異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
領都に何ヵ所かある住宅地区。商業地区に近い方ほどきれいで大きな家が多いのに対し、奥へ行き、ヘキサリネの城壁というか、桁違いに高い土塁となってる方へ近付くと、古かったり朽ちたりした家が多くなります。そんな一角に孤児院はありました。
やや登りになっている道を孤児院の門に向かって歩いていくと、門の前の道端で遊んでいた小さい子達が、年長組が帰ってきたのに気付いたようでした。
あ、私はミリヤ皇国の
「院長先生、ニーシャ達が帰ってきた!」
小さい子達は門の中に走って行きます。
ニーシャさんと、その横でラトロ・アトレイタの脚を肩に担いで胸を張るイレムさんが、先頭を切って誇らしげに蔦の絡まった門をくぐりました。
イレムさんの担ぐクモの脚は、孤児院近くまで来たところで、ストレージから出してくれと私にせがんできたものです。戦果として見せびらかせ、カッコつけたかったみたいです。まったくこのガキ……いえ男の子は、子供でも本能的に見栄を張る生き物のようです。
子供達の叫ぶ声に建物から飛び出してきたのは、真っ白な髪の中年の女性と、職員と思われる若い2人の女性。ニーシャさん達の姿を認めると、両手を口に当てて感極まっています。
「ニーシャ、イレム! 皆も無事だったかい!? 怪我はないかい!?」
「あったりめえよ! ほらチビども土産だ! 巨大グモ、ラトロ・アトレイタの脚だぞ!」
「すげぇ! イレム兄ちゃんが獲ったの!?」
「そりゃあ勿論……」
そこまで言いかけて、ニーシャさんが睨んでるのを見て言い直しました。
「ごほん。お、俺が見つけて、あそこだって教えて、護衛の
「まあ大体合ってるだわね」
「すごおい!」
ところが大人の女性達はあわあわと慌て出しました。質問が嵐のように飛びます。
「ラトロ・アトレイタ!? そんな物騒な魔物に遭ったの!?」
「それに大変な高級食材じゃないの! 持ってきて大丈夫なの!?」
「採取地一帯が討伐ランクBになったって聞いたけど、あんたたち行けたのかい? テオのパーティーは入れなくなったって聞いたし、護衛も相当の腕利きを付けないと入れさせてもらえないって……」
イレムさんに続いて門をくぐった、大きな脚の肉の塊を二人がかりで担いるラースさんとニコさんが答えます。
ちなみに二人が担いでるのはジャイアント・エルクラビットの脚です。やっぱり孤児院の近くまで来たところで、自慢したいからとストレージから出すよう言われました。
まったくこのガキどもは……いえいえ、もうこれは男の子の性ですね。
「俺達を護衛してくれたパーティーはAランクだぜ!」
「だからね、全然問題なかったし、バッチリ護ってくれたんだ! ほうら、これはジャイアント・エルクラビットの肉だよ。これ僕とラースで仕留めたんだ」
「えー!? こんなに大きいのを!?」
留守番の年少組だけでなく、これには職員の女性達も目を丸くしていました。
「そしてこれが依頼報酬だわね」
ニーシャさんが小さな巾着袋を院長先生に手渡します。小袋を外から触った院長先生は、
「まあまあお疲れ様。4枚も貰えたの? さすがは1週間のクエスト。よく稼いだわ。でもお金より皆が無事だったことの方が嬉しいよ」
そう言って小袋をひっくり返して中身を手のひらに落としました。4枚とは、小金貨4枚と思ったようです。なので……
「ん? えええ!?」
案の定、院長先生は手の中に落ちたお金を見て、目が飛び出ました。
「4枚には違いないけど、金貨2枚と小金貨1枚、大銀貨1枚だわね」
「きききき金貨2枚!?」
女性職員も「え!!?」と自分の目で確かめるまで信じられない様子でした。
「院長先生! これだけあれば暫くは庭の草を食べなくても済みます!」
ええ? 庭の草を食べさせられてるって、あの話本当だったんですか!? てっきりイレムさんの戯言かと思ってました。
「端布も買って服も直してあげられるわ!」
「ででで、でかしたわニーシャ! これからは長期間のクエスト受注も許可しましょう! どんどん稼いできなさい!」
院長先生の目が金貨になってます。よほどお金の工面に苦労されてるのでしょうか。先程はお金より皆が無事の方が、と言っていたのに心配です。あまり子供達に高額報酬な厳しいクエストばかりやらせなければいいのですが。それもこれも子供達を食べさせるのに苦労されてるからなんでしょう。
であればこれ。これからは草を食べさせるよりこっちです。
「あの、今回の採取旅行で、ディオネアの種が手に入りましたので、植えてみてはどうでしょう。うまく育てれば今後の食料の足しになると思います。草を食べさせるよりは……」
門の中に入るタイミングを逃していた私は、会話に入る形でようやく門をくぐりました。
「貴女は? メイドさん?」
院長先生が小首を傾げて声を掛けてきました。
「申し遅れました。私、ミリヤ公国から来ましたフィリアと申します。パーティーには採取チームで参加しまして、採取旅行をご一緒させていただきました。よろしくお願い致します」
「まあ、ミリヤの方なのですか?」
するとニーシャさんが採取旅行に行った年長組の女子を横一列に並ばせ、姿勢を正し、せーので院長先生に向けきれいにお辞儀をしました。
「「「「「院長先生、ただいま戻りました。留守中お変わりなかったでしょうか。その間お手伝いできずご迷惑おかけしました」」」」」
私は、綺麗にできましたよとニーシャさん達に小さな拍手を送ります。
「まあまあ、お前達、そんな作法まで教わってきたのかい!?」
院長先生は大いに驚いて、職員の女性は「なんて羨ましい!」「ずるいわ、私も教わりたい!」と悔しがってます。
「フィリアお姉ちゃんは単なるメイドじゃないのよ」
「そうだぞ。
「まあ、あの有名なミリヤの
「フィリア姉様はマリエラお姫様の
「あとでフィリア姉ちゃんを迎えに来るんだろ?」
「うん。来るって言ってた。手繋いで帰るんだよね? フィリアお姉ちゃん」
「ああ、皆さん、そ、それは! それもこれもどれも内緒で!」
慌てて子供達を静止しますが遅かったようです。既に院長先生と女性職員は真っ青な顔をされてました。
「マ、マリエラ姫の
「お、お前達、ま、まさかマ、マリエラ様とご一緒されたのかい!?」
一斉に頷く子供達。
「そ、そそ、そそそうしなかったでしょうね!?」
「皆いっぱい怒られたよねー」
「特にイレムなんかねー」
「ねー」
「イレム!?」
ひっくり返った声で院長先生が叫んで振り返り、しかし当のイレムさんは口笛を吹いて知らん顔してます。
青を通り越して、群青色にまで染まった顔の院長先生は、「じ、自害してお詫びを……」などと物騒なことをおっしゃります。
「ああ! お気になさらず! マリエラ様はお戯れでたまたまおられただけです! 騒がれてはかえってよろしくありません! ここはぜひ内密にしておいていただけると助かります!」
今やどす黒い顔に死相を浮かべる程になった院長先生は、顔をあげ私を見ると小さく何度か頷きました。
「は、はい。はい。……お前達、もし何かあった特は私が責任を取るから。後は任せたよ」
「い、院長先生!」
院長先生と女性職員の方々はひしっと腕を取り合いました。
その間に私は空中に丸を描き、ストレージから黄色く熟れてコチコチに硬くなったディオネアの豆を2つ出しました。
「こちらがディオネアの実です。魔物の捕食植物なので、あまり大きくならないよう気を付けて育てないとですが、意思疎通もできる賢い木です。若い実は携帯食にもなる程に栄養豊かですし、植えてみてはいかがでしょう」
「孤児院の警備員にもなるだわね」
「泥棒捕まえて食べちゃうよきっと」
院長先生は一瞬恐怖で顔を引きつらせましたが、私に向いて「い、頂けるのですか?」と聞いてきました。
「頂けるもなにも、我々パーティー全体の収穫物ですから、孤児院パーティーには権利があります。正当な分け前です」
「おお……」
涙ぐむ院長先生。天を仰ぎ見て神様に感謝しています。職員の女性は嬉しそうに実を受け取りました。
「院長先生。魔物の使役には届け出が必要なはずです。私、明日早速申請しておきます」
「うんうん。頼んだよ」
たくさんの報酬を持って帰った子供達を、職員の女性は抱きしめて労います。
でもまだ終わりじゃありません。
「お土産はこれだけじゃないだわよ。フィリア姉様は空間収納法力を持ってて、他にもたくさん、たーくさんお土産持ってきただわね」
「はい。外では何ですので、室内によい部屋はありますか?」
「食堂でいいんじゃねえか?」
「お台所や食料庫にも近いしね」
まだあるのですか? と驚かれた院長先生に、それではこちらへどうぞと招かれ、子供達に手を引かれて、みんな揃って建物の中へと入りました。