わずかな勇気が本当の魔法   作:メンマ46号

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もう色々面倒なので原作突入します。


第三葱 来日!子供先生!

 side三人称

 

 新年明けて中学二年の三学期のある朝、悠理は自分の通う男子校エリアではなく、麻帆良学園都市でも最奥部の女子校エリアに来ていた。

 

「遅刻遅刻ーー!!今日は早く出なきゃいけなかったのに!」

 

 共に走るのは幼馴染の神楽坂明日菜と近衛木乃香。彼女達もまた悠理と同じ事情で彼に同行していた。明日菜は全速力で走りながら半ば愚痴るように今回悠理に同行する理由について言及する。

 

「でもさ、学園長の孫娘のアンタがなんで新任教師のお迎えなんてやんなきゃなんないの?しかも男子の悠理を女子校エリアに呼び出すのも良くわかんないし」

 

「確かに。俺なんかその為に一限公欠扱いだぜ。わけわかんねーわ」

 

 女子校エリアと男子校エリアにはそこそこ距離があるので新任教師の迎えなどしていたら一限に間に合わない故の公欠だが、そもそも生徒にそんなお使い頼むなと言いたい。

 

学園長(ジジイ)の友人なんだからそいつもジジイかババアに決まってるじゃない」

 

「新任教師だから流石にそれは無いんじゃねーか?」

 

「そうやで。今日は運命の出会いありって占いに書いてあるえ。条件に当て嵌まっとるのはゆうり君やな」

 

「ウソ!!?」

 

 愚痴りながら走る幼馴染三人組だが、その中の一人である木乃香は器用にも占いの手帳を開いて読み上げながら走る。そして悠理に運命の出会いありと聞いて反応したのは悠理よりも明日菜であった。少し顔が青ざめている。

 

(ったく、夏ん時からサウザンドマスターの息子が来るとか騒いでんのに新任教師のゴタゴタまで押し付けてくんなよなあのジジイ)

 

 木乃香の占いを話半分に聞いている悠理は内心で学園長の近衛近右衛門への不満を述べる。

 そして木乃香は顔を青くする明日菜の反応を面白がって更に別の占いを述べていく。

 

「アスナの方は好きな人の名前を10回言って“ワン”と鳴くと効果ありやて」

 

(いやそんなんやる奴いねーだろ)

 

(ううっ……やってみたいけど悠理の前じゃできない……)

 

 木乃香の占いを切って捨てる悠理と鵜呑みにしながらも悠理を見て赤面し、実行を躊躇う明日菜。仮にもし悠理がこの場にいない事で明日菜が木乃香の占いの内容を実行していたら流石に木乃香もちょっと引いただろう。その直後に更におちょくるような占いを読み上げた事も想像が付くが。

 

「にしてもアスナもゆうり君も足速いなー。ウチコレやのに」

 

 木乃香の言う通り、明日菜と悠理は普通に走っている。それに対して二人と並走する木乃香はローラーシューズを履いて滑走していた。占いの本を読み上げながらローラーシューズで滑走するのは普通に危ないので良い子は真似してはいけない。

 

「鍛えてるからな」

 

「悪かったわね、体力バカで」

 

 それでも止まらずに走り続けられる三人。そんなこんなで良くも悪くも年頃の少年少女らしい会話をしているとそんな三人の隣に一つの小さな気配が並走していた。

 その気配に気付いたのは魔法使いである悠理と野生の勘を持ち合わせる明日菜。遅れて木乃香が二人の視線が同じ方向に向いている事に気付いてそちらを見やる。

 

 そこにいたのは赤毛で小さな眼鏡が似合う小学生くらいの少年だった。

 

(このガキ……魔法使い?でも学園の魔法生徒でこんな奴いたか?)

 

 少年から身体能力強化の魔法による魔力波長を感じ取った悠理は少年の正体にアタリを付けつつも困惑する。

 

「あのー、貴方……出血の相が出てますよ。それも大量出血です。多分そこの女の人に出血させられますから少し離れた方が良いですね」

 

 えらく具体的な予言を唐突に告げた。しかし無神経にも程がある発言だった。

 

「……は?」

 

「何だとこのガキャー!!」

 

 突然過ぎる忠告に放心する悠理。しかし対照的に初対面でいきなり危険人物扱いの発言を受けた明日菜は当然キレる。

 

「いきなり出て来て人を危険人物呼ばわりなんてテキトー言うと承知しないわよ!?」

 

「いえ、占いの話をしてたので良かれと思って……どうしてそうなるのかは僕もよく……」

 

 少年からすれば親切心で忠告したのかもしれないが、いきなりそれを言われた明日菜からすれば失礼な事を言って楽しむクソガキでしかない。

 

「アスナ、相手は子供やろー?この子初等部の子と違うん?」

 

「私ガキは大っ嫌いなの!!それにこのガキが言ってるのは私が悠理に大怪我させるって事じゃない!!流石に聞き捨てならないわよっ!!」

 

 アイアンクローで少年を持ち上げる明日菜。そんなんだから馬鹿力とか言われるのだが、そんなこたぁ知ったこっちゃねぇと言わんばかりに締め上げようとする。

 そんな明日菜を見て一周回って冷静になった悠理は明日菜の肩を掴んで落ち着かせようと言葉をかける。

 

「まぁ待て明日菜。流石にやり過ぎ」

 

「そうやでアスナー。ゆうり君は大怪我しても二、三日で治るえー」

 

「え?フォローすんのそこ?大怪我すんの確定?」

 

 サラッとブラックな発言をした木乃香だが、真意を掘り下げるのはなんとなく怖くなった悠理はポンポンと明日菜の頭を撫でて気分を落ち着かせにかかる。悠理に撫でられていくらか機嫌を直したのか明日菜はしぶしぶながらも少年を下ろして手を離す。単純な頭をした娘である。

 

「ところで坊やはこんな所に何しに来たん?ここは麻帆良学園都市の中でも一番奥の女子校エリアやで?初等部は前の駅やよ」

 

「そう!呼び出された悠理はともかく、ガキのあんたは入っちゃいけないの!分かった?」

 

「いや別に入る事自体は駄目じゃねーだろ。周りの視線と時間帯的な問題はあるけど」

 

 そうして女子校初等部云々の話はそこまでにして、元々の目的であった新任教師の迎えに行くべく、少年と別れてまた走り出そうとする三人を後ろから別の声が呼び止める。

 

「いや良いんだよ三人共」

 

 そうしてこの場にやって来たのは眼鏡と髭が似合うナイスミドル。その手に持つタバコが良い感じに渋さを醸し出す明日菜と木乃香の担任教師、タカミチ・T・高畑だった。

 

「高畑先生!?」

 

「父ちゃ……高畑先生」

 

「おはよーございます高畑せんせー」

 

「おはよう三人共。それにお久しぶりですね、ネギ君」

 

「久しぶりタカミチーー!」

 

「……!?知り合い!?」

 

 何やら親しげに挨拶を交わすタカミチと少年・ネギ。二人が知り合いである事に明日菜が驚くも、悠理は別の点に驚いていた。

 

(ネギ…?高畑先生と知り合い……まさかネギ・スプリングフィールド!?)

 

 数ヶ月前から散々この街に魔法使いの修行に来るからどーたらこーたらと言われていたあのサウザンドマスターの息子だ。まさかこんな形で会う事になると誰が思うか。普通は魔法関係者が集められてその前で紹介されるとかそんな形を予想するはずだ。

 

「麻帆良学園へようこそ。良い所でしょう?ネギ()()

 

「「「……先生?」」」

 

「あ、ハイ。そうです。この度この学校で英語の教師をやる事になりました。ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします」

 

「あ、ハイ。よろしく……」

 

 ペコリとご丁寧に自己紹介と挨拶、お辞儀をするネギに悠理は思わず同じくご丁寧にお辞儀を返してしまう。

 

(年齢的に初等部に編入かと思ってたけどまさかの先生と来たか……)

 

 あまりの事態に呆気に取られていると我に返った明日菜が色々とツッコミ所を的確に指摘していく。何故かネギ本人に掴みがかる感じだが。

 

「……って!先生ってどういう事よ!?ちょっと待ってよ!なんであんたみたいなガキんちょがーー!?」

 

「いや彼は頭が良いんだ。安心したまえ。出張の多い僕に代わって君達A組の担任になってくれるそうだよ」

 

「え?教師になるってそーゆー問題だっけ?」

 

「そんな事言われても私こんな子嫌です!さっきだっていきなり私が悠理を大怪我させるなんて言ってきたんですよ!?」

 

「いやでも本当なんですよ。過程は分かりませんけど……」

 

「本当言うなっ!縁起でもない事言うんじゃないわよっ!大体私はガキが大っ嫌いなのよ!あんたみたいにチビで生意気なミジンコが……」

 

 確かにネギが親切で言ったつもりでもその内容が縁起でもないものなので明日菜の怒りは尤もだろう。しかしそれを踏まえても言い過ぎではある。流石にネギ少年もムッときたのか若干膨れっ面になり始めている。

 

 何か反論しようとネギは口を開き、息を吸う。その瞬間、明日菜の髪が鼻元にかかり、ムズムズとしてくる。そのせいかネギは大きくくしゃみをしてしまった。

 

「ぶえっくしょんっ!!」

 

 ネギから親父みたいなどでかいくしゃみと共に魔力が開放される。悠理はくしゃみと同時に発動した魔法を瞬時に理解した。

 

(これって……武装解除!?)

 

 戦闘にも用いられる魔法の一つであり、それを呪文詠唱無しの……何故かくしゃみで発動したのだ。その魔力の向かう先にいるのは……明日菜。

 瞬間、悠理の視線は明日菜へと釘付けになる。

 

 彼女の着ていた麻帆良学園の制服とその上に着ていたコートが一瞬で消し飛ばされた。

 

 色白にも見える荒れのない綺麗な肌色。

 

 ピンクのブラジャー。

 

 毛糸のくまパン。

 

 下着姿の愛しの幼馴染、神楽坂明日菜。

 

「ブハッ!!」

 

 明日菜の下着姿を見た悠理は勢い良く鼻血を噴き出した。結構な量である。

 

「キャアァァ〜!?何よこれ!?って悠理ーーー!?」

 

 因みにネギ少年の占いの内容は大怪我ではなく、大量出血。ある意味当たっていた。

 

****

 

 その後、明日菜は悠理が着ていたコートを借りて寒さと周りの視線を凌ぎつつ、女子中等部の校舎で学校指定のジャージに着替えて、一同揃って学園長室に行く。

 到着したら当然明日菜は今回のネギと高畑に関する人事移動に関して学園長に物申す。

 

「学園長先生!一体どーゆー事なんですか!?」

 

「まぁまぁアスナちゃんや、少し落ち着かんか」

 

 質問を受けた後頭部の異様に長いぬらりひょんのようなこの老人こそがこの麻帆良学園都市の学園長にして関東魔法協会の理事、近衛近右衛門である。

 近右衛門が何処からか取り出した人数分の温かい緑茶を配ると一応は彼の図らいを汲んでが明日菜をそれを受け取り、落ち着こうと飲み始める。

 

 湯呑みを手にお茶を飲むとふと悠理と明日菜の目が合い、二人して咄嗟に顔を逸らす。

 

(ま、まともに明日菜の顔が見れねえ……!!)

 

 ティッシュを鼻に詰めて鼻血を無理矢理堰き止めたものの、未だに明日菜と目を合わせると互いに顔を赤くして視線を逸らしてしまう。

 

「ん?どうした悠理にアスナちゃん。二人して顔真っ赤にしておって。んん?フォッフォッフォッ」

 

(このジジイ、後でぶっとばす!!)

 

 腹の立つニヤニヤ顔で判り切った事を聞いてくる近右衛門に悠理は報復を決意した。このジジイの事だ。多分監視用の魔法で一部始終を見ていたはずだ。

 そしてようやく本題に入る。

 

「なるほど、修行の為に日本で学校の先生を……そりゃまた大変な課題を貰うたのぅ。まずは教育実習という事になるかの。今日から三月までじゃ」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

(てゆーかなんで魔法学校の卒業課題が教師なんだ?あ、でもこの学園都市には魔法先生もいるから年齢以外おかしくはないのか?)

 

 子供が先生だったり、教育実習生が三学期から担任と交代したり、そもそも教員免許無くねコイツといった疑問が次々と浮かぶが、考えるのが面倒臭くなった悠理はまぁいいかと思考を放棄した。

 

「でだ、結局なんで俺は態々女子校エリアに呼び出されたんだよじっちゃん」

 

「そうじゃ忘れとった。「オイ!?」悠理や、ネギ君はまだ住居が決まっておらん。お主の部屋は少し前にルームメイトの青山君が別の部屋に移動して実質一人部屋になっておったじゃろ?ネギ君を住まわせてくれんかの」

 

「え」

 

 確かに二学期の11月、悠理のルームメイトは男子中等部の魔法先生及び学園長からの指示で別室に移動になった。その事で悠理が住んでいる寮室は現在悠理一人で使っている。

 しかしよくよく考えてみれば同じ魔法生徒を態々別室に追い出すなんて事、それなりの理由がなければしないだろう。

 

(この妖怪ジジイ、最初から俺にこのガキんちょの面倒見させるつもりでいやがったな……)

 

 だが自明の理でもある。何せネギは英雄サウザンドマスターの息子にして『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』の候補生だ。優秀な人員をサポートとして就かせるのは当然だし、最年少で『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』となった悠理にその白羽の矢が立つのもまた当然だ。

 

 しかしハッキリ言ってさっきまでのやり取りから悠理から見たネギへの心象は微妙だ。悪くはないが良くもない。

 

(これまでウェールズの魔法学校でずっと育って来て、魔法使いとしての教育しか受けてない感じか……まぁそれなら一般常識とデリカシーがなかったりすんのはまだ仕方ねぇか)

 

 表社会で一般的な教育を受けていたとしてもこのくらいの年頃の少年が無神経な発言をしてしまうのは珍しくもない。それを加味すると礼義がなっているだけまだマシな方だろう。

 なんにせよたった10歳の子供の受け入れを拒否して放り出すのは流石に悠理としても良心が痛む。故に悠理は溜め息を吐きながらもネギの居候を許可する。

 

「……わーったよ。ウチに来なネギ君。んじゃ俺も授業あるし放課後またここに来るから」

 

「あ、ハイ!よろしくお願いします悠理さん」

 

 それに元々学園の寮だ。住人に関する決定権など生徒である悠理には無い。今のやり取りを見ていた明日菜はどうにも納得いかなそうな表情だが、男子寮に関する事を女子生徒の自分が口を挟めない事は分かってるので何も言わない。不機嫌そうな顔にはなってるが。

 

「さてネギ君、この修行は大変じゃぞ。駄目じゃったら故郷へ帰らねばならん。二度もチャンスは貰えはせん。その覚悟はあるんじゃろうな?」

 

 近右衛門は試すかの如くネギに尋ねる。確かにネギは優秀な『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』の候補でもあるが甘やかし過ぎるつもりはない。魔法使いであると同時に教師としての責任も伴うのだ。半端な覚悟ではこの先やって行けはしないだろう。

 

 そんな近右衛門の問いにネギはまっすぐな目をして答える。

 

「はいっ!やります!やらせて下さい!!」

 

(……良い目じゃ。やはり……)

 

 ネギの目を見てからチラリと悠理を見る。

 

「うむ。分かった!では早速今日からやって貰うとしようかの。しずな君!」

 

「はい!」

 

 近右衛門の呼びかけに合わせて入室して来たのは指導教員の源しずなだ。扉を開いて入って来ると同時に勢い余って近くに立っていたネギがその豊満な胸に顔を埋める形になってしまう。

 

「わぷ」

 

「あらごめんなさいね」

 

((羨ましい……))

 

 思春期の悠理とエロジジイの近右衛門の思考がリンクする。近右衛門はなんか良い感じにネギを試していたのに台無しである。タカミチは紳士なのでそんな事は考えない……ようにしている。

 

 しかし成り行きを見守りつつも既に決定している流れに納得していないのが明日菜だ。

 

「言っとくけど私はアンタが先生……しかも担任なんて絶対認めないからね!」

 

「ああん待ってーなアスナー」

 

 そう言い捨てて木乃香と共に一足先に学園長室を出て教室に向かう明日菜。彼女のお人好し具合は知っているので「これ最終的にはなんだかんだ認めるパターンだな」と結論付けた悠理も男子中等部に戻るべく学園長室を出て行った。

 そしてネギもしずなに連れられて職員室へ向かう。

 

「それではネギ先生、こちらへ」

 

「あ、ハイ」

 

 学園長室に残ったタカミチと近右衛門は悠理の気配が完全に遠ざかったのを見計らって重々しく口を開く。

 

「ネギ君の住居……本当によろしいのですか学園長。悠理君は……」

 

「これが本来あるべき形なのじゃよ。大人の勝手な都合で奪ってしまった時間を少しでも返さねばならん。例え当の二人が何も知らずとも……こんな事で償いにはならんがのぅ」

 

 何かを隠しながら話す二人の会話の意味を理解できる第三者はこの場にはいなかった。




・運命の出会いの占い

 ただし相手は男。

・明日菜の好きな人は主人公

 原作通り高畑先生だと振られた後振り向かせるという過程が面倒なので。ガトウの事があってもちゃんと理由があれば普通に同年代が恋愛対象になるだろうし。

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