異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第94話「領都に帰ってきましたー。フィリアさんの帰還報告 ~その4~」

 

 私が最後に出したのは濃い赤紫色をした高級魔石の粉。買取係の人やマスターのジオニダスさんのみならず、旅行中もこれの事は聞いてなかったトラの爪やホワイトガーディアンの人達も驚いています。

 

「これはヘキサリネで取れる代物じゃないぞ!」

「本魔境なら取れるんじゃないか?」

「バッカ、どれだけ危険を冒さないといけないと思ってるんだ!」

「本魔境ならともかく、こんな高品質の魔石が領都周辺で取れたというのか!?」

 

 案の定ギルドの中は騒然となりました。

 そんな中、レオ様はお落ち着いた静かな声でマスターに言いました。

 

「これについては、ここではなく後で個別に報告したい」

「……そ、そうか。こんなのがその辺に落ちてるわけないからな」

 

 マスターはただ事でないと察してくれたようです。なにせ魔術使いの魔導具だったものです。確かにただ事ではありません。

 マヤさんの法力がなかったら私達だってどうなっていたことでしょう。次々とあんな魔物が送り込まれてきたのでしょうか。

 

「ちなみにその魔石、買取額は幾らくらいなんですかい?」

 

 興味を持ったサロンにいたハンターが、買い取り係のおじいさんに聞きました。

 

「キロ当たり金貨3枚じゃな」

「「「おおお!」」」

「これもミリヤの倍よ!」

 

 マリエラ様がまた驚きます。ミリヤがヘキサリネに魔石を輸出しているわけです。倍の値段で売れるのですから。

 

「60kgあるから、これ全部で金貨180枚じゃの」

「す、すげぇ……」

「このクエストでどれだけ稼いでんだよ……」

「俺も薬草採取なんて馬鹿にしないで、行けばよかった」

 

 サロンのざわめきは収まる気配がありません。

 まああなた達が行ったところで、こんなに稼げるとは限りませんが。

 私達のパーティーの品が出し終わると、マスターはレオ様の後ろに声を掛けました。

 

「トラの爪とホワイトガーディアンは、買取品はないのか?」

 

 マスターに聞かれると、彼らはちょっと気まずそうにチラチラとマヤさんの方を見ます。マヤさんは気にする様子もなく、私に彼らの分を出すように言いました。

 

「両パーティーのもフィリアさんが運んでますよ。フィリアさん、出してあげて下さい」

「はい。手伝っていただけますか?」

 

 バーガーさんらが慌ててやってきます。これは私一人では出せません。皆に手伝ってもらって、頭頂部の毛が濃いオレンジ色をしてるのが特徴の巨大な人型魔物をストレージから引きずり出しました。

 

「ハイオーク・ボアじゃないか!」

 

 再びマスターもギルドのサロンにいた人も、なにい?、おおーっ、とどよめき、顔を強張らせました。私達は何度この人達を驚かせば済むのでしょう。

 

「こんなのも出たのか!」

「この辺には生息してない魔物だぞ!」

 

 巨体が4つも出て、買い取りカウンターが大変なことになってしまいました。買い取り係のおじいさんが、若い助手さんに急いで裏の保管庫を開けるように指示を出します。

 

「この2匹がトラの爪の。こっちの2匹がホワイトガーディアンのです」

「こりゃあたまげたの」

 

 驚いたおじいさんですがしかし、ハイオーク・ボアをくるりと一周すると、目を鋭くして睨み返すように質問をしました。

 

「これは本当にお前さん達が獲ったのかの?」

 

 睨まれたバーガーさん達は言い淀みました。

 同じくハイオーク・ボアを観察したマスターもギロリと睨みに加わります。あの力が全ての集団のボスが問います。

 

「いっさいの傷がない。そのうえこのやたらと苦しそうな顔……。これは、マヤだろ」

 

 額に汗を垂らしていたバーガーさんは、やれやれと肩をすぼめると、「実は、そうなんだ」とあっさりと認めてしまいました。

 マスターはマヤさんの方に向いて、目で問い詰めます。しかしマヤさんは何も問題なさそうに返答しました。

 

「あ、大丈夫ですよ。それは本当にその方たちのもので間違いないです」

「お前が狩ったもんじゃないのか?」

「仕留めたのがわたしってだけで、皆で狩ったものですよ」

「……了承を得てるなら、こいつらに買取額を払うが。本当にいいんだな?」

「はい」

 

 トラの爪とホワイトガーディアンは、それぞれ2頭分の買取額を受け取りました。

 

「ハイオーク・ボアはもう1頭あります」

 

 私が言うと、さらに驚いたおじいさんは急いでスペースを作ります。隙間ができたところに、私はストレージにしまってあった最後1頭を出しました。

 

「まだあるのか。それにしてもフィリア嬢のストレージはこんなに大きかったのか」

 

 羨ましいという声がギルドのあちこちから聞こえてきました。

 ヘキサチカのギルドに出入りしている探検者(エクスプローラー)に、収納法力持ちはいないそうです。ここの人達は皆自分で担いで運ぶか、ギルドに運んでもらう以外に方法がないということです。

 まあ私もストレージが拡張したので、これだけ運べたわけですが。予備ストレージを使った後のキツさは大変でした。

 あ、でもマリエラ様に看病されるのを逃してしまったのは残念です。

 

「この1頭はレオさん、リエラさんの護衛パーティーの報酬に加えてください」

「ほっほっほ、分かった。お前さんらもだいぶ稼いだのぅ」

 

 200kgのハイオーク・ボアは1頭で金貨16枚になるので、山分けすると各パーティーは金貨8枚になります。それぞれ2名のパーティーなので、1人当たり金貨4枚です。

 レオ様のところは分配せず、クーノさんが全額預かりました。マリエラ様は買い取り金を受け取ると、半分をマヤさんに渡しました。

 子供にあんなに大金持たせて大丈夫でしょうか。慎ましく暮らせば金貨1枚で1ヶ月生活できます。マヤさんは親御さんから離れて一人だから仕方ないのかもしれませんが、変なことに使わないか心配です。

 

「お疲れ様でしたマヤさん」

「ありがとうございます」

 

 マヤさんは金貨を受け取ると、そのお金をそのまま私に差し出しました。

 

「色々運んでもらった輸送費用と、食事を作ってくれたお礼です。取り決めしませんでしたけど、これって大変な貢献度だと思うんですよ。この額で足りるかちゃんと計算した方がいいんでしょうけど、ひとまず受け取って下さい」

「わ、私に!?」

 

 マヤさんが私の手を取り、4枚の金貨を握らせました。

 変な事に使うどころか、私にくれるとは!

 

「何言ってんですか! 子供がそんな心配を……」

「はっ? 子供ぉ~?」

 

 マヤさんに睨まれました。

 

「えあ? え、ええーと! と、とんでもございません。そのような心配は不要です。それにこれは多過ぎではないでしょうか。私もストレージ容量が倍増するという恩恵をこの旅で受けましたし、マヤさんの報酬を削ってまで輸送費など頂かなくても……」

「いいからもらって下さい。それにわたしにはまだハイオーク・ボアが25頭もあるんです。リエラさんはそれは貰えないって言うし、わたしばかりそんなに報酬貰って、フィリアさんに無いなんておかしいです」

 

 子供なのによく気が回る子です。……まさか私と一こ違いというのは本当なんでしょうか。

 レオ様とマリエラ様も二人して説得してきました。

 

「フィリアが輸送してくれたことは俺も感謝してる。報酬は貰って当然のことだ」

「そうよ。貰っときなさい」

 

 私はそれでも、と言おうとしましたが、マリエラ様の笑顔を見て、大人しく引き下がることにしました。3人におじぎを返します。

 

 その後マヤさんは、サロンの人達に聞こえないように買い取りカウンターのおじいさんに小声で、ボアは実はあと25頭あるんだけどと伝えました。おじいさんの少し腰が曲がり気味だった姿勢が、海老反りする程にシャキッとなったのが見えました。

 

「凍らせてあるから、今すぐ買い取ってくれなくてもいいですけど」

「解体場と倉庫は今、アイポメアニールの薬作りに使われとって、あまり場所がのうてな。後日で良いと言ってもらえるなら助かるの」

「あ、じゃあまた今度にしますね」

「すまんのぉ」

 

 マヤさんがそう言うと、おじいさんの姿勢は元通りに戻り、表情もホッとされました。

 

 こうして私達は依頼を完遂し、全ての報酬を受け取ったのでした。

 

 

 

 

 さあ、これで一週間に渡った薬草採取依頼は終わりとなりました。パーティーは解散となります。

 

 なんと濃い一週間でしょう。なんという達成感でしょう。マリエラ様が屋敷を抜け出してハンターをやりに行くのも分かる気が……

 い、いえ、だめです。マリエラ様は第一皇女様なのです。軍勢を率いて戦場に立つ皇子とは違うのです。こういった最前線にいてはいけないのです。せめて護衛侍女(エスコート・メイド)の後ろにいてほしいです。

 

 ……すみません。その護衛侍女(エスコート・メイド)が前に立てるほど強くなくてすみません。

 いえ、私とて全く戦えないわけではないのです。ただマリエラ様の強さは半端でないので、大抵の護衛侍女(エスコート・メイド)はマリエラ様に遅れを取ってしまうでしょう。

 その中から私を選んでお供にしていただいているのですから、私としてもその価値を見せないとなのです。

 

 ……レオ様の胃袋を掴んだのは評価いただけるでしょうか。

 

 

 

 

「さあ皆、帰るだわよ。孤児院に着くまでが採取旅行だわよ! だよね? マヤ姉」

「その通りよ。ニーシャ偉い!」

 

 マヤさんがニーシャさんの頭を撫でます。

 

「だって! さあ、もう一度気を引き締めるだわね。デストロイされちゃうだわよ」

「「「「「はーい!」」」」」

「し、しないから!」

 

 孤児院の子達とマヤさんの声がギルドのサロンの片隅に響きます。まだまだ元気一杯。この子達の体力は本当に大したものです。

 

「フィリア姉様、ジャイアント・エルクラビットとクモの脚を孤児院まで持っていくの、お願いします」

「はい。任せてください」

 

 と言いたいところですが、マリエラ様を、護衛対象を放っておくわけにはいきません。マリエラ様に顔を向けると、コクリと頷いて、行きましょうかと言ってくれました。

 ああん、さすがです。分かっていらっしゃいます。護衛対象の方から私に付いてきてくれます。

 しかしマリエラ様はマスターに呼び止められました。

 

「あ、待ってくれリエラ嬢。ちょうど昼飯時だ。昼食でもどうだ? ギルドの並びにいいレストランがあるんだ」

 

 なっ!!

 この荒くれ集団のボス、こんなところでナンパですか!? それも隣国の第一皇女様をナンパですか!?

 やはり髪の毛の先まで筋肉な連中の元締め。野獣です。私は護衛侍女(エスコート・メイド)としてマリエラ様を護るべく、野獣との間に入ろうとします。

 

「あとレオ殿とクーノ殿にも来てもらいたい。マヤ、リネール、お前らは強制だ。さっきの高品質魔石の事や、採取旅行中の出来事も詳しく聞きたい」

 

 おっと、どうやらナンパではなかったようです。事情聴取でした。早合点してしまいました。

 レオ様が、なんだマスターの奢りか? と聞いています。お金に困る方ではないと思いますが、これも一般民の中に紛れるテクニックでしょうか。この方の護衛侍女には絶対なりたくありません。

 

「いや、あのお方がな」

 

 と、マスターはギルド内の喫茶の方をチラと見ました。するとカウンターにいた、がたいのいい大きな人が、手にしたグラスをちょいと掲げました。

 むむ、皇女様やワリナの王子を誘うにしては、エクスプローラーでもない平民のような服を着ており、繋がりが分かりません。

 するとマリエラ様が顔を寄せ、小声で私に言いました。

 

「ヘキサリネの領主、ヴェルディ様だわ」

「えええ!?」

 

 領主様!? ミリヤでいうところの皇帝陛下のような立場の人ですか!?

 いくら自国領都とはいえ、なんと無防備な格好ですか!

 見回したところ護衛も見当たりません。もしやこれが新しい国の指導者の流行りなのでしょうか。マリエラ様も流行の最先端を行っておられたと!?

 

「お腹も空いてきたことですし、いいでしょう」

 

 マリエラ様はあっさり承諾してしまいました。

 

「フィリア、あなたは孤児院に荷物を持っていってあげて」

「い、いえダメです。護衛侍女(エスコート・メイド)が護衛対象から離れるわけには……」

「私が一人でほっつき歩いてるのはいつものことじゃない。皆信用できる人ばかりだし、危ない事はないでしょう。終わったら私も孤児院に行くわ。屋敷には一緒に帰れるから、護衛侍女長にもばれないって。なんなら、手を繋いで帰る?」

「ええええ!?」

 

 マ、マ、マリエラ様が私と? 手を繋いで!?

 

「そ、それは本当に?」

「ほんとほんと。決まりね。残ってる食材で、孤児院でも何か作ってあげなさいな。ちゃんとミリヤの者ですって宣伝してくるのよ? これも我が国の宣伝、外交だわ。重要な任務ですよ?」。

 

 に、任務!

 

「か、かしこまりました!」

 

 私が外交! 国の代表!

 そ、そして、そして、帰りはマリエラ様と、て、手を……

 

「うへ、うへへへへへ」

 

 あらためて顔を上げれば、にっこりと私に微笑んでくださるマリエラ様が。

 

「うへうへへへへへへへへうへへ」

「おーい、フィリア姉様。行くだわよ。おーい」

「だめだ。目の焦点が合ってないよ」

「しょうがないなあ。ほらお姉ちゃん、手を繋ごうね。出口はこっちよ」

 

 手を繋がれた私は一瞬喜びが溢れて気を失いそうでしたが、握り返した手が小さかったので、それが孤児院の女の子の手だと気付き、我に返りました。

 

「はっ! ああ、孤児院に行くんでしたね」

「よしよしフィリアちゃん。ちゃんと付いてくるのよ。手を離しちゃダメよ。迷子にならないようにね」

 

 孤児院の女の子達に囲まれながら、ついでにマリエラ様に苦笑されながら、私はギルドを後にしたのでした。

 

 ちなみにギルドの建付けの悪いドアを出ると、ヘキサリネ領主様の護衛と思しき方を向かいの建物の影で見掛けました。

 新世代の指導者にも護衛という職業がなくなってないことに、少しホッとした私でした。

 

 

 

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