異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第91話「領都に帰ってきましたー。フィリアさんの帰還報告 ~その1~」

 

 キャンプ生活してると、日が出た頃自動的に目が覚めるのは、人間が自然のリズムに同期させられるからだろうか。世界標準時計はグリニッジなんちゃらではなく、太陽なのだ。それでもテントという1枚の壁があるだけで同期を拒める人もいる。

 

 幾つかの天幕では、昨夜お酒を飲んだらしい人達が、日の出関係なくガーゴーといびきを立てていた。

 この天幕は完全に外と中を遮断しているわけではなく、地面近くまであるタープという感じなので、外の空気が入ってくる。少し湿気た朝露の香が運ばれてくると、わたしは寝袋から這い出た。

 健全な子供達もむくむくと起き出しており、顔洗う子もいるが、その後は何を始めるのかと思いきや、大概は草むらやテントサイトの草原で遊び始めた。

 やっぱり子供だよねえ。

 

「おはようマヤ姉」

「おはよう、ニーシャ」

 

 この子は遊びには加わらず、いつものように水汲み用の革袋を手にしていた。毎朝のルーチンワークだ。真面目だなあ。

 井戸は野営場の隅っこにあるので、直接お鍋に汲んできてもいいような気もするけど、近くに置いておけば何かと便利なのは間違いない。

 

「ワナ、ええと、けっかい……だっけ? 仕掛けてないだわよね?」

「ここでは流石に必要ないもん。仕掛けてなんかないよ」

 

 明らかにホッとしてるニーシャ。昨日の朝、無酸素地帯というマヤちゃん流の結界ですっかり怯えさせてしまったので、警戒していたみたいだった。

 

「おっはよー」

 

 サンドラちゃんも元気に起きてきた。

 

「おはようサンドラちゃん」

「マヤちゃんおはよう。ニーシャおはよう」

「おはようだわね、サンドラ姉」

「水汲み? じゃあわたし、目覚めのお茶淹れる準備するね」

「はーい」

 

 目の辺りが冴えてくる、サンドラちゃんの不思議なモーニングティーは、茶葉をポットで蒸してるときに、効能を上げる法力をかけるそうだ。

 

 

 

 

 朝食もギルドの計らいで、道の駅のお店が上げ膳据え膳してくれたので、わたし達はレトルトパックの食事を用意したときよりも早く、旅準備ができた。

 天幕の前で整列する皆を前に、レオさんが出発前の訓示をした。

 

「危険地帯からは脱しているが、気は抜くな。まだ潜んでいる奴がいないとも限らねえからな」

「家に帰るまでが遠足ってやつだね」

「えんそく……ってなあに? マヤちゃん」

「え、えっと旅行のことかな」

 

 サンドラちゃんや孤児院の子達はうんうん、わかったーと頷いた。

 

「イレム、魔物探知は任せたぞ」

「任された!」

「殿はトラの爪に頼む」

「任されよ」

 

 レオさんは一同を見回して頷くと、「では出発する」と、先頭を切って歩き出した。

 見送る道の駅のギルド出張所職員や、店の従業員、駐屯している兵士などが手を振る中、わたし達は残り4時間の行程を歩き出した。

 

 この後の語りは、暫くフィリアさんにバトンタッチしよう。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 ヘキサリネという独立領は、私フィリアが仕えるミリヤ皇国を始めとする中部北方の国々と、北方及び東方の国々の間にデンと居座っていて、ここを通らないと北や東へ、物資や人は行き来できません。ヘキサリネの南東には大山脈が連なっているし、西には本魔境があるので、人が通れるのはここしかないのです。

 

 ヘキサリネから北方へ行く街道の先には、仲の悪かったワリナ王国があります。

 が、それより重要なのは、カミワ領という塩の大生産地と通じていることです。ミリヤで消費する塩の三分の一はカミワの物であり、ワリナとヘキサリネが通行税を上乗せするので、高い買い物をさせられています。

 まあヘキサリネは同盟国というか属国みたいな関係なので、あまり高い税は上乗せしないよう圧力はかけているみたいです。

 

 それより近年重要視されるのは、先代ヘキサリネ領主様が整備した東方に通じる峠道です。東方には非常に技術力の高いオルデンドルフ王国があり、そこからやってくる製品や技術は、一般生活から国防まで広く影響があります。我が国にも盛んに接触してきており、護衛侍女長の話では、第二皇子のところへよく訪れているそうです。

 第二皇子はマリエラ様と違い、あまり外に出たがらない方です。護衛も楽そうで羨ましいです。

 

 しかしここでもヘキサリネは、高い上前をはねてきます。それは交通の難所である東峠を牛耳ってるからで、これだけはミリヤの圧力にも動じません。それ程にこの峠越えは難関なのです。

 しかしそれまで東峠地方の商家にだけ許していた峠街道の通行を、現ヘキサリネ領主様は開放しました。なので今では、ミリヤの馬車もこの峠を越えてオルデンドルフへ行き来することができます。

 もっとも過酷な峠越え部分は、今でも東峠地方の商家の高山馬やヤクを使うしかないので、結局ヘキサリネに高いお金を払わざる得ないのです。

 

 そんな訳で、ヘキサリネの領都『ヘキサチカ』には、商売のため大量の物資と人が集まってきます。私達の前に並ぶ領都入城の順番待ちの列が、今いかにここが栄えてるかを物語っているでしょう。時間帯も悪かったのかもしれませんが、ミリヤと通じる西街道が閉鎖されているというのにこれなのです。

 

「何だこの長蛇の列は。こりゃいつ入れるか分からんな」

 

 そう盛大にぼやくのは、最も遠い薬草採取地へ向かった孤児院とリトルウィング、その護衛パーティーを統括指揮したレオ様。実はなんと、先程我が国とは仲が悪いといったワリナ王国の次期当主、レオナルド王太子なのでした。

 あちらもマリエラ様と同様に、相当な家臣泣かせなのは間違いありません。なにしろマリエラ様を凌ぐSランクハンターです。どれだけ遊び歩いたら、そんなランクになれるのでしょう。問題児だったのは想像に固くありません。

 問題はそれに留まらず。アンフィスバエナ騒動の時にお互い身分を隠した状態で出会って、それが事もあろうに、身分が明らかになった後も、うちの皇女様に手を出そうとする悪い虫だったのです。

 この旅ですっかり皇女様と仲良くなったと言うではありませんか。夜の見張りを二人っきりでしてたとか。本当に見張りしてたか怪しいものです。

 皇女様を護らねばならない護衛侍女の私の目を盗んで密会を重ねるとは不届き千万!

 い、いえ、私が料理にうつつを抜かしていたからとか、そんなことはありません。

 

 と、とにかく一度痛い目にあわせないとかもしれません。いえ、殴りかかったりなどはしませんよ? 私がSランクのレオ様とまともな戦闘などできるはずないのです。

 ここはミリヤ得意の毒を盛るのが良いでしょう。

 ふふふ、王太子はもう私の料理の虜になっています。何時でも実行可能です。お付き人のクーノさんも同時にやれます。私が作る料理会に誘えば、お二人は尻尾を振って現れるでしょう。

 盛るおクスリは、1時間は笑いが止まらない笑毒あたりが良いのではないでしょうか。これを食らうと、あとで腹筋が筋肉痛で大変なことになります。

 護衛侍女長は、私の料理スキルを無駄な能力だと言ってましたが、これでいつでも見返してやれるでしょう。

 

 しかし皇女様は、ミリヤ女皇帝にはならず、いずれどこかの国へ政略結婚で出されてしまう確率の方が高いといいます。それを考えると、ワリナの悪ガキ王子様とくっつくのは、マリエラ様が最も幸せになれる道なのかもしれません。

 悩みます。

 レオナルド王子は私をマリエラ様の侍女として雇ってくれるでしょうか。私が病気の時、マリエラ様のお見舞、いえ、看病を許してくれるでしょうか。

 

 おや、衛兵が走ってやってきました。

 ふむふむ。なんでも城壁の上の監視所が子供の集団を見つけ、薬草採取パーティーだと気付いてくれたそうです。城壁と言うにはあまりにも異様な巨大な盛り土ですが、役目は果たしているようです。

 

 

 

 

 私達は長い入場待ちの列をすっ飛ばして入場が許されました。それも通常の入場門ではなく、VIP用の城門へと案内されました。当然です。こちらには皇女様がいらっしゃるのです。

 出発時に捧げ剣をして送り出してくれた門兵達が笑顔で出迎えてくれます。ここでも捧げ剣をするべきでしょう。皇女様がいらっしゃるのですよ。

 それなのに、ああ!

 気軽にマリエラ様と握手などして、あの門兵許せません!

 

「あなたはたしかミリヤの方ですね? 昨夜薬草は無事届きましたよ。領都を救ってくれてありがとう」

「どういたしまして。役に立てて嬉しいわ」

 

 レオ様もクーノさんもリネールさんも、門兵達と握手していきます。孤児院の子供達やサンドラさんら子供達には、頭を撫でていきます。マヤさんは……頭を撫でられました。憤慨して抗議しています。

 ふふふ、彼女は17歳と、私のひとつ下だと言い張ってますが、この扱いで正しいと思います。未知の知識と謎の法力を持つ不思議な人ですが、年齢詐称はいけないと思います。

 次は私の番です。当然、握手を求められました。

 ふっふふふ、勝ちました。

 

「あなたが運送侍女(トランスポーターメイド)ですね?  沢山のアイポメアニールを運んでくれたそうじゃないですか。ありがとうございます」

 

 は!? 運送侍女(トランスポーターメイド)!?

 失敬な! そもそもそんなメイド、他国でも聞いたことありません!

 勝手に新たなメイドを作らないで下さい。護衛侍女長に聞かれたら、間違いなく私の肩書にされてしまいます!

 このような無知な者を門兵にしているこの国は、早いとこマリエラ様に言って併合してもらわないとです。

 

 ふくれっ面をメイドの表情の下に隠し、トンネルのような城門をくぐると、きれいに整備された大通りが奥へと伸びています。私達はハンターギルドへと歩いていきました。

 

 

 

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