異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第88話「危険地帯でフィリアさんの空間収納がレベルアップしたようです」

 

 レトルトシチューは飲み物のようにあっという間に食べられてしまい、リトルウィングと孤児院パーティーはさっさと片付けに入った。

 調理に使った道具も、お湯を沸かした鉄鍋だけなので、これは洗う必要もなし。お湯は取り皿を洗うのに使うので、無駄にならない。取り皿を使わず、ディオネアの豆の袋から直接食べたレオさんやクーノさんら大人の人は、スプーンを拭くくらいしかやることもない。

 その頃ブルーラインやホワイトガーディアンの人達は、まだイレムとスパイダーの脚を焼いていた。

 

「これは益々採用させてもらいたいわ」

 

 リエラさんは、自軍の戦闘糧食への採用を、わたしに告げてきた。

 

「ほうほう。特許料を払ってもいいから、レトルトを採用したいと?」

「ええ。美味しい食事を腐らせずに持ち運べるっていうだけじゃなくて、他にも利便性が多々あることが分かったわ」

 

 当然よね。自衛隊のみならず、世界の軍隊にも、ものぐさな一般家庭にも採用されているんだから。中世程度の文明世界にはオーバースペックで心配なくらいだ。

 

「そうでしょう、そうでしょう。帰ったら交渉しましょうか。あ、豆の袋はまた回収しまーす。持ってきてねー。まだ破れそうにないですもんね」

「袋、また使うの?」

「ええ。わたしの母国は、極力物は捨てず再利用が方針なのです。ただそのためには、これをきれいに洗う方法を見つけないとだなあ」

 

 シチューは獣肉を使った料理だったので、袋は脂ぎっていた。お湯をかけたくらいでは完全には流しきれない。

 

「面白い国ね。……そうですか。私にちょっと考えがあるので、お気に召した時は“とっきょ料”負けてくれるかしら?」

「ほうほう、良い考えをお持ちだと? 結果如何によっては熟慮いたしましょう」

「いやですわマヤさん。腹黒い商人(あきんど)みたいですよ?」

 

 国の事を考えてる時は半分マリエラモードが入ってくるリエラさんと、おっほっほっほと笑っていると、レオさんに睨まれた。

 

「あらどうかしました? “とっきょ料”を払うのがお嫌なレオ様」

「あれ、レオさんところは採用しないんですか?」

「……考えあぐねている」

「ふーん。もし勝手に使ってるの見つけたら、特許庁から特許侵害として訴訟しますよ。……って法で裁くなんて仕組みないんでしたっけ。となると“砲”で裁く?」

「けっ。とっきょだかなんだか知らねえが、要は使用権みてえなもんだろ。マフィアがやってることと変わりねえ」

「マフィア!? わたしそんなごろつきと違いますよ!」

「まあまあ。大きな力を持つ者というのは、そうそう違いなんてないものですよ。例えば地方領主なんて大きな地元ヤクザみたいなものですし。ヴェルディ様とか」

 

 ヘキサリネ領主様をヤクザ呼ばわりしてるよ、この人は。そしてニコニコとリエラさんはわたしに言い放った。

 

「マヤさんは1人でそういった勢力みたいなものですからね」

「え、リエラさんまで、まさかもしかして、そういう物差しでわたしを見てたんですか!?」

「国家を危険に晒す力を持つ人が何を今更。でも私とミリヤはいつだってマヤさんの後ろ盾になりますわよ?」

「なんか、俺の後ろには○○組が控えてるんだからなあ、みたいなことになってる気がする」

「おいリエラ、ナニ勝手に引き込もうとしてやがる」

「あらだって、そちらは反りが合わないようですし」

「考えあぐねてると言っただけだ」

 

 ワリナとミリヤの代表がパチパチと火花を散らし始めた。

 

「……あれ、おかしいな。三国は同盟組んで、自由貿易世界でわたしはちょいとおこずかいを稼いで、平和の女神マヤちゃんになるはずなのに。どこで計画が逸れたのかしら……」

 

 するとそこへ、リネールさんがやってきた。

 

「片付け終わったから、ゴブリンの魔石取って、死体始末しましょうよ」

 

 レオさんとリエラさんはにらめっこを止めた。

 

「お、そうだったな」

「若、俺が行きますよ」

「すまんなクーノ」

「マヤさんも来てよ」

「え、わたしも!? リネールさん、わたし必要!?」

「そりゃあきれいに燃やすとなりゃあ、マヤさんの法力がないとねえ」

「あううう……。そ、そうだね、分かりましたよぅ。やだなあ、魔物とはいえ人の形してるし」

 

 

 

 

 魔物に特有の臓器である魔石器官は、心臓の下辺りにあった。これは獣形でも鳥形でも魚形でも蟲形でも同じのようだ。

 切り裂いたホブゴブリンの胸から魔石を取り出したリネールさんは、ピンポン玉サイズの魔石を空に掲げて嬉しそうに言った。

 

「このホブゴブリンすげぇ。こんな立派な魔石が取れた」

「それくらい普通じゃないか」

「いえいえクーノさん。ヘキサリネではせいぜいビー玉サイズが良いとこですよ」

「この体の大きさでそれだけなのか? そうか、ヘキサリネは魔素が少ないからか。そうすると普通サイズが取れるこの現状は、よほどこの辺の魔素濃度が異常だったってことだね」

「こっちのオークは、もっと大きいのが取れそうですね。いつもなら嬉しいとこだけど、マヤさんがいるから魔石はそんなにいらないんだけどなあ」

 

 するとそこへ、朝食を終えたらしいトラの爪とホワイトガーディアンの人達がやってきた。

 

「マヤ殿。そのハイオーク・ボア、魔石取った後はどうするおつもりですか?」

 

 ホワイトガーディアンのニエミネンさんが聞いてきた。

 

「ハイオーク・ボア? フィリアさんのストレージはもういっぱいだし、持っていけないから、ゴブリンと一緒に燃やしちゃうつもりですけど」

「燃やす!? 捨てちまうんですかい!?」

 

 トラの爪の人が血相を変えて叫んだ。

 

「でも他にどうしろっていうんです? あの図体ですよ?」

「何言ってんですかい!」

「ハイオーク・ボアですよ!? 高級食材ですよ!?」

 

 ニエミネンさんの後ろからも轟々と反対の嵐が飛んできた。

 

「そうなの?」

「キロ銀貨8枚にはなりますよ! 一頭あたり200kgとして……金貨16枚。30頭だから、金貨480枚だ!」

「ええ!? そ、そんなにするんだ。でもそんなこと言っても、持って帰れないものはどうしようもないし……」

「つまりマヤさんはあれの権利放棄するんですね!? なら私がもらう!」

 

 ニエミネンさんが叫んだ。

 

「お、俺も一頭もらうぞ!」

「抜け駆けは許さねえぞ、こっちにもよこせ!」

 

 ホワイトガーディアンの人が貰っていくと言った途端、トラの爪の人達も我もわれもと言い出し、ぎゃあぎゃあと大変な喧騒になった。1頭持って帰れば、金貨16枚の臨時お小遣いが手に入るのだ。

 前にわたしが空気清浄して作った魔石の粉を、持って帰れないと思ったハンター達が、取り合いしようとしてたのを思い出す。あの時はフィリアさんのストレージに入れることができたんで、おこぼれにあずかれなかったハンター達が凄いガッカリしていた。

 昨夜の夕食の時に聞いたところでは、あっちのパーティーは、これまでブルーラインを守るのと魔物から逃げるので手一杯で、やっつけた魔物の素材を殆ど回収できなかったらしい。いかについでに仕留めた獲物で副収入を得られるかも、パーティーにとっては重要なのだ。このままでは彼らは、護衛の依頼報酬以外、何も得られず終わってしまうのだから必死だ。

 でも困ったな。持ってってもらうのは構わないけど、護衛の人が皆こんなの担いでたら、いざ魔物に襲われた時、すぐに対応できないんじゃないだろうか。解体して持ち運ぶサイズにするにしても、解体するのにも時間かかる。早く領都に帰らなきゃなんだから、そんなことに時間使ってる暇はないはずだ。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい皆さん。アイポメアニールを持って帰るのが最優先ですよね?」

「こんな金儲け、見逃せるか!」

「全部燃やすなんて信じらんねえ!」

「俺達は護衛じゃなくて、街道調査が依頼だ。アイポメアニールの事には縛られてねえぞ!」

「ここにきてそれ言うか、卑怯者め!」

 

 わあだめだ、お金に目が眩んでる。

 せめて希少な部位だけ持って帰るとか説得しないとかも。って言っても、オークの希少部位ってどこだろう? それだって持てるかどうか分かんないけど。

 まずは空きがどれだけあるかの確認からだ。

 なんとか起き上がって出発準備しているフィリアさんを捕まえた。

 

「フィリアさん、ストレージにちょっとだけでも空きってないですか?」

「ええ? 少しくらいなら、あると思いますが」

 

 ストレージを開けて入りそうなところを見てもらう。

 

「20kgくらいなら入るかもです」

「20kg? よかった。1頭あたり600gくらいなら持っていけそうだわ」

 

 これは俺のだ、あれが俺のだと、ハイオーク・ボアを取り合ってる人達に声を掛ける。

 

「おーい、ストレージにちょっとだけ空きがあるみたいです。ハイオーク・ボアの希少部位ってどこですか? そこだけ切り取ってだったら、なんとかなるかもですよー」

「メイドさん、空きあるのか? 入れさせてくれ!」

 

 血走った目のハンターの一人がオークを引きずってきた。

 

「あ、いや希少そうなとこだけですよ。1匹当たり600gです」

「は!? オークの希少部位といやあ睾丸だが、それじゃ片方にしかなんねえ!」

「え、睾丸!?」

「き、却下です! わ、私そんなのストレージに入れたくないですう!」

「メイドさん、頼む入れさせてくれ!」

 

 中の空きを見るのに開けていたストレージに、そのハンターはオークの頭を突っ込んだ。

 

「ええ!? 一頭丸ごとは無理です!」

「入れていいか? 入れるぞ!」

「やめて、無理です、そんな大きなの入りません!」

「ブチ込め!」

「やめて! ああん!」

 

 オークが入れられた途端、フィリアさんから妙に甲高い悲鳴が上がる。

 

「メイドさん、俺も入れてえ! 入れさせてくれ!」

「や、やめて、それ以上やったら壊れちゃう!」

「そりゃあ!」

「ひうっ!」

「入り口狭いな。もう一回いくぞ! ふん!」

「あん! そ、そんな激しく、あうん!」

 

 ……何ですかこの卑猥に聞こえるセリフ。フィリアさんの声もいつもより一オクターブ高くて、余計変なふうに聞こえるんですけど!

 

「頼む、俺も入れさせてくれ!」

「お願い、もうやめて、これ以上は、私、おかしく……」

「メイドさぁーん」

「あううん!」

 

 あ、あのお、わたしも一応年頃の乙女なので、その悩ましい声はやめてていただきたいのですが……。

 それにしてもなんでフィリアさんのストレージはまだ入るの? 今4匹目のオークが入ったんですけど。1匹200kgだから4匹で800kg。空のストレージでもとうに容量オーバーのはずじゃ……。

 

「まだいけそうだぞ」

「俺も入れる。それえ!」

「や、やめ! ひぃい!」

「もうやめましょうよ、フィリアさんがどうかしちゃいます!」

「リーダー、5匹入れたところで入らなくなりました!」

「何!? どうやってもだめか!」

「突いてみろ!」

「そりゃ、そりゃ、それ!」

「あん、あう、あう!」

「あ、あなた達、なんてことしてんの!」

 

 騒ぎを聞きつけたリエラさんによって、雷が落とされた。

 

 

 

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