異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
リトバレー村に来て3日目。
朝食はサンドラちゃんのお母さんが作ったマンモスとねっとり芋の煮込み。旨いよ、美味しいよ!
サンドラちゃんのお母さん、料理屋でもやった方がいいんじゃないですか?
え、村で店開いてもお金が回らないからだめ? 外からお客も来ないし?
発展しがいのない村ですね。
朝食を取った後、わたしはお師匠様の荷物を整理した。
後で読んでおけと言われた本をぱらぱらと
そこに書かれている文字は、漢字ひらがな、アルファベット、キリル文字やアラビア文字、タイやミャンマーのくるくるした文字、ハングル、それらのどれとも違っていた。勿論ヒエログリフでも楔形文字でもないよ!
でもなぜか問題なく読めるのだ。書くのも問題ない。日本語で書くと自動変換されるし。これもう転生特典だ。
読めるからといっても、まだじっくり読む気にはならなかった。なんかこう、心が落ち着いてからにしたい。
だけどふと、鉄のことが書かれたページに目が留まった。ちょっとだけ読んでみると……
鉄鉱石や錆から僅かだか酸素が取れるとか。酸素を取った後の鉄鉱石は製鉄しやすいのだとか。逆もできる。つまり鉄を錆びさせること。しかも急激にできるという。
ふむふむ、こうやるのか?
試してみたいけど、実験に使う鉄がない。農具や武器、生活品の鉄製品を壊すわけにいかないし。まあいつか機会があればでいいか。
◇◇◇
荷物整理といって本など読んでしまったが、荷物整理してたのは他でもない。旅支度だったのだ。
そう、今日はいよいよあのサーベルタイガーのお肉と、マンモスのお肉の一部を売りに、領都へ行くのだ。わたしの現金収入が待っている!
マンモスの方は大量にある上に、まだ大方は加工が終わってない。加工が終わるのを待っているとサーベルタイガーの方の鮮度が落ちてしまうので、価値のある方を優先する。
肉は殺菌作用のある大きな葉っぱにくるまれて、箱にしまわれた。わたしはなるべく空気を通さない、通気性の悪い箱にしてくれるように頼んだ。
「マヤさん、いくら気温が低いとはいえ、密閉性の高い箱ではカビが生えますよ」
「いいのいいの。その代わり箱には風を当てて温まらないようにしてね」
わたしは箱一つ一つにおまじないでもするように手をかざす。何をしてるかと言うと、箱の中の酸素を吸い取ってるのだ。大方の細菌も酸素がないと活動できないはずなので、腐敗防止になると思う。
「はい、この箱お願い」
「はいよ」
酸素を抜き終わった箱をチトレイさんに告げると、彼は法力『リフト』を使って、肉の入った箱を馬車の荷台まで引き上げる。荷台側で待っている人がそれを受け取って積み上げていく。ホロ付き馬車の荷台はすぐに一杯になった。
サーベルタイガーのお肉は表面に塩をして燻し、殺菌することで、2日間の旅程でも品質を保てるはずだ。春先で気温がそれほど高くないというのも好都合。燻して少し水分が抜けたものの、それでも300キロある。表面の燻されたところを削げば中はほぼ生。脂身の多いところは多分すぐ焼いたりして食べるんだろう。モモなどはこのまま風に当てて乾燥させていけば生ハムになる。
高く売れますよと、今回の商隊を率いるライナーさんはニコニコ顔で太鼓判を押してくれた。ライナーさんは40歳くらいのベテランさんで、出荷した村の品を領都で売ってくるのと、村で必要なものを仕入れてくるのを担当している。いわば村営商店主だ。
一抱えもある、大きな牙を付けたサーベルタイガーの頭骨(少し焦げてる)も積み込まれた。これも高値で売れるらしい。
あとマンモスの肉の方も、同じように加工したものが500キロ用意された。
他にも早春の山菜と、乾燥させた薬草が少し。
これらを2台の馬車に乗せて領都を目指す。
領都へ行くメンバーは全部で10名だ。商隊長のライナーさんと助手1名。彼らは問屋との交渉を担当する。護衛兼雑用夫は4名で、発火法力のリネールさんと、リフト法力のチトレイさんが来てくれる。御者が2名。それとわたしとサンドラちゃんだ。サンドラちゃんは村で使うお薬の類と魔石を買うのだそうだ。
「それじゃ行って来るぞー」
「いってらっしゃーい」
「気を付けてー」
村の皆に見送られて、馬車はかっぽかっぽと長閑な音を立てて、ゆっくりと村を離れていった。
◇◇◇
馬車はリトバレーから続く道を、ほぼ人が歩く速度で進む。牽いている馬は、ばんえい競馬の馬のように大きくて力のある種類である。スピードより引く力だ。
御者以外の人は殆どを馬車から降りて歩いている。わたしを除いて。馬の負荷をできるだけ減らしているのだ。乗っているのに飽きると、わたしも降りて歩いている。乗り心地は良いとは言えないので、乗りっぱなしはきついというのもある。それでも結構我慢して乗ってたりする。そう、現代人のわたしは体力が無さすぎて歩きではついていけないのだ。
そしてその日の日が暮れる少し前に、道から逸れた空き地に馬車を止めた。野営の準備だった。
ライナーさん達は手慣れた様子で準備をしていく。簡易テーブルに椅子、キャンバスを張ったテント、火起こし、ケトルでのお湯沸かし。お茶を入れてホッとする。
そして夕食は堅パンと、鉄鍋に塩漬け肉と玉ねぎを入れてのスープを作る。
「……質素だね」
ファミリーキャンプを思い出してワクワクしていたので、ちょっと肩透かしだった。
「たった2日の旅だから野菜は生だし、肉も乾燥物じゃないし、充分だと思いますけど?」
そりゃそうか。お遊びの現代キャンプじゃないんだもの。まあ少しは覚悟してたよ。だったとしても、これは絶対やるつもりだったのだ。
ふっふっふっふ。
わたしは荷物の山から、目印をつけてあった箱を引っ張り出してきた。
「サンドラちゃん、おネギとパプリカお願いねー」
「はーい」
ふっふっふ、サンドラちゃんとは予め謀議してあったのだ。
「マ、マヤさん、そ、それはまさか……」
そう、そのまさかなのだ。
「ジャーン。サーベルタイガーの串焼きバーベキュー」
「「「えええ!?」」」
鉄串に肉と玉ねぎ、パプリカを刺して、塩を振っただけのごく単純な串焼き肉だ。肉が100グラム5千円相当の超高級品という事以外。
「いくらなんでも商品に手を付けるわけには!!」
「いいのいいの。部位ごとに成形したときの切れっ端とかだから。それでも売れるんだろうけど、持ち主のわたしがいいって言うんだから気にしないで。というか、わたしももう少し食べたかったし」
村と領都との道では危険な魔物や強力な肉食獣は出ないと聞いていたので、サンドラちゃんとやろうって決めてたのだ。
近くの沢で水を汲んで馬にあげてきた御者の人達は、王宮に出るような食材に本当に腰を抜かしていた。
皆で平等に美味しくいただきました。
今日だけですよ。明日はもう出ませんから。
◇◇◇
領都への旅2日目。
今日の旅程は、領都から伸びる主要街道に突き当たるまでが目標だ。そこまでは相変わらず森の中の一本道をかっぽかっぽと進む。
脇道があっても狩りで使う獣道ばかりで、集落に繋がる道はない。広葉樹の森は、まだ淡くて心許ない葉が顔を見せたばかりで、注がれる日光は地面にも届き、草花が小さな花を咲かせている。
薬草の知識があるサンドラちゃんは、たまに草むらに駆けていっては、ホクホク顔で帰ってくる。
「うちの村で使う分はもう採れたから、あとは領都のギルドで買ってもらおうっと」
嬉しそうに荷馬車の隅の大袋に詰めているサンドラちゃんに、ライナーさんは笑って言った。
「ランクポイント稼げそうだな。Eランクもそろそろ卒業できそうかい?」
わたしは聞こえてきた単語に目を輝かせた。
「え? ギルドって、ハンターギルドとか!?」
「うん。わたしも10歳の時にハンター登録してあるからね」
ふぁああ、ファンタジーワールドだ!
あるんだ、この世界にハンターギルドなんて!
「マヤさんも資格お持ちなのでしょう?」
ライナーさんの問いに、首を横に振るわたし。
「うううん。わたしまだ駆け出しだから」
「え!? そうなのですか? マンモスを仕留める腕をお持ちなのだから、てっきりBランクくらいなのかと」
「あはは。登録しといた方がいいかな」
「それは勿論。身分証明にもなりますし、他の国に行ってもギルドの特典を利用できますから。宿の宿泊割引とか、お食事券とか」
ははあ、JAF会員みたいな感じかな。
「それなら無理してでもマンモスの牙を持ってくればよかったですねえ」
リネールさんが言った。
「登録する時に、既に実績があるって申請に添付すれば、飛び級で最初から上位ランクを付けてもらえますから」
「次回持ってくるって言って、暫定ランクってことにしてもらえないですかね?」
とチトレイさんがライナーさんに聞く。
「そうだね。相談してみた方がいいな。いずれにしろ、仮のランクでもいいからハンター登録はしておきましょう」
仮免許ってことかな?
「ありがとう。着いたらギルドに行ってみます」
「俺、一緒に行きますよ」
「私も」
「なにしれっと付いてこうとしてるの!? わたしが連れて行くの! 薬草も売らなきゃだし」
リネールさんとチトレイさんにサンドラちゃんが、がるるるると牙を剥いている。いつからわたしの保護者になったのさ。
「あはは、心強いわあ」
ハンター登録はファンタジー世界転生の基本よね。むふふ順調にこの世界に溶け込んで言ってるわ。
あれ、そうするとあっちはどうなるの?
「あの、冒険者ギルドっていうのはないの?」
モンスターを狩るゲームでは、狩猟組合としてハンターギルドという名称の組織になりがちだけど、一般的なファンタジーだと冒険者ギルドと言う方が一般的だ。狩猟や魔物討伐の他、護衛や探査なんかも請け負う、かなりの何でも屋だというのを、詳しくないわたしでも知っている。
しかし冒険者と言った途端、渋い顔をされた。
??? なになに?
わたしがきょとんとしていると、サンドラちゃんが答えた。
「他国ではそう言うらしいけど、うちの領では
「へえ? なんで冒険者はだめなの?」
そこからはリネールさんが説明してくれた。
「冒険っていうのは一か八かの賭のことだ。それに対して探検とういのは、同じ未知のものに挑むにしても、しっかり計画し、勝つ算段を整えて向かうものである。だから冒険者はうちの領ではいらない。って言うのが領主様のお達しだ」
以前あまりにも多くの若者が冒険者を名乗って、無謀な行動に走って命を失い、戦争でもないのに国が人員的危機に陥ったためらしい。
「なるほど。理解できます」
第一次南極探検隊の西堀越冬隊長が、確か同じ様な事言ってたのを本で読んだことがある。前例のない南極越冬を、危険を冒す『冒険』じゃなく、ちゃんとした学術調査にするには『探検』でなければならないって。
「そうすると、狩猟以外の仕事はどこでやるんですか?」
「ハンターギルドでいいんです。ただうちの領では資格が細分化されていて、探査・調査、護衛・傭兵、雑役、特殊にそれぞれ認可を出すようにしてます。なので他国共通のタグと、うちの領専用のタグの2枚が発行されます」
運転免許証の、普通とか大型とか二輪とか牽引とか、ああいった区分みたいな感じかな。
「なので面倒なんで、嫌がって入国しない
他にもギルド、職業組合には、商人の商業ギルド、荷運び屋の通商運輸ギルドなんてのもあって、国を跨いでの活動を支えているのだとか。
「わたしはそっちにも登録してあるんですよ」
商売人のライナーさんはそのように言う。
「とは言っても荷運びはうちの村の仕事しかしてないですけどね」
もし機会があれば逃さないようにということなんだろう。
干し芋とお茶の昼食を挟んで、そんなここの領周辺のお仕事事情を聞いたりして、退屈することなく旅は続いた。
ところでここ『ヘキサリネ』は“領”と言っているが、どこかの国に所属しているのではなく、土着勢力、いわゆる土豪とか豪族というやつらしい。周辺の強国に挟まれ、それでも一目置かれて独立を保っているのは、東の国との唯一と言っていい街道がこの国を通っているからだとか。
微妙なバランスを取りながらの難しい国運営が行われているんだ、とライナーさんは教えてくれた。
うーむ、それコウモリ外交ってやつじゃないのかな。
夕方の雰囲気がなんとなく漂ってきた頃、もう少しで領都への街道に当たるというところで、それは起こった。
「前方、道が何かで塞ってます!!」