異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「ところでヴェルディ様」
リエラさんは話題を変えた。
「北の森にあるかもしれない転移魔導具はどうされますか? 西街道も通れるようにしていただかないと、ミリヤとしても交易ができなくて困ります」
「うむ。北の森は現在ヘキサリネ軍を使って魔物を抑え込んでいる。おそらく転移魔導具が原因だと分かった今、何を探せばいいかも明確になった。ハンターギルドの捜索で魔物噴出点も絞られつつある。見つかるのも時間の問題だろう。マヤ、転移魔導具が見つかったときは、傭兵の依頼を出すから手伝え。ジオニダス、こいつに資格あったよな?」
「はい。Fランクですが、護衛・傭兵資格も与えてあります」
「傭兵!? 兵隊にされちゃうんですか!? そ、それはちょっと。
「勿論断れるとも。だが三国同盟だのを国のトップや次期当主にせがんでるような奴が、まさか一方的に自分の願いだけをきかせようなんて、虫のいいこと言うわけないよな?」
ヴェルディ様はにこやかにわたしに言った。
そう言われると断り辛い。
確かに持ちつ持たれつの関係であるべきだと思う。それに目標も一致している。転送装置を破壊して魔族の企みを挫き魔物を落ち着かせることは、ヘキサリネの安定に繋がる。そしてヘキサリネの安定は、ミリヤやワリナとの対等な関係維持に必要不可欠なんだ。
レオさんやリエラさんら次期世代が国を動かすようになるまで、この三国の良い関係を維持しなければいけなくて、それは3人とも望んでいるし、わたしだってそうだ。わたしの法力は、きっと少しはその役に立つのだろう。
でも傭兵として働くのはちょっと勘弁だよねぇ。
「転移魔導具の破壊を手伝うのはやぶさかではありませんが、傭兵ってのはなんだか嫌なんですけど……」
「むう?」
ヴェルディ様の表情が少し険しくなった。
「ですからね、傭兵って命令されて動く組織に組み込まれちゃうんですよね? その辺が嫌ってゆうか。
ゴニョゴニョ言うわたしにマスターがすかさず入ってくる。
「領主。傭兵は探検者・ハンターの仕事としては他のと性格が違います。傭兵は契約期間、特殊技能を買われ特別な作戦や兵役に就きますが、組織目標達成のため命令されたことをやり、個人の成果は求めない。対し一般的なクエストは成果を求めるが、どう達成するかは受注者の自由だ。マヤは
「なるほど? なら例えば転移魔導具を無力化しろという依頼を出して、受注してもらえばいいんだな?」
「それならマヤも安心して依頼を受けてくれるでしょう。だな?」
マスターがわたしの気になるところをきれいにまとめてくれた。
わたしはこくりと頷いた。それなら変なところに所属して、上官からあれやれこうやれと命令されたり、虐められたりすることもない。
ヴェルディ様は「分かった分かった」と再び満足気に微笑まれた。
「西街道は、採取旅行でマヤが転移魔導具をぶっ壊したから、新たな魔物は出てこないだろう。改めてギルドに討伐依頼を出す。数が多くて
「分かりました」
「なので西街道はもう少し待ってくれ。通れんとマリエラ姫も国に帰れねえしな」
「ありがとうございますヴェルディ様。それでは堂々ともう少し留まれますね。その間に北の森の討伐にも顔を出したいです」
ジオニダスさんは顔を青くした。
「や、やめたほうがよくないか。また怪我でもされたら、俺の胃が持たん」
「大丈夫ですよ。マヤ様と一緒に行動しますから。魔族に対しこれ以上の安全地帯はないでしょう?」
物凄いプレッシャー光線が、マスターの目からわたしに発射された。
マリエラ様に何かあったら、ヘキサリネの安泰は一発で吹っ飛ぶのだ。分かってっかコラ、と目が電光掲示板のようになってわたしに言っています。
「レオナルド様は?」
リエラさんは期待混じりの顔を向ける。
「俺も、っていきてえところだが、実は帰国命令が出た。準備出来次第立たないといけねえ」
「え?」
「それは急だな。何かあったのか?」
「仕事と言いつつ出かけたものの、実は遊び歩いてただけだったのが知れて、とうとう怒られたのですか?」
「マリエラ皇女。俺にどういう印象を持ってるのか一度じっくり聞く必要があるな」
レオさんはふうと息を吐いてひと呼吸おいた。そして顔を上げ、リエラさんを見た後、ヴェルディ様に向いた。
「ヴェルディにはずいぶんここで自由にさせてもらったからな。礼ついでに伝えておこう。実は急遽、第二王女がカミワ領に嫁ぐ話が決まったようだ」
「第二王女がカミワ領に!?」
「そ、それはカミワ領がワリナの属国になるということですか!? 国の規模からしたらそういうことですよね。ただあの国はお金だけはあるから、よくワリナのいう事を聞きましたね。というか、そんな国家機密情報、このようなところで言ってよろしかったのですか?」
「ヴェルディにはさっき言った通り礼だ。ミリヤにはあまり知られたくないが、次世代を担うマリエラ皇女には今のうちから考えておいてほしいからな、この先の三国の行く末を」
それってつまり、三国が同盟か一つの国になった時、カミワって所も自分達の国の一部になってるから、それ踏まえて考えておけよってことなのかな? リネールさんが言ってたように、この人達の間では三国は纏まる方向でもう進んでるんだ。
ところでカミワってどういう所なんだろう。
「あのう、カミワ領って?」
答えたのはレオさんではなく、リエラさんだった。
「ワリナと西の大国『シーガル』とに挟まれた小さな国です。面白い地形をしていて、その特徴を活かして塩の大生産地なんです。塩で儲けたお金で強力な軍隊を持っていて、シーガルやワリナに挟まれていても独立を保ってました」
「そういうのはヘキサリネに似てますね」
「だからよくワリナのいう事を聞いたものだと言ったのです。あちらも次世代の事を見据えてるんでしょうか」
「カミワの現領主は病で伏せっていて、俺達と同世代の者が摂政に就いて取り仕切っているんだ。でなければこの話は通らなかっただろう。そういう意味では次世代を見据えてなんだろうが……俺はイマイチ信用しきれねえ」
「そうなのですか。レオ様がそのような感覚をお持ちなことは心に留めておきます。それにしても、ミリヤはカミワから塩を大量に輸入していますので、それをワリナに牛耳られるのは、ミリヤ皇帝陛下としてはかなりお怒りになりそうですね」
「だからまだミリヤには知られたくないと言ったんだ」
そんなことをマリエラ様には教えてしまうなんて……信頼しきってるんだなあ。もうこの人達には三国の壁はなくて、その前提でずっと先の事を見据えているんだね。
答えは分かってるけど一応聞いてみた。
「ミリヤもワリナと仲良くすればいいだけじゃないですか」
「皇帝陛下がワリナ国王に頭を下げる形になります。許さないでしょうね」
現行世代の硬直している部分だ。どんなわだかまりがあるか知らないけど、それで本当に国益にかなってるのかなあ。
「だったら、これこそマリエラ様がレオナルド王子に嫁ぐチャンスなんじゃ!」
リエラさんはボンと顔を真っ赤にした。でも肯定はしなかった。
「ただ、それをミリヤからは持ちかけられません。これはミリヤの都合です。足元を見られます。ワリナから言ってもらわないと。でもワリナにはそれを言うメリットがありません」
「簡単です。レオナルド王子がマリエラ姫に惚れたから、嫁にほしいって言えばいいんです」
今度はレオさんが顔を赤くして大声を上げた。
「好き嫌いだけで将来の王妃を決められねえって何度も言ってんだろうが!」
「マリエラ様の人間の大きさや能力を引き込んだだけでも、ワリナに大利益あると思いますけどねえ」
「国王にはそこまで理解が及んでねえ。いま時点で伝わってるのは、見かけによらぬあばずれだってことくらいだ」
「レ、レオナルド様、私のこと、いったい何を国に報告されたのですか?」
リエラさんがさっきとはまた違った真っ赤な顔になった。
「はははは! どっちもどっち、いい仲だ! しかしまだ時が整ってねえな。慌てないでゆっくりしっかり準備を進めないとだ」
ヴェルディ様がからかいつつもそう言うと、レオさんとリエラさんも頷いた。
「ヴェルディ様はレオナルド様とマリエラ様の結婚には賛成なんですね?」
「両国に挟まれたヘキサリネとしては、そのほうがありがてえからな」
「よし! 一歩進んだわ」
わたしはぐっとテーブルの下でガッツポーズをした。
「とはいえ一歩先は闇だ。何か一つピースが変わっただけで時勢は変わるかもしれん。そんな訳だから、三国の俺達世代間で、このような情報交換は定期的にやりたい。どうだ?」
「賛成です」
「俺も同意見だ」
3人はお互いの顔を見やると、ニッと笑顔を交わした。
握手や条文の交換などしたわけではないけれど、もうこれは次期当主達の間では同盟を組んだようなもんじゃないのかな。
わたしはすごく嬉しかった。
魔族が密かに攻めてきてるかもしれない問題。
人間の国同士のいざこざ。
この世界でのほほんと暮らすには問題が山積みだ。
でもわたしを媒介として、将来の国を背負う人達とこうして膝を突き合わせることができ、共通の認識と将来像を持ち、それに向けた行動を共にする。こんなことができてるのもトロ様から受け継いだ法力のおかげだよね。
そしてそろそろ、トロ様の旅を引き継ぐことも進めていかないとだ。
お金はだいぶ稼いだので旅費の心配はなさそう。旅行装備もひと揃いある。この世界の旅行の感覚もだいぶ分かってきた。あとは仲間がいればもっと安心なんだけど。
北の森の魔物討伐を手伝ったら、トロ様が目指してた場所へ向かおう。
ターニャさんが待っているという、かつて本魔境へ向かう冒険者達が集った町『タウエルン』へ。