ショタドクターシリーズ   作:ハセアキオ

2 / 15
ショタドクターとウルサス学生自治団 ~モラルハザード1 追跡者ロサ~

ワルファリンの作った薬を無理矢理飲まされ、なんと体が縮んでしまった!

 

見た目は子供、頭脳は大人。その名はドクター。

 

……

 

…………

 

 

「へえ、原因がわかるまで動けないと」

 

ズィマーが腕組みをしながら聞いている。

 

「グムが見つけたんだよ。小さくなってもあのコートを着ているから」

「だからって連れてこなくてもいいのにな」

「迷子を放っておけないよ。仮にドクターだとしてもね」

 

そう。小さくなった私はグムに連れられこの部屋に連れて行かれた。

部屋はウルサス自治団本部と呼ぶらしい。図書館にある大きな机を二つくっつけたようなテーブルが中央にあり、傍らには本棚、コルク板など、まるで作戦室みたいな部屋だ。

今ここにいるのは、机の対面にいるズィマー、その隣のイースチナ、私と隣のグムである。リェータとロサは用事でいないらしい。

 

「これからどうする?」

「ここで預かっておきましょう」

 

小説を読みながらイースチナは言った。

 

「ドクター。今は改善案を医療部で調べているそうですね」

「そうだな。今頃元凶のワルファリンがこってり絞られているだろう」

「でしたらそれまで待ちましょう。どうせその体じゃ仕事もできませんし、落ち着いて読書などはどうでしょう」

「むう……」

 

ズィマーが机に置いてあったラジオに肘をかけながら難しい顔をした。

 

「どうしたんです?」

「いや、預かるのは構わないが一つ心配事が……」

「え? なにがあるんだ?」

 

と尋ねてみるが、ズィマーは頭を掻いて頭を振る。

 

「大丈夫だ。午後まで戻らないと言ってたし、適当に過ごしていよう」

「何を言ってるんだ?」

「気にするな。それより腹が減ったんだが」

「もう昼食の時間だ。グムは料理を作って持ってくるね。この前おじさんが教えてくれたものがあるんだ」

 

こちらの疑問をよそに、グムは部屋を出ていく。イースチナは本を読みふけり、ズィマーはヘッドホンで音楽を聴いている。

気にはなったが、ハプニングでできた休みを堪能しておこう。

 

イースチナに推理小説をもらい、それを読み進める。普段は読書なんてする暇はないから、これがまあ新鮮な体験だった。図書館のような静けさの中で読書に没頭するのも、たまには悪くない。

 

しばらくしてグムがやってきた。お弁当箱を四つ持ってきた。すぐにテーブルに四人が座る形となる。

 

「お弁当ですか。最近食堂で力を入れていると聞いていますが」

「へえ、汁物は別にケースがあるのか」

 

ズィマーの言うとおり、長方形の半分がケースに収まっている。それを開けると保温されたカレーがみっしりと詰まっており、そのままご飯にかけることでカレーライスの完成となる。

 

「別個のケースに入れることで、汁がこぼれるのを防ぐだけでなく保温もさらに効くんだよ」

「おう、うめえな。これなら遠征の時にもばっちりだ」

 

ふむ。持ち運びできる携帯食の研究は大事だ。まさか持ち運びできるカレーまで作ってしまうとは、さすがグムである。

 

「おっと」

 

ズィマーがなぜか机の下に潜った。

 

「すまねえドクター。そっちにスプーンが転がってしまったから取ってくれないか」

 

仕方ないなと思い、スプーンを置いてしゃがもうとしたその時、

頭の中に閃光が走った。

 

すぐさま元の姿勢に戻り、咳払い。

 

「じ、自分で取ってくれないか。今小さくなってるから、どうも体がうまく動かなくて」

「あ? しょうがねえな」

 

机の下に行ったらまずいと直感的に思った。

なぜかって? そりゃそうでしょ。倫理的にまずいでしょ。

 

ここで各オペレーターの立ち絵をご覧いただきたい。ウルサス学生自治団と称する子らの特徴は、何といってもスカートの短さである。戦闘に支障が出てくるんじゃないかってくらいに短い。特にイースチナが生足でまずい。

このまま机の下に潜ったら危ないのである。主に私の自制心がヤバそうなのである。

だから机の下に行かない。さすがに彼女ら相手は犯罪臭が強すぎる。別の世界戦ではやべえことをしていた気がするが。

 

「スプーンなら替えがあるからわざわざ拾わなくてもいいよ。はいこれ」

「お、グムありがとうな」

 

よこしまな心は振り払い、食事と会話を楽しむ。

 

「特にご飯がうまいよな。なんか艶々してるんだが」

「ご飯は炊くときに油を少し入れるの。そうするとパラパラになって冷えてもおいしくなるんだよ」

 

お弁当には最適なご飯の炊き方なのか。

 

「しかしグムの料理がまた一段とうまくなった気がします」

「マッターホルンおじさんに教わったからね。すごい教え方上手なんだよ」

「あの人の飯はうまい。いい師匠がいてよかったな」

 

朗らかなムードに、心底楽しそうな会話。それを見て心がなごみつつ、食事を取る。

 

彼女たちがロドスに合流した経緯は聞いている。チェルノボーグの一件は、活字で見ても目を覆いたくなるくらいの事件だった。

学校に軟禁されての生活。それによって起こった暴動。食料庫の火事。外に出た後のサバイバル生活などは、大変では済まされない極限状態だった。

年端もいかない少女たちが、およそ経験し得ない惨状を歩いてきたのだ。

 

傷はいつまで経っても癒えないだろうが、せめてロドスにいる間は幸せに暮らしてほしいものだ。

 

「で、これからどうするんだ?」

 

食べ終わってスプーンを置いたズィマーが尋ねてくる。

 

「どうもこうも時を待つしかないな」

「だったらここで待ってたらいいよ。仕事もできないんでしょ?」

「いや……」

 

元気いっぱいに提案したグムに対し、ズィマーは渋い顔。

 

「もうそろそろ執務室に戻った方がいいな」

「そうだな。私がずっとここにいるのも迷惑だろう」

「いや違う。迷惑とかじゃない」

「ん?」

「お前はここにいるべきではない。絶対に」

 

ズィマーが立ち上がり、私の横まで大股で歩いてくる。

 

「なんで?」

「なんでもだ」

「何をそんなに焦ってるんだ?」

「いいから行くんだよ。そろそろしないとあいつが――」

 

「あら、楽しそうね」

 

声がした途端、ズィマーの顔が青ざめる。

端にある扉を見てみると、そこには銀髪の女性が立っていた。

 

ロサが扉を開けて入ってきた。174cmの登場だ。

 

「……お前、今日の午後まで帰らないと言ってなかったか?」

「早く用事が済んだから帰ってきたのよ。で、その子はだれ? どうしてドクターのコートを着ているのかしら」

 

上品な笑みをたたえながら近づいてくる。

子供の上背では彼女を見上げる感じになる。でけーのだ。怖いのだ。

 

「この子は小さくなったドクターだよ」とグムが言った。

「え? 詳しく聞かせてくれるかしら」

「では私が」

 

イースチナが経緯を説明する。努めて真剣に聞いていたが、たまにロサがこちらをチラチラと見てくるのが気になった。

それにズィマーもだ。気まずそうな、しまったというような表情をずっとしている。

 

「ドクターが薬で子供に……不思議なこともあるものね」

「それでこれからどうするかって話になっていたんだが」

「どうするって何が? 解決するまでずっとここにいればいいのよ。何なら私がドクターの面倒を――」

「お、おいちょっと待て。さすがにそれは」

「何よズィマー。別に問題はないでしょ」

「いや、部屋に置いといた方がいいと思うが」

 

なぜかズィマーがあたふたしているが、ここで端末にケルシーからのメッセージが届く。

 

(書類仕事をサボるな。いくら小さくてもそれくらいはできるだろう)

 

あ、はい。

 

「申し訳ないが、執務室に帰らないといけなくなった」

「ええー大丈夫なの?」

「グムありがとう。でも大丈夫だから。イースチナ、小説を借りてもいいか?」

「どうぞ」

 

名残惜しいが、ここまでにしよう。

みなに別れを言い、ウルサス学生自治団本部を後にする。その間、ロサのじとっとした視線を感じたのがやけに気になったが。

 

執務室に戻り、たまりにたまった書類を整理する。途中部屋に入ってきたオペレーターたちに都度説明するのは面倒だった。

子供の体で仕事は堪えたから、時間の経過も早く感じた。いつの間にかもう夜になってしまった。イースチナから借りた本を読もうかと思ったが、慣れない体で疲れたからかすぐに眠りに入った。

 

……

 

……おい

 

……

 

……おい、起きろ。

 

「ん?」

 

耳元から声がしたため、薄く目を開けてみる。照明のない中、誰かがそこにいるのはわかった。

 

「あたしだ。ズィマーだ」

「え? どうしたんだ?」

「話は後だ。ベッドから出ろ」

 

ウルサス人特有の怪力でぐいっと引き寄せられる。

 

「な、何だよ急に」

「説明は後でするから隠れるぞ。机の下がいいか」

 

寝室にある机の下に、二人でぎゅうぎゅうになって入る。

 

「どうしたんだ急に」

「声は落としてくれ。静かに話そう」

 

しっと、耳元で言った。右半身に体温を感じながら話を聞く。

 

「お前が小さくなったと聞いて真っ先に思い浮かんだのはナタリア……ロサのことだ」

「ロサがどうした?」

「視線に気づかなかったか? 何かお前のことを見ていなかったか?」

 

確かにチラチラとこちらを見ていた。だがそれは、私の体が小さくなったからではないのか。

 

「元の姿で秘書をしている時、何か怖い体験はなかったか?」

 

怖い体験……あ!

 

(ドクターが眠っている様子……どこか可愛げがあるわね)

 

そうだ。私がベッドに横になっていた時に、じっと顔を見られたな。実は起きていたが、内心恐怖だった。

 

「あいつがドクターに好意を持っているのは確実だ。それが恋か尊敬かは本人の心に聞くしかねえが、どうも嫌な予感がする」

「嫌な予感って?」

「子供になったお前の貞操を奪いにきそうだ」

 

ええ……。

 

「さすがに考えすぎなのでは?」

「もちろん考え過ぎならそれでいい。だから今は実験の最中だ」

「実験?」

「執務室をわざと開けて、この寝室までノーセキュリティにする。そうしてロサがベッドに来るか来ないかを見張る」

「よくわからん作戦だな。そういえば、ズィマーはどうやって執務室に入ったんだ?」

「あたしは鍵をこっそり盗んで入った。鍵は開けっぱなしにしておいたぞ。ロサの場合は力尽くで開けてくるからな」

 

化け物か何かかな?

 

「いやいや、いくら何でもそんなこと――」

 

その瞬間、扉がガチャリと開いた。急な音に心臓が縮み上がり、体全部が硬直した。反射的に口をぎゅっと結び、息を殺して室内を見る。

 

今いるのは中央壁際で、ベッドが左手で、右手に扉がある。月明かりもない中、記憶を頼りにぼんやりとしたシルエットがある。

そして扉のほうには、ロサがいた。あの背の高さは間違いない。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」

 

彼岸島めいた呼吸音が暗闇の部屋に響き渡る。その体躯を少し屈め、あたりを見回している。

あんな落ち着いた淑女然とした彼女が、いまや獲物を探している獣だ。普段の彼女と似ても似つかない、血に飢えたハンターが辺りを物色しているのだ。

その様子を見て、体も血管も収縮してしまっている。SAN値がごりごり削られていく。机の下で必死に縮こまるしかなかった。

 

やがて月明かりが入ってきて、部屋が薄ぼんやりと見えてきた。

するとロサに似た何かが、その足で地面を蹴り上げベッドにダイブした。ドスンと大きな物音がして、辺り全体が揺れたように錯覚した。

 

「いない……どうしていないの? どこかに行ったのかしら」

 

多少野太いが、ロサの声だ。

 

「こんな夜更けに……医療部の方? いや、だけどもしかしたら」

 

大股で扉に向かい、バタンと閉める。足音が完全に途切れるまで黙り、それが終わってもまだ恐怖心が口を開かせなかった。

 

「こええ……」

 

ようやく声が出たのは、ロサが出て一分ほど経ってからだった。

 

「来てよかったな。どうやらあいつは暴走状態らしい」

「いや、何だよあれ。完全にホラーゲームで見る追跡者だぞ」

「それより怖い存在だろう。とにかく」

 

ズィマーが外に出たため、私も暗がりの中に出る。

 

「ここにいるのは危険だ。また戻ってくることもあるだろう」

「え? ロサはマジで私を狙ってるの?」

「ベッドに飛び込んだのを見たろ。もしお前が寝てたらどうなってたか想像できる。服は破かれ、色々やられていただろうな」

「ひえ……」

「とにかく、今すべきことは医療部に行って匿ってもらうことだろう。有効策としてはこれくらいしかない。とっとと行っておけばよかったのにな」

 

だってケルシーが書類仕事をやれって言うから……。

 

「過ぎたことを言っても始まらない。グムとイースチナに見張りについてもらっているから、ロサを避けて目的地に行く。それまでの道中は、あたしたちが守ろう」

 

そう言うとズィマーが扉を開ける。何か来ないか見定めるように、ゆっくりと。

 

「行くぞ」

 

ホラーゲームめいたものを感じつつ、私も彼女の後に続いた。

 

To Be Continued…

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。