それじゃ片方にしかなんねえ!」
「え、睾丸!?」
「き、却下です! わ、私そんなのストレージに入れたくないですう!」
「メイドさん、頼む入れさせてくれ!」
中の空きを見るのに開けていたストレージに、そのハンターはオークの頭を突っ込んだ。
「ええ!? 一頭丸ごとは無理です!」
「入れていいか? 入れるぞ!」
「やめて、無理です、そんな大きなの入りません!」
「ブチ込め!」
「やめて! ああん!」
オークが入れられた途端、フィリアさんから妙に甲高い悲鳴が上がる。
「メイドさん、俺も入れてえ! 入れさせてくれ!」
「や、やめて、それ以上やったら壊れちゃう!」
「そりゃあ!」
「ひうっ!」
「入り口狭いな。もう一回いくぞ! ふん!」
「あん! そ、そんな激しく、あうん!」
……何ですかこの卑猥に聞こえるセリフ。フィリアさんの声もいつもより一オクターブ高くて、余計変なふうに聞こえるんですけど!
「頼む、俺も入れさせてくれ!」
「お願い、もうやめて、これ以上は、私、おかしく……」
「メイドさぁーん」
「あううん!」
あ、あのお、わたしも一応年頃の乙女なので、その悩ましい声はやめてていただきたいのですが……。
それにしてもなんでフィリアさんのストレージはまだ入るの? 今4匹目のオークが入ったんですけど。1匹200kgだから4匹で800kg。空のストレージでもとうに容量オーバーのはずじゃ……。
「まだいけそうだぞ」
「俺も入れる。それえ!」
「や、やめ! ひぃい!」
「もうやめましょうよ、フィリアさんがどうかしちゃいます!」
「リーダー、5匹入れたところで入らなくなりました!」
「何!? どうやってもだめか!」
「突いてみろ!」
「そりゃ、そりゃ、それ!」
「あん、あう、あう!」
「あ、あなた達、なんてことしてんの!」
騒ぎを聞きつけたリエラさんによって、雷が落とされた。