ショタドクターシリーズ   作:ハセアキオ

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ラ・プルマがショタドクターにお熱のようです(前編)

ドクターが小さくなり、寄ってくるオペレーターが多くなったと聞く。それは物珍しさからくる好奇心、単純な心配が動機だ。中には邪な考えを持っているオペレーターもいると聞くが……とにかくドクターの元には人がひっきりなしにやってくる。

 

我が妹もその内の一人である。

 

ラファエラ、ロドスでのコードネームはラ・プルマ。ドッソレスでの騒動をきっかけにロドスに兄妹そろって入ることになり、現在は双方とも一オペレーターとして働いている。それに加え妹は、ドッソレスでバーメイドとして働いた経験を生かし、ロドス内のバーで働いている。

 

今俺がいるのがそのバーである。ロドスの食堂近くに設けられた簡易的なバー。手狭ではあるが、カウンターや照明、家具等は誰かの趣味なのかずいぶんと本格的な内装である。

 

「よし、できた」

 

カウンター向こうには、カマーベストなるものを着た妹がいる。炭酸を潰さないようそっと混ぜていたマドラーをグラスから取り、コースターの上にそっと置いた。

 

「はいお兄ちゃん」

 

注文したのはジントニックだ。いっぱいの氷にツンと臭うトニックウォーターと、微炭酸のかすかな音がクセになる一品だ。

 

「うん……おいしいな」

「お仕事の終わりに来たの?」

「ちょっともめ事があってね。それを苦労して解決したらどっと疲れちゃって、骨休めってところかな」

「ふ~ん」

 

いつものほわんとしているラファエラの雰囲気を見るとほっとする。

 

「それにしても、またバーの雰囲気がよくなった気がするな」

「あるオペレーターさんの監修が入ってより本格的になったんだ。ほら、あそこにいるよ」

 

ラファエラの視線の先には、他のバーテンダーと話している二人のオペレーター。モフモフした巨躯の男と、耳がつんと立った麦畑を思わせる髪色の女性がいた。

 

「料理まで本格的になりました。少ないリソースでいかに製造するかを考えるのも悪くないですね」

「この料理はとても香辛料が効いていてスパイシーです……ついついお酒が進んでしまいますね!」

 

ロドスの食堂付近に作られているから料理もここで食べられるのだ。もちろん子供たちの目に触れないように奥まった場所にある。

 

「我ながらいい仕事をしました。店員のみなさまのご助力には感謝しかありません」

「いえいえ。企画してくださったマウンテンさんのおかげですよ」

「この料理は塩味のバランスが素晴らしいです……ついついお酒が進んでしまいますね!」

 

そんな企画があったのか。

 

「さてと」

 

ラファエラがナプキンで手を拭うと、

 

「じゃあバイバイだね」

「仕事は終わりなのか?」

「うん。今日はこれでおしまい。今日もドクターのところに行っちゃお~」

 

正装のままカウンターから抜け、そのままバーから出て行った。

 

ジントニックを一口飲む。甘さと独特の香りが絶妙に絡み合ったアルコールに舌鼓を打ちつつ、ある不安が頭から湧き出てきた。

 

どうしよう。ラファエラがドクターのところに通いまくってる。

 

いくら体が小さくなったからといっても、相手はロドスのトップだぞ。そんな馴れ馴れしいことをして大丈夫なのだろうか。

 

なまじ軍人に身を置いていたせいか、そういった主従関係には敏感である。ラファエラも同じだが、あのほわほわした雰囲気はまさしく性格を表していて、そういった壁はサクサクとぶち破ってしまう。失礼がないといいんだが。

 

やはり組織に身を置く以上、上下関係には気を配らなければならない。ドクターがフランクだとしても、そこはちゃんと配慮しなければならない。そういうのは軍人時代に徹底されていた。

 

ああ……あの時はつらかったな。もうとっくにそこから離れたのに、今もたまに思い出す。実はロドスにもっとも苦手な人がいて、その人と会うと、否応にもあの時代を思い出してしまう……。

 

「誰かと思えば、エルネストじゃないか」

 

心臓が跳ねた。まさしく今思い描いていた人の声が、真後ろから聞こえた。

そっと覗いてみると、やはり彼女だった。

 

ドーベルマン教官。かつてボリバル国民警備隊教官だった人。同国出身並びに元軍人なのもあり、思わず背筋が伸びてしまう。

 

「教官もここに来るんですね」

「当然だ。訓練外はただの人だからな」

 

ただの人ね……。

 

「妹はどうした?」

「ドクターのところに行きました」

「そうか」

 

隣に着席すると、彼女はバーテンダーに軽く手を上げた。

 

「XYZを頼む」

「かしこまりました」

 

バーテンダーはさっそく準備に取りかかる。

聞いたことのある酒だ。ラム酒をベースに、レモンジュースとコアントローを入れたもの。酸味と甘みのバランスがいい酒だ。

 

「ここに来たのは酒を飲むためでもあり、ラ・プルマの話を聞くためでもあった」

「え? 何を聞くんです?」

「お前の妹の戦闘センスは素晴らしい。普段の雰囲気では考えられない動きだ」

「あ、ありがとうございます」

 

唐突に家族が褒められ、反射的に感謝する。

 

「ただ、最近どうにも訓練に身が入っていないようでな」

「そうなんですか?」

「怠けているわけではなく、何か別のことを考えているような感じだな。活を入れると一時的には集中するが、しばらくするとまた戻る」

 

あの子の実力は俺でも知っている。あのような性格ではあるが、戦闘や訓練で手を抜くことは決してない。

 

「だから話を聞こうと思ったんだが、身内がいるならそっちに聞いておいた方がいいだろう。これなら本人に聞くよりずっとスムーズだ。何か知らないか?」

「何か、ですか」

「悩みとか、あるいは印象的な出来事があったとか」

 

印象的な出来事……。

 

「今ね、ショタドクターにお熱なんですよ」

「は?」

「ドクターのところにしょっちゅう通っているんですよ」

 

ジントニックをぐいっと飲み干し、事の顛末を話す。

 

 

 

「ドクタードクター。何をやってるの?」

「今は書類仕事をやってるよ」

「私も手伝おうか?」

「人に手伝ってもらうような仕事はないかな……割と重要な文面もあるし」

「じゃあどうしようか」

「別に何もしなくていいよ。秘書でもないんだし」

「ドクタードクター」

「な、なんだい」

「わたしもうちょっと近くに座ってもいいかな。うんと、だって執務室はこんなに広いんだし、ドクターとの距離が遠すぎると、なんだか寂しくて。だめ?」

「いや……まあいいけど」

 

そう言ってラファエラは、ドクターを膝の上に乗せた。

 

 

「なんかこう……明らかに、明らかに距離が近いというか」

 

あざとい。我が妹ながらあざとい。

 

「私は何の話を聞かされていたんだ……」

「おかしくないですか? トップに対して何をやってるのか。けしからん」

「エルネスト……私は手がかりがないか聞いただけで、ただのシスコンの話を聞きたいわけではない」

「シ、シスコンとは失敬な」

「いや、妹がドクターにべったりで嫉妬している兄の話にしか聞こえない」

「嫉妬! 何を言うんですか。ただトップに対して距離が近いのが危ないぞって話で」

「わかったわかった。興奮するのはやめろ」

 

ここで教官が頼んでいたお酒が届いた。とにかく心を落ち着かせる。

 

「まさかドクターに対してよからぬことを考えている? だから訓練に身が入らない?」

 

ヤバい。全然落ち着いていない。

 

「そういう惚けているような心境ではないのだ。何か悩みがあるように見える」

「悩み?」

「そうだな。あくまで私の主観だが」

 

何か悩んでいるとは初耳だな。最近接してきて、別にそんな素振りは見せなかったが。

 

……気になるな。

 

「もう少しお話を聞いてもいいですか? 妹の様子が変なのは気になります」

「酒を飲む間ならいいぞ」

 

カクテルを手に取り、優雅に口にした。

もうちょっと教官に話をしてみよう。俺も残った酒を飲み、おかわりを頼んだ。

 

「うーん、この料理もお酒が進んでしまいますね!」

 

……向こうの人料理と酒の話しかしてなくないか?

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