ショタドクターシリーズ   作:ハセアキオ

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アズリウスの悩みを聞くショタドクター

ワルファリンの薬で体が小さくなってしまった。もはやこの流れに関しては詳しく説明すまい。とにかく体が小さくなって、オペレーターとの接し方で若干のトラブルがあったり、単純に不便だったりと困った状況になってしまった。

 

ある日、それを解決する手段があるかもしれないとケルシーが連絡をしてきた。その鍵となるオペレーターが派遣され、今目の前にいる。

 

「ドクター……ほんとに小さくなったのですね」

 

いつものフードを被っているアズリウスは、控えめな彼女らしくぼそりとそう言った。その青い目からは、物珍しいものを見る好奇心は一切なく、ただ純粋な心配のみがあった。

 

「噂には聞いていました。ただ実際に目の当たりにすると、信じられない気持ちでいっぱいになりますわ」

「私だって信じられないよ。とにかく不便なことが多すぎて……オペレーターとの関係もややこしいものになるし」

「ややこしい?」

「いや何でもない。ところで、私の体を治すためにどうしてアズリウスが選ばれたのだろう」

「ケルシー先生からの言葉をかいつまんで話しますわね」

 

上品な咳払いの後、言葉を続ける。

 

「私が選ばれたのは、ドクターの治療に毒理学を使うためです」

「毒理学か」

 

プロファイルで一通り目を通している。

 

「アズリウスは毒理学の知識が豊富で、毒薬の配合も得意だったな」

「はい。特定の毒物を利用して弱点をつき、致命傷まで発展させるのが私の能力ですが、それは薬にも応用できますわ」

「え? つまり、毒を利用して私の背を戻す?」

「要約するとそうですね」

 

毒は薬にもなるとは言うが、果たしてうまく行くのだろうか。

 

「ただ、何が効くかはわかりません。ですから秘書としておそばにいさせてもらい、その都度毒を飲んでいただく……ケルシー先生の提案はこのようなものでした」

 

字面にするととても物騒だ。

 

「毒を飲むというのは恐ろしい行為のように思えますが――」

「ああ、そこは心配いらない。アズリウスの調合は信用している」

「そ、そうですか」

 

若干頬を赤らめ、また咳払いをする。

 

「では、これからよろしくお願いしますわ。ドクター」

 

彼女らしく、控えめに微笑んだ。

 

こうしてアズリウスが秘書となり、実験の日々が始まった。おちょこ一杯分程度の毒を飲み、経過報告を医療部に伝える。基本的にはこの繰り返しである。

 

当然のことながら味はヤバい。まずいというか、変にしびれるというか。

良薬口に苦しとは言うが、この感覚に慣れることはない。体がよくなる薬だったら我慢できるが、毒とわかってるものを口に含むと拒否感が上乗せされてしまうのだ。

 

「すみません。味の方はどうにも……」

「いや、いいんだ」

 

アズリウスのことは当然信頼している。だが理屈ではわかっていても、毒を飲む際の拒否反応は、本能ゆえに完全には抑えられない。

 

「あ、そうですわ。スイーツに混ぜるのはどうでしょうか」

「スイーツに?」

「私はスイーツを作るのが得意なんですの。ですからそれに混ぜてしまえば――」

「それはたぶん無理だな。毒物のみを摂取した状態で待たなければいけないから」

「そうですか。残念ですわ」

「ケルシーに聞いてみようか」

 

その後端末にてメッセージを送ると、毒を摂取してから三時間が経過した後だと構わないという。途中から薬の効能の調査における食事の影響について延々と語っていたため目をそらす。

 

「毒を飲んだご褒美にスイーツを作る。こういう考えならいかがでしょうか?」

「毒を飲んだご褒美って、まるで子供みたいじゃないか」

「今のドクターは子供ですわ」

 

む、全くその通りだ。思わず笑ったところで、アズリウスもクスクスと笑った。

 

「ドクターは何がお好きなのかしら?」

「よほど甘ったるくなければ、基本スイーツは好きだ。だからお任せにするよ」

「わかりましたわ。今度から作っていきます」

 

こうして毎日の憂鬱な時間に、それを上回る楽しみができた。

 

彼女の作るスイーツは絶品だった。甘さが控えめなのにおいしいのは相当な技術だ。聞くところによると、普段甘い物を食べない人も手を伸ばしてしまうのだとか。

 

「おいしい。おいしいよ」

「ありがとうございますわ」

 

今日もいつもどおりに持ってきてくれた。当然ながらうまい、うまいけど……。

 

「青いな」

「はい?」

「いや、何でもない」

 

今食べているのはショートケーキ。そのクリーム部分が澄んだ青をしているのだ。まるで潜水して十メートルくらいの海のような色合いだ。

 

青はきれいだが、ショートケーキには似合わない。

 

「スイーツで思い出したのですけど」

「ん?」

 

口に入れたスプーンを停め、向かいに座る彼女を見る。

 

「私が作ったスイーツ、みなさんに食べてもらえないんですの」

「……ふむ」

「やっぱり私をみなさまは避けるのでしょうね」

 

え?

 

「私、みなさんと仲良くなりたくてスイーツを作ったのですが、食べてくれない人が多いんですの。私の毒はそれほど忌み嫌われているのでしょうか」

「違う」

「え?」

「そこは青い配色で敬遠されてるだけであって、君がどうのという話ではない」

 

スプーンを、空になった皿の上に置く。

 

「率直に言ってしまえば、青い色のスイーツを食べたがらない子も多いだろう」

「青い色は、そんなに変なのかしら」

 

自覚はなかったのか……。

 

「単純に色が合わないという話だよ。服のコーデで考えてみるといい。服の色には様々あるが、私がピカピカのゴールドの服を着ていたらおかしいだろ?」

「おかしいですね」

「服にゴールドなんて大抵は敬遠される。それは料理も同じで、敬遠されない色、つまりおいしそうに見える色合いはあるはずだ。残念ながら、スイーツに青は若干敬遠されるだろうね」

「そうですか……」

「それを踏まえると、君のスイーツを食べたがらない人は、単に青い色を嫌がっただけで君を嫌ってるわけではないと考えることができる」

 

しゅんとして下げた目を、こちらに向けた。

 

「無論、君の毒に対して誤解を持っている子もいるだろう。だけど全員ではないはずだ。単純に食べたくない、色を警戒している子も中にいると思うと楽にならないか?」

 

全員ではない。そう考えると楽になる事例はいくらでもある。だがそこに至るのは難しい。特定の集団をカテゴライズする、決めつけるのは楽なのだ。

 

ウルサス人が暴力を振るってきたから、ウルサス人は全員が野蛮人。シラクーザ人が事件を起こしたら、シラクーザ人は残虐非道な人種。鉱石病患者がレユニオンに入っているから、全員がレユニオンに同調している。

そんなわけはない。だが前述したとおり、そう考えれば楽ができる。悪者がいた集団を全て排斥すれば、同じ目に遭わずに済むと考える。差別という大きな話だけでなく、こういった人間関係にもその楽なカテゴライズは潜んでいる。

全員が私を嫌っている。そう思い込んでいれば、実際にあなたが嫌いだと言われた時の保険になる……。

同一化とは、かくも恐ろしい思考停止である。

 

「そうですわね。みなさんを誤解していたのかも知れません」

「よしわかった」

 

膝を打って立ち上がる。

 

「君の悩みを今後も聞こう。もし悩みがあるなら遠慮なく言ってくれ」

「いいのですか?」

「秘書や毒薬作り、くわえてスイーツまで作ってもらっているのだから、これくらいお安いご用だよ」

「わ、わかりましたわ。そうですね。今は毒薬の調合を致しますので、新しい悩みはまたの機会に……」

 

遠慮がちに言って作業を開始した。私も執務机に戻り、書類仕事に勤しんだ。

 

自分から悩みを話すのは勇気がいったのだろう、切り出したのは翌日になってからだった。

 

「もう少しみなさんとお話ししてみたいんですの」

 

どうやら交友関係が少ないらしい。今日もまた青いスイーツを食べながら話を聞く。

 

「今は誰と仲がいい?」

「グラウとアリアさんがいますわ」

「ならそこから交友を広げてみよう。集団に入る時は、その中の一人とつながりを持つのが一番楽なんだ。二人もいるなら、その伝で探してみては?」

 

次の日、交友は若干広がったそうだ。そしてまた新たな悩みを打ち明けた。

 

「スイーツに関してはどうすればいいのでしょう。やはりこのあたりを改善しないことには前に進めませんわ」

 

ソファで私の隣に座ってそう言った。

 

「スイーツに関しては無難な色にしようと言うしかないな。でも青を取り入れたいなら、いい方法がある」

「なんでしょうか?」

「ゼリーなら抵抗感はないんじゃないか? それに今の時期、そして今いる場所の温暖な気候なら、さわやかな海を連想させるな。アイスなんかもちょうどいい」

「なるほど。スイーツの種類によっても色の印象は変わるのですか」

 

この話をした後、さっそくアイスを作りに食堂に行ったらしい。ゴールデングローという先日着任したオペレーターと共に作業をし、評判のアイスを作ったらしい。スルトを含めたちびっ子たちは大層喜んだそうな。

 

「おかげさまでゴールデングローさんとも話ができました」

「そうかそうか」

 

翌日、そのことを嬉しそうにアズリウスは話した。ソファで、私と肩と触れ合うくらいに隣でだ。

 

「スイーツからも交友が広がって何よりだ。そっちも作用するとは思わなかった」

「ええ、ほんとに」

 

喜びはあるが、なぜか悲しさも表情から滲んでいる。ふと、影を落とすような瞬間があるのだ。

 

「今日の悩みは?」

「悩みは……そうですね」

 

ここで完全に表情が暗くなる。

 

「私、そろそろ秘書をやめなければなりませんの」

「それって……」

 

ゆっくりと頭を下げた。

 

「申し訳ございませんドクター。私の毒理学は役に立たなかったようです」

「そうか……いやいや、アズリウスはよくやってくれたよ。元々効き目があるかもわからない実験だったんだ。成果がない実験などいくらでもあるし」

「この数日は本当に充実した毎日でしたわ。交友関係も増え、スイーツも評判になって。何よりもドクターと密にお話しできたのがよかった」

 

ここまで直球に言われると恥ずかしくなる。

 

「私も楽しかったよ。それにこんな無茶ぶりを文句も言わずにやってくれたのは感謝しかない」

「気を張っていたからか、なんだか疲れが急にやってきましたわ」

 

あくびをする。ずっと実験続きで疲れたのだろう。

 

「ほんとに頑張ったよ。何かお礼をしたいくらいだ」

「お礼?」

 

ここでアズリウスがじっとこちらを見つめてきた。獲物を狙うような目だった。

 

「お礼? 本当にいいんですの?」

「あ、ああ。私ができることならなんでも」

「なんでも?」

 

顔をぐっと近づけてきた。

 

「いや、なんでもは語弊かもしれない。じゃ、じゃあ何かある?」

「何か? そうですね」

 

いたずらをするように微笑んだ。

 

「私の膝に乗ってくださる?」

 

一瞬脳がフリーズした。

 

「膝に?」

「はい。それくらいならお安いご用でしょう」

「いやあ膝に乗るのは恥ずかしいな」

「私ができることならなんでもとおっしゃいましたわよね? それとも、私に触れるのが嫌なんですの?」

 

悲しそうに目を伏せたのを見て慌てる。

 

「いやいや! そんなことはないぞ。私は君に対してちっとも恐怖心なんかない」

 

これで遠慮したらアズリウスを悲しませてしまう。羞恥心を何とか捨て、小さい体を起こして彼女の膝上に乗る。

 

「あらあら。ずいぶん軽いですわね」

 

後ろからぎゅっと抱きしめられた。

 

「あ! 悲しいふりして騙したな」

「なんのことかしら。ふふふ」

 

そうだった。アズリウスは割とぐいぐい来るタイプだったな。グラウコスも話してたっけ。

 

「ドクターが私を怖がらず触ってくれたのを思い出します」

「触ったね……」

 

なんだか私がすごいセクハラをしているみたいに聞こえるが、頭をなでるとかそういう方向ではあるのは付け加えておきたい。

 

「ええ。ですから遠慮なくこうさせていただきました。ドクターは私に害は無いとちゃんと認識して、普通の人間として接してくれる。これほど幸福に満ちたことはありませんわ」

 

彼女の毒の能力ゆえに敬遠する人間は少なくない。だが今、抱擁によって感じる体温や感触は、紛れもなく一人の人間のものである。

 

「ふふふ。私も自分でこれほど大胆な行動を取ってるのに驚いているんですよ。話してみて気づいたのですけど、子供だとそういう遠慮がなくなるのがいいですわね」

 

なるほど。だからいつもと違ってぐいぐい来るのか。

 

「この姿になってオペレーターとの接し方は変わっていったな。時にはヤバいのもあったが、見方を変えれば素直になるというのか」

「ドクターはドクターですが、やはり見た目の印象は変わってきますわ」

 

打ち解けやすくなったというなら、子供になったのも悪くはないのかもしれない。

 

「他のオペレーターとのみなさまとも、付き合いは変わると思います。それは喜ばしいことなのか、怖いことなのかはわかりませんが、ぜひ楽しみにしていただければいいなと思います」

「楽しみ、か」

「こんな経験はめったにありませんので、どうせなら楽しむのが一番だと思いますわ」

 

なるほど。どうしようもなく不便な体だが、あえて楽しむのか。

 

「わかったよ。はは、私の悩みも解決されちゃったな」

「そうですか。それなら……よかった……」

「ん? どうした急に」

「いえ……何でもありません」

 

徐々に言葉は小さくなり、やがてすやすやと眠った。気が抜けて眠気が一気に来てしまったか。

 

「しばらくこのままにしておくか」

 

さながら抱き枕のようでもある。やれやれとは思ったが、心地よさそうな寝顔を見ると羞恥心やらも薄らいでいった。

 

もうしばらくこの温かな抱擁に包まれていよう。そう思い、私も目をつぶった。

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